第一章 04 魔法や精霊
04
「ええと、人間が魔法を使う代わりに、精霊にストレスが溜まって、魔物や魔王が生まれるってことでいいんだよね?」
リユルがもう一度確かめる。
「ええ、さっきリユルさんが思いついてくれたアイデアです」
「ところでさ、君ら魔法使い……魔導士だっけ? うちは魔法使えんで違いがようわからんけど、どう違うん?」
ユージナの言葉に、リユルとヴァルルシャは考え込む。
「あいは『魔法使い』って設定だった気がするけど……それは、魔法を使うからそう呼ぶんだよね」
「私は『魔導士』でしたけど……響きがかっこいいからつけただけ、ではないですかね。『魔』で『導く』って何でしょうね。私も『魔法使い』という呼び方で統一していいですよ」
「でも、『魔』法でいいん? 精霊の力を使うんでしょ?」
「しかし、この力を使うことで精霊はストレスが溜まって魔物を生み出すわけですから、『魔』法、というのは言いえて妙だと思いますが」
ヴァルルシャの言葉に二人はうなずく。
「それもそうか」
「あいも『魔法』でいいと思う」
ひとまず、『魔法』と『魔法使い』という呼称は決定した。
「で、『精霊』って何なん? どういう力ってことにしたらいいの?」
ユージナが、魔法使いの二人に聞いた。
「私のかつての設定では、世界の自然の力、みたいな感じでしたね。火には火の精霊、水には水の精霊、のように」
「あいの時はろくな設定無かったと思うよ~。アニメやゲームで普通に魔法を使ってるから、魔法バンバン使える強いキャラ素敵! みたいにしてあいが生まれたんだと思う」
「そっかー。でもまあ、ヴァルルシャの設定を使えばいいのかな?」
「あいはそれでいいよ」
「ありがとうございます。ただ、もう少し詳しく決めた方がいいですね。私はさっきからのことで考えたのですが、我々は、世界の設定を具体的に決めて、それを具現化していますよね」
リユルとユージナがうなずく。
「精霊も、火とか水とか、決められた種族があるのではなく、世界を構成するエネルギーみたいなものを、人間が、必要に応じて見出す……具現化する、あるいは擬人化する、そういった存在として設定したらどうかと思うのです」
ほうほう、と二人は聞き入る。
「そういう設定にしておけば、例えば電気とかテレビとか、そういう物を作中に登場させたいと思ったときに、テレビの精霊、なんてものも後から設定できるでしょうしね。中世ヨーロッパ風世界観にはそぐわないから出てはこないでしょうが」
「ヴァルルシャって頭ええね! 知的キャラって感じがする!」
「あいたちの中で一番年上だしね! なんでも知ってそう!」
「いえいえ、私たちは同じ作者の中から出てきたんですから、知識量は同じなはずですよ。今回はたまたま私にこういう役割が与えられたのでしょう」
「しかも謙虚だー。こんな二十一歳の男なんて現実におる?」
「物語やキャラクターを妄想するのが好きな学生が、リアルに男と付き合ったことがあるわけないでしょ! 妄想と願望が詰まった理想的な男がヴァルルシャなんだって!」
女二人の話に苦笑を浮かべながら、ヴァルルシャは続ける。
「人間が精霊を擬人化して見出した、という設定なら、精霊のストレスが魔物になった、というのも、精霊と魔物は同じもの、ということで不自然ではないですよね。これはまあ、世界中の周知の事実にするか、魔王を倒しに来た者だけが知る驚愕の事実にするか、迷うところですが」
「ヴァルルシャが書かれとったのは、魔王を倒しに行って驚愕の事実を知る話なんだっけ。じゃあそこは、一応伏せといた方がいいのかな? でもさっき『魔物が生まれるから魔法』って決めたし、てことはみんな知っとってもおかしくないよね。それともうちらだけが知っとることにする?」
「そういえば、ヴァルルシャはそれなりに物語が書かれてたんだよね。当時の設定で仲間キャラとかいなかったの? この先そういう人に会ったら……そもそも、これから出てくるキャラって、あいたちが同じ作者の創作物ってわかってるのかな」
リユルの言葉に、ヴァルルシャは考え込んだ。
「仲間は確かにいましたが……今後出てくるか、我々がこうして設定を決めて世界を動かしたことを知っているか、などは今後の展開次第ではないでしょうか。それよりも、魔法の設定などを固めてしまいましょう」
三人はうなずき、しばらく考えた後でリユルが言った。
