目覚めたら天使がいた(目線変わります)
吹雪で遭難した。
一寸先も見えない。
もう、これ以上一歩も進めない。
雪穴を掘り、吹雪をやり過ごそうと荷物を下ろした所で記憶が途切れている。
短い生涯だったな、と頭のどこかで思っていた。
辛い、痛い、苦しい。
死とはこんなにも酷いものなのか。
10歳の時に流行り病にかかり、死に瀕した時よりも苦しい。
目を開ければ、ぼんやりと天使が見える。
いや、これは楽には死なせてくれない死神なのかも知れない。
神々しいまでに残酷な天使の微笑み。
早く俺をその懐に抱き、天に連れ去ってくれ。
「ほら、ちゃんと飲んで!」
残酷な天使は苦い汁を唇にもたらす。
天使の与えるものならば、毒でもあまんじて受けよう。
だから一刻も早く俺を連れて行ってくれ。
四肢が、沢山の針を刺されているかのように痛む。
胸の中は誰かにギュッとわしづかみにされているかのように痛み苦しくなり、ケンケンと咳き込んでしまう。
流行り病の時と同じ、死に瀕する咳だ。
発熱と脱水もあり、意識は朦朧としている。
苦い水を飲まされ、刺すように痛む四肢は揉まれる。
石を詰めたような胸の上には何処かで嗅いだような臭いのする物を乗せられ、腋の下には何度も冷たい物を置かれる。
これはもう、俺を天に連れ去る死神のする事では無いと分かる。
天使は俺を生かすと決めたようで、その為の処置をしてくれているのだ。
「あ、りがと、う。」
咳き込む言葉で礼を伝える。
「喋らなくて良い。
あなたは生きる事だけを強く望んで。」
生きたい、死にたくない、生きのびたい!
俺の人生、こんな所で終わらせてたまるものか!
絶対に生きのびる!
そう、俺は生きるんだ!!
「瞳に力が宿った。
頑張って生きのびて!」
天使が微笑んだ。
何日生死の境をさ迷ったのかは定かではないが、やっと体を起こせるようにまで回復した。
もう、あの嫌な咳は出ない。
「飲んで。」
苦い薬湯を渡され、自力で持ち上げ飲む。
「用を足すなら、あそこの戸。
一人で行けそう?」
フラフラする体を引きずるようにして進み、何とか一人で排泄を済ませる。
帰りは歩けず、這うようにして寝床までたどり着いた。
「食べて。」
薄い汁のような食べ物を渡されるがもう、腕に力が無くて、ため息を吐きながら口元に運ばれた。
意識が朦朧としていた時は良かったが、今はとても恥ずかしく、屈辱的に感じる。
が、生きると決めたのだ。
これは必要な栄養摂取なのだ。
「着替えて。」
渡された衣はアチコチ継ぎ接ぎしてあり、模様も様々だ。
ちなみに今着てるのも、同様の物だ。
「あなたが着られるものが無かったから急遽縫い合わせたの。
寝てる間は我慢して。」
どうやら、俺の為に作ってくれたようだ。
「動けるようになったなら、ズボンと下着も洗濯するから脱いで。
下着は無いから乾くまで我慢して。」
俺の荷物を回収するまでは仕方ない。
何とか着替えを済ませると疲労困ぱいで、気を失うようにして眠りに就いた。
今はひたすら眠って体力を回復するしか無いのだと思う。
天使に見守られながら眠る日々はまだまだ続く。