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オリキャラのキャキャキャ1  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ 第六章
43/50

第六章 03 名前


03


 雨の降り続く中、三人はようやく鑑定屋に着いた。

 鑑定屋の入り口で、レインコートを払って水滴を落とす。水気の無くなったレインコートをたたみ、中に入る。

 鑑定屋は、雨で魔物退治に行けない魔物狩り屋であふれているかと思ったが、雨で出歩くのが億劫なのか、それとも三人が買い物をしている間に大勢が鑑定屋に寄って帰った後なのか、人は少なかった。

 開いている窓口に向かい、それぞれの蓄光石を見せる。その窓口のファスタン・カンティーは女性タイプだった。

「では、鑑定いたします。こちらの蓄光石に蓄積された功績は……13,824テニエル、13,824テニエル、13,824テニエルとなります」

 精霊は知的な声でそう示した。

「今回も三人とも同じ値段だね」

 リユルがユージナとヴァルルシャに言った。

「そうだね。うちらずっと一緒に戦っとったし。あ、ねえ、これって、何をどんだけ倒したか全部わかるの?」

 ユージナがふと気になったことを尋ねる。精霊は穏やかに笑って答えた。

「強い魔物の場合は、ある程度は残り香のようなものを感じますね。水獅子を何匹も倒されたようですね。

 水獅子は一匹が約5,000テニエルです。大きさなどで多少の個体差はありますが。

 オーガは一匹が約3,000テニエル、ハーピーは約1,000テニエルです。あとは小さな魔物をいろいろ倒されたようですね」

 その通りだったので、ユージナはうなずく。

「精霊の鑑定にお間違いはございませんか? でしたら、お金を準備いたします」

 人間の職員がそう言い、準備を始めた。

「やはりこのあたりで魔物狩りをした方が稼げるんですね。でも支出もそれなりにありましたからね……」

 ヴァルルシャが言い、三人はこの町での支出をざっと計算する。

 宿屋は、安い宿を見つけたとはいえ毎日400テニエル支払っている。十日も泊まれば4,000テニエルになる。

 食事は、最初は朝50テニエル、昼も50テニエル、夜が150テニエルぐらいのものを食べていたが、強い魔物と戦えばお腹がすく。もっとたくさん食べようと思うと、一日の食費が宿代以上になったりする。それを毎日続ければ結構な額だが、食費を削って力が出なくては本末転倒だ。

 そして今日、雨具や魔物よけスプレーなどを買ったし、女性陣は月経停止薬を毎日飲まないといけない。

 それでもこの町に来てからの収入は支出を上回っているが、魔物狩り屋の稼ぎには波があると考えた方がいいだろう。

「魔物のいそうな場所へ行っても、価格の高い魔物と必ず遭遇するわけではないですからね」

 ヴァルルシャが二日前のことを思い出す。森の中で魔物を探したが、オーガやハーピーに一度も遭遇せず、ゴブリンと葉獣とピクシーしか出てこなかったのだ。

 リユルとユージナもうなずいて話を続ける。

「それに、大怪我してしばらく戦えなくなることだって考えられるよね。あいとヴァルルシャが回復魔法を使えるって言ってもさ」

「しかも使える魔法を増やそうと思ったら、でらお金かかるし……今回は黒字でも溜めとかないかんよね」

 そう話しているうちに窓口の準備が整い、トレイに先ほど示された金額が乗せられた。

「では、こちらの蓄光石の光を、これだけのお金と交換いたします。ご確認ください」

 三人がうなずくと、精霊が次の手順に入る。

「では、光を吸い取らせていただきます」

 蓄光石は黒い色に戻り、三人は蓄光石とお金をしまった。「またよろしくお願いします」の声を後に、受付を離れる。

「魔王予報は出とるのかな?」

 ユージナが言い、三人はそちらの掲示板に向かう。

『魔王予報』

『現在、魔王発生の予測はありません』

 鑑定屋の壁には、以前来た時と同じように、それだけの情報しか載っていない掲示板が掲げられていた。

「まだ情報は出てないんだね。そんなにすぐには現れないか」

 リユルが息を吐く。

「魔王ですからね……。でも、いずれは倒したいですね」

 そう言うヴァルルシャの表情には、かつての作品への未練ではなく、この世界での今の目標として魔王退治を目指したい、そういう気持ちが浮かんでいるように、ユージナには見えた。

