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オリキャラのキャキャキャ1  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ 第六章
41/50

第六章 01 雨具

第六章


  01


「うわ! ピクシー出た! しかも二匹もおる!」

 森の中で、ユージナが声を上げた。

「帰るところだったのに~!」

「しょうがないですね」

 リユルとヴァルルシャがそう言って魔法のために精神を集中させる。

 ルーリーンたちが旅立って十日ほどが経った。ユージナたちは同じ西ファスタンの宿を拠点に、ズーミー湖とその周りの森で魔物退治を続けている。

 最初のうちは、宿のある西ファスタンから川に沿って森へ行き、ズーミー湖の西側で魔物と戦っていた。それから、東ファスタンに行ってから川に沿って森へ行き、ズーミー湖の東側でも魔物を探してみた。

 遭遇する魔物は、オーガ、ハーピー、ピクシー、水獅子。それからゴブリンや葉獣、水狼も現れた。しかし一度戦って倒している相手なので、倒し方のコツはつかんでいる。ヴァルルシャには雷の攻撃も増えた。

 今日も森で昼食を済ませ、休憩を終えてまた魔物を探し始めたら急に天気が悪くなってきたので、急いで町に引き返しているところだった。

「風よ!」

 ピクシーが風の魔法を使い、突風が三人に吹き付けた。

 ユージナとヴァルルシャはリユルの前に立ち、風の盾になる。

「まだだ……まだだよ……」

 ユージナは腕で風を防ぎつつ、ピクシーの動きを観察する。

 ヴァルルシャも風に煽られつつ、そのタイミングを待つ。

「今です!」

 ヴァルルシャが言い、ユージナとヴァルルシャはリユルの前からどいた。その瞬間、リユルが魔法を発動させる。

「氷よ!」

 ピクシーに氷の雨が降り注ぐ。飛び回っている二匹のピクシーが、近い位置にそろうのを待っていたのだ。氷は二匹のピクシーをとらえ、動きを鈍らせる。

 よろよろと飛ぶピクシーの、一匹をユージナが刀で切りつけ、とどめを刺す。

「雷よ!」

 ヴァルルシャが、もう一匹のピクシーに、雷を命中させる。

 ヴァルルシャは雷の魔法を使うのにすっかり慣れ、ユージナも、ルーリーンと同じ魔法だからといって嫉妬する感情はなくなった。

 二匹のピクシーは倒され、光になって蓄光石に吸い込まれていく。

「ふーっ。三人がかりならピクシー二匹いてもそんなに苦労しなくなったね。とはいえ帰り道に出られると嫌だなあ」

 リユルが肩の力を抜いて言う。

「そうだね。そういや、ゲームでは『魔物と遭遇しなくなるアイテム』みたいなのあるよね。この世界にもあるかもしれんね」

 ユージナが刀を鞘に収めながら言う。

「町に戻ったら探してみましょうか。それに、雨具も探した方がいいかもしれませんね」

 ヴァルルシャが、木々の隙間から覗く空の様子を見ながら言った。まだ昼なのに、ずいぶん暗くなってきている。

 三人は急いで森を抜け、ファスタンの町を目指した。

 町へ着くころにはぽつぽつと雨が降り始めていた。まだ宿屋には遠いので、飲食店に入って雨宿りすることにした。一番近くにあったのは、テーブル席とカウンターのある、二十人ほどが入れるカフェだった。店内は、同じく雨宿りであろう客で半分ほど埋まっていた。

