自己紹介①
「おう、来たか。皆に改めて紹介するから俺の隣に座ってくれ」
俺が食堂に入るなり、キャプテンが大きな声を出して俺を呼ぶ。
キャプテンを始め、おそらく選手全員が席についていた。
俺はキャプテンに言われた通りに彼の隣、食堂入口から見て一番奥の席に座った。いわゆる、お誕生日席だ。身長が二m以上はあり、横にもがっしりとした彼の隣に座るのは少し窮屈だったが、別に食べるたびに肘が当たったりする距離ではない。それに何となくこの距離間の方が、一人で食べる時より落ち着く。
レムコさんは俺の左斜めの席に着いた。彼女もマネージャー兼選手とあって立場が上のほうなのだろう。そして彼女の目の前の席にはレイさんが座っていた。その横にはワンコさんと彼女に平謝りしているニャンコさんがいた。
俺が席に着いて辺りを見回していると、キャプテンが言葉を発した。
「食事の前にだが紹介する。今日から入部することになった江夏優君だ。みんな彼の自己紹介の後に、レイから反時計回りに、自分たちの名前と種族、主に守るポジションを言ってくれ」
キャプテンの言葉に俺は改めて自己紹介をした。名前と種族、そして性別。この世界の暦は知らないが、年齢も十七と答えた。
俺が年齢を言ったことに、ニャンコさんが食いついてきた。
「十七にゃー。ニャーのほうが年上にゃ。なにか分からないことがあったらお姉さんに聞いてくるにゃ」
ニャンコさんは笑顔で僕にそう言ってきた。それをなんとも言えない表情でワンコさんが見ていた。俺は一応聞いておこうと思った。
「人間側の暦でですが……。それに今年で十八です。ちなみにニャンコさんは何歳なんですか?」
女性に年齢を聞くのと、皆の前ということもあり、敬語で話しかけてしまった。
何となく「敬語は使わなくていい」と言われた人に敬語で喋るのは逆に失礼なような気がする。けれどそれは二人の時だけだろう。皆の前では先輩と後輩だ。
それに女性に年齢を聞くのは失礼と言うが、別にニャンコさんは気にしないだろう。その証拠に彼女は笑顔で答えてくれた。
「十八にゃ。それと魔族側も一年三六五日。一日二十四時間だにゃ。それに敬語じゃなくていいにゃよ」
彼女は俺にウインクしながらそう言ってきた。それに俺とワンコさんはひどく反応した。ただ俺たちが反応したのは、それぞれ違うことにだった。
「十八!?」
なんとなくだがもっと幼い印象があった。だから思わず声に出してしまった。
「そうにゃ、ナイスバディ―だからもっと年上かと思ったかにゃー?」
そう言って彼女はワインドアップ……。ではなくそれに似た、グラビアアイドルがするようなポーズをした。俺は思わず、彼女の胸を見てしまった。
無いとは言わないが、間違っても大きいとは言えない。そんな大きさの胸だ。何となく目線をすごくショックを受けているワンコさんに移した。
ニャンコさんはユニフォームのままだが、ワンコさんは汗を流したのだろう。ゆったりとしたパーカーみたいな服を着ている。ユニフォームの時はサポーターか何かで胸を押さえつけていたのだろうか。今はパーカーの上からでも分かるくらい、胸の部分が膨らんでいた。
「どこを見てるにゃー」
俺はその声を聞いてハッとした。顔を上げると、ジトーとした目をしたニャンコさんとワンコさんがこちらを睨んでいた。
「娼館なら色んな種族の子がいるからそっちに行ってきなよ。ニャンコやボクに手を出すくらいならさぁー」
露骨にイライラしているワンコさんを見て俺は、思わずキャプテンに助けを求めた。しかしキャプテンは苦笑いを返してきただけだった。
それならレイさんにと思ったが、彼もキャプテンと同じ顔を返してきた。レムコさんに至っては無表情のままだ。
彼らの反応を見るに、俺が彼女に悪いことをしたようだ。
ただ話の流れから言って、少し胸に目線が向いただけであそこまで言われないと思う。特に試合前に俺を励まそうと背中を叩いてくれた、少し男勝りのワンコさんだ。そんなことを気にしたりはしないだろう。
だから俺は無い頭を使って考えた。そして一つの結論に行き着いた。
「ワンコさんすみませんでした。試合中に性別を意識したことに怒ってるんですよね」
おそらく彼女は野球に対してかなり真摯なのだろう。だから試合中に、選手に色目を使うかもしれない俺を警戒しているのだ。思い返してみると試合中、ニャンコさんに頬ずりされたとき思わず俺は「また後で」と言ってしまっている。
それなら今の態度も頷ける。それにニャンコさんとベンチで喧嘩していたのも納得だ。
俺は自身満々に彼女の顔を見た。これでも小さなころか周りの顔色を伺ってきた男だ。おそらく正解だろう。驚きのあまりワンコさんは目を丸くしている。
「わ、わーん? まぁ、今後気を付けてくれれば良いよ」
やっぱり俺の推理は合っていたようだ。ニャンコさんやレイさんは驚いたのか、呆然としている。あとはレムコさんだが……。
「天然?」「あー。お前ら二人の自己紹介はいいから、バイソン頼む」
彼女が何か言ったような気がしたが、それはキャプテンの声にかき消された。
そして自己紹介が再開された。