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オリキャラのキャキャキャ1  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ1 第五章
37/50

第五章 07 翌朝


07


 扉をノックする音で、ユージナは目覚めた。つまり、少しは眠れたようだった。

「ユージナー。起きてるー? もう朝だよー」

 リユルの声だった。ユージナが扉を開けると、身支度を終えたリユルが扉の外に立っていた。廊下の窓からは朝の光が差し込んでいる。

「ヴァルルシャもまだ寝てるみたいなんだけどさ。そろそろ起こそうかと思って」

「あ……ごめん、うちも起きるわ」

 ユージナも身支度を始める。

「部屋には窓が無いで、朝になったかようわからんのだよね。時計も無いし……。目覚まし時計みたいなものって、どっかに売っとるんかな?」

 リユルに寝坊を不審がられないように、ユージナはそう言って取り繕った。

「ああ、カウンターの奥に小型の置時計があるもんね。ゼンマイ式で、指定した時間になったらベルを鳴らす時計とかあるかもしんないね。でもちょっと高そうな気がするなあ」

 リユルは普通に相槌を打つ。そしてユージナの隣の部屋へ行き、扉をノックする。

「ヴァルルシャー。もう朝だよー」

 やがて、部屋の中からくぐもった声が聞こえた。

「あ……すみません、今起きます」

 そしてぼんやりした顔で、ヴァルルシャが部屋から出てきた。

 ユージナもヴァルルシャも身支度を済ませ、宿屋の三階の廊下に三人がそろう。

「……昨日はすみませんでした。お二人は朝食はまだ……ですよね?」

 一晩寝たからか、ヴァルルシャは昨日より穏やかな顔をしていた。二人の朝食を気遣う余裕もできたようだ。

「うん。うちもちょっと寝坊したでまだ食べとらんし、リユルもだよね?」

 ユージナも少し寝たことで、気持ちが落ち着いたようだ。普通に会話をしよう、という気分になり、今までのような感じで、会話を試みた。

「あいもまだだよ。じゃあまず、ご飯いこうか」

 三人は階段を下りて行った。二階は、客室の扉が閉まっているとはいえ、静かだった。皆、もう出かけたのだろう。

 宿屋の近所の店に行き、朝食を食べ、昼の弁当を買う。

 宿屋に戻ると、カウンターの置時計は「8」の位置、現代日本の十時半を示していた。

 受付にいるのは、昨日とはまた別の従業員だった。今夜も泊まることを申し込み、それぞれ400テニエルを支払う。

 この宿に泊まるとき、受付で差し出された宿帳に、ユージナたちはそれぞれサインをした。

 リスタトゥーの宿屋ではすでに宿泊している設定だったので、自分たちで何か記述する必要はなかった。ファスタンでこの宿屋に泊まるときに初めて、宿帳に自分の名前を書くように促された。そしてファンタジーの定番の、羽ペンとインク壺が差し出された。

 この世界の宿屋では、最初に泊まるときに宿泊者がそれぞれ自分の名を宿帳に書くルールがあるようだ。とはいえ書き文字も日本語訳済みなので、日本語のカタカナで記述すればよかった。三人は羽ペンを使うのは初めてだったが、宿に泊まるときはいつもこうしていますという顔で、自分の名前を書くことができた。

 今日も400テニエルを受け取ったことを、今日の受付の男性が宿帳に書き加える。

 その時、ユージナの目に、宿帳の記述が飛び込んできた。

 ――ユージナ

 ――リユル

 ――ヴァルルシャ

 ――ルーリーン

 ――フィルラ

 ――ユージーン

 ヴァルルシャの字のすぐ下に、彼女の名前がある。

(うちらの後にこの宿に泊まることになったんだで、名前が並んどるぐらいおかしくないでしょ! ただの宿帳の記述だって! 現代日本ほど個人情報にうるさくないで、続けて書かれとるだけだって!)