「『大昔、精霊と人間は契約した。』みたいな言い方ってどう?」
「いいね! 世界で語られとる伝説みたいなやつだ! 全世界共通ってことでいいのかな?」
「どの地方でも魔法が使える、という設定にするならば、精霊の設定はユージナさんの地方にも共通している方がいいでしょうね」
リユルは伝説の言葉を続けた。
「『精霊は、世界を構成するエネルギー。
人間は、それを意のままに操ろうとした。
精霊も、自分たちの力が世界に満ちるのは喜ばしいと、人間との契約に応じた。
しかし、人間にこき使われることでストレスが溜まって、魔物が生まれた。』
だめだ~! 最後がかっこわるい~!」
リユルが頭を抱える。
「そういうのも面白くていいと思いますけどね。かっこよく言い換えるなら……。
『しかし精霊は言った。
お前たち人間に自由に使われてやる代わりに、同じだけの災厄を人間にもたらすぞと。
そうして数々の魔物が生まれた』
こんなところでしょうか」
「確かにかっこいいね。それに、そうやって生まれた魔物なら、倒しても血生臭くないし。倒したら血が出ずに消滅する、とかでいいんでしょ? だったらうち日本刀使えるわ。人間同士の斬りあいなんてやりたくないもん」
「ユージナは刀で賞金稼ぎしてる設定だっけ? 魔物を倒すたびに経験値というかポイントみたいなのが手に入って、それをお金に換金するという世界はどうだろ? それなら旅しても路銀が尽きることはないし、魔王退治の旅、ってのもできるんじゃない?」
「確かに、魔法を使うことで魔物が生まれるなら、国がそれを管理するということはありえますね。魔法の使用を国が管理していて、それで魔物の数も予測し、倒した数に応じて手当てがもらえるとか……」
「ゲームの中にはお店で魔法を買って覚えるタイプがあるよね。魔法屋、みたいなのが各町にあって、そこでどれだけ魔法が売れたかを国に報告するとか? んーでも、魔法って使うのに精神力がいるよね? あいは『ずばぬけた才能があり、上級魔法を何十回使っても疲れない』みたいな恥ずかしい設定があったけど……そういうのはどうする? 人間が魔法を使うたびに魔物が増えるなら、魔法を使うのに罪悪感が出ない?」
「それに、魔物倒してお金もらえる設定なら、一人で魔法何発も使って、それで魔物生み出して、それ退治して、お金もらって、ってことができちゃわん? そんなんで経済が成立するん?」
三人はしばし考え込む。
「ユージナさんの言うやり方は、効率が悪い、というのはどうでしょう。人間が魔法を使うときは、主に本人の精神力を使うので、精霊のストレスはほぼ無いということにするのです。
リユルさんが言ったように、店で魔法を買える設定にして、最初に『この人間にこの魔法を使うのを許可する』と精霊が認定した時に、最もストレスがかかって魔物の原因になるというのはどうでしょう。
そして、店はどれだけの人間にどんな魔法を売ったのか管理し、国に報告するのです。そうすれば国は魔物の数の予測が立てられますし、魔物を退治した数に応じて、税金から報酬を出す、というシステムが成り立つのではないでしょうか」
「すごい! うまくまとまった!」
「それなら賞金稼ぎ、というか魔物退治、っていうのが職業として成立するね! うち日本刀持って旅できるよ! かたき討ちじゃなくて魔王退治の旅に出れるわ!」
リユルとユージナがうなずき、ヴァルルシャは続ける。
「建物の上水タンクや下水タンクも、設置するのに精霊のストレスがかかる、という設定にしたらどうでしょう。そして、その後も設備を維持するのに人間の精神力だけでなく、精霊の力を使い続けないといけないことにするのです。
『魔法を使うのをやめて魔物が生まれないようにしよう』という発想が出ては、魔物退治という職業が成り立ちませんからね。精霊は人間の生活に必要不可欠な力、という設定にするのです」
「あいたちにとっての精霊は、現代日本人にとっての電気やガスみたいなもの、ってことにするんだね。便利だけど、使うと魔物が生まれ続ける……それで、精霊のストレスが規定値を超えると定期的に魔王が誕生するってことにしようよ! 一回倒したら終わりじゃなくてさ。それなら、他の人に先を越されても、レベルを上げて再チャレンジに備えるとかできるでしょ? 大きな目的がずっとあるから、物語が行き詰まらないよ!」