「がんばって、いつか倒そうね! そのためには、魔物をどんどん倒して強くならんとね!」

 ユージナが言い、ヴァルルシャもリユルもうなずいた。

「でも、この町から日が暮れるまでに戻ってこようと思うと、せいぜい湖までしか行けないのかなあ。もうちょっと違うところまで行った方がいいと思う?」

 リユルが言い、別の壁にある、このあたりの地図へと足を向けた。ユージナとヴァルルシャも後に続く。魔王予報は何も出ていないので他の魔物狩り屋も立ち止まらずに去っていくが、地図のところには何人かいた。

 ファスタンの町を中心にしたこの辺りの地図。三人は自分たちが進んだ場所を確認する。今はまだ、キヨゥラ川に沿って町とズーミー湖を往復しかしていない。

 地図を見ると、ヤームヤーム山脈は湖の北の辺りから広がっている。確かに、川の流れだす湖の南側に着くと、北側の岸は山のように切り立っている部分も見えていた。

「湖の北まで行けば山に近いようですから、魔物が変わってくるかもしれませんね」

「ただ、行き帰りでどんだけ魔物と出会うかだよね。帰りはともかく、行きから魔物よけスプレーを使っとったら、湖の北に着いても効き目が残っとって魔物が出てこんかもしれん」

「そうだよね。じゃあ行きは魔物よけスプレーを使えないから……早起きして早めに出発する? あ、目覚まし時計って売ってるかな!」

 そこまで話して、リユルがそのことを思い出した。ユージナとヴァルルシャが朝寝坊した日、ユージナと、部屋には窓も時計も無いから時間がわからない、目覚まし時計は売ってないか、そんな話をしたのだ。

「あ……そういやそんな話したね。たしかに、目覚まし時計があると便利だよね。探してみようか」

 ユージナは、寝坊の理由を目覚まし時計が無いせいにしたことを思い出し、苦笑しながら言った。

「この地図には、町の店の情報は書かれていないんですよね。でもさっきみたいにすぐ見つかる気もしますが……。雨ですし、やみくもに歩き回るより、ちょっと受付で聞いてみますか」

 ヴァルルシャがあたりを見回し、受付に向かう。魔物狩り屋はもうほとんどおらず、受付はどこも空いていた。

 リユルも受付に向かおうとするが、ユージナが「地図……」とつぶやいて立ち止まるので、リユルもその場にとどまった。

 ヴァルルシャがすぐに情報を仕入れて戻ってくる。

「時計塔の向こう側に、時計屋さんがあるそうですよ。……どうしました?」

 ユージナは、周りに他の魔物狩り屋がいないことを確認して、リユルとヴァルルシャに言った。

「そういやさ、この世界の名前って何?」

「!」

「!」

 リユルとヴァルルシャも息をのむ。

「国の名前、とか地方の名前、とかじゃなく、世界全体の、ってことだよね」

「ファンタジー作品で言うところの、何とかの大地、とか、剣と魔法の何々の世界……みたいなやつのことですよね」

 二人も受付まで聞こえないように小声で返す。

「そうそう。地図見とって思ったの、世界の名前は何だろうって。ここには何も書かれとらんことない? この辺の地名だけでさ。

 日本だって、観光案内の地図に地球とか日本とかわざわざ書かんから、地元の地図に世界の名前が書かれとらんのはおかしくないけどさ。でも、名前が無いことはないでしょ」

 ユージナが地図を振り返る。三人は小声で話しを続ける。

「ほんとだね。今までも、精霊を国に申請……なんて話は聞いてたけど、あいたちがいまいる国って何て名前? その国があるこの世界全体の名前は? すっかり考えるの忘れてたよ~」

「うちの出身の日本っぽい国の名前とか考えてる場合じゃなかったわ。まず、今おるとこの名前を決めとかんと。うちらが考えんと、勝手に決まってまうかもしれんよ」

「確かに……。どうせなら、我々で良い名前を付けたいですよね。何かこう、前向きで……世界が広がっていくような名前がいいですよね。国の名前もですけど、まずは世界全体の名前ですね」

 ヴァルルシャが言い、三人は世界の名前を考えてみる。

「てことは……広い? 広大、コーダイ、とかだとちょっと日本語っぽすぎだよねえ」

「うーん……無限? ムーゲンとか……。うちから言い出してなんだけど、全然思いつかんわ」

「英語使ってみます? ワイドとか……ラージとか……」

 三人は頭をひねるが、お金の単位を決めた時以上に、いい響きが見つからずに難航した。

「……世界の名前って、そんなに頻繁に言わないよね。今までだって無くても日常会話はできてたし。とりあえず気にかけておいて、いいのを思いついたらそれに決めようよ」

 リユルがそう提案した。

「そうだね。時計屋も行かないかんし」

「そうですね。焦って決めるのは良くないですし」

 三人はうなずき、レインコートを羽織って鑑定屋の外に出た。


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