第一章 03 着替え
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用を済ませた三人は、落ち着いた顔で椅子に座りなおした。
「間に合って良かった~。あい焦ったよ~」
「しかし、魔法や魔王の設定も決まって良かったですね」
「ほんとだね。細かいことはこれから決めないかんけど。でもその前に、リユル、服出したら?」
下着みたいな格好で体を冷やしたリユルに、ユージナが言う。
「そーねー! こんな裸みたいな服、普段着に向いてないよ。とりあえず、もっと全身を覆う服が欲しいわ」
リユルは言って目を閉じ、服をイメージする。しかし何の変化も起こらなかった。
「出てこんね。具体的にイメージした?」
「したよ~。とりあえず黒で無地の長そでシャツとズボンでいいやと思ったのに、なんで変わらないの?」
首をかしげるリユルに、ヴァルルシャが言った。
「私が考えるに、突然服が変化したり、現れたりするのは不自然だからではないでしょうか」
「でもさっき、椅子を出したり水差しを出したりしたじゃない」
リユルが机の上のコップをつつきながら言う。
「あの時は他の設定が固まっておらず、あたりは闇でしたからね。けれど部屋の設定をしてしまったので、そこにいきなり服が出現してはおかしい、ということではないでしょうか」
「なるほどー……うちらが世界を設定できると言っても、何でも思い通りになるわけじゃないんだね」
ユージナが腕を組む。
「例えば隣の部屋にクローゼットがあって、そこにリユルさんの服が入っている、などの設定なら自然に服が入手できるのではないでしょうか。とはいえ、下手に部屋の設定をすると取り返しがつかなくなりそうですから、慎重に決めた方がいいと思います」
「そうね。さっきトイレに行ったとき、このドアの真正面のトイレのドアしか見なかったから、他の部屋の設定はまだどうにでもなるけど、下手に決めちゃうと後々困るもんね。こんなだったらこの部屋を設定するときに何か棚ぐらい作っておくんだった~」
リユルは部屋を見渡した。家具といえば机と椅子しかない部屋。あとは窓と、扉しかない。
「殺風景すぎる部屋だよね。せめてもうちょっと大きな部屋にしとけば物陰になんかあることにできたのに……あ! 机の下! 机の下にリユルのカバンがあるとかどうだろ!?」
ユージナが顔を上げた。確かに、机の下は三人ともよく見ていなかった。その陰にカバンがあってもおかしくない。
「いいね! じゃあ、あいのカバン、とりあえずあんまり大きくないやつが机の下にあって、その中に服が入ってて……」
リユルはイメージする。そして机の下をのぞき込むと、イメージ通り、そこにカバンは置かれていた。
「やった~! ちょっと着替えるから後ろ向いてて~!」
ヴァルルシャとユージナが後ろを向いている間に、リユルは着替えを済ませた。
体にぴったりしたズボン、体のラインが出るシャツ。ブラジャーぐらいに丈の短い上着。ブーツは今まではいていたものをそのまま着用。
「イメージ通りのもの出てきた~! あんまり当時の設定と離れたデザインにするのもどうかなと思ったから、こんな感じにしたんだけどどうかな?」
ヴァルルシャとユージナは笑顔でうなずく。
「よーしおまたせ! さあ、世界の設定もこんな感じでどんどん決めちゃおう!」
リユルは今まで来ていた服をカバンにしまい、そう言った。
三人は椅子に座りなおし、設定を固め始めた。