表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリキャラのキャキャキャ1  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ1 第四章
25/50

第四章 02 魔法屋


02


 ユージナもリユルも生理が終わり、ヴァルルシャと三人でリスタトゥーの宿屋を発つことにした。

 部屋にあった大荷物を背負い、宿屋の西側の街道に出て、北を目指す。

 街道のさらに西側は、まばらに草や木が生えており、その先には山脈が見える。

「あれがヤームヤーム山脈ですかね……ヤームヤーム……やまやま? 山々のもじりでしょうか」

 ヴァルルシャがその方向を見ながら言った。

「それを言うならさ、キヨゥラ川の上流の湖! ズーミー湖! みずうみだから、ずうみい、なんじゃないの?」

 リユルが道を歩きながら言う。基本的には平坦だが、緩やかな起伏があったりカーブがあったりする。

「それに町の名前のファスタンってさあ……ファーストタウンの略と違うの? うちらが最初に行く町だでさ……宿屋は町とは違うもんね」

 ユージナが宿屋の方を振り返った。宿屋は少しずつ遠くなっていく。

「ならば、我々が北へ向かうことを選ばなかったら、町はファスタンではなく別の名前になっていたんでしょうか? でも、あの宿屋から一番近い町は一つしかないので、その町を選ばざるをえない、だから名前もそれ以外ありえない、そういうことでしょうか」

 三人で推測しても、明確な答えは出ない。それに名前の由来がわかろうがわかるまいが、その町がどんな場所かの方が重要な問題だった。

「大きな町ということですから、鑑定屋はあるはずですよね。蓄光石にも光がだいぶ溜まりましたし」

 ヴァルルシャが自分の胸元からそれを出して確認する。金色ということは、5,000テニエル以上は溜まっているということだ。

「魔法屋もありそうだよね。うちもちょっとは魔法使えるようになった方がいいかもしれんと思ったでさ、風の初級魔法ぐらいだったら、何とかならんかな?」

 ユージナが言う。魔物への攻撃魔法はリユルとヴァルルシャに任せるが、洗濯物や髪を乾かす魔法が使えれば、日常生活が便利になると思ったのだ。

「魔物狩り屋がいっぱい集まってくるって言ってたから、宿屋や食べ物屋もいっぱいあるはずだよね。どんなお店があるか楽しみだなあ」

 リユルが期待のこもった声で言った。

 宿屋はすっかり遠くなっていった。宿屋の隣の森は、川沿いに広がっているのでまだ街道の東側に見えていたが、それもしだいに木々がまばらになっていく。茂みの隙間から時おりキヨゥラ川が見えるようになってくる。

 街道の周りは、森というほどではないがところどころ木が茂っていて、木陰で小休止をすることができた。魔物狩りに行く時と違い、大荷物も持ち歩かなければならないのでこまめな休息は必要だ。

 街道にも、定期的に有料の公衆トイレが設置されていた。森の奥にも設置できるのだから、道のわきに設置して管理するのはもっと簡単だろう。

 昼頃には宿屋で買ってきたはさみパンを食べ、三人は北を目指した。

 時々、馬や馬車とすれ違ったり、追い抜かれたりした。

 リスタトゥーの宿屋に泊まっている間も、数日に一回、馬車で食品が届けられていた。現代日本でトラックが荷物を運ぶようなものだろう。

 魔物狩り屋らしき人々とも何度かすれ違った。徒歩のパーティーもあったが、馬や馬車に乗って道を行くパーティーも見かけた。お金がある人はそうやって移動するのだろう。

 混雑しているというほどでもないが、それなりに人が通るので魔物は現れないようだ。三人は何事もなく道を歩いていった。

 朝から出発して、まだ夕方にはならないころ、道の先に建物が見え始めた。

 遠くに見えていた建物が、一歩進むごとに近づいてくる。密集した建物の間を、人々が歩き、店を覗いているのが見えてくる。

 ファスタンの町だ。

 街道はそのまま町の大通りに続いていた。

 まず、馬や馬車が並んでいるのが見えた。看板には『貸馬屋』と書いてある。もちろん日本語訳済みだ。ここで馬や馬車を借りれば、リスタトゥーの宿屋を通り越してその日のうちに南の町まで行けるのだろう。

