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オリキャラのキャキャキャ1  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ1 第一章
9/50

第一章 09 客室


09


 ミーティング室の横の階段から、二階に行けるはずだ。

 階段を昇りながら、三人は興奮して小声でささやきあった。

「おかみさんも出て来たね! うちらが設定してないことまで出て来とる!!」

「おかみさんの一人称、『あい』になってたね! あいが決めた一人称が、他の人にも使われるようになったんだ!!」

「食材を町から取り寄せて冷やす、とおっしゃってましたね。ということはあの棚は冷蔵庫……氷の魔法で食材を長期保存できる仕組みということでしょうか? 我々が失念していた食材の保存まで設定が決まっていましたね!」

 そうしていると、すぐに二階についた。

 二階は、廊下の片方は窓が開いており、その反対側は、狭い間隔で扉が並んでいた。扉には201、202などと大きく番号が振られている。

 ヴァルルシャは201、ユージナが202、リユルが203の扉の前に立つ。

 この中には、自分たちの荷物が入っているはずだ。

 深呼吸をして、三人は同時に鍵を差し込み、扉を開けた。

 部屋は、ベッド一つがちょうど収まるだけの大きさだった。部屋はベッドの縦の長さとほぼ同じ正方形で、ベッドの横にはちょっとした台があり、荷物置き場になっている。窓は無かった。

 ヴァルルシャとリユルの部屋には大きめのリュックサック、ユージナの部屋には肩に背負うようなサイズの風呂敷包みと日本刀が置いてあった。

 おおむね、先ほど設定した個室の様子と変わりなかった。

「窓は無いんだね」

 リユルが言う。ユージナが廊下を振り返って確かめる。

「廊下の窓も、ガラス入っとらんもんね。ガラスが無い世界なのかな? ああでも、コップと水差しがガラスだったか」

 廊下の窓は、窓ガラスではなく木の板を上げ下ろしして日光を取り入れる形になっていた。

「一階の窓も、ガラスは入っていませんでしたね。ガラスのコップはあっても、窓のように平らで大きな板状にするのはコストが高いのか、それとも森の中では魔物に壊される可能性があるから、雨戸のような木の板の方がいい、ということでしょうか」

「確かにガラスは割れるし、ガラスじゃなくても個室に窓があったら窓から荷物が盗まれる可能性もあるか。荷物置き場も兼ねるなら窓は無い方が便利かもね」

 個室に窓のない理由に納得し、リユルは話をつづけた。

「で、ここにあいたちの荷物があるわけだけど、さっきおかみさんが大きい荷物は置いといていいって言ったよね。長旅に必要な大きいカバンと、宿にそれを預けて魔物退治に行くための、携帯用のカバンがある、ってことだよね。あいがさっきミーティング室で出したこのカバンは、財布とか入ってないし……バッグインバッグってとこかな? 携帯用のカバンはこの大きなカバンの中か、物陰に隠れてるのかな?」

 探してみよう、ということになり、三人は自分の荷物を探った。

 リユルは腰につけるバッグ、ユージナは胴に斜め掛けする風呂敷包み、ヴァルルシャは肩にかけるバッグが見つかった。

 扉を開け放ち、廊下に身を乗り出し、三人はそれぞれの持ち物を見せ合った。

「うんうん、なんか貴重品が入っとるような感じがする! とりあえず、まず財布は入っとるはずだよね。通帳的な物は大荷物の方にあるとして、持ち歩き用はいくらがいいんだろ?」

 ユージナが自分の手荷物を見て言う。まだ中身は確認していない。

「その前に、この宿は一泊いくらなんでしょうか? 夕飯は別料金だとさっき判明しましたが、他の食事はどうなんでしょう」

 ヴァルルシャも、財布を取り出す前にその疑問を発する。

「宿泊料金に朝食は含まれてるんでしょうか? 泊まるということは朝には宿にいるということでしょうし、含まれている気もしますが……。今夜だけでなく明日の朝も食事を用意してもらった方が助かりますよね」

「そうだね。そういう設定も今、決めておけば後で困らないよね。ていうか、今って何時ごろ? そもそも時計があるかわかんないけど……あいたちお昼ごはんはどうしたんだろ?」