「……でもなんか、自分らで問題を作って、自分らで解決しとる世界、って感じだね。いいんかな?」
とまどうユージナに、ヴァルルシャが言う。
「でも、ある意味で理想郷だと思いますよ。現代人にとっての公害や環境破壊などの問題を、魔王という形に具現化して退治できるんですから」
「そう言われればそうか……」
「それに、精霊も自分たちの力が世界にみなぎるのはいいことだと思ってるんだよね? 魔物も、人間にとって害があるとはいえ精霊にとってはエネルギーの発散、ってことで、同じことなんでしょ? だったら、あいはこの設定、いいと思うな」
「そうか……。植物が酸素を出して、人間がそれを吸って二酸化炭素出して、っていうのと同じようなもんか。人間も精霊もお互いに利害が一致しとる……人間が植物を食べて、人間の排泄物が植物の栄養になって、みたいなもんと考えればいいか」
「さっきから下の話が多いね」
トイレに駆け込むのに必死だったリユルが言った。
「人間の生活には欠かせないことですからね。冒険の描写だけでなく、そういうことまで考えが及ぶようになった、というのは、作者の成長の表れでしょう」
「ファンタジー世界で冒険の旅して、って妄想は昔からしとったけど、旅で生計が成り立つ具体的な仕組みなんて考えとらんかったもんね。RPGじゃ魔物を倒すとその場で経験値とお金が入ったりするけど、あれってどういう仕組みなんだろ? この世界の場合は、町へ来て換金する、ってことにしたらいいんかな?」
ユージナが新たな疑問を提示したので、皆で考える。
「じゃあ、どれだけ魔物を倒したかわかるシステムもないとね。ゲームじゃステータス画面を開くと経験値が見えるけど、あいたちにステータス画面とか作っちゃう? さすがにそれはゲームっぽくなりすぎか」
「魔物を倒した数がわかるシステムがあればいいわけですよね」
「精霊がどんな形にも具現化できるなら、人間がどんだけ魔物を倒したか鑑定してくれる精霊、みたいなのが町にずっとおるとか? ……それも精霊のストレスになるか」
「何かファンタジーっぽいアイテムがあればいいんじゃない? 石とか。あ! 色の変わる石とかどう? 魔物を倒した数や質に反応して色が変わるの! きれいだしわかりやすくない?」
リユルのアイデアに二人は賛同した。
「その光る石をずっと持っとって、魔物を倒すたびに経験値みたいなのがそこに溜まって色が変わって、それを町の鑑定するところに持ってくと、お金に換金してもらえる、とかどうだろ?」
「町の鑑定屋……名称これでいいですかね? が支払うお金は、国から出ている設定でいいですよね。魔物退治は人間の生活を平穏に保つ仕事なわけですから。鑑定屋は国にどれだけ魔物が退治されたか定期的に報告し、国は鑑定屋に税金からお金を出し、それが魔物を退治した者の手に渡る、こういう仕組みでいいでしょうか」
「いいんじゃない! それにしても、あいが妄想されてた頃は、税金なんて考えたこともなかったはずだよ~。作者成長したね~」
「学生、しかも中高生ぐらいじゃ、税金なんて考えようとも思わんかったもんね。鑑定屋が報告した魔物退治の量で、国は倒された魔物の数はわかるとして、増えるほうはどうだろ?」
「魔法を売ってる魔法屋……名称これでいい? 人間が一つ魔法を使えるようになるたびに精霊のストレスが増えるんだよね。まず魔法屋が売れた魔法の数を国に報告してるよね。それから……」
「うん、下水タンクの設置とかの話。ヴァルルシャが、それの維持には精霊の力が必要、って言っとったけど、それはどういうこと?」
ユージナに聞かれ、ヴァルルシャは二人に説明した。
「ちょっと考えてみたのですが、魔物を倒すのに攻撃魔法で水を使う場合、水はすぐに消えてしまうというのはどうでしょう。一瞬だけ精霊の力を借りて水が現れた、ということで。なので、精霊のストレスは少なく、人間の精神力が主に消費されるのです。魔法で出した水を飲んだり、トイレなどに使用して、使用後の水が残る場合は、精霊の力で水を人間世界に出現させ続けている、ということで、精霊のストレスになるのです」
「なるほど! それならどんな魔法を使っても後を汚す心配ないし、設定にも矛盾がないよ! ヴァルルシャ頭いい~! それに、そういうことなら魔物を倒すのに火の魔法を使っても火事の心配しなくていいよね!」
リユルが褒めるが、ユージナが言う。
