悪役令嬢とドS執事の明るい国家計画
「行かない。誕生日ぐらいいいでしょ?」
そう拗ねたお嬢様は頬を膨らませ背を向けた。姫として栄華を極めたのは早何百年前か……、十五になった美しい女性は私の主人。国を護る力を穢し、今やただの魔女に成り下がってしまったと国民に恐れられている。
「お嬢様。そう仰られましても時間が……。いいんですか? 貴方が本当は男の子だとお父上にバラしますよ」
「っ鴻上!」
いつもの脅しの言葉は挨拶のようなものなのに、お嬢様は今日も憤慨して玉座から立ち上がった。
「……なんです?」
睨みをきかせれば固唾を飲んで拳を握っている。
「怖い顔……。言ったってどうせ信じないから。そう言う鴻上だって」
「別の世界線から来たなんて笑われるだけです」
「私にとっては普通なのに! ルイの孫だってバラしてやる!」
お嬢様も私にカードをちらつかせたいらしいが、口で負けてしまうので大体は舌打ちと地団駄で憂さを晴らすしかなく、私はそんなお嬢様が微笑ましくてたまらない。
「おやおやお戯れを。なんなりとどうぞ。私は其の為に来たのですから」
「だったら早く行きなさい。なんでうちにいるのよ?」
「お嬢様を立派な女王にしなくてはなりませぬゆえ」
「は? 何年いるつもり?」
「それは神のみぞ知るですね。それより、例の暴動の首謀者を捕らえましたが……」
「打ち首でいいでしょ? パンがなければケーキを食べればいいじゃない」
「そんな……さる高貴な女性の名言なんていらないんですよ。民を敬い心に寄り添う。これこそが淑女の魂として……」
「おーだーまーりっ」
「お嬢様」
「なによ……。鴻上が護衛してくれるならその者の過去を正してもいい」
「もちろんですとも。参りましょう」
窘めれば素直になってくれるのは、やはり己の役割をわかっているからこそでもある。吐息を零しながらお嬢様は戦闘服に魔術の本を抱え背筋を伸ばした。
「あーもう……。時を超えたら1ヶ月若返るだなんて。そのうち赤ちゃんになっちゃうから」
「ちゃんと私が面倒みますので」
「アンタにおむつ変えられるなんて絶対に嫌!」
「もう慣れましたよ」
「早く忘れなさい!」
花とされた民を救いに……。
朽ち果てそうな花を見つけその民の過去を辿る。人間へ戻した民には、お嬢様が国民を魔法にかけたと恨まれる。報われぬ使命と贖罪を背負い、お嬢様は今日も城を出てゆく。お嬢様の笑顔が見られるのはいつの日か。箱庭の枯れた花畑が望む世界へ戻るまで、私は永遠に仕えたい。