 三人は窓際のテーブル席に座り、お茶やジュースを注文する。窓はあまり大きくないがガラスがはまっており、道行く人の様子が見えた。

「傘さしとる人がおるね」

 水滴でにじむガラス越しに、ユージナがその様子を眺める。

「レインコートみたいなのを着てる人もいるよ」

「やはり、手で雨除けの何かを持つか、体にかぶるか、というのが基本なんでしょうね」

 リユルとヴァルルシャも窓の外を覗いてそう言う。

 店主らしき男性が飲み物をお盆でテーブルに運んできた。窓の外を眺めている三人の様子を見て、こう声をかけた。

「お客さん、雨具ないの? 隣が雑貨屋だから雨具売ってるよ」

 急な雨でこの店に駆け込む人は多いのだろう。慣れた調子でそう言った。

「あ、そうなんですね。じゃあ後で、行ってみましょうか」

 ヴァルルシャが答え、三人は運ばれてきた飲み物で森から走ってきたのどの渇きを潤したのち、カフェの隣の店に向かった。

 頭にかかる雨を手でおおいながら、隣の店の扉を開ける。以前行った道具屋・ニコウドは八百屋のように道に品物を広げていたが、そこは道には品物を出していなかった。白い壁に、茶色いドア。小さなガラス窓があって、窓の内側には造花が飾られている。店に入ると、小型のカバンや綺麗な色のハンカチなど、どちらかといえば女性向けの雑貨店のような品々が並んでいた。

「わ、かわいい店! あ、化粧品もある!」

 リユルが思わず声を上げる。瓶が並んでいる棚もあり、そこには「化粧水」「乳液」「ハンドクリーム」などと日本語訳されたラベルが貼られているのが見えた。

「櫛とかと一緒にこういうのも入ってたけど、無くなったらどこで買おうと思ってたんだよね。ここで買ってこ」

 最初に風呂に入った日、大荷物を探ると、寝間着や下着の替えと共に身支度用品も見つかった。そこに基礎化粧品も入っていたのだが、櫛などと違って液体は使えば減る。

 リユルは瓶を手に取り、ヴァルルシャとユージナも棚を覗き込んだ。

「あ、整髪料なんかもあるんですね。私も買おうかな」

「ヴァルルシャ、髪が長いで手入れ大変だもんね」

 宿屋の風呂に石鹸は備え付けられているが、最低限の設備なのでそれ以上のものが欲しければ自分で用意するしかない。棚には他に、シャンプーやリンス、いい匂いの石鹸もあった。

 三人は自分の欲しい品物を選ぶ。物によるが、一つの値段はだいたい50から200テニエルの間に収まっていた。店の入り口のそばには『商品を入れるのにお使いください』と書かれたかごがあったので、選んだ品物をそこに入れた。

「こっちの棚は……? あ、『魔物よけスプレー』って書いたるよ!」

 ユージナが隣の棚を覗き込み、二人に言った。

 そこには香水瓶のような物が並べられており、『旅のお供に/魔物よけスプレー』と書かれた紙が棚に貼り付けられていた。

「なんか、虫よけスプレーみたいな言い方だね。虫の嫌がる匂いで近寄らせない、みたいな?」

 リユルがユージナの隣にやってきて言う。

「しかし、高いですね。これで確実に効き目があるならいいんですが……」

 ヴァルルシャもやってきてその棚を覗き込む。その棚には、『魔物よけスプレー/1,000テニエル』と書かれた紙もあった。

「使い方によるけど、効くっちゃ効くよ。あいも昔、魔物狩り屋だったし」

 店の奥から、店主らしき人物がやってきた。年配の、さばさばした感じの女性だった。

「虫よけスプレーは虫の嫌がる植物から抽出したエキスだけど、魔物よけスプレーは、魔物が察知する人間の気配を消す、『魔物よけの魔法』を精霊が込めた液体なんだよ。だから入れ物は香水っぽいけど、どっちかっていうと消臭剤だね。でも、軽く吹き付けただけだと人間の気配は残っちゃうし、念入りに吹き付けてもそのうち汗とかで薄れていっちゃうし、長時間は持たないね。どうしても魔物と遭遇したくないときに、念入りにスプレーしてさっさと安全なところに引き返す分には、十分役に立つアイテムだと思うよ。怪我した時なんか、こいつのおかげで何度も命拾いしたもんさ。あ、虫よけスプレーの方もそこに売ってるからね」

