第五章 03 遭遇
03
戦いが終わって、小鳥がさえずるのどかな雰囲気が戻ってきた、わけではない。
もっと大きな、敵意を持った、凶暴な鳥の声が、した。
三人は背中合わせに立ち、森の中を見渡す。木々に遮られ、視界は遠くまで広がらない。
もう一度鳥の声がして、大きな羽ばたきの音が聞こえた。
「いた!」
リユルの叫びに、全員がそちらを向く。
茂みの中から現れたのは、人間と同じぐらいの大きさの鳥。人間の腕の位置が翼になっており、足は、鳥のするどいかぎ爪が人間サイズでぶら下がっている。首から上は人間に近い顔をしているが、その顔には敵意のみがあり、会話が成り立つ相手とは思えない。
「ハーピーだ!」
「確実にハーピーですね!」
ユージナとヴァルルシャもその魔物を確認する。
「連戦になるけど、まだまだいけるよね! こいつにも氷の魔法剣をつかってみる?」
リユルがハーピーを警戒しながらユージナの方を見る。ユージナは刀を構えながら答える。
「どうだろ……オーガほど体は硬くなさそうだし、普通に切れる気もするけど……」
そこまで言ったところで、ハーピーが飛びかかってきた。
ユージナが身をかわして刀を振ると、ハーピーの体にかすって羽が何枚か宙に舞った。その羽は地面に落ちる前に雪のように解けて消える。
「刀攻撃は効きそうですね。氷でなく、炎の刃なら重くならず使えるんじゃないですか?」
さっき言ったばかりの、刀に炎の魔法を乗せるやり方。それを試す絶好のチャンスだ。氷の刃は重くなるのが難点だが、炎の魔法剣なら風で素早さアップをしなくても使えるかもしれない。
「うん、じゃあ、ヴァルルシャお願い!」
ユージナが中段の構えをとってヴァルルシャの魔法を待つ。その間に、リユルがハーピーを引き付ける。
「氷の刃よ!」
オーガにはあまり効かなかったそれを、ハーピーに向かって投げつける。ハーピーはオーガほどの防御力は無いようで、氷の刃のみの重みでハーピーの体を傷つけることができた。とはいえ氷の刃一つでは致命傷にはならず、氷は解けて消えていく。
その間に、ヴァルルシャは、精神を集中させた。
ユージナの刀に、炎をまとわせるイメージ。
「炎よ!」
ヴァルルシャが気合いを入れると、ユージナの刀が炎に包まれた。
「これはそんな重くない! でもちょっと……熱い!」
ユージナは、刀に近い手や顔に炎の熱を感じる。
「でも行ける!」
そう言って、ハーピーに向き直り、駆け出していく。
ユージナは炎の刃を振り下ろすが、ハーピーは羽ばたいて身をかわし、羽を大きく動かしてユージナに風を打ち付ける。
「あっちーーーーー!!!!」
刀に宿っていた炎が自分の体の方に飛ばされてきて、思わずユージナは片手で顔を覆い、体をそらせる。魔法の炎はすぐに消えていったので服に燃え移りはしなかったが、ハーピーの前で隙ができる。
その隙をハーピーは狙うが、鋭い足がユージナに届く前に、リユルの魔法が発動した。
「水よ!」
水の塊がハーピーの頭上から落ちてくる。ハーピーはずぶぬれになり、その間にユージナは体勢を立て直した。
刀から炎は消えたが、金属の刀身で普通に切りつける。ハーピーは飛んで逃げるが、その動きはかなり弱っている。
ハーピーの逃げた方向にはヴァルルシャがいた。ヴァルルシャは精神を集中し、とどめを刺すために魔法を発動させる。
「風よ!」
炎は羽ばたきで吹き飛ばされてしまう可能性がある。なのでヴァルルシャは、風の魔法でハーピーを抑え込もうとした。
「ギャーッ!!」
しかしハーピーは一声叫び、翼を大きく広げる。オーガは風の圧力で抑え込めたが、ハーピーにはあまり効かないようだった。ハーピーは羽ばたいて風を起こせるため、風の魔法には抵抗力があるということだろうか。
それでも弱っているハーピーは、ヴァルルシャを攻撃するのではなく、森の中へ向かった。逃げるつもりだろう。
ここまで弱らせたのに、逃がしてたまるか。ヴァルルシャがハーピーを追いかけ、ユージナとリユルも後から続く。
しかし、一瞬、ハーピーを見失った。
その時だった。
「雷よ!」
若い女の声がして、閃光が走るのが見えた。




