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オリキャラのキャキャキャ1  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ1 第二章
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第二章 04 野外のトイレ


04


 水を飲んで少し休憩した後、三人はまた歩き出した。

 小川の流れはささやかだが確実に続いていく。やがて、さっきのように踏み固められた道と交差する場所に出た。

「ここって、さっきの道とつながっとるんかな?」

 ユージナが道を見渡しながら言う。道は、小川をまたいで直進する人が多いのか、川に直面しても気にせずその前後にまっすぐ伸びている。とはいえ茂みや高低差で、あまり先までは見えない。

「宿から歩いてきた道って、基本的に、宿から直進という感じでしたよね。最短距離で宿から森の奥へ行くために、泉などに寄り道せずまっすぐ突っ切る人々、それに踏まれてできた道、ということでしょうか?」

「てことは、この道をこっち方向、泉のあった方向に進めば、さっき脇道にそれたところまで戻れる? 宿屋までも戻れるのかな?」

 リユルがそちらを見ながら言う。

「道の様子ではそんな感じもしますね。戻れるか試してみます? でも今から宿に戻るには、ちょっと早い気がしますが……」

 ヴァルルシャは言った。木漏れ日はまだ夕方という感じではない。

 リユルは、もじもじしながら言った。

「そうだけど……あのさ、森の中って、トイレどうするの?」

 ユージナもヴァルルシャもハッとする。まだ差し迫ってはいないが、いずれ直面する問題だ。

「あいもまだ大丈夫なんだけどさ、さっき魔法水筒で水飲んだでしょ? 行きたくなってきたときに、あのミーティング室……その話してた時はまだ部屋の設定も決まってなかったけど……のときみたいに、あわててトイレの設定を考えてトイレに駆け込むのはもうやだよ。うまい設定を考えるか、でなきゃ宿に戻ってすませておいた方がいいと思う」

「そうだよね。男の人ならいいかもしれんけど、うちらはトイレないと困るよね。お花を摘みに……なんて言葉でごまかしても意味ないし」

「私だって、できれば野外で行いたくはないです。それに、森の中で致すのは植物に悪影響を与えるはずですよ。切迫する前に、考えておいた方がいい問題ですね」

 とりあえず、この道を泉の方向に進んで、宿に戻れるか確認しよう。三人は歩きつつ、森の中のトイレについて考え始めた。

「この森は魔物狩り屋が経験値稼ぎ、っていうか蓄光石の光稼ぎ?のために多く出入りするんだよね。トイレが無かったら、そこらじゅうに誰かの落し物があるってことになるよね。あい、そんなの嫌~」

「そういえば、トイレの設定をしたときに、ユージナさんが富士山の話をしてましたよね。そういう公衆トイレがあると考えてみるのはどうです?」

 富士山のトイレはおがくずで排泄物を処理していると、さっきユージナは語った。とはいえユージナの、いや、作者の、うろ覚えの知識だ。

「富士山とまで言わんでも、キャンプ場とか、ハイキングコースにトイレがある感じ? でも、魔物がおるとこでそんなもん設置できるかなあ」

「上水タンクと下水タンクは森の中の一軒家でも使えるわけだから、森の中にトイレのみに特化した小屋を作る、っていうのはできないことじゃないよね。あとは強度とかの問題か」

 その問題を、皆で検討する。

「トイレのみであればそれほど大きくないですし、簡単には壊されない頑丈な建物を作ること自体は、難しくなさそうですけども……」

「うん、作るのはともかく、メンテナンスだよね。掃除は誰がしとるのか、とか。それに、上水タンクに水を溜めるのは上級の水の魔法が使えんといかんかったでしょ? 町から食料品を取り寄せるように、宿屋の上水タンクは町から魔法使いを呼んどるとしても、その人にわざわざ森の中まで行ってもらうの?」

「あ、でもさ、トイレで流す水なら、飲めるってほど綺麗な水じゃなくてもよくない? あい、水の魔法ちょっと使ったけど、魔物にぶつける水、普通に透明なのが出せたし。それに、トイレだけなら宿全部の上水タンクよりは量が少なくてもいいんだし、ウォシュレットが使える程度にきれいな水、だったら中級の水の魔法が使えれば何とかなる気がするな」

「あ、じゃあ、宿屋のご夫婦のどちらかが水の魔法を使えるというのはどうです? 昔は魔物狩り屋という設定でしたし、公衆トイレのタンクを満たせるぐらいには中級の水の魔法が使える、というのは不自然ではないですよね。