 店主はそう説明した。

「そうだよね。今んとこ、うちら誰も大怪我しとらんけど、いつどうなるかわからんし。買っといた方がいいよね」

 ユージナは魔物よけスプレーの瓶を手に取った。

「液体ですからこぼす可能性がありますし、一人が一つずつ持っていた方が安心ですよね」

 ヴァルルシャも瓶を手に取り、リユルも後に続く。

「あいは虫よけスプレーも買っとこ」

 リユルは店主に示された虫よけスプレーもかごに入れた。一つ50テニエル。

「あ、そうだそれで、雨具はありますか?」

 ヴァルルシャは当初の目的を思い出し、店主に尋ねた。

「ああ、雨具ならそこだよ」

 店主が別の棚を示す。そこには傘と、折りたたまれたレインコートが並べてあった。

 三人はその品々を眺める。傘は折りたたみタイプは無いようで、杖ぐらいの長さの棒に、布と、布を広げる骨が付いた、三人にもなじみのある構造だった。

「魔物狩りの旅してるんなら、傘は邪魔かね? レインコートの方がいいかい?」

 店主はそう言ってレインコートを手に取って広げた。頭にかぶるフードがあり、袖は無く、ポンチョのように肩から体全体を覆う構造をしている。店主が広げたものは白い薄手の布でできていた。

「なんか、ずいぶん薄いんですね」

 リユルが言う。まるでビニールやナイロンのようだ、とは口に出さなかったが、ユージナもヴァルルシャも同じ気持ちだった。

「これは工場で精霊が『撥水の魔法』をかけた布だからね。薄くても水をはじくんだよ。でも残水の魔法みたいにそのうち効き目は薄れてきちゃうから、そうなったら工場にもっていくか、『撥水の魔法』を使える精霊がいる店に行って魔法をかけなおさないといけないけど。うちは雨具専門店ってわけでもないから、精霊までは置いてないよ」

 店主はそこまで言うと、今持っているレインコートを置き、別のレインコートを広げた。今度は、形は同じだが分厚そうな布でできているものだった。

「こっちは精霊の力は関係なく、布を油で防水したやつね。レディ二人は馴染みがあるだろ? 布ナプキンを出先のトイレから持ち帰るときの袋にもよく使われてるやつさ。多い日の夜に布団に敷いておくと、血が漏れても布団まで染みずにすむやつ」

 ユージナとリユルは顔を見合わせた後、店主にあいづちを打った。たしかに、生理用品を探したときに同じような防水加工の袋が見つかった。夜寝るときは普通の手ぬぐいをベッドに敷いていたが、こういう大きな防水加工の布があればもっと安心だったかもしれない。しかし初めて聞いたような顔はせず、そうですね、馴染みがありますという顔で二人とも店主にうなずいておいた。

「でもレインコートになると分厚くて重いし、羽織ってると雨は防げるけど、自分の熱気が内側にこもるんだよね。精霊が使う『撥水の魔法』は薄い布にも使えるし、雨粒ぐらいの大きさの水だとはじくけど、汗みたいな自分の熱気は布目を通るから、さわやかなんだよね。その分高いんだけどさ。気に入ったのはあるかい? ていうか、雨具も持たずに旅してたのかい?」

 店主に言われ、三人は笑顔でごまかす。

「あいのは古くて……」

「私のは壊れてしまって……」

「うちはこっちの地方の雨具に慣れて無くて……」

 そう言いながら、それぞれ欲しい雨具を選び始めた。

 『撥水の魔法』がかかったレインコートは軽くてかさばらないが、頭から腰ぐらいの長さの物で一着600テニエル、丈が長くて全身を覆えるサイズだと、800テニエルもした。