 ユージナは自分にそう言い聞かせ、平常心を保とうとする。だが、ヴァルルシャの目にも宿帳の今のページは映っただろうか、そう思い、彼の表情を盗み見るのを押さえることはできなかった。ヴァルルシャは、いつもと変わらない表情をしているように見えた。

「じゃあ、ちょっと休んだら今日も森へ行ってみようか」

 リユルが言い、ユージナとヴァルルシャもうなずく。

「うん。今日は行けたらズーミー湖まで行こうって話しとったよね」

 昨日はオーガとハーピーと連戦の上、ルーリーンたちと会ったことで、あまり森の奥まで進めなかった。

「何もなければ、森の入り口から湖まで、そんなに遠くないという話ですからね。魔物が出てきたらそれはそれで退治すればいいんですし」

 昨日は、魔物との連戦よりはむしろルーリーンたちと会ったことで歩みが遅くなったのだが、ヴァルルシャはそれには触れず、普通の調子で話した。

「じゃ、部屋行こっか」

 リユルが促し、階段を昇って三人は自室に戻った。

 少し休憩した後、宿屋を出て、昨日と同じように、キヨゥラ川に沿って北に向かい、森を目指す。

 昨日のオーガはなかなか強かった、ハーピーもそうだ、そんな話を繰り返し、ルーリーンたちのことには三人とも触れず、森への道を歩いた。

 やがて、昨日と同じように森にたどり着き、昨日と同じように、川に沿って上流のズーミー湖を目指した。

 しばらく歩いたころ、木々の茂みが、何者かに揺らされて音を立てるのが聞こえた。

「んっ……今日も?」

 リユルが立ち止る。昨日もそうやって、オーガが出てきたのだ。

「でも、オーガのような、大きな音ではないですよね……」

 ヴァルルシャが音のした方を振り返る。

「うん……なんか、もっと小さい音……」

 ユージナが警戒しながら辺りを探る。

 そして、茂みの中からそれは飛び出してきた。

 全体的には人間に似ているが、片手で持てるような、小さい人形ぐらいの大きさ。

 緑色の服を着て、虫のような羽をはやしている。

 羽を震わせ、三人の顔ぐらいの高さにホバリングしている。

「ピクシー……かな?」

 ユージナが言い、リユルとヴァルルシャもうなずいた。

「それっぽいね」

「そうですね」

 ピクシーは冷たい目で三人をにらんでいる。

「ピクシーって、いたずら好きだけどそんなに邪悪じゃない、って感じの妖精だよね。でもなんか、この世界では凶悪そう……」

 リユルの言う通り、目の前のピクシーはいたずらで満足するような無邪気な雰囲気は漂わせていなかった。

「さすがこの世界の魔物ですね。でも、オーガほど強くはなさそうな……?」

 ヴァルルシャがそこまで言ったとき、ピクシーは両手を広げ、言った。

「風よ!!」

 その言葉と共に、ピクシーを中心として突風が巻き起こり、三人に吹き付けた。

「魔法!? 魔物でも魔法使うの!?」

 リユルが身をかがめながら叫ぶ。

「そうみたいですね……! やはりこの森に出るだけあって強敵ということですか……!」

 ヴァルルシャが足を踏みしめながら言う。

「……そんでも、防御力はオーガほどは無いでしょ!」

 風を受けつつもユージナが刀を抜き、ピクシーに切りかかる。しかし、的が小さく、素早く飛んで逃げるため、刀が当たらない。

「じゃあ私が!」

 ヴァルルシャが精神を集中し、魔法を発動させる。

「風よ!」

 風の魔法で、ピクシーを抑え込もうとした。

 しかしピクシーは、ヴァルルシャが起こした風の圧力など物ともしない顔で飛び回っている。

「効かない!? ……そうか、昨日のハーピーにも風は効きづらかったですし、風の魔法を使うピクシーには風の魔法は効果が無いんですね!?」

 ヴァルルシャはそれを察し、ならば炎の魔法を、と思うが、昨日のことを思い出し、手が止まる。

 昨日、ユージナの刀に炎をまとわせてハーピーを攻撃したが、ハーピーの羽ばたきで炎はユージナに降りかかってしまった。炎の塊を投げつけても、風の魔法で跳ね返される可能性がある。

