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ナナシさんは今日も寝不足

作者: クツミナ コウ

 わたしこと七瀬ななせしずかの下校は早い。退屈な授業が終わると即座に席を立ち、不必要な対人関係を振り切って、一も二もなく家路に着く。疾きこと風の如し、静かなること林の如し。七瀬だが。

 他の誰が動き出すよりも早く、鞄を引っ掴んで動き出したわたしの背後からは、開放感に満ちたざわめきがワッと溢れ出し、わたしを前へと強く押し出した。

 陽の者たちがこれから遊びに行く算段を立てている。部活労働者たちが青春を燃やそうとしている。かたやわたしは、誰にも見つからぬようひっそり帰ろうとしている。昏きこと陰の如し、静かなること林の如し。七瀬だが。

 天丼をキメても独り。胸中でほくそえみながらそそくさと逃げ出すように、いや実際教室から逃げ出そうとしたわたしを、気に留める者はいない……と思いきや、一人。背後から話しかける者がいた。

「七瀬さん、これからみんなでカラオケ行くんだけど、一緒にどう?」

 は?行かないが。

 と言えるほどメンタルが強いわけでもなく、振り返って相手を確認する。

 宝生ほうしょう高嶺たかねさん。去年も今年も同じクラスで、何度かしゃべったことのある間柄……だがそれだけ。友達というほどの相手ではない。まあクラスに友達などいないが。

 宝生さんの向こうにはクラスメイトが5人。彼女とカラオケに行くという「みんな」だろう。こちらとは一度も話したことがない。名前もおぼろげだが、たぶん鈴木、佐藤、高橋、田中、伊藤だ。一人ぐらい当たるだろう。

 暫定鈴木が「え?そいつも誘うの?名前も知らないが」という顔をしている(ような気がする)。七瀬は行かないので心配しないでほしい。

「…わ、悪いですけど、今日はちょっと」

 はっきり嫌だとは言えない。

「そう……じゃあまた明日ね」

「はい。また明日」

 また明日、か。明日も学校はあるのだなあ。今から憂鬱だ。帰りたくなってきた。帰るが。

 教室を出ると、背後からわずかに声が聞こえた。暫定佐藤だろうか。

「高嶺、毎回七瀬さん誘うけどさ……」

 は~?陰口か~?

 そういう話はもうちょっと離れてからにしてほしい。わたしはそれ以上聞かないように、歩く足を速めた。


 家と学校はそう離れていない。歩いても10分である。あっという間に家に着いてしまったわたしは、自室に入ってもまだ、モヤモヤとした心が整理できていなかった。

 今日はちょっと、なんて言って、宝生さんの遊びに付き合ったことは一度もない。正しくは今日もちょっと、だ。付き合いの悪い、仲がいいわけでもないクラスメイトに構うのなんてやめればいいのに。わたしが惨めな気持ちになるだけだ。

 こんな惨めな気持ちの日は……遊ぶに限る。

 わたしはPCを立ち上げ、デスクトップに置いてあるゲームのアイコンをクリックした。


 “トウキョーネイバー”。

 異なる世界をつなぐ門が開き、「世界の密集地帯」となってしまった都市トウキョーを舞台に、モンスターと戦ったり、ほかのプレイヤーと交流したりするオンラインゲームだ。

 いろいろな異世界とトウキョーが繋がっているという設定なので、ひとつの世界観にとらわれず、様々なテイストのステージやイベントを実装している。この中でなら友達もいるし、わたしはこのゲームが好きだ。

 タイトル画面でログインIDとパスワードを打ち込むと、わたしの操作するキャラがトウキョーに降り立つ。コツコツと手塩にかけて育ててきた、純黒長髪片目隠れ(重要)クラシックメイドの『ナナシ』ちゃんだ。

(今日は人が多いな)

 視界を動かし、街を見渡してそう思った、このゲームはログインするときにキャラが現れる場所をいくつか設定できて、今ナナシちゃんがいるのはトウキョーの中心部。ゲーム世界そのものの中心部でもあるので、多くのプレイヤーが集まるのはいつものことだが、今日は特に周りのキャラが多い。