 油で防水加工したレインコートは、重くてかさばるため丈の短い物のみで、300テニエルだった。

「やっぱ、軽くて邪魔にならないやつの方がいいよね。あいは丈が長くないとだめだろうなあ」

 リユルがそう言ってレインコートを自分の体に合わせてみる。丈の長いサイズだと、ふくらはぎ辺りまで覆えた。

「リユルさんの身長でそのサイズなら、私も800テニエルの物でないと長さが足りないでしょうね」

 ヴァルルシャもそう言ってリユルと同じものを手に取る。

「うちは短いのでもいいかなあ。でもやっぱ、刀も覆わないかんし、長いのにするか」

 ユージナが短い方のレインコートを体に合わせると、太もものあたりまで覆うことができた。しかし刀にも雨がかからないようにしようと思うと、長いものの方が安心だった。

 結局三人とも、『撥水の魔法』がかかった800テニエルのレインコートを選んだ。

「あ、こっちには生理用品があるんだね」

 リユルがその売り場を覗き込む。そこには厚手の布でできた布ナプキンや、月経停止薬、月経開始薬に、痛み止めや離血浄の洗剤などが売っていた。

「布は洗って何度も使えるけど、薬や洗剤は減ってくもんね。買わないかん」

 ユージナが月経停止薬に手を伸ばす。

「そうだよね。開始薬はまだあるけど、停止薬は毎日飲まないといけないんだもん。どんどん減ってく~!」

 リユルもそう言って月経停止薬を手に取る。

 月経停止薬には『一日一錠を服用し続けることでその間の月経が停止します』という注意書きがある。飲み続けないと効果が無いのだ。一袋に三十粒入っており、300テニエル。

「お二人とも食事時に毎日飲んでますものね。女性は大変ですよね……」

 ヴァルルシャの言葉に、リユルもユージナもうなずく。

「ほんとだよ。毎日飲むのも手間だし、薬だってただじゃないし、だからって変なタイミングで生理が来ても困るし……」

 リユルが言い、さらに店主までうなずいた。

「そうなんだよね。特に魔物狩りやってると、強い魔物を倒しに行こう、って時に生理になると集中できないし。だからって停止薬でずっと止め続けてると、お腹が痛くなってくるし。女は定期的に血を流さないといけないんだよねえ。あいはもう解放されたから楽だけど」

 年配の店主はそう言って笑った。

 リユルとユージナは目を見かわした。自分たちはまだ前回の生理から日数は経っていないのでその腹痛は感じたことが無いが、近いうちに実感するのかもしれない。という無言の会話だ。

「月経停止薬って言っても、完全に生理を無くせるわけじゃないんですよね」

 ユージナが残念そうに言う。薬で周期をずらしても、煩わしいことに変わりはない。

「廃止や中止じゃなくて停止だからね。でもこの薬を飲んでると結構軽くなるし。それに若い間だけのことだからさ。ま、付き合いな」

 店主はそう言って女二人を励ました。

 生理用品売り場には、先ほど店主が言った『多い日の夜に布団に敷いておくと、血が漏れても布団まで染みずにすむやつ』も売られていた。油で防水加工した、風呂敷サイズの四角い形の布だった。

「これは『撥水の魔法』がかかった布はないんですね」

 リユルがそれを手に取って店主に尋ねた。そこにあるのは油で防水加工した厚手の布ばかりだった。

「薄いと、体の下に敷いてても寝返りうった時にくしゃくしゃになるだろ? それにレインコートみたいに羽織るわけじゃないから、ちょっとぐらい重くてもいいし。なによりこっちの方が安いしね」

 店主が言うように、それは一枚100テニエルだった。それほど高くないので、リユルとユージナは一枚ずつ買った。

 欲しいものを選び終え、三人は店主に会計を頼む。

「いっぱい買ってくれてありがとうね」

 店主はそう言いながら、それぞれの品物を手さげの付いた紙袋に入れた。紙袋には『雑貨屋・木陰』という文字がスタンプされていた。

「毎度ありぃ」

 会計を済ませ、三人は外に出る前にレインコートを羽織る。雨は、ひどくはないがまだぱらぱらと降り続いている。

 扉を開けて外に出た三人のレインコートに雨粒が当たるが、それはまるで里芋や蓮の葉に落ちた水滴のように、コロコロと玉になって地面に落ちていった。

「すごい! 全然濡れないよこれ!」

 声を上げるリユルに、出入り口まで見送りに来ていた店主が言った。

「そうだろ? ていうか、どんだけ古いの使ってたんだい?」

 さっきの会話で、油で防水した古い雨具しか持っていなかったと思われたようだ。リユルは店主に笑顔で答えた。

「あ……えへへ、新しいの、大事に使いまーす」

 三人は店主に礼を言い、店を後にした。


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