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【001】いきなりクビ宣告






 バラバラになった彼らこそが、真の仲間のように感じられた


 ――ジェフリー・ダーマー


「あんたはクビだ」

 朝起きてギルドについたとたん、いきなり勇者ハヤトから言われたのがこれだ。

 最初はなにかの冗談だと思ったが、彼の表情は真剣だった。

「あの……その……クビってどういう事でしょう? 勇者パーティを抜けろって事ですか?」

「勇者パーティ……あんたのそういうところが……クソっ」

 ハヤトは何かを言いかけて、ちっ、と舌打ちをする。

 そして溜め息をひとつ吐いたあと言い直す。

「兎も角、うちでは、もうあんたの面倒を見きれないから」

「足手まといって事ですか……」

「そうだ」

 にべもなくハヤトは言い放つ。

 俺は絶望した。

 これまでずっとパーティの為に尽くして来たのに、あんまりだ。

 確かに俺のような後衛の支援術職は地味だ。

 タンク職のタックの様に前線で体を張って敵の攻撃に耐えたり、ヒーラーのモエカの様にみんなの傷を癒やしたり、賢者のアルフレッドみたいに派手な攻撃呪文で敵を全滅させる事ができるわけじゃない。

 だからこそ俺はそのぶん、みんなの荷物持ちをしたり、お茶汲みや買い出し、窓際での見張りなどの雑務を一手に引き受けてパーティに貢献してやっていたのに……。

「理由を、理由を聞かせてください」

「だから、使えねえからだよ! お前が」

 ハヤトの怒声が響き渡る。

 それから彼は数分間に渡って、俺が過去に犯した些細なミスを並べ立て、この俺の事をなじり始めた。

 そんな俺を周囲の人間が見て笑っている。俺の事をバカにしている……。

 こんな人前で怒らなくても良いじゃないか。

 確かに俺だって人間だしミスはする。

 しかし、後衛支援術職の俺がいなければ、あの魔王軍四天王の堅い防御力を貫けただろうか?

 ドラゴンの吐き出した灼熱のブレスを防げただろうか?

 魔大陸の毒の沼地をノーダメージで歩けただろうか?

 この勇者パーティは、これからもずっと魔王討伐の旅を続けていけるのだろうか?

 それに、タックもモエカもアルフレッドも他のみんなだって。

 俺だけじゃなくて他のパーティメンバーだってミスぐらいはするはずだ。

 なんで俺だけ怒られなければならないんだ。

 こんなにパーティの為に尽くしているのに……。

「……そういう訳で、あんた、これを機会に田舎にでも帰って少し休め……おい!」

 ハヤトの話が一段落したすきを狙って、俺は近くにいたモエカの足元にすがりついた。

 モエカは俺と同郷の幼なじみだ。きっと、俺の価値をわかってくれるはず。

「きゃっ……ちょっと」

 しかし、まるで汚いスライムに襲われた時の様に、モエカは椅子から飛び退いて後ずさる。

 そんな彼女を見て俺は悲しくなる。

 君まで俺を役立たずだと罵るというのか。

 あの清純で優しかった聖女の面影は最早ない。それでも俺は膝を突いたまま、彼女に語りかける。

「なあモエカ……なんで、そんなに酷い事を言うんだよ。勇者パーティに入って、一緒に魔王を倒して世界を平和にしようって。そうしたら結婚しようって、共に将来を誓い合った仲だろ? 俺達……なあモエカ」

 俺はモエカに左腕を伸ばす。

「ひっ」

 彼女の顔が青ざめて歪む。

 すると突然、左腕を引っ張られて無理やり立たされ、胸ぐらを掴まれた。

 賢者のアルフレッドだった。俺は思い切り殴られる。

「オマエ、マジデ、イイカゲン二シロヨ?!」

 西方王国訛りのイントネーションで、普段は温厚な彼らしくない怒鳴り声をあげた。

 それだけでも衝撃的だったのに、なんとアルフレッドの胸へ、モエカが飛び込んだのだ。

「ダイジョブデスカ? モエカサン」

 モエカを抱きしめて優しい微笑みを浮かべるアルフレッド。

 そんな彼を潤んだ瞳で見上げるモエカ。

 その発情しきった表情を見て俺は確信する。

「そうか……NTRだな」

「ホワイ?!」

 故郷の花吹雪く丘で、互いに将来を誓い合った彼女の純潔はすでに無い。

 そうか、そういう事か。モエカとアルフレッドは……。

 それに気がつかず、ずっとあの日の約束を信じていた俺はなんという間抜けなんだ。

 神よ! この哀れな道化を笑ってくれ。そうでもしてもらわなければ、頭がどうにかなってしまいそうだ!

 俺は天井を見あげ、その光景を涙と共に思い出す。

 ある春の日。

 悠久の風の中。

 俺の名前を呼んではにかむキミ。

 記憶の中のその姿は、うたたかの幻想まぼろしの如く、花びらの様に散って、消えていった――。


 すると、その瞬間だった。

「あーあ。こいつらキミの事、舐めてるよね」

 ウンブリエが姿を現す。

 彼女は女神様の使いで、ずっと勇者パーティを導いてきた守護天使だった。


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