第三章 04 生理
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木陰に座り、三人は魔法水筒の水を飲んだ。
小鳥がさえずり、魔物の気配はなく、のどかだった。
ケルピーを一匹倒すという経験を積んだのだから、次が出ないなら今日はそれでいい。そんな話をしながら体を休めていると、ふと、ユージナの表情がかわった。
「どうしたの?」
そう尋ねるリユルに、「いや、ちょっと……」と答え、ユージナは立ち上がって木陰に向かう。どうしたんだろう、とリユルとヴァルルシャが顔を見合わせていると、やがて、ひきつった顔で、彼女は戻ってきた。
「ねえ、やばい……」
そう言って、ユージナはヴァルルシャの顔を見て少しためらったが、そのまま、二人に向けて言った。
「生理、きた……」
そう言って、ユージナは腹を押さえた。
「マジで!? あいたちにも来るの!?」
リユルが悲鳴を上げる。それはいずれ自分にも直結する問題だったからだ。
「うちも全然気にしとらんかった……。でも、トイレの設定を考えないかんかったように、生理のことも考えないかんのだわ……トイレも生理も、人間なら無いことにはできんもん……」
リユルが立ち上がってユージナに寄りそう。
「そりゃそうだよね。子供が生まれるってことは、女に生理があるってことだもん……。ファンタジー異世界もので女キャラが旅するのってよくあるけど、みんな生理どうしてるんだろうね……ナプキンなんかないでしょ?」
「うん、荷物を見てみたけど、それらしきものは無かった……。とりあえず手ぬぐい当てとるけど、早く宿屋に帰ろ」
リユルもヴァルルシャもうなずき、帰り支度をする。
「痛むんですか? 回復魔法をかけましょうか?」
ヴァルルシャの言葉にユージナはゆっくりと首を振る。
「今んとこ痛みはないけど、そのうち痛くなってくるかもしれんし、たぶん回復魔法は効かんと思うよ……。怪我でも病気でもないし、現代日本の医学でも痛み止め飲んで耐えるしかないし、痛み止め飲んでも効かんかったりするし……」
リユルはうんうんとうなずき、言った。
「とりあえず早く宿屋に帰ろう」
三人は宿屋への道を歩き始めた。
「まだ痛まない? 設定考える余裕ある? トイレみたいにいいやつ考えた方がいいよね!」
リユルがユージナに聞いた。中世ヨーロッパ風ファンタジーとはいえ、清潔で衛生的な設定を作った方がいいに決まっている。これは世界任せにするより、自分たちで考えた方が安心だった。
「今はだいじょぶ……そんなに量も多くなかったし……でも宿屋につく前に考えないかんね」
「ファンタジー異世界ものって、トイレも生理もはっきり描写せず何となくスルーして、かっこいい冒険部分ばっかり描かれがちだもんね。でも、人間の生活に密接してるものだもん、魔王を倒すとか創造主がどうとか世界の根幹に触れるとか、そんな壮大な戦いをする前に、きちんと考えなきゃいけない問題だよね。生理用ナプキンが販売される前の人って、どういう風にしてたんだろ?」
「江戸時代は、紙を詰めたり、生理の時だけふんどしみたいなのをはめて血を吸わせとったらしいけど……うちファンタジー異世界の江戸時代だで、ミニスカみたいな着物の下に普通にショーツはいとるし、これはそういうとき用のじゃない気がするなあ……。とりあえず腹が冷えるで、大荷物の中にスパッツとか無いか探すわ。ニーソックスじゃ腹まで温まらん」
「あいだって最初は水着みたいな格好だったもんね。見栄えだけでデザインして、実際にその服じゃ体が冷えるとかそういうこと全然考えられてないもんね。そういうのも含めてファンタジーって言えばそうだけどさあ」
「昔の日本じゃ、生理中の女は血の穢れだとかいって隔離されとったらしいけど、そんなん嫌だよね。男も女も同じように冒険の旅に出て魔物退治して生計を立てて、って世界は理想だよね。うちみたいな剣士は腕力的に男女差があるかもしれんけど、魔法使いだったら本当に男も女も関係ないし、性別どうこう言われん自由な世界、そういう意味で理想的なファンタジーな世界、そういうのを求めて作者はあれこれ空想しとったんだと思うんだ。現実に不満が無けりゃファンタジー異世界の妄想なんかする必要ないもん。だで、女に生理が来るとしても、それがハンデになる世界にはしたくないなあ」
「ファンタジー異世界の空想で、女に生理が無さそうな設定……たとえば人間じゃなくてエルフとか……だと、現実の人間の体と乖離しすぎて感情移入しづらいけど、かといって何の描写もなくスルーだと、この人たち生理の時どうしてるの?って気になっちゃうもんね。それで、作者は途中で話を書くのをやめちゃったのかな。じゃあ、あいたちが今度こそ、ちゃんと考えてみよう!」
そこまで言ったところで、道のわきから、ゴブリンが飛び出してきた。
リユルとユージナが、あ、と思う前に、ヴァルルシャが気づき、前に出て行った。
「戦闘は私がやりますから! ユージナさんは休んでてください!」
何度も戦ってコツがつかめてきたので、風の魔法、炎の魔法、というコンボでヴァルルシャ一人でも倒すことができた。
「ありがとう、ヴァルルシャ」
そう言うユージナに、彼は答えた。
「同じ作者から生まれたとはいえ、私ではお役に立てない話のようですから……帰り道の戦闘は任せておいてください」
「ああ、ごめんねうちらばっかり話しとって。男の人も生理的ないろいろはあるんだろうけど、作者がリアルな生態を知っとるのは女の方だで……そういえば、ヴァルルシャはひげとかどうしとるん?」
男の生活習慣として、毎朝髭剃りをするはずということを思い出し、ユージナは言った。
「そういえばそうだね。電動の髭剃りは無いだろうし……あっでも、一枚刃のカミソリぐらいはあるのかな? あいの身支度道具にも眉のお手入れ用のやつがあったし」
「確かに私の荷物にもカミソリはありましたが……私はひげがあまり生えてこないようで、今朝も剃る必要はありませんでした」
「剃らんでもひげが生えてこんって、少女漫画の王子様か!」
「髪の毛は長いのに! 髪の毛だけ長くて全身の体毛は薄いってやつ!? リアルに男と付き合ったことのない少女が妄想する理想の王子様だよ!」
ユージナとリユルが思わず声を上げた。
「そんな大したものじゃないですよ……とにかく、また魔物が出たら私が退治しますから」
苦笑しながらヴァルルシャは答える。
その言葉に甘え、道中の魔物のことはヴァルルシャに任せて、ユージナとリユルは生理用品の設定について話し合った。