 リユルが言い、ユージナが窓の外を覗きに行く。

「見た感じお昼ぐらいだけど……。おかみさんが、他の人はみんなもう狩りに行ったって言っとったよね。朝から森に魔物退治に出かけて、宿屋で夕食を頼むってことは夕方まで魔物退治してから戻ってくる、ってパターンが普通なんかな。だったら、お昼は森の中で携帯食とかで軽くすませるんかな?」

「『水が容器から消えない魔法』で水筒がそんなに邪魔にならないサイズで持ち歩けるなら、お弁当みたいなものも、魔法的な力で何か便利なのがこの荷物に入ってるかもしれないね。宿屋に泊まるけど夕飯は要らないって人は、お弁当で夜まで森でがんばって、夜にしか現れない魔物を待ち伏せする……とか? その辺は実際に魔物退治に行ってから考えた方がいいか」

「そうですね。とりあえず宿屋の代金と、今の所持金を決めましょう。ビジネスホテルなら一泊で数千円ぐらいだったりしますが、この宿はいくらでしょうね。この森に魔物退治の人間が定期的に来るなら、そこそこ需要があるということになりますが……」

「でも宿屋がこの辺に一軒だけだったら、競争相手がおらんでちょっと高くなるんじゃない? それに水を上水タンクに満たすのだって、町から上級魔法を使える人を呼ばなならんし、食材も町から取り寄せとるって言っとったし、輸送コストとか含めると結構行くんじゃ?」

「てことはビジネスホテルじゃなくてリゾートホテル並み? でも魔物退治で一日に稼ぐより宿代が高かったら誰も泊まりに来ないよね。ていうか、魔物退治ってどれぐらい稼げるものなんだろ?」

 リユルが首をかしげる。疑問の答えが出るどころか、また新たな疑問が浮かんでしまった。

「魔物を一匹……単位って匹でいいのかな? 一匹倒していくらなんだろ? 朝から晩まで森の中で魔物退治するとして、何匹ぐらい倒せるものなんだろ」

「それも決めとらんかったね。一日の稼ぎが宿代より安かったら魔物退治で旅をする人なんておらんくなるし。んーでも、弱い魔物は安いけど強い魔物は高いだろうし、高い魔物を狙っても見つからんこともあるかもしれんし、稼ぎには波があるんかな。そういう中で大金が欲しくて魔王を倒そうと狙う人もいるわけだし。……そういえば、『魔物を倒したら色が変わって鑑定屋で換金してもらえる光る石』ってのをさっき考えたけど、魔物一体いくら、って決まっとっても、三人がかりで魔物を倒した場合、どうなるんだろ?」

 疑問は新たな疑問を呼ぶ。

「RPGだと、所持金はパーティーのリーダー、というかゲームの主人公、つまりプレイヤーが一括管理、という感じですよね。戦闘で得た経験値はパーティメンバーに均等に配分するものが多いですが。新規加入した低レベルのキャラにずっと防御させ、レベルの高いキャラに敵を倒させて全員のレベル上げをする、ということもしますし。でも、この世界の場合はどうしましょう?」

 三人はしばし考え込む。やがてユージナが叫んだ。

「あ~~~、きりがない! 戦闘とかその辺のことは後! とりあえず今決めるのは宿屋の代金とうちらの所持金! で、魔物退治の収入とか支出とか考え出すと終わらんで、考え方を変えよう!

 きみら、この宿泊にいくら払いたい? いくらのサービスを受けたい?