「ん? でも、水はともかく、火はどうするん? 戦闘でなく日常生活の。ガスコンロは無いとしても、かまどかなんかはあるよね? 火も水みたいに溜めとける? それとも、マッチぐらいはある世界にする?」
「私の考えですが、水を飲みたいなら、水そのものがずっと存在していなければなりませんよね。けれど、火は、ろうそくやランプに点火すれば、あとは芯が吸い上げた油などで燃え続けますよね。ですので、最初の着火さえできれば、水のように溜めておかなくてもいいと思います」
「なるほど……あっじゃあ、マッチというか、精霊の力を込めてあって、摩擦で刺激を与えると火を発生させる道具、というものがあってもいいんじゃない? それならユージナみたいに魔法使いじゃなくても火が使えるし。マッチの先端の火薬みたいなやつを作るときだけ精霊にストレスがかかって、それを作る工場かなんかが、マッチ(仮称)をどれだけ作ったか国に報告するんだよ!」
「そうか。そうやって精霊の力を使う物を作って売る場合は、国に報告する義務があるってことにすればいいんだ。上水タンクや下水タンクの設置みたいに。
設置だけじゃなく、タンクの維持にも精霊のストレスが溜まるってことにするんだよね? それは、下水タンクなら、人間の精神力で浄化の魔法を使うんでなく、設備のメンテナンスをする、と考えればいいの? 現代日本で言うなら定期的にろ過装置を交換する、みたいなもん?」
ユージナの言葉に、ヴァルルシャはうなずいた。
「ええ。下水タンクはろ過装置のような、『浄化の魔法を一定期間発し続ける道具』などを精霊の力で制作し、定期的に交換する、という形でいいと思います。
上水タンクは、魔法使いがそこに水の魔法を使っても水が消えない容器でできている、ということでどうでしょうか。もちろんそういう容器なので、制作すると精霊のストレスが増えます。そして、下水タンクの浄化の魔法の道具ように、定期的にメンテナンスしないと効力が切れてしまうのです」
「ん? 浄化の魔法って、微生物を増やして汚水を分解する魔法、って話だったよね? それは、マッチの点火みたいに、魔法で微生物をひと固まりにして、少しずつ水に溶けるような仕組みの道具を作る、ってことなら納得できるけど、『水がこの容器から消えない魔法』なんてのがあるなら、例えばあいがこのコップにその魔法をかければ、それでもう水の心配はしなくてよくない?」
リユルの疑問に、少し考えてヴァルルシャは答えた。
「『水が容器から消えない魔法』は、自力で行う場合、コップ一つぐらいの大きさでもとても精神力がいる、ということでどうでしょうか。工場で製品にその魔法をかける場合は、精霊に直接働きかけてもらうのです。だから工場のみで大きな上水タンクが生産できて、工場はどれだけ製品を作ったか国に報告する義務が発生する、ということで。
魔物を倒した数に反応する石、というアイテムをさっき考えましたよね? ならば、精霊が石などにそういう力を与え、精霊の力のこもったアイテムにし、人間がそれを使用する、という仕組みがある世界と設定してもいいかもしれません。
となると、工場には工場の精霊、鑑定屋には鑑定屋の精霊、魔法屋には魔法屋の精霊、などがいた方がいいですかね?」
「ヴァルルシャすごーい! わかりやすいしそれいいと思うよ!」
「やっぱ、ある程度話が書き進められとった人は違うね! 設定の固め方が違うよ! ヴァルルシャがいてよかったねー。うちらだけだったら設定まとまらんかったかもしれんよ?」
そういうリユルとユージナに、ヴァルルシャは答えた。
「いえ、私だけではこうはいきませんよ。疑問を出したり確認しあったり、三人で話し合うからアイデアがまとまっていくんです」
「謙虚だねえ……。あっそうだ!『水が容器から消えない魔法』があるならさ、その魔法がかかった水筒とかあったらどう? 工場で作っとって、何回か使ったら効力が切れて、魔法をかけなおさないかんのだけど。工場に持ってくことにする? 工場で、たとえば水筒の内側にペンキみたいに『水が容器から消えない魔法』を塗りなおしてもらうとかさ。
そういう水筒があれば、旅でも水の持ち運びに困らんのじゃない? その水筒と、魔法使いがおればいいんだからさ」
ユージナは二人の顔を見て反応をうかがう。もちろん好意的な表情が返ってきた。
「確かにいいアイデアですね。私の物語の時は、魔王退治の旅に出ているはずなのに、ほぼ手ぶらだったんですよね。食事とかどうしてたんでしょう」