 それもそのはずで、今日は週に一度のアップデート日なのだ。トウキョーネイバーは毎週何かしらのゲーム内更新が行われるので、この日が一番ユーザーが多い。

 ちょっとした不具合修正やイベント告知だけ、という週もあるが、それでもやはり決まった日の決まった時間に何かしらの情報が出るとあれば、皆ログインくらいはしてみようという気にもなるのだ。

 学校にいる間はゲームの情報をチェックしていなかったので、今週のアップデートで何があったのかはまだわからない。わたしは画面端の「おしらせ」ボタンを押した。


『新装備シリーズ解禁!次回イベントで能力値にボーナス!』

 なるほどそれでか。わたしは心の中でつぶやいた。

 いくつかの異世界に新しいモンスターが登場するようになり、そのドロップアイテムを使って新しいアイテムを「鍛冶」できるようになったと、お知らせは告げていた。近々あるというイベントの期間中、新アイテムを装備しているとキャラのステータスが強化されるとのことで、プレイヤーたちがこぞって新モンスターを狩るためにログインしているのだ。

 そしてわたしもまた、例に漏れず、そのビッグウェーブに乗るために異世界へと繰り出すのだった。


 お伽噺の異世界・ワンダーランドもまた、多くのユーザーでにぎわっていた。

『えいっ、えいっ』

 画面の中ではナナシちゃんがぴょこぴょことかわいらしく動いて、黄緑っぽい狼のようなモンスターを攻撃している。純黒長髪片目隠れ(重要)メイドはかわいい。この世の真理。

 ひとまず今日の目標として、新アイテムの一つ『春風のナイフ』(メイドのエモノはハンマーかナイフと相場が決まっているのだ)を作成することにしたわたしは、この狼の爪を集めていた。

 しかしこの…何?黄緑の狼って何?


【ナナシちゃん やってる?】

 狩りを始めて程なく、わたしに声をかけてきたのは、フレンドのウタさんだった。

 とはいっても、本人キャラはここにいない。トウキョーネイバーはゲームにログインしていなくても、スマホアプリと連動してメッセージのやり取りができるのだ。それもあって、SNS的な使い方もできる。

 ウタさんとはよくメッセージのやり取りをする。ゲームのことだけでなく、他愛ない雑談や日々の愚痴などを言い合える、気の置けない関係だ。ところで気の置けないって言葉はなんか油断ならない関係みたいなイメージがある。

【新しい武器づくり、ナナシちゃんはすぐに始めてると思って】

【廃人イメージですか】

【実際わりとそうじゃない?】

【それほどでもある】

【あるんかい】

「……ふへ」

 チャットを流しつつも、ナナシちゃんはズバズバと狼を倒し続けている。

【新しい敵、どんな感じ?】

【今はナイフの素材集めで黄緑の狼と戦ってます。強くはないです】

【黄緑の狼】

【ウタさん今日インしますか?】

【家に帰ったらね。夜になると思う】

 夜か。今も4時半だから半分夜みたいなものだが、ウタさんが来るまでにご飯とかお風呂済ませておきたいな。

 ウタさんは平日の夜にちょっと狩りをするくらいで、プレイ時間はあまり長くない。週末もそんなにインしてない。もしかしたら大学生……社会人かもしれない。少なくとも年上だろうなという気持ちから、半年くらいの付き合いになるが今でも敬語を止められないでいるのだ。

【8時くらいには行くよ】

【りょです】

「りょです」が果たして敬語なのかという問題はさておき、わたしは8時にはゲームに没頭できるようにしたいと思った。


【ナナシちゃん、やっほー】

 8時を少し過ぎた頃、ウタさんがログインしてきた。

【ウタさんその髪】

 ウタさんのアバターは見るからに華やかだった。長い薄緑にピンク色が入った、「桜!」という感じの髪をなびかせている。真っ白なドレスを身にまとい、靴を履いていないので、まるで妖精のようだ。きっと中の人はおじさんだろう。

