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最速150キロ高校生左腕は異世界の魔王軍でエースになれるのか  作者: PC360
1.高校球児、異世界で成長する。
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代走、江夏優

 肩が作れていない。そして本来投げる機会のない高さへの投球。140キロ出ればいい方だと思っていた。しかし今の球は調子が良く、150キロ。自分の最速記録と同じくらいは出たと思う。


 俺はニャンコさんたちの方へと足を進める。彼女らも同様に信じられないものを見たように静かになっていた。ちらほらと「魔王様?」と言う声が聞こえる。


「レイさんの容態はどうですか」

 俺はそれを無視して、感情を殺し、キャプテンに容態を聞く。


「ああ、ちょっと今日は投げれそうにない」

「何個か聞きたいことがあるんですが……」

「なんだ」

「何でここまでされて乱闘にならないんですか。こんなの野球じゃないですよ」


 何も殴りに行けと言っているわけではない。ただここまでされて抗議にも行かないのは、頭の中を見てみたいほどにおかしい。没収試合になるのを恐れているのかも知れないが、先にも言ったように、こんなのは野球じゃない。ただの暴力だ。こんなもの試合とは呼びたくもない。それになんと言われても納得したくない。

 しかし、キャプテンたちの言葉に俺は納得してしまった。それは彼らの説明が上手いとかそういう問題ではない。とんでもなく突拍子のない内容だったからだ。


「俺は殴りに行けと言ってるんじゃないんです。こんなもの試合でもなんでもないじゃないですか。没収試合になっても良いじゃないですか」

 最初感情を殺そうとしていたがそれはできなくなっていた。今も大きな声でそう言ってしまった。

 俺の言葉に意外にも、先ほどまで相手に詰め寄ろうとしていたニャンコさんが反応した。


「それは駄目にゃ。そんなことしたら戦争に……」

「戦争?」

 俺はとんでもない言葉に体を思わず振るわせてしまった。その様子を見て今度はレイさんが俺に聞いてきた。


「なんだ? そんな顔をして……。まさか知らないわけはないよな。この試合が海洋権を賭けた試合だってことを」

 俺は思わず「え」と声を漏らした。なぜそんなものを野球で争っているのだろうか。俺の様子を見てレイさんは右肘を押さえながら、キャプテンに事情を話すように促した。


「左利きだったからウェル王国出身ではないと思ってはいたが……。先代魔王様の考えで人間側との争いは野球で解決することになっているんだ。その方が命を無駄にしなくて済むと言われてな」

「そんな優しい考えなら、海を半分に分けたりとか、一緒にしたりとかじゃダメなんですか?」

「我々は人間からしたら、汚れた魂の化け物扱いだ。それに、我々の神を邪神扱いしている。こちらから何回も話し合いを申し込んだが、聞く耳を持ってくれない」


 キャプテンは自傷気味に笑う。しかし目は相手の貴族みたいな男を睨みつけていた。良い機会だ。先ほどまでの余裕顔はどこかにいった、あいつの正体を聞いてみよう。


「あいつが監督ですか?」

「ああ、そうだ。ウェル王国の第二王子だ」

 俺はその言葉を聞いて頭が痛くなった。身なりから貴族なのは分かっていたが、まさかこんな試合を許す人間が、一国の王子だとは思わなかった。

 だから内心考えが固まってきた。あとは一抹の不安を除いておきたい。


「海洋権を賭けた試合は何試合あるんですか」

「今回は三試合で二試合勝った方に三ヶ月間だ。今日はその初戦だ」

 それなら、十中八九ないだろうが、もしこちらが悪者だったとしても残り二戦ある。残りを人間側でプレイすればよい。受け入れられなかったらそれまでだ。


 俺の考えは固まった。

「代走で俺を出してください。投手も俺がやります」

「あーっと……」「頼む」

 レイさんが言いあぐねていたキャプテンに代わり、肘を押さえながらそう言ってくれた。


「ええ、安心して治療を受けていてください」

 ワンコさんたちに連れられ、ベンチに戻る彼を見ながら、俺はファーストの方へと走る。


「代走、江夏優」

 キャプテンが主審に選手交代の申し出をすると、すぐにどこからともなくアナウンスが流れた。試合が再開されるようだ。マウンドに集まっていた選手もそれぞれのポジションに帰っていく。


「よろしくお願いします。お互いラフプレーには気を付けましょうね」

 俺はファーストの選手にわざと挨拶をする。そして警告も出しておく。もし牽制球を捕って、俺にタッチするときにわざと怪我をさせようとしたらどうなるか分かっているなと言う意味だ。


 相手にとって俺は人間兵器だろう。その兵器に牙をむかれたら自分たちが、ひとたまりもないのは分かり切っているはずだ。バット投げや挑発行為を行っているチャラ男たちが退場処分になっていないのだ。俺自身やる気はないが、報復死球として腰あたりに当てても退場処分にはならないだろう。

 重ねて言うが、俺自身そういったことをする気は無い。もしする気があったなら、チャラ男に球を投げる際、奴目がけて本気の直球を投げている。


「あ、ああ。よろしく頼む」

 彼は俺の言葉の意味を理解したのか、少し引きつった笑顔を浮かべ、挨拶を返してきた。

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