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オリキャラのキャキャキャ1  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ1 第四章
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第四章 03 髪染屋


03


 フィーアの魔法屋から少し離れ、人通りのないところで周りに聞かれないようにしながら、三人は語り合った。

「精霊出てきた! 魔法屋があんなんなんて!! ていうか高っか! 魔法高っか!!」

 ユージナが興奮して言う。

「初級魔法であれだもんね! 中級はいくらなんだろ! 怖くて聞けないよ! そんな高額なスキルをあいもヴァルルシャも持ってたの!?」

「確かに自動車免許だって教習所に通うのに何十万円もかかりますからね! 魔法だってそういう価格帯であることは不思議ではないですけどね!」

 三人は声を大きくしないように気を付けながら話を続ける。

「ていうかフィーアってさ、ファイアのもじり? 炎だでさ! しかもあんな姿しとるなんて……」

「看板娘、っていうか、萌えキャラ! 萌えキャラだよね! 他の魔法屋の精霊は別の姿してる、って言ってたし、店ごとに精霊の姿は違って、それが売りになってるってことだよね!」

「男女差を設けて、男性客女性客、両方取り込もうとしてますしね……! 精霊のデザインによって、魔法屋の人気も変わりそうですね。それに、好みの外見の精霊がいるから、必要としていない魔法でも、精霊に会いたさにその魔法屋に通う、ということがあるかもしれません」

 ヴァルルシャの言葉に、リユルが興奮を落ち着かせながらため息交じりに言った。

「精霊の外見が魔法屋の売り上げにもかかわるのかー。マスコットで他の店と差別化を図って客を呼び込むような感じ?」

「でもまさか、精霊が話しかけてくるとは思わんかったよ。外見は店のマスコットとか萌えキャラでも、精霊がおらんと魔法屋が成り立たんから、よく考えればおかしいことじゃないけどさ」

「国に申請してるって言ってたよね。『うちの店にはこういう精霊を置きたい』って決めて、そういう書類かなんかを出して、許可が下りたらその精霊が現れる、ってこと?」

 リユルの言葉に、少し考えてヴァルルシャが言った。

「フィーア、という名前がつけられていましたよね。名前と、炎のエネルギーを擬人化したような精霊、という枠組みを人間が作ったことで、あの姿で存在し始めた、そういうことでしょうか。

 国に申請を出すと、世界のエネルギーが、そうやって具現化する……そういう仕組みになっているということでしょうか」

「うちらが倒しとる魔物と根本的には同じなんだもんね。エネルギーの塊……人間に協力するか敵対するかの違いだけで」

「あいたちがお店に払う料金は、たぶんお店の人間だけが貰うんだよね。精霊が人間の通貨を手に入れてもしょうがないし。精霊はただ働きで見返り無しで人間に協力するなら、そりゃ反動で人間に敵意むき出しの魔物が生まれちゃうかもね」

 三人は、さっきのフィーアたちの様子を思い出しながら言った。

「確か、『発酵』も『腐敗』も本質的には同じで、人間に有益な物だけを『発酵』と呼んでいるそうですよ。

 それと同じで、人間に有益なものは『精霊』、有害なものは『魔物』、と呼ぶのかもしれませんね」

 ヴァルルシャがそう言い、ユージナとリユルはうなずいた。

 三人は落ち着きを取り戻し、もう一度町の中を見て回ることにした。

 しばらく歩いていくと、チラシ配りをしている人がいた。

 動きやすそうで、だが野暮ったい感じのしない作業着を着た人間。鮮やかな赤い髪をしていた。

 彼が差し出すチラシを、三人は受け取った。そこにはこう書いてあった。

『髪染め500テニエルから

 あなたも髪を染めて魔法の力を強めてみませんか?

 精霊の力のこもった染料で髪を染めることで魔法の発動に影響を与えます』

 その文章と共に、長い髪をかき上げてほほ笑む人物画が描かれていた。

 まるで美容院が街頭で配っているチラシのようだった。そのことも驚きだったが、その文章の内容も気になるものだった。リユルが声を上げる。

「えっ、魔法の力が強くなるの?」

 それをチラシ配りの彼は聞き逃さなかった。

「お姉さん、うちみたいなお店、聞いたことない? 小さい町には無いからなあ……じゃあちょっと来て! 見ればすぐわかるから!」

 彼はそう言って近くの店を示す。出入り口付近には人物画がいくつも飾られており、『髪染屋・クァリス』という看板があった。チラシは白黒だが、店の前の人物画は色付きで、様々な髪色の人物が描かれていた。