【さっき新色が出てたから、また染めちゃった】

【かわいいです】

 おじさん疑惑があってもアバターは美少女。かわいいは正義なのでわたしは気にしていない。

【戦果はどう?ナイフできた】

【…………】

【できてないね。素材厳しい感じ?】

 出来ていなかった。少しゲームを離れていたとはいえ、狼のアイテムドロップはあまりにも渋かったのだ。やはり弱いモンスターだから、確率が調整されているのだろう。

 トウキョーネイバーもオンラインゲーム。「仲間と協力して強敵に立ち向かおう!」というマルチプレイ要素が結構多く、モンスターの強さ次第で、手に入る報酬にかなり大きな違いがある。

【じゃあ、二人でもうちょっと強いの倒そうか!】

【やりましょう!】

 ウタさんと協力プレイ。一緒にアイテム素材を集める。クラスメイトとは仲良くなれないわたしだが、一人遊びだけが好きなわけではない。

 やはり友達と一緒に遊ぶというのは心が躍るのだ。


 《ウタさんが倒れました》

 ワンダーランド深部。大型モンスター「桜龍・チェリオン」の一撃で、ウタさんのHPゲージは蒸発した。

【ごめんナナシちゃん……私は……弱い……】

【それな】

【ぴえん】

 おもわず口を(指か?)ついて本音が出た。

 実際、ウタさんは冗談抜きに弱かった。チェリオンが最初に放った爪の横薙ぎをかわそうと横転して死亡、ブレス攻撃に真っすぐ突っ込んで死亡、尻尾の叩きつけをガードで受け止めようとして死亡。すべて一撃だった。

 大型モンスターの攻撃を受けて即死というのは割とある話なのだが、ステータスがどうこうという以前に、操作技術の問題だった。戦力は実質わたしひとりである。

【地道に別のモンスター倒しましょうよ】

 ウタさんのリスポーン地点まで歩いて戻ると、わたしは撤退を進言した。ウタさんを責めるつもりはなかったが、勝てない相手と戦い続けるのは意味がないと思ったからだ。

【うーん】

 しかしウタさんの返事は芳しくない。

【でもこれだけ強ければきっと、倒したらたくさん素材手に入るよ】

【それはそうですが】

【やれるとこまでやってみようよ】

 ウタさんは両手の握りこぶしを顔の近くに寄せ、応援するようなモーションを出した。

 その言葉からは確かなやる気と、勝つための気概が感じられた。

 しかし……

【それ強い人が言わないとカッコつかないヤツ】

【ぴえん】


【とりあえず作戦を考えました】

【よっ、智将!】

 チェリオンの攻撃パターンは確認した。ウタさんを遠くに下がらせ、ナナシちゃんが愛用のナイフを構えながら、走ってチェリオンに接近する。

 戦闘開始。と同時に、チェリオンが雄叫びをあげた。これは特に何の意味もない、ただの咆哮だ。ナナシちゃんはあっという間にナイフの間合いまで走り抜けた。

 すぐ近くにいるターゲットに対して、チェリオンはまず尻尾の叩きつけ攻撃をしてくる。これはタイミングを合わせて、横に躱すことができる。1回、2回、3回とナイフを振るってわずかばかりのダメージを与える。

 すると今度は、チェリオンが右腕を引いた。横薙ぎ攻撃だ。攻撃範囲こそ広いものの、予備動作の大きさから、回避する時間は十分にあった。後退したナナシちゃんの目の前を、豪快な一撃が空振りして過ぎ去っていく。

 少し距離をとったのがキーとなり、チェリオンはブレスを吐いてきた。ドラゴン系モンスターのブレスは放射線状に広がって躱しにくい上、属性ダメージによる状態異常が懸念される。これはガードスキルで受けるのが正解だろう。

 ガードには成功したが、ナナシちゃんのHPはわずかに減少してしまう。ここでわたしはウタさんにチャットを飛ばした。

【回復ください】

【はい!】

 ウタさんの両手が緑色に輝く。続いてナナシちゃんの全身も同じ光を纏い、体力が回復した。

 少し様子を見て分かったのだが、チェリオンの攻撃パターンは3つだけだ。爪の横薙ぎ、尻尾叩きつけ、そしてブレス。これら3つを、ターゲットの距離に合わせて繰り出してくる。