 水洗トイレって結構水を使いますから、水の補給は最低でも数日に一回は必要だと思います。掃除もそのぐらいの頻度でしないと清潔を保てませんし。だから管理は近隣の方、この場合はあの宿屋に住んでる方が行うのがいいと思います。

 下水タンクのろ過装置は、宿屋の下水タンクのメンテナンスで町から専門家を呼んだ際に、野外トイレの方にも足を運んでもらうということでいいと思いますが。それは何十日かに一回でも大丈夫と思いますし」

 野外のトイレの設定は、枠組みがおおむね固まってきた。

「てことは、ただで使うのは申し訳ないで、有料だよね。いくらがいいだろ。あんまり高いと、横着してその辺でする人も現れそうだで、ほどほどの値段じゃないといかんよね。野外でするのと、清潔さ快適さを天秤にかけて、みんながトイレの方を選びそうな値段っていうと……」

 数百円、いや、数十テニエルってとこ? と話がまとまったところで、ヴァルルシャが「あ」と、声を上げた。

 足元の起伏を乗り越え、少し視界が開けた瞬間だった。一番背の高いヴァルルシャの目に真っ先に、道の向こうにある小さな建物の姿が飛び込んできた。リユル、ユージナも、すぐにそれを目にする。

 それはまさに、ハイキングコースにある公衆トイレといった佇まいだった。

「出てきた……。今、言っとったもんが出て来たね」

「どんな感じなのか見てみようよ」

 三人はその建物に近づいてみる。がっちりとした箱型で、頑丈そうな扉がついている。個室一つ分ぐらいの大きさだった。

 扉の横には金庫のような箱が埋め込まれており、『使用料金:一回20テニエル』と注意書きがしてある。

「20テニエルを入れると、扉が開くってことかな?」

 リユルが扉を触ってみる。施錠されているようだった。

「自動販売機のように、コインの投入口がありますね。コインを認識すると鍵が開く仕組みなんでしょうか」

「まさに自販機みたいに、小銭が盗まれんようにがっちり作られとるね。あ、他にも注意書きがある」

 ユージナが示す先には、こう書かれていた。

 『管理者:リスタトゥーの宿屋』

「リスタトゥー……ご主人の名前かな? そういえば、宿屋の名前、決めてなかったね」

 リユルが注意書きを読み上げてそう言う。

「宿屋は宿屋としか考えていませんでしたからね。リスタトゥー……リスの入れ墨?」

「リスタトゥー……。リス・タトゥー……? リスタ・トゥー……? リ……」

 ユージナがそこまでつぶやいたところで、三人は声をそろえた。

「リ・スタートだ!!」

 そうに違いない。あの場所から自分たちは、止まっていた物語を動かし始めたのだから。

「うちらが設定しんかったから、また勝手に決まってまったね」

「でも、いいんじゃない? あいたち最初わかんなかったし、名前っぽくなってるもの」

「ええ。それに、あの宿屋はずっと昔からこの名前で存在していた、そういう設定になっているはずです。ずっとこのトイレも管理してくれているはずです」

 その、リスタトゥーの宿屋が管理するトイレを、三人は使用することにした。

「お金を入れると扉が開くってことは、やっぱ精霊的な力でいくらお金を入れたのか察知してるのかな?」

 リユルが財布から20テニエルを準備しながら言う。

「あ、でもここにあるの、なんか回転させるレバーっぽくない?」

 ユージナがコイン投入口の下を指さした。そこには片手で握れる大きさの、回転させやすそうなレバーがあった。

「精霊の力でなく、お金を入れてレバーを回すとおもちゃが出てくる装置のように、コインのサイズや重さで判別してるのでしょうかね。お釣りの返却場所はなさそうですし、コインを入れ間違えても戻ってはこなさそうですね」

「いいんじゃない? 綺麗にしてくれとるんだで、間違えてたくさん入れてもチップってことでさ」

 建物全体の大きさから考えて、個室は一つで男女共用と思われたので、まずはヴァルルシャが入ってみることにした。

 コイン投入口に10テニエル銅貨を二枚入れる。下のレバーを回すと、扉の鍵が外れる音がした。

 ヴァルルシャが扉を開け、中に入って扉を閉めると自動で鍵がしまった。扉は、内側からは何度でも開けられるが、外側からはコインを入れた時しか開かないようだ。中で用を足す前に扉が閉まった場合は再度コイン投入ということだろう。

