49. 鬼に金棒
膝から崩れ落ちる…
が、まだアルバは止まる気配がない。
「…んっ…あ…や、約束とちがう」
膝から崩れ落ちた黒金を、しっかりと腕で抱きかかえたかと思った。
が、
そのまま地面に押し倒す…
黒金の元気な肌が段々と白くなっていく…
逆に、
アルバの白い肌には赤みがさしていく…
これ以上は危険だ。
「…!?ちょっとちょっとちょっとお兄ちゃん何してるの!ちょっと目を離した隙に!」
と妹の方から止めの声が出る。
ボコッッッッ!!!!
良い一撃がアルバの頭に吸い込まれていく。
そのままガクンッと気を失い、黒金にしなだれかかる。
アルバの急な行動から解放された黒金は凄く苦しそうである。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
だが、まだ余力はある。
はだけた衣服を直しながら、急に我に返ったのか。
はたまたムカついたのか…
ゴリッッッッゴリッ
黒金の手には龍爺から貰った金棒が握られていた。
先が少し赤くなっている気がするが、きっと気のせいである。
「…はぁ…はぁ…巫山戯んな。気持ち悪い」
黒金は、龍爺に教えてもらった魔法を最大限に活用してふたつ出来た穴を塞ぎ、血を取り戻して行った
「…わぁ!すごいね!黒金ちゃんって魔法も使えたんだ。…良いなぁ。……羨ましいよ。」
「…私の力じゃない…」
「…本当にごめんなさい。うちの馬鹿には言って聞かすから…。でも困っていたのは本当なの。悪意はなかったのよ」
アルバの頭を掴んで毛を一本一本むしりながらしゅんとうなだれる少女。
「…それより、貴方達は何なの?早く白金の元に帰して」
「私?私はね、アルマよ」
「…ちがう」
「…そう。急がなくても答えるわよ。お兄ちゃんは吸血鬼よ。でも…偏見はもたないで。お兄ちゃんは、今まで人を襲ったことが無いし、吸血行為を一度もしたことが無いの。…………今までは、頑張ってたんだから…!!!」
ブチブチブチッッッ
あ………
「…。そう。」
黒金は、久しぶりに記憶を探る。吸血鬼……
血を吸うぐらいとしか知らない………
「…本当に頑張ってたのよ!他の吸血鬼達とは、違うの!お願い…理解して…」
少し涙を目の端にうかべながら、アルバのハゲを撫でる。
……可哀想に。
「…うん。分かった。……そんな事は正直、知らない。どうでもいいけれど…。あなたの事は聞いてないよ?」
「?私はね。アルマよ?…あ。ただの人間よ。」
「じゃあ何でお兄ちゃんって呼んでいるの?」
「…ふふふ。ごめんね。何でも聞いたら答えてくれるって思っちゃだめだよ。…あんまり言いたくないの。……お兄ちゃんとこれからも仲良くしてくれるなら言うわ。」
「…なら、別に言わなくてもいいよ」
「…!?……やっぱり。…お兄ちゃんとの約束を破るんだ…。お兄ちゃんの大事な大事な腕輪を受け取ったくせに…。……許せないわ」
「はぁ?そっちが約束を先に破ったんじゃない。それに、私はまだ何にもいってないよ」
「…まだ?言うつもりだったんじゃない。」
「……うっ。何でそんな考えになるのかなあ」
「私が…毎日毎日…。お兄ちゃんのせいで恋人一人作れないのよ!?もう本当に限界なのに!!!!」
段々と言っていることがおかしくなってきた。
いや、言っている本人もかなり混乱している。
ドサッ
腕で抱えていたアルバをそばに落とすと、狂ったかのように黒金に向かってきた
ポカポカポカポカ
「…どんなに、可愛くなったって。お兄ちゃんの一番にはなれないんだからぁ…ぐすっ。妹としてしか見て貰えないの…ぐすっ」
一瞬身構えた黒金だったが、その攻撃はとても可愛らしいものだった。
「…はぁ」
どうして、初めて依頼を受けに来ただけなのにこんな事になっているのか。
目が覚めたら…
もう一度ぶん殴ってやる…
黄金の目を暗闇の中光らせながら厳しい目でアルバを見ていた。
次の話…昔話…?