第二章 05 食事
05
トイレのある場所から宿屋へ移動するのはそれほどかからなかった。行きと同じく魔物には遭遇せず、一度通った道なので行きよりも短く感じる。
「ああ、おかえり。今日はもういいのかい」
宿屋の玄関で、亭主が三人に挨拶をする。
「はい。それで、お夕飯はできてますか?」
リユルがたずねる。もう仕込みは終わってるだろうということだった。食堂に行ってみると、おかみさんが大きな鍋をかき回していた。
「早いね。今スープができたところさ。盛り付けるから待ってておくれ」
三人は椅子に座って食事を待った。いいにおいが漂ってくる。
運ばれてきたのは、肉と野菜のスープ、パン、サラダだった。
陶器の器に入っており、金属のスプーンとフォークでいただく。
「おいしそう! いただきまーす!」
リユルがまずサラダを口にする。レタスのような葉野菜と、トマトのような果菜だった。
「おいしい! お芋かな?」
ユージナがスープの具を食べる。芋や根菜が入っていた。
「これは、鶏肉ですかね。スープもいい出汁が出てます」
ヴァルルシャがスープを口にする。ベースは鳥ガラだろう。そこに野菜のうまみが加わっている。
パンは日持ちしそうな硬くしっかりした焼き加減で、かみしめると穀物の味が広がった。
この世界で初めて口にする料理。それは、この世界のエネルギーを、自分の体に取り込んでいくという感じがした。材料は町から取り寄せている、つまり、ここ以外に、この材料を作った場所、育てた土地があるということだ。
あの暗闇から、ここまで世界が広がったのだ。それを今、食べている。
言葉には出さないが、リユル、ユージナ、ヴァルルシャ、三人ともそれを実感していた。
夕飯は、味も量も満足のいくものだったし、気持ちの上でも、三人は満たされていった。
「おう、風呂も準備できてるから入っていいぞ」
亭主が食堂を覗き、三人に声をかけた。三人は食べ終わって、一息ついているところだった。
「あっじゃあ、休憩してから入ります」
ユージナが答える。
お風呂。この世界のお風呂はどんな感じだろう。三人は食休みと支度のため、部屋に戻ることにした。
二階へ行き、201から203の扉の前に立つ。鍵を取り出して扉を開けると、室内は森へ出かける前の状態のまま存在していた。
「夕飯、おいしかったね。お風呂の設定も……宿任せにしてみる?」
リユルが二人の顔をうかがう。
「そうですね。我々で細かく設定しなくてもおいしい食事でしたし、お風呂もどんな物が出てくるか期待してもいいですね」
「あ、でも、着替えはうちらで持ってかんといかんよね」
三人は、部屋に残していた大荷物の方を探る。今日の戦いではそれほど服は汚れなかったが、下着は替えたいし、寝間着も欲しい。
しばらくして、それぞれのカバンから、水切れのよさそうな布に包まれた寝間着と下着が見つかった。
「着替えをくるんであるのが、お風呂用の手ぬぐいってとこかな?」
ユージナが部屋の中でそれを広げて確認する。隣の部屋ではヴァルルシャとリユルがそれぞれ同じことをしているようだ。同時に、櫛や手鏡、化粧水などの身支度用品も見つかった。
「このお風呂セットだけ持って、部屋の鍵かけてお風呂に行けばいいのかな? なんだか温泉宿みたいでワクワクするね」
リユルがユージナの部屋を覗いて話しかけた。
「バスタオルは見当たらんけど、それまで持ち歩いとったら大荷物になりすぎるし、宿屋が用意してくれとると考えていいんかな?」
所持品の中の『お風呂セット』はコンパクトにまとめられていた。寝間着も薄手でかさばらない。旅をするために、小さく軽いものを持ち歩いているのだろう。
「そうだね。設定はお任せって言ったけど、それはそういうことに決めちゃおう。バスタオルはホテルのアメニティみたいに、宿代に含まれてるってことで」
食後の体が落ち着いたところで、三人は部屋を施錠し、風呂へ向かった。