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最速150キロ高校生左腕は異世界の魔王軍でエースになれるのか  作者: PC360
1.高校球児、異世界で成長する。
6/64

漫画のような得点 

「プレイ」

 全員が守備位置に戻り、二番バッターのニャンコさんが打席に立ったのを確認してから、主審が試合再開を告げる。

 チャラ男が俺をチラチラと肩越しに見ながら、セットポジションに入ろうとした。それと同時に俺は声を上げる。


「リーリーリー」


 そして俺は塁から離れ、リードを取った。そして盗塁を仕掛けるそぶりをする。チャラ男の顔を見ると明らかにイライラしていた。

 プロではこんな掛け声はしないらしい。俺も自身がやられたら腹が立つから、あまり自分ではしない。ただランナーコーチにはよくしてもらっていた。それは相手を威嚇する為というより、外から塁を出るタイミングを見てもらっていた方が、自分の負担が減るからだ。


 しかし今回は完全に相手を威嚇する為のものだった。それはどうしてもこの回に一点が欲しかったからだ。

 一点あれば、俺が完封すれば勝てる。そう思ったからだ。まだ他の人の打席を見ていないので確かなことは分からないが、チャラ男の球を他のメンバーが打てる保証はない。レイさんの110キロ程度の球を速いと思っているらしいので、チャラ男の球を連続でヒットにするのは難しそうだ。だからノーアウトのこの状況で一本ヒットを打ってくれれば、ホームに帰れる状況にはしたい。


「ボール」

 奴の一球目はホームベースにワンバンしてしまった。走ろうかと思ったが、キャッチャーの体に運よく当たり威力を吸収した為、あまり変な所に飛ばなかったので自重した。

 そもそも俺は、一球目は盗塁をする気は無かった。チャラ男のイライラ具合とそれがどの程度ピッチングに影響を与えるか見ておきたかったからだ。

 たが二球目は狙おう。そう思い、リーリーリーと言いながらリードを取る。それに釣られ、チャラ男が牽制球を投げてきた。

 そしてボールを捕球したファーストの彼が、俺に優しくタッチしてきた。


「セーフ」

 塁審がコールをする。それはそうだ。明らかにセーフのタイミング。ファーストの彼も一応、プレーの流れの一環でタッチしてきただけだ。ただ彼に悪いことをしたなと思った。

 彼はマウンドに集まっていた時、ニヤニヤせずに申し訳なさそうな顔をしていた。彼はあの作戦に反対だったのだろう。今も申し訳なさそうにタッチしてきた。

 早くファーストから離れよう。俺はそう思い、盗塁の準備の為チャラ男を見た。


「おい、バッターに集中しろ」

「あ、黙ってろザコ」

 キャッチャーがチャラ男を叱りつけている。ただ、奴はそれに悪態をついて返していた。

「お前の本気の球ならこいつらに打たれるわけないだろ。ワインドアップでいいから、それで投げろ。走れもしないさ」

「ああ、分かったよ。ボケ」

 そう言うことらしい。なら遠慮なく走らせてもらおう。


 俺は声を上げるのを止め、リードを取る。そしてチャラ男が腕を振り上げた瞬間に走った。

「バカめ。簡単に刺して――。なぁにぃー」

 キャッチャーは驚きの声を上げる。俺は馬鹿かと思った。

 そもそも送球に集中しないで喋ること自体考えられない。それを抜きにしても、一つ一つの動作が遅い。その一言に尽きた。あれでは投手の球が速くてもキャッチャーが台無しにしてしまう。二塁は楽々セーフだった。


 そしてその結果にチャラ男がキレた。

「おい。走らねえんじゃなかったのかよ」

「知るか。あいつは規格外だ。無視してこいつと勝負しろ」

 即席のバッテリーだからか、息が合っていないというのもあるのだろう。勝手に自滅してくれそうだ。言いたいことを言い合っている。

 その言い合いを黙って聞いていたニャンコさんが、一旦バッターボックスから出て、俺に声を掛けてくる。


「新人。足速いにゃね。ニャーと同じくらいにゃ。ニャーが大きいの打って帰すから走る準備はしておいて欲しいにゃ」

 そう言って彼女は、かなり大きなスイングで素振りをしだした。一見きたないスイングに見えるが、全部にある一貫性があったことに俺は気づいた。だから俺は三塁をチラ見してから、返事をした。