「氷よ!」

 その間に精神集中していたリユルが、雹のように氷を降らす。ピクシーの動きは素早いとはいえ、一瞬の移動範囲は人間の数歩ほどだ。その辺り全体に雹を降らせば必ず当たる。

 氷で動きの鈍ったピクシーをユージナが切りつけ、ピクシーを倒すことができた。光が蓄光石に吸い込まれていく。

「何とかなったあー。小さくても油断できんね」

 ユージナが刀をしまいながら息を吐いた。

「そうだね。敵も魔法使ってくるとは。でも魔法は精霊の力なんだから、精霊のストレスである魔物が使ってもおかしくないか」

 リユルがユージナのそばへ来てため息をつく。

 ヴァルルシャは考え込みながら、二人のそばへやってきた。

「……私、もう一つ攻撃魔法があった方がいいですかね。私が今持っている魔法だと、風を使う魔物とは相性が悪いみたいです」

 魔法を使うリユルがその言葉の意味を察する。

「風と風じゃ効果が薄いし、炎じゃ風に吹き飛ばされるかも、ってことだよね」

 ヴァルルシャはうなずくが、リユルは続ける。

「でも、ヴァルルシャが今使える魔法が、回復、風、炎の中級でしょ? あいはまだ、水と氷の中級、それから風の初級しか設定してないし、ヴァルルシャばっかり増やしてたらバランス悪くない? ピクシーだって、あいの魔法とユージナの刀で倒せたわけだし」

「……ですが、今後もっと強い敵が現れる可能性もありますし。私は、自分に雷の攻撃魔法も使える設定にしたらどうかと思うんですが」

 雷。ルーリーンと同じ魔法だ。ユージナはそう思った。

 落ち着いて考えれば、ハーピーは弱っていたとはいえ、ルーリーンの雷の魔法で消滅したのだ。ハーピーには雷が効果的だと推測できる。だから、魔法使いとして、他に所持するなら雷の魔法だと、ヴァルルシャは選択した。そう考えられる。

 けれどユージナは胸が苦しくなった。ヴァルルシャは彼女と同じ魔法を身につけたいのだと思えた。

「……リユルとうちで魔物は倒せとるんだで、ヴァルルシャばっかり魔法の設定増やさんでもいいんじゃない? ピクシーには風は効かんかったけど、炎をものすごい勢いで叩きつければ跳ね返されんかもしれんし」

「ん……確かに、私の魔法に勢いがあれば、炎の魔法なら効くのかもしれませんが……」

 ヴァルルシャはまだ雷の魔法に未練があるようだ。

「……ちょっと困ったからって、使える魔法をどんどん設定しとったら、リユルが恥ずかしがっとった『チートな強キャラ』になってまうよ。この世界では普通がいいんでしょ? だったら今持っとる魔法だけで、やれるところまでやってみたら?」

 少しとげのある言い方になっただろうか。ユージナはヴァルルシャから目をそらす。変に意識していることを悟られたくなかった。

「……今のピクシーも苦戦ってほどじゃなかったし、今後倒せないような強い敵が出てきたら、その時に魔法の設定を考えればいいんじゃない? その敵に雷が効くとは限らないしさ。あいの方に魔法の設定を付け足した方がいい場合もあるだろうし」

 リユルにもそう言われ、ヴァルルシャはようやくうなずいた。

「……そうですね。また新たな魔物と遭遇した時に、戦い方を考えましょうか」

 話がまとまり、三人はまた川の上流を目指した。


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