赤い絨毯と花びら(追加場面その1)
「エレ。河に船遊びに行こうか」
ある夕方。シンドレッドが絵礼に声をかけた。
「今からですか?」
「いけないか?夕飯も終えたし、眠りにつくにはまだ早すぎる」
「それはそうですね」
珍しく素直な絵礼を、シンドレッドはちょっとびっくりしたように見たが、すぐになんともいえない優しい笑顔で彼女の手を取ると、住んでいる家から河岸まで連れて行った。
二人は、どちらからともなくくすくす笑いだして、子どもみたいに楽しそうだった。
船は貸し切り。船頭が一人同乗して、暮れゆく中彼らは出発した。
「流れはゆるやかなんですね?」
「落ちたら助からんぞ」
「ええっ?!」
「シンドレッド様、意地悪ですね。河は浅瀬で足が立ちますよ」
船頭が漕ぎながら笑って言った。
「私が泳げないから助けてやれないと言っただけだ」
「そうは聞こえませんでしたけど!!」
絵礼は笑って言った。
ぱらぱら。はらはら。
「花びらが…」
白い花弁が幾枚も舞い散って河面に浮かんで揺れる。
「明日の我が身だな」
「シンドレッド!そういう考え方よして」
「ああ…すまない」
シンドレッドは落ち込みそうになると、いつも絵礼が引っ張りあげるので、落ち込む暇がなかった。
「ちょっと岸につけてくれ」
「はい」
シンドレッドは河の上に枝を張り出している木から満開の花を一房ちぎり取って戻ってきた。
「どれ、髪にさしてやろう」
その言葉があまりにも嬉しくて、絵礼は涙ぐんだ。夜空の白い月が滲んで見えた。
シンドレッドにとって私は麻也の代わり。彼は私を通して麻也を見てる。…なんてひねくれた考えなんだろう?でもそう思わずにいられない。
絵礼は余計激しく泣きじゃくった。シンドレッドが心配して絵礼の背中を優しくとんとん、と叩いた。
「…ありがとうございます」
「いいや」
絵礼は船がいつまでもこのまま進めばいいと心で願っていた。




