家族
この物語の主人公の名前や各場所、登場人物等は全てフィクションですが、ここに書かれている内容は作者が身をもって体験した事実です。
時に傷つき、傷つけ、沢山の人を不幸にした、その反面、沢山の人を幸せにしたはずたと思う、寂しくもあり哀れでもある男の物語です。
「よし!これで全部かな?」
荷台を確認して、車のkeyを回す。
いくつかのボストンバッグと、昔の彼女、そして、純粋無垢な女の子の赤ちゃんを乗せて、俺は自分の家に向かってアクセルを吹かした。
「本当に、久しぶりだね...」
「そうだね...久しぶり...」
彼女の瞳と、声、彼女の薫り、しゃべり方、笑い方、優しい口元...艶やかな唇...綺麗な髪...その全てがあの時と変わっていなかった。
そして、その全てが俺の大事な宝物だった。
18で出会い、瞬く間に恋に落ちて、心底愛して、本気ですきになって、この人と離れたくない、離したくない、そして永遠に離れない、離さない、俺はそう毎日自分の心に誓い、あの時を必死に生きていた。
でも、そんな思いは彼女には届かず、彼女は突然俺の前からいなくなった。
いや、想いは届いていたはずだ...
届いていたからこそ、今こうして、俺のとなりにいるんじゃないか!
助手席の彼女は真っ直ぐ前を向いて、腕に小さな分身を抱きしめ座っている。
その瞳は今、何を見ていますか?
その瞳で今まで何を見てきましたか?
前を見つめている彼女の心の中に入りたい。
彼女は、これから始まる新たな人生を憂いでいるのか?
それとも、俺に電話した事を悔いているのか?
今までの自分の人生を嘆いているのか?
俺との再会を喜んでいるのだろうか?
様々な事を考えていると、ハンドルを握る手にも緊張が増していく。
何があった?
何が...
あの日彼女に何があったんだ...
俺はあの時のまま...君もあの時のままの君であってほしい...
そう願った...
でも、ただ一つだけ、一つだけ変わったものがあった。
あれから俺の知らないところで、小さな命が生まれ、今、俺の横で、彼女の腕の中で、汚れのない姿で眠っている。
正直、複雑だった。
若干二十歳で、パパ?父親に...なる...??
俺が最初に結婚した時、当時の妻とこんな話をしていた。
「私、あなたの子供が欲しい!二人は欲しい!」
「男の子と、女の子!」
「子供って、俺はまだダメだよ、まだまだ遣りたいことあるし、お金ないだろ?」
「私も働くし、大丈夫!何とかなるよ!」
妻は子供が大好きで、早く子供を産んで、賑やかで、幸せな家庭を創ろうと望んでいた。
でも、当時の俺には、父親になる責任も、一家の大黒柱になる器量も持ち合わせていなかった。
「子供はまだ作らないよ、今は無理でしょ、金銭的に余裕もないし、まだまだ二人の時間を大事にしようよ。」
そんな言い訳をしていた俺がいた。
そんな話をしてきた男に、今日突然赤ちゃんが出来た...
昨日まで、さっきまで、六畳一間の狭いアパートで1日を過ごし、たまに洗濯をし、ご飯はコンビニで済ませ、一人好きなテレビを見て、眠くなったら寝て、休みの日にはパチンコ、競馬、勝手気ままな休日を過ごし、寂しくも楽しい一人の時間を過ごして来たこの俺が...今日から三人家族??
誰の子供かも知らないまま一児の父親?
大丈夫か?俺...
ハンドルを握りながら、自問自答を繰り返していた...
俺が離婚したのは、この子を育てる為?
この子はもしかして俺の子?
この出逢いのために俺は離婚したのか?
俺の愛を試してるのか?
なんの試練だ?
様々な疑問が駆け巡る...
そんなとき、彼女が口を開く。
「ごめんね、本当に...急に電話なんかして...」
「いいよ別に...俺に会いたくて、電話したんだろ、俺もずっと会いたかったし...」
「でも...私、子供も出来ちゃったし...」
「...名前、名前なんて付けたの?」
「...愛」
「愛と書いて、めぐみ...」
「沢山のひとに愛をめぐみ、沢山の人からの愛に恵まれて幸せになってほしいって思って...」
「私が、今まで愛に恵まれなかったから...」
「この子だけはそんな寂しい大人になってほしくないから...