 三人は顔を見合わせ、怪しい店とは思えない、それよりもどんな内容なのか気になる、という心境をお互いの目に感じ取り、案内されるままに店に入ってみることにした。

「いらっしゃいませ」

 現れたのは、長い髪で、動きやすそうだが華やかな服を着た、若く顔のいい成人男性、のような姿をした、半透明で、宙に浮いている、精霊。

「いらっしゃいませ。今日はどの髪色をご希望ですか?」

 同じような姿の、しかし半透明でも浮いてもいない人物が、三人に向かって歩いてきた。

「店長! こちらの方々、髪染屋は初めてだそうで、説明してあげてください!」

 チラシ配りの彼はそう言い、チラシ配りに戻っていった。

 店内にはゆったりともたれかかることのできそうな椅子がいくつも並んでいたが、客らしき人は誰もいなかった。

「初めての方なのですね。それでは、説明させていただきます。こちらが、当店の精霊、クァリスです」

 店長はそう言い、精霊を示した。クァリスはにっこりほほえむ。

「当店では精霊の力を込めた染料を髪に染み込ませています。そうすることで、魔法を使う際、髪に宿った精霊の力の助力が得られます。

 赤は、攻撃力を高め、魔法の威力が上がります。

 青は、精神力を高め、魔法を使える回数が増えます。

 緑は、集中力を高め、魔法の発動が早くなります。

 黄は、影響力を高め、魔法の範囲が広がります」

「そうなんだ! すっごく便利! 何色にでも染められるの? 黄色を黄色に染めたらどうなるの?」

 リユルが自分の金髪を触りながら尋ねた。店長が答える。

「地毛と異なる色に染めることはもちろん可能ですが、同系統の染料だと、なじみも良く、効果をより強く感じるとおっしゃるお客様が多くいらっしゃいます」

 精霊、クァリスもこう言った。

「私が染料に力をこめると言っても、結局は人間の精神集中の問題だからね。気持ちの持ちようで効能にも差が出るんだよ。気に入った髪型をしていれば気分が盛り上がる、そういうことさ」

「では、私の髪の場合はどうなんです?」

 ヴァルルシャが自分の銀髪を見ながら尋ねた。

「銀髪の場合は、どの色にも染めやすいですが、白の染料もあります。

 白は、回復魔法の効果を高めます」

「じゃあ、うちみたいな黒髪は?」

 ユージナが、魔法を使えるかどうかはさておき、尋ねた。

「黒髪の方ですと、一度薬品で髪の色を抜かなければなりません。ですが、別の色に染めなおすよりも、黒の染料で染めるのをお勧めしております。

 黒は、白以外の全ての色を内包しておりますので、すべての染料の効果を持つ染料、ということになります」

「えっ、黒ってすごいんだ!」

 ユージナが声を上げる。自分が魔法が使えないにしても、黒髪が他の色より効果が高い、と言われるのはうれしい。

「はい、黒は特殊な色と言えます。

 もちろん、全部混ぜずに、一部だけ混ぜて別の色にすることも可能です。

 赤と青を混ぜて紫にし、魔法の威力と、魔法の回数と、両方を上げる効果を持たせることも可能です」

「そのかわり、単色で使うよりそれぞれの効果は減るんだけどね」

 クァリスがそう補足した。

「そうなんだー。便利だね。ちょっといいかも」

 リユルは心を惹かれている。効能もだが、髪を好きな色に変えられるというのは、心が躍ることだった。

「髪を染めることで魔物退治の効率が上がるなら、やってみてもいいかもしれませんね。500テニエルなんですよね?」

 手元のチラシを見ながら尋ねるヴァルルシャに、店長は答えた。

「それは、精霊の力の無い、ただの髪染めの値段ですね。

 精霊の力を加えた染料は、一色で5,000テニエルになります」

「高っか!!」

 思わずリユルが声に出した。

 しかし、チラシに500テニエルから、としか書かなかったのは、5,000テニエルと記述するとリユルのような反応をされるからだろう。慣れた様子で、店長は答えた。

「ですが、それで魔物を倒せる数が増えたら結局はお得ですから。魔物退治だけでなく、上水タンクに水を張る魔法の効果を強めるために髪を染めに来るお客様もいらっしゃいます」

「確かにそうでしょうが、5,000テニエルとなると……」

 ヴァルルシャが自分の髪を触りながら言った。この髪にその効果を得るために、5,000テニエルかかるのか、という顔をする。

「あ、5,000テニエルは短い髪の方の話で、長ければもっとお代をいただいております。肩の下ぐらいまでで10,000テニエル。腰のあたりまでで、20,000テニエル。必要な染料の量に応じて価格を上げさせていただいております。お客様の長さですと……30,000テニエルをいただいております」