 なので、ウタさんには常にチェリオンから離れたところで戦ってもらうように指示した。妖精らしい見た目に違わず回復とバフのスキルを持っていたウタさんには、サポートに専念してもらうことにしたのだ。

【強化ください】

【はい!】

【回復ください】

【それ!】

 作戦はどうやら功を奏した。ウタさんは操作こそお粗末だったが、2つのスキルに専念させ、なおかつわたし一人の強化に集中させれば、さすがに失敗するということもなかった。ウタさんがバフや回復でチェリオンのヘイトを稼いでも、バフを受けたナナシちゃんが急接近して何回か攻撃を当てれば、ターゲットはわたしに戻った。

【いけるよー!やれるよー!カッコいいよナナシちゃん!】

【回復ください】

【あっはい】

 サポートだけやらせるというのをウタさんがどう思うか心配だったが、割と楽しんでいるようだ。

 チェリオンの攻撃は単調で、わたしはなんとか躱しながらダメージを刻んでいく。しばらく時間がたつと、チェリオンは再度咆哮した。

【倒した?】

【まだです。もうちょっと下がってください】

【はい……】

 力強く輝く龍の瞳が、真っすぐにナナシちゃんをとらえた。


 と思ったら、チェリオンは力なく崩れ落ち、地に伏してしまった。

 は?罠か?

 《桜龍チェリオンを討伐した》

【倒したじゃん!やったねナナシちゃん!】

 HP減少に伴う攻撃パターンの変化を警戒したのだが、どうやら取り越し苦労だったらしい。というか、このモンスター……

【さてさて素材は落ちたかな~……あれ!?全然足りないよ!?】

【やっぱりか】

【やっぱりなの!?】

【やっぱりです おそらくチェリオンは中ボス級のモンスターでドロップ率も大したことないんだと思われます】

【え……私3回も死んだんだけど】

【それはウタさんが弱いだけですね】

【ぴえん】

 まあバフがかかっていたとはいえ、わたし一人で殴って倒せたモンスターだ。すこしHPが高すぎるような気はするが、こんなもんだろう。

 かといってこれ以上強いモンスターとなると、ウタさんを連れて行って勝てるとは思えない。実質ソロ狩りでは限界があった。

【まあしょうがないですね。後日また人を集めてやりましょう】

 キリもいいし、正直ちょっと疲れた。イベントまでまだ日があるし……。

【でも私今のでだいたいパターンわかったよ。次はやれるよ】

 と、何とも心強いことを言うウタさん。

【だからナナシちゃん、もうちょっと遊ぼうよ】

 は?誘惑か?

【ダメかなぁ?】

 わざわざ小首をかしげるモーションまで使ってかわいさをアピールしてくるウタさん。くっ……この女、自分の可愛さを理解してやがる……やっぱりおっさんか?

 この誘いにわたしは、

【しょうがないにゃぁ……】

 全力で乗ることにした。なんだかんだで、ウタさんと遊ぶのは好きなのだ。

【よし!そうと決まれば早速チャレンジだよ!】

 《桜龍チェリオンが現れた》

【いくぞーーーーー!】

 《ウタさんが倒れました》

【いやクソ雑魚!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!】


 ウタさんとわたしは効率度外視の狩りをゆるゆると続け、結局「春風のナイフ」が完成したのは夜中のことだった。

【やっとできた……】

【やっとできましたね……】

【さすがにここから私の武器を作るのはしんどいかな】

 そう言って肩を落とすウタさん。確かに、もうチェリオンばかり20体くらい倒しているし、ウタさんがよく死ぬので挑戦回数で言えば2倍くらいだ。時間もそうだが精神が厳しい。