「分かりました。大きなスイングで飛距離稼いでくださいね」

「敬語じゃなくても良いにゃ」

 彼女は俺が意図をくみ取ったことに気が付いたようで、笑顔で打席に戻った。


「いくらなんでも三盗はない。だけど一応セットで投げろ」

「ああ」

 彼らの言い合いもファーストの彼が諌めたようだ。それぞれの守備位置に戻っていく。内野陣の中で、彼だけは嫌いにはなれなさそうだ。


「やってやるにゃー」

 カウントはワンボールワンストライク。

 彼女はそれまで短く持っていたバットをグリップギリギリで長く持って構えた。

 そして――。


「にゃにゃにゃとにゃ」

「ストライク」

「クソ、邪魔だ」


 彼女はワザと空振った。さっきスイングに一貫性があると言ったのは、スイング後、バットが後ろに残る時間が長かったことだ。あれはニャンコさんが、守備妨害にならない範囲で俺の三盗を協力してやると言う意志表示だと俺は受け取ったのだ。事実、今のスイングでキャッチャーが三塁に投げづらくなり、ワンテンポ送球が遅れた。そのおかげで、タッチプレーにならずに済んだ。もしタッチプレーになっていたら、滑り込んだ足に思いっきり叩きつけるようにタッチされていたかもしれない。


「審判、今のは守備妨害だろ」

「すまないにゃー。大きいの狙おうとして大振りになっちゃたにゃ。けどちゃんと投げられているから妨害にはなってないにゃ」

「問題ありません。プレイに戻ってください」

「クッソ―ォ!!」


 そう言って捕手はミットを地面に叩きつけていた。俺はその行動の意味が分からなかった。自分がバッター勝負でいこうと言っていたのに俺が走ったことにイラ立っている。それに走られたのは、一部は自分の責任だ。

 チャラ男が言いつけを無視してワインドアップで投げたのも原因だが、最初から三盗はないと頭から外していたのはいただけない。

 


「バッター集中ー」

 ファーストが大きな声でそう言った。バッテリーも渋々、かなりイラつきながら次の投球の準備をしていた。

 もう一点は覚悟しているのだろうか。いや、三者連続三振を取る自信があるのだろう。 


 本盗。ホームに盗塁するのは無いとこの場の全員が思っているだろう。しかし、俺は違う。さっきから薄々気が付いていたが、俺の身体能力がおかしい。いつも以上に動けている。それを確かめる為、その場でジャンプをしてみる。

 やっぱりそうだ。軽く跳ねただけなのに、トランポリンに乗ったのかと思うくらいに体が軽く跳ねた。


 昔、国民的アニメで同じような話があった。あれはたしか地球に比べて重力が低い星に来てしまったから、運動神経ゼロの少年でも家を飛び越えたり破壊したりできていた。

 今の俺の状況もそれに近いのだろう。ただ、あそこまで出来たりはしない。多分、少しだけ普通の時より力が付いているだけだ。それでも本盗はできると思う。


 だから俺はチャラ男がモーションに入ると同時に本塁目がけ走った。

「ストライク。バッターアウト」

「よし。ってオイオイ」

「にゃっ!! バカ。もどるのにゃー」


 いや、これで良い。キャッチャーも俺のことを馬鹿と思っているのだろう。ニヤケ面でタッチしようと待ち構えている。ただ、その顔は真っ青になることとなった。

 俺は足に力を込めた。そして――。


「セーフですね、審判?」

 これも違うアニメで見た状況だ。それにこれは実際のMLBでもあった事例だ。

 俺はキャッチャーの頭上を飛び越えて、ホームをタッチしたのだ。ただアニメみたいにキャッチャーの頭上のかなり上とはいかず、走り幅跳びのベリーロールのような形でのホームインとなった。


「セーフ」

「すごいにゃー、ナイスランにゃー」

 そう言ってニャンコさんは俺にすり寄って顔に頬刷りをしてきた。

「わ、ちょっと待って」

 猫耳としっぽが付いている以外は人間と変わらない。しかも顔もかなりの美人さんだ。そんな子にこんなことをされると、色々とマズイ。


「それはまた後で頼む。今はそれよりも」

 俺は、ニャンコさんを引きはがしてキャッチャーの方へと向かう。キャッチャーは審判に詰め寄っていたが、ファーストの人になだめられていた。だから俺は謝ることにした。


「あの。キャッチャーとファーストの人、すみませんでした。この後は、お互いが怪我するようなプレイはしないようにします」

 これは、俺の本心からの言葉だった。今のプレイはいくらなんでもマズイ。出来る自信があっても、実戦でやったことなどない。


 ただ今の言葉は、キャッチャーには逆に脅しとして取られてしまったようだ。かなり怯えてしまっている。それもそうだろう。俺が飛ぶのに失敗していたら膝が顔を直撃していたかもしれないのだ。

 ファーストの人は先程見せた苦笑いではなく、真面目な顔で「あとはこっちで何とかしておくから……。それと君の気持はちゃんとわかっているから」と言って、一旦ベンチにキャッチャーを連れて帰っていった。


「俺らもベンチに戻ろうか」

「そうするにゃ」

 俺とニャンコさんも一緒に自軍のベンチへと戻って行った。

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