 膝あたりまで髪のあるヴァルルシャが、それを聞いてため息をついた。

「髪が長いと、それだけ髪染めによる効果も高くなるんだけどね」

 クァリスがそうフォローした。店長が話を続ける。

「あ、それから色を混ぜる場合は、一色当たりの量は減りますが綺麗に発色させる作業が新たに発生しますので、一色追加するごとに基本価格の半額を追加、ということになっております。

 短髪で二色を混ぜるなら7,500テニエル、短髪で三色なら10,000テニエル、短髪で四色、つまり黒なら12,500テニエル、そして先ほどと同じように髪の長さに応じて……」

「ああ、もういい、もういいや」

 リユルが両手を振って話を遮る。とても気軽に試せる金額ではない。

「ふふ、今日のお客様もこういう反応だね」

 クァリスが店長にそう言った。

「一度染めても、少しずつ色は落ちてきちゃうしね。髪が伸びれば頭皮近くのとこだけ色が変わるし。定期的にここに通って染め直しに来る人間って、なかなか増えないよね」

「それでも固定客はいるんだから! 余計なことを言うな」

 店長に釘を刺されるが、クァリスは平気な顔をしている。

「あっでも、髪の色を変えるだけでも気分が上がって魔法の威力が上がることはあるみたいだよ。あとは魔法関係なく気分を盛り上げたいとか……チラシ配りの彼はそうだね。その場合、私はこの人の作業を黙って見てるだけだけど」

 クァリスはふわふわ漂いながら、ふわふわした感じでしゃべった。

「えっと……じゃあまた、お金ができたら来まーす」

 リユルがそう言い、三人は髪染屋・クァリスを後にした。

 外に出て、人通りのないところで周りに聞かれないように小声で、三人は語り合う。

「高っかいねー! ヴァルルシャで30,000テニエル!? あいだって10,000か15,000ぐらい行くよね!」

「黒髪を黒髪に染めるんだって12,500でしょ!? うち魔法使えんでいいけどさ!」

「値段に見合った効果が得られればいいのですが……どの程度魔法が強くなるのかわかりませんし、試しにやってみるには費用がかかりすぎますからね」

「そういえばさ! 宿屋に泊まっとる時は、黒とか茶とか赤、あと金と銀、そんな感じの髪の色した人しかおらんかったよね。でもこの町に来る途中、徒歩で移動しとる人はそういう髪の色ばっかだったけど、馬車や馬で移動しとる人は、青とか緑の髪の毛の人おったよね? ファンタジー異世界ものじゃ髪の色が青とか緑とか珍しくないでなんとも思わんかったけど、人間にそんな色の毛髪が自然に生えるのっておかしいもんね? あれ染めとったんだ!」

「そういえば確かに見かけましたね。徒歩じゃないということはお金がある人々、ということですね。精霊の力のこもった高い髪染めをやれる、それだけ収入のある魔法使い、ということですね」

「あっでもさ! そういう人に見せかけるために、精霊の力が入ってない安い髪染めだけする人もいるのかもよ! そうやってハッタリをきかせてるのかも! あっでも、魔物相手にハッタリはきかないか」

「魔法を使えんでも、オシャレで染めることもあるって言っとったよね。自分はこんなに綺麗に髪の手入れをする余裕があります、って人間同士にアピールするにはいいんかもね。ファンタジー異世界ものってヴァルルシャみたいなものすごい長髪の人多いし、それが普通みたいに思っとったけど、実際に手入れするとなったら大変だよね。でもそれだけ伸ばしとることに意味のある世界で良かったね」

 ユージナに言われ、ヴァルルシャは力強くうなずいた。

「本当です。この髪の手入れは大変ですが、この長さで初期設定されたので、維持しなくては……と思って手入れしてました。ですが、髪が長いほど髪染めの効果も高いということですから、魔法使いが髪を長くしていることは無駄ではないようですね。いざ髪を染めるお金が手に入っても、伸ばすのは一日ではできませんから」

「ヴァルルシャ、やっぱ髪の手入れ大変だったんだ」

 リユルが言い、三人は吹き出す。

「大変ですよ、これだけ長ければね」

「それにしても、精霊っていろんなのがおるんだね。性格も自動的に決まるんかな?」

「人間に協力的ではあるけど、細かい部分は精霊それぞれで変わってくるのかなあ。名前や外見はあの店長が決めて国に申請したんだろうけど……自分と同じような服着せてたし……あのカリスマ美容師みたいな店長……ああ!! クァリスって、カリスマ美容師から来てたのかも! クァリスま美容師!」

 リユルの発見に、二人はなるほどどうなずいた。


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