【ナナシちゃん、また明日も一緒に遊んでくれる?明日は私の友達も呼んで、もうちょっと効率のいいモンスター探そう】

【今日はインしてこなかったみたいだけど、私の友達強いから!きっとお役に立てるよ!】

 姫プレイしてそうだなこの人、と思いながらも、頭数が増えるのはありがたい申し出だった。わたしはウタさんに、了承の旨を伝えた。

【じゃあナナシちゃん、私もう寝るね!おやすみ!】

 そう言って、両手でナナシちゃんの両手を包み込んでかわいらしくぴょこぴょこ飛び跳ねて見せるウタさん。は?なんだそのモーションかわいいかよ。

【おやすみなさい……】

 画面の前でリアルに気持ち悪い笑いを漏らしながらログアウト。こうして狩の初日は幕を閉じた。


 ゲームを終え現実に戻ってくると、途端に気持ちが暗くなる。

 明日……というかもう今日も、また学校に行かなくてはならない。それだけで辛い。帰りたい。家にいるのに帰りたい。

 ゲームをしている時は、うまくいかなくてもそれなりに楽しいのに。だが学校で孤独との戦いを楽しむことは絶対にできない。嫌になる。

「七瀬さん。これからみんなでカラオケ行くんだけど、一緒にどう?」

 不意に宝生さんのことを思い出した。ウタさんが友達を呼んで狩りをするとか言ったからかもしれない。

 宝生さんもゲームとか、陰キャに優しい遊びに誘ってくれればいいのに。あぁでも宝生さんはゲームとかしないだろうな……やっても下手そう……陽キャだし……。

 気分が暗くなってきたわたしは、切り替えるためにトウキョーネイバーの攻略フォーラムサイトを開いた。ウタさんと狩りに行くために、少し効率のいい狩場を調べておこうと思ったのだ。

 掲示板を覗き、新装備シリーズに関する情報を探す。そこには、

『チェリオンとかいう雑魚のくせにHPばかり多いクソモンス』

『人数集めてチェリオン倒すくらいならその人数で雑魚狩ってる方が効率良い』

『さすがにチェリオン周回は情弱が過ぎる』

 と書かれていた。

「ぴ、ぴえん……」






 翌日。

 学校の近くに住むと、人は遅刻寸前まで寝ているようになる。それは生物が環境に適応することで生き残ってきたという地球の歴史から考えればあまりにも自然なことで、別にこれは始業前の騒がしい教室にいることが耐え難いとか、ましてや攻略情報を探って流れでネットサーフィンして危うく徹夜しかけたとかそういうあれこれとは関係なく、きわめて合理的にわたしはこの選択を

「七瀬さん、おはよう」

「!?」

 教室に入ろうとした時に声をかけられ、心臓が止まるほど驚いた。心臓止める気か?

「ほ、宝生さん……」

 そこにいたのは宝生さんだった。鞄を持っているから、いま登校してきたところなのだろう。宝生さんもギリギリ登校派なのだろうか。

「いやぁ寝坊しちゃった。ギリギリだね~遅刻しなくてよかった」

「あ、はい……」

 愛想笑いはできていただろうか。あまり自信がない。

 教室に入るや否や、すぐさまクラスメイトから声を掛けられる宝生さん。さすがの人気者だ。わたしはなるべく誰の視界にも入りたくなくて、素早く自分の席について教室の背景と化した。

 すぐに先生が入ってきて、朝礼。またいつもの1日。変わり映えのない学校生活が始まったが……とにかく眠い。

 やはりゲームは節度を守って、早めに切り上げるべき……

 結局私はこの日、授業の内容をほとんど聞いていないのだった。


「高嶺~今日めっちゃ寝てたね」

 授業が終わり、わたしは今日も疾風の如き帰宅を計る。背後からは解放された生徒たちのざわめきが追いかけてくるが、宝生さんの声が何故か透き通って耳に届いた。

「えへへ、寝不足でさ」

 届いたが、興味はないのですぐに通り抜けていった。

 今日もまたウタさんと狩りをするのだ。リアルのことなんかいちいち気にしていられない。

 家に帰るのが待ちきれず、わたしはスマホでウタさんにメッセージを送った。


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