 それから、飲食店が並んでいるのが見える。街道をやってきた人がまず欲しがるものだからだろう。

 三人はとりあえず飲食は後回しにして、もう少し町の中を見て回ることにした。

 街道は土がむき出しだったが、町の中は足元に石畳が敷かれている。

 木や漆喰のような壁でできた建物が並んでおり、人々が行き交って賑わっている。

 舗装された道をしばらく歩いていると、『魔法屋』という文字が目に入った。そちらを見ると、『フィーアの魔法屋』という看板があった。

「ちょっと、入ってみていい?」

 ユージナが言い、リユルとヴァルルシャもうなずく。ユージナは魔法を覚えたかったし、魔法が使える二人も魔法屋が実際にどんなところなのか見てみたかった。

 扉を開けて、その建物の中に入る。

「いらっしゃいませ! フィーアの魔法屋にようこそ!」

 そう言って、出迎えてくるものがあった。

 全体的には、人間の少女のような外見。

 しかし、炎が燃え盛るような服をまとっている。

 髪も赤く、ところどころ燃え上がっているように見える。

 肌も、全体的に赤く、少し燃えているようだ。

 何より、全体的に半透明だった。

 そして、宙に浮いていた。

「……」

 ユージナも、リユルも、ヴァルルシャも、それを見つめ、動きが止まる。

「いらっしゃいませ! 数ある魔法屋の中から、当店を選んでいただきありがとうございます」

 そう言って店の奥から歩いてきたのは、魔法使い風の女性だった。こちらはおそらく人間だと思われる。

「えっと、あのう……」

 ユージナが彼女と、宙に浮いているものを見比べる。その様子を見て、魔法使い風の女性はこう言った。

「剣士様はこういった魔法屋は初めてですか? お連れ様はご経験がおありのようですが……説明いたしましょうか?」

 ユージナは腰に刀を下げているので、剣士とわかるのだろう。リユルとヴァルルシャも、魔法が使えても魔法屋に来るのは初めてなので、うなずいて説明を促した。

「こちらが、当店の精霊、フィーアでございます」

 店員は宙に浮いている存在を手で示した。

「最近は魔法屋でも精霊の姿がいろいろですが、炎は魔法の定番ですし、皆さまにもご好評いただいております。

 まず、どのような魔法を使えるようになりたいか、お客様に決めていただきます。

 そして、当店に十日程通っていただき、奥の練習場で、魔法の練習をしていただきます。

 まず最初は、精霊の力、当店の場合はこのフィーアの力を借りて、魔法を発動させる訓練をします。魔法を一度も使ったことのない方だと、最初に魔法を発動させることがまず難しいので、フィーアの、精霊の力で、体にそのやり方を覚えさせるのです。

 フィーアは炎の姿をとっておりますが、これは当店においてはその姿で具現化している、というだけなので、水や風など、どんな魔法にも対応しております。

 そして、ある程度コツをつかんだ、という段階になったら、フィーアの手助けを減らし、ご本人の精神力で、魔法を発動させられるように訓練します。

 フィーアに、『この人間はこの魔法を使えるようになった』と認定されたら、魔法の習得が完了します。基本は十日間ですが、早く終わる方もいらっしゃいますし、長引く方もいらっしゃいます」

 そこまで説明が終わったところで、そこに浮いている精霊が、フィーアが、ユージナの顔を覗き込んだ。

「この人、魔法は一度も使ったことがないみたいね。だったら、十日じゃすまないと思うなあ」

 フィーアの声が響いたその時、ちょうど、奥の扉が開いた。

 現れたのは、ユージナたちのそばにいるフィーアと、同じような姿の精霊。

 それから、基本的には同じだが、少女ではなく、少年のような姿の精霊。

 それと、物理系の戦士であろう屈強な人間の男が二人。ぐったりしている。

 扉から出てきた、少女の方の精霊がこう言うのが聞こえた。

「また明日ねー! ゆっくり休んで精神力を回復しておいで」

 少年の方の精霊も、人間の戦士にこう言った。

「向き不向きがあるからねー。無理しないで」

 男たちは疲れた様子で魔法屋を出て行った。そちらにいた精霊たちも、ユージナたちの方にやってくる。

 これも同じ精霊?という顔をしている三人に、店員が説明する。

「これらすべて、当店の精霊、フィーアでございます。少年タイプ、少女タイプ、両方おります。

 炎の姿に加え、例えば水の姿の精霊も当店に常駐させようと思ったら、新たに国に申請しなければなりませんが、同じタイプの精霊であれば十名までは一つの申請で国から許可が下りますので、当店には十名のフィーアがおります。他のものはまだ奥でお客様の訓練のお手伝いをしております。

 同じ、炎の姿をしたフィーアですが、男女差の表現は可能です。

 精霊には人間のような肉体があるわけではないので、性別の差と言っても外見的な差異だけです。肩幅があるとか胸を膨らませるとか、それは個体差の範囲のようなものですから、国に申請する必要はありません。当店のフィーアは男女五人ずつとなっております。精霊としての能力に差はありませんが、姿が男か女かで、お客様のモチベーションに差が出ますので、こうした差異を設けております」

 そう説明されても、なかなか理解が追い付かないユージナを、フィーアたちは取り囲んだ。

「あなたは剣は得意だけど魔法は苦手っぽいなあ」

「剣を扱う能力と、魔法を扱う能力って違うからね」

「十日じゃすまないとすると、二十日か、三十日ぐらい?」

 ふわふわ浮かびながら、フィーアたちはそう言いあう。店員がそれをフォローする。

「……とはいえ、訓練次第で皆さま魔法が使えるようになっていかれます。あとはご本人様のやる気次第ですから。それで、どのような魔法をご希望でしょうか?」

 そう言われ、現在の状況に面食らっていたユージナは、ようやく我に返り、希望を伝えた。

「あっ……えっとですね、風の初級魔法……髪の毛や、洗濯物を乾かしたりするような風を、自分で起こせたらいいなと思って」

 しかし、店員から帰ってきた答えは、もう一度ユージナを面食らわせた。

「風の初級魔法ですね。それですと、料金は十日で10,000テニエルになります」

 高っ!と言いたくなるのをユージナは必死にこらえた。後ろのリユルとヴァルルシャもだ。ユージナはまだしも、魔法が使える二人までそんなことを言っては、どうやって魔法を覚えたのだと不審がられてしまう。

「ええと、十日で、ってことは、長引けばまた十日で10,000テニエル追加、ってことですか?」

「そうです」

 店員はうなずいた。

 日本円にして十万円。一日一万円。

 落ち着いて考えてみれば、風の初級魔法はドライヤーや扇風機ぐらいの効果があり、つまりそれらを一生買わなくていい能力、ということになる。そう考えれば、十万円で取得できるのはそれほど高額なわけではない。

 とはいえ、十日で身に付かなければもっとかかるのだし、ユージナは十日以上かかりそうだと、精霊がすでにお墨付きを与えている。

「ええっと……じゃあ……今回はやめておきます……ありがとうございました……」

 ユージナはそう言い、出入り口の方に向かった。

 店員と精霊たちに見送られながら、三人はフィーアの魔法屋を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