第一章 05 お金の単位
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「うちらは、魔王退治を目標に旅をしとる。そういう物語でいいね」
ユージナがもう一度確認した。
「うん。で、魔王は、選ばれた勇者にしか退治できないような特殊な存在じゃなくて、ただめちゃくちゃ強くなった魔物、みたいな扱いでいいのかな? 強い分、倒すと国から特別な賞金が出るとこが他の魔物と違うぐらい?」
「そうですね。魔王を退治した者に国が賞金を出すのは、特別に予算を組んで一つの公害問題を解決するようなもの、と考えたらどうでしょう。報酬があれば人は頑張りますから。
そうだ、お金の単位も決めないといけませんね」
三人で話し合うと、また新たに固めなければならない設定が見つかった。
「お金か……金貨とか、銀貨とか?」
リユルが自分の頬に手を当てて考える。
「金とか銀がある設定でいいの? あっでも、江戸時代でも、小判は金貨だし、その下に銀の四角いのとかあるか。じゃあ大判小判……じゃ和風になりすぎだで、大金貨、小金貨、みたいにする?」
「でも江戸時代でも一両とか、一文とか言うわけでしょう? 貨幣の単位は決めた方がわかりやすいと思います。両とか文とか銭とか、どれがいくらに相当するんでしたっけ?」
「うちそこまで知らん……ファンタジー江戸時代だで現実の通貨のことそこまで詳しく調べとらんかったはず……」
ばつが悪そうなユージナに、リユルが言う。
「大丈夫! あいの時なんかお金どころかろくな設定無かったし! これから決めればいいんだよ!」
ユージナとヴァルルシャは笑顔を見せる。
「そうだね。じゃあまず、単位決めようか。両とか文とか、複数あるとわかりにくいで、一つに統一されとる方がいいよね。あとはなんか、異世界っぽい響きがいいなあ。おかね……カネー……ゼニーとか……いかん、いいのが思いつかん」
「響き優先で、何かかっこいい言葉が思いつくといいのですが……なんの糸口もないと難しいですよね。となるとお金にまつわる日本語をもじるのはいい方法だと思いますが……」
三人はそれぞれ、それっぽい言葉をつぶやいてみる。やがてリユルが言った。
「お金……稼ぐ……得る……エル? テニエル? テニエルとかどう? 手に得るから!」
「あ、いい! 日本語もじっとるのにそんな感じ薄いし!」
「確かに異世界っぽくていい響きですね!」
通貨の単位は『テニエル』に決定した。
「金貨一枚が何テニエルぐらいがいいだろ? 確か、小判って現代の日本円にすると十万円ぐらいだけど、それはお米の価格で換算した場合で、他を基準にするとまた違ってくるとか、何かで読んだ気がする。……うろ覚えだで細かいことわからんけど」
「作者は現代日本人ですし、現代日本人にわかりやすい換算でいいのではないでしょうか。たとえば金貨一枚が一万円、とか」
ヴァルルシャの提案を皆で検討してみる。
「金貨が一万円なら、その下は銀貨で五千円? その下は……銅貨? 銅貨一枚で千円? その下は? 千円が最低の通貨だったら困るよね? 銅貨の下にまた別の通貨作る? 鉄とか?」
「鉄は錆びてまうよ。金貨、銀貨、銅貨、の三種類で、大きさで区別すればいいんと違う? 大金貨、小金貨、みたいに」
「ならば大金貨が一万円、小金貨が五千円。大銀貨が千円で、小銀貨が五百円。その下は……日本円なら百円玉、五十円玉、十円玉、五円玉、一円玉とありますよね。銅貨だけ細かいサイズを増やすか、それとも金貨や銀貨ももっとサイズがあった方がいいんでしょうか?」
「うーん、でもさ、金貨って言うとお高いイメージあるじゃん? それに金の板って一万円で買える? 金貨を鋳つぶして金塊にしちゃう人が出たら困るよ。金貨に含まれる金の価値より、通貨としての価値が高くないといけないんじゃない?」
リユルの言葉にうなずき、三人は最初から考え直す。
「まず、1テニエルが日本円でいくらになるか考えた方がいいかもしれんね。1円とイコールじゃそのまますぎるで、変えた方がいいと思うけど、いくらがいいだろ?」
「わかりやすい換算の方がいいですよね。10倍とか、100倍とか」
「百円が1テニエル……だと、百円以下の売買はどうするってことになるよね。百円以下の物って結構あるし。てことは、1テニエルは十円?」
「単価が十円以下の物っていうと、駄菓子ぐらい? そういうのも何個で百円、とかまとめ売りされとること多いし、1テニエル十円って設定なら、そんなに不便はないんと違うかな?」
「となると、一番小さい銅貨が、1テニエルで十円。次に小さい銅貨が、5テニエルで五十円か、10テニエルで百円ぐらいにしておきますか?」
ヴァルルシャの問いかけに、少し考えてリユルが言った。
「通貨の種類が多くなると設定が大変だし、十倍刻みぐらいでいいんじゃない? 十円、百円、千円……。庶民の普段使いのお金ってこのぐらいの金額だよね。このへんを銅貨で大中小の三種類で区別、っていうのはどう? 銅貨は、日本人にとっての小銭、みたいな感じでさ」
「わかりやすくていいと思うよ。じゃあ銀貨は一万円、十万円、百万円……だとでかくなりすぎか。金額が大きくなると十倍刻みじゃいかんね。ここからは、五倍ぐらいで区切った方がいいかな?」
「日本で言う五千円札と一万円札を、銀貨に割り振るというのはどうでしょう。それでもちょっとした大金ですし。そして金貨を、五万円や十万円にするのです。そうすれば金貨一枚でも、大金!という感じがしませんか?」
三人はうなずき、お金の設定を確認しあった。
・この世界のお金の単位は『テニエル』。手に得るから。
・1テニエルは日本円の十円ぐらいの価値。
・銅貨は、大中小の三種類。大銅貨が100テニエル、中銅貨が10テニエル、小銅貨が1テニエル。
・銀貨は、大小二種類。大銀貨が1,000テニエル、小銀貨が500テニエル。
・金貨も、大小二種類。大金貨が10,000テニエル。小金貨が5,000テニエル。
「金貨と銀貨は、ちょっと大金だから『大金貨』『小金貨』って区別でもいいと思うけど、銅貨は三種類あるし、庶民の普段使いのお金だし、『十円玉』みたいな感じで、『1テニエル銅貨』、みたいな呼び方にしたらどうだろう?」
リユルの提案に二人はうなずいた。
「1テニエル銅貨が十円玉、10テニエル銅貨が百円玉、100テニエル銅貨が千円札、という感じですね」
「小銀貨は500テニエルで五千円札、大銀貨は1,000テニエルで一万円札、ってことだね。金貨は、小金貨が5,000テニエルで五万円、大金貨が10,000テニエルで十万円。日本のお札にはない価格だで、金貨は特別!って感じが出とっていいと思うよ」
「……お金の単位が決まると、世界の基盤がしっかりするというか、この世界で人々が生活してる!って感じがするね。あい、世界の設定が楽しくなってきた! ほかの設定も頑張ろう」
三人はうなずき、水を飲んで次の設定を考え始めた。