「そういうとこ深く考えずに、敵を倒すかっこいいところだけを妄想してたからねー。だから、今回は細かいところもきっちり考えよ!」
リユルの言葉に、ヴァルルシャとユージナはうなずいた。
「ところで、あいたちは三人で魔王退治の旅に出る、ってことでいいの? それが物語の目的でいい?」
「いいですよ」
「いいよ」
二人はうなずいた。
「一度は果たせなかった魔王退治です。今回は最後まで話を進めたいですね」
「魔物退治でお金稼げる世界なら、うちみたいに遠くの国から旅してきた人がおってもいいよね。旅の途中で三人出会って、意気投合してパーティー組むことにした、って感じかな?」
「魔法使い系と剣士系と、両方いるほうがバランスいいもんね。それで、あいたちは魔王の居城を目指して旅してる途中、ってとこかな? 魔王の居城ってどこだろ?」
リユルの疑問に、皆は考え込んだ。
「魔王も精霊の力の一種、ってことは、精霊の力が集まりやすいところ……パワースポット的な? といってもそういうところって一か所じゃないしねえ」
リユルのつぶやきに、ヴァルルシャが続ける。
「国は、工場や魔法屋などから何がどれだけ売れたかを聞いているわけですよね。そのデータから『今回は水関係の販売が多かったので、水にかかわる場所に魔王が出やすい』と予測する、とか?」
「でもヴァルルシャさっき、水は溜めて使うけど、火は着火の時だけ精霊の力を使えばいい、って言っとったよね? だったら水の需要が常に多くならん?」
ユージナに言われ、ヴァルルシャはうなずく。
「確かに。それに、精霊のストレスが関連する場所で発散される設定だと、火や水などのわかりやすいものはいいですが、下水タンクを浄化する魔法はどこに魔物が現れるのか、ということになりますね。鑑定屋に精霊がいて魔物を倒した数に反応する石を作るなら、それも精霊のストレスになるでしょうし、それに関連する場所なんて同じ鑑定屋内ぐらいしか思いつきません」
「ってことは、魔物や魔王の出現場所は不明、って設定にした方がいいのかな? 国が、工場とかが使った精霊の力を合計して、そこから鑑定屋の魔物退治の報告数を引いて、相殺できずに精霊のストレスがプラスになってるぞ、このぐらいの数になったからそろそろ魔王が出そうだぞ、って判断したらお触れを出す、ってことでいいのかな?」
リユルが言い、二人も賛同した。
「ゲームだと町の入り口に看板とかあるし、そういうのでいいんじゃない?
『前回の魔王退治から時がたち、そろそろ新たな魔王が現れそうなので注意』みたいな。文面はもっとかっこよくしないかんけど。目撃したら国に報告しろって書いてあってもいいかもね。どこに出るかわからんのなら、普通に魔物退治に行って魔王に出くわすこともあるかもしれんし」
「そうですね。それと、魔王を退治した者には特別に賞金が出ると書いてあった方が、魔王退治を志す者が増えるでしょうね。魔王を倒すのは選ばれた伝説の戦士、などでなく、だれでもいい、という設定でいいですよね? 因縁というならば、我々の日常生活が魔王を産むわけですから」
「わー『選ばれた伝説の戦士』! 子供の頃はあこがれるよねー。自分は特別なんだって思いたいというか……でも大人になると、自分は選ばれない方のその他大勢、ってわかってくるんだよね」
リユルが恥ずかしそうに顔に手を当てる。
「そりゃそうだよ。その他大勢の人間が一番多いんだでさ」
「ええ。それに、そういうその他大勢の人間が、人間社会を支えているんですよ」
ヴァルルシャが言い、皆うなずいた。
「キャラに悲しい過去背負わせたり、特殊な能力や運命に生まれついた設定持たせたりもそうだけどさ、現実の自分が平凡だでそんな妄想するんだよね。悲劇の主人公にあこがれるというか……でも平凡で、大きな事件もなく平穏に暮らせとる、っていうのはとても幸せなことなんだよね」
仇討という設定を背負わされていたユージナが言った。
「うんうん。子供の頃は平凡な人間つまらない! と思って悲劇的な設定作って、それが中二病臭さの原因になってた感じあるよね。今はもう、異世界ものでも、特別な勇者が世界を救う話より、平凡な人間が普通に頑張る話の方が読みたい気がするな」
三人は見つめあった。
「じゃあ、そういう物語を作ろう」
強い意志がまとまった。