」
そつ呟くと、彼女は子供を抱きながら、下を向いた。
そして、暫くすると小さな肩が小刻みに震えていた。
「...もう大丈夫、もう平気だよ。」
「これからは、これからは...ずっと、ずっと、俺が君と愛ちゃんを守るから、絶対に守るから...何があっても俺が今以上に幸せにしてあげるから...」
「して見せるから!」
「大丈夫だから...」
「大丈夫だから...」
そして、自分の心にも言い聞かせるようにおれは呟いた。
「大丈夫だから...」
そんなとき目の前にマリンタワーが見えてきた。
そして、マリンタワーを横目に俺は彼女に思いを伝えた。
「俺ともう一度やり直そう...」
「一人増えたけど、もう一度俺とやり直そう、そして、もう二度と俺の前からいなくならないでほしい...」
横浜ベイブリッジの橋を渡り、マリンタワーの灯りを背に受けながら俺は、大して信じていない、神様に心の中で祈りを捧げた。
「神様...もし神様がいるのなら、俺に力を、そして勇気を、そして、この人達を幸せにするから...絶対に幸せにするから、神様の偉大な力を少し俺に分けて下さい...そして俺を見守って居て下さい...」
「神様...お願いします...」
「こんな男だけれど、この先何があっても彼女を大事にするから、この先ずっと離ればなれにならないように、離ればなれにならないように...お願い致します...」
俺はどこの宗教にも入信していないし、信仰もしていない。
信じて来たのはいつも自分だけだった。
だけど、この時だけは、神様でも、キリスト様でも、仏様でも、祈れるもの全てに祈り、神という神を信じて、願い、祈り、拝み通した。
心の中で何度も何度も、、、何度も何度も神様に手を合わせていた。
きっと俺は、誰よりも神様や仏様を信じていたのかも知れない...
いや、神様がいてほしいと、常に自分の側にいてほしいと、子供の頃から願っていたのかも知れない...
そして、彼女はこう呟く「...ありがとう」
そしてこう続けた。
「こんな私で良いの?」
「子供もいるんだよ...」
俺は切り返す。
「正直子供が居たことは驚いたよ...」
「でも、俺は出会った時から今まで一度も君を忘れたことはない!」
「正直、一度結婚もした、だけど、昔の彼女に悪いけど、心の何処かに君を想う俺がいて、その思いを消したくて、消せると思って恋をしてきたけれど駄目だった...」
「他の誰かじゃこの傷は癒せなかった。」
「君じゃなければ意味がない人生になってしまう...」
「ずっと君を待ってた...」
彼女は下を向いたまま肩を震わせ無言だった。
車は横浜の自宅に到着した。
朝の光りが俺達を照らしていた。
その陽の光りが俺たちを優しく包み、新たな門出を祝福しているように俺は感じた。
「幸せになれる」その光りを浴びながら俺はそう信じていた...
「お疲れ様、やっと着いたね。」
「うん...」
「お疲れ様...運転ご苦労様」
と彼女。
瞳を赤くして精一杯笑顔を作る彼女が愛しく想える。
「ほら、これが横浜の新しい家、君と愛と俺の家!」
「アパートだけど、狭いけど取り敢えず暫くここで暮らそう。」
「駅も近いし、スーパーもあるよ。」
「ありがとう。」
早速、愛を布団に寝かせ
荷物を運び、片付けも程々にして、一息ついた。
俺は絶対にこの先この子を離さない。
彼女も離さない。
何があっても俺が守って見せる。
きっと幸せにして見せる。
そう心に誓い彼女を見つめる。
そして、久しぶり見た彼女の瞳。
その瞳には俺が映り、
俺の瞳にも彼女が写っていた。
そして、気が付くと俺は、彼女の肩を優しく抱き寄せていた。
そして、激しい鼓動。
そして、言葉では言い表せない程の感情。
幾年も待ち望んだ感動が胸一杯に広がり、その瞬間に俺は彼女と唇を重ね合わせていた。
何度も何度も、唇を重ね合わせた...
まるで、何かから逃げるように、何かを追い払うように、唇を重ね、愛を口にして心を通わせた。
心に空いた大きな穴を長いキスで鬱ぎ、熱い吐息で思いを伝え、互いの傷を慰め合った...
そして、いつまでもいつまでも時を忘れて愛し合った...
今まで筆者に沢山の愛情をくれた全ての人達にお礼を申し上げます。そして筆者が傷つけた沢山の人達にお詫び申し上げます。この物語は筆者の人生であり、筆者の遺書として限られた時間の中で執筆しております。
人生どう生きるのか?どう死んでいくのか?
心の葛藤が続きます。