 どんな設定でもうちらが決めてしまえばそうなるだろうけど、宿代を安く設定して、粗末な食事が出てくるのは嫌でしょ!」

 言われて、リユルもヴァルルシャもハッとした顔になり、うなずいた。

「そうだね。部屋は狭いけどきれいだし、さっき行ったトイレもきれいだったし、それはご主人がきちんと掃除してくれてるからだよね。お風呂もきれいであってほしいし、だったらそんなに安く設定できないよね」

「夕食も朝食もきちんとした物を食べたいですものね。豪華というほどではなくても……千円ぐらいの食事を希望すればいいでしょうか?」

「だったら夕飯代が宿泊費プラス千円ってことになると、基本の宿泊費は、水道代と部屋代と朝食代込みで……四千円ぐらい? 夕飯込みで五千円ぐらい? 日本のビジネスホテルみたいに個室にトイレやシャワーはついてないけど、風呂やトイレが共同なのはこっちの世界の標準、って考えれば、ビジネスホテルと同じぐらいの値段を設定して、それと同じぐらいのサービスを受けられる、って想定するのがわかりやすいかもね」

「確かに。今後、別の宿にも泊まるでしょうし、そういう基準で考えた方がわかりやすいですね。となると、我々がこれから宿屋に支払う額は、一人五千円。つまり、500テニエル、ということになりますね」

 ヴァルルシャの言葉に、皆うなずく。

「ようやく宿泊費が決まったーーー!! じゃあ、次はうちらの所持金だね! 宿代が一日にそんだけだから、その何倍も持っとらんと困るよね」

「ええ。とりあえず、さっき決めた通貨は全種類持っている、ということでどうでしょう。実際に我々が設定した通貨がどんな物か見たいですし。

 大金貨が10,000テニエルで十万円、小金貨が5,000テニエルで五万円、でしたね。金貨だけでも15万円分あれば、とりあえず安心ではないでしょうか?」

「そうだね。でも、細かいお金はもう少しあった方がいいんじゃないかな? 銀貨は同じのが二枚ぐらい、銅貨は……同じのが三枚ぐらい?」

 リユルの提案を皆で検討する。

 大銀貨は1,000テニエルで一万円、小銀貨は500テニエルで五千円。

 それが二倍、つまり3,000テニエルだから銀貨だけで三万円。

 銅貨は、大銅貨が100テニエルで千円、中銅貨が10テニエルで百円、小銅貨が1テニエルで十円。

 それが三倍なら、333テニエル。つまり3330円。

 合計すると、18万3330円。

「一人の所持金として持ち歩くならこんなもんかな?」

 ユージナが言う。リユルが続ける。

「金額的にはそうだけど、小銭はもうちょっとあった方が便利かな? それにしても、金貨と銀貨の威力って強いね。一枚持ってるだけで桁が違うもん」

「いざとなったら宿屋のご主人に両替してもらえるということにしましょう。そう設定しておけば大丈夫なはずです。それに、大荷物の方の設定は今後決めますし、携帯用の荷物にはこれだけの金額が入っている、ということでいいんじゃないでしょうか」

 三人はうなずき、自分の荷物を開いた。財布が出てくる。

 金属の重みを感じながら、三人はお金を広げてみた。

 1テニエル銅貨が、十円玉より小ぶりの大きさ。

 10テニエル銅貨が、百円玉ぐらいの大きさ。

 100テニエル銅貨が、千円札、ではなく、五百円玉ぐらいの大きさ。

 小銀貨は100テニエル銅貨よりやや大きく、小金貨は小銀貨よりやや大きかった。

 大銀貨は千円札を四つ折りにしたぐらいの楕円形で、大金貨は大銀貨よりやや大きい楕円形だった。

「銅貨はなじみのあるサイズだね。でも大きさが金額順になってるのか。日本の硬貨よりわかりやすいね」

 確か十円玉より百円玉の方が小さかったと思いながら、リユルが言う。

「紙幣が無いで大金貨、大銀貨は形で区別しとるんだね。大金貨は小判みたいだ」

 ユージナがそれらを触りながら言う。

「夕食付きで一泊五千円、つまり500テニエルなら、ちょうど小銀貨一枚で支払いできますね」

 ヴァルルシャが小銀貨一枚を残して、あとは自分の財布にしまう。リユルとユージナも同じようにする。

「支払いを済ませて、外に……行ってみますか」

「うん」

「そうだね」

 三人は財布をしまい、身支度を整えた。それぞれ携帯用のカバンを身に着け、ユージナはさらに腰に日本刀を差す。大荷物はあえて中身を確認せず、部屋にそのまま残す。扉を閉め、鍵をかける。

 三人は階段を降り、宿屋の亭主を探した。


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