 使用する前に、ヴァルルシャは扉を開けてユージナとリユルにもトイレの中を見せた。

 宿屋にあったトイレと同じような物が、中にそろっていた。掃除も行き届いている。

「きれーい! 公衆トイレって結構汚いとこ多いもんね。これだけ綺麗にしてくれてるならお金払ってもいいわ」

 リユルが言い、ユージナもうなずく。二人はトイレから少し離れ、ヴァルルシャが戻ってくるのを待った。

「あれ? あそこ、さっき脇道にそれたとこじゃない?」

 リユルがそれを指さす。トイレから離れるために道を少し歩いたことで、視界がまた変わった。自分たちの足元から続く道の先に、さっき泉に向かうために脇道にそれた場所が見える。

「ほんとだ。やっぱり、これは宿屋につながっとる道だったんだね」

 そう言っているうちに、ヴァルルシャがトイレを済ませてきた。次はリユル、その次はユージナが使用した。

「ふー! よかったよかった! 森の中のトイレ問題もこれで解決だね!」

 用を済ませ、リユルが安堵の顔で言う。

「でもさ、もっと奥の方にもトイレ、あるんかな? ここは宿屋からそんなに遠くないで、メンテナンスもそこまで大変じゃないだろうけどさ」

 ユージナが道の先を見ながら言う。この道をまっすぐ行けば宿屋に戻るはずだし、泉に行く脇道は、宿屋からそれほど遠くない場所だったはずだ。

「確かに、あまり宿屋から遠いところに設置するのは管理が大変そうですね。少人数で経営している宿屋ですから、野外のトイレのことばかり構ってもいられないでしょうし」

「じゃあ、この森にはトイレは一か所しかないってことかな? 一か所でもあるのはありがたいけど……。あ! でも! 今後はどうなるの? この辺は大した魔物はめったに出てこない、っておかみさん言ってたけど、それは森が広くないからで、トイレも一つで足ります、ってことだと考えればいいけどさ、今後もあいたちは魔物退治をするわけでしょ? 森とか山とか、魔物の出そうなとこ、人間の生活圏じゃないとこに行くわけでしょ? そういうところのトイレはどうするの? 宿屋が近くになくても管理してくれるの? 誰が?」

 リユルの懸念はもっともだと、三人はその問題を検討する。

「設置はそこまで難しくもないんでしょうが、結局はメンテナンスを誰がやるかということですよね。トイレの近くでいつも管理できるような人となると……やっぱり宿屋とか……? そうなると宿屋の徒歩圏外には設置できないことになりますし……」

「……そういえばさ、さっきヴァルルシャがトイレのコイン投入口を、自動販売機みたい、って言っとったよね。自販機って、人通りがないような山奥にも設置されたりしとるでしょ? そういうイメージで考えたらいいんじゃないかな?」

 ユージナが人差し指を立てて思いついた。

「さっきリユルが言っとったように、中級の水の魔法が使えれば、トイレサイズの上水タンクに水を溜めることはできるんだよね? で、ヴァルルシャが、野外トイレの下水タンクのろ過装置は宿屋の下水タンクのメンテナンスで人を呼んだ時に一緒にやってもらう、って話しとったよね。

 野外のトイレはそんなに大きくないで、そのぐらいの規模だったら、ちょっと勉強すれば下水タンクのメンテナンスはできるようになるってことでどうかな。家のトイレが壊れても、業者を呼ばずに直せる知識のある人っておるでしょ。宿屋サイズだと『浄化の魔法を一定期間発し続けるろ過装置』、大きそうだしメンテナンスも大掛かりになりそうだけど、野外のトイレサイズなら、例えばろ過装置のフィルター交換みたいなこと、一人でもやれるようにならんかな。

 そうしたら、中級の水の魔法と、野外のトイレの下水タンクのメンテナンス方法と、両方覚えたら、一人で全部対応できるよね。

 だで、森の中に公衆トイレを自腹でいくつも設置して、巡回してメンテナンスしつつ使用料金を回収して、利益が出るまで公衆トイレを運営する、って人がおってもいいんじゃない?」

 ユージナの考えに、ヴァルルシャとリユルはうなずいてこう言った。

「なるほど……まさに自動販売機のように、『設置は自由、ただし管理できるならば』という感じですかね。宿屋と兼業で管理するパターンだけでなく、公衆トイレだけをあちこちに設置して、そのメンテナンスのみを行って収入を得る人、というのも存在しそうですね」

「この森で、今のとこ他の魔物狩り屋に遭遇してないよね。そんなに混雑してないってことだから野外のトイレは一個でも足りるんだろうけど、RPGで言うレベル上げスポットみたいな場所だったら、魔物狩り屋もいっぱい来るよね。それに、強い魔物がうろうろしてるとこで下半身出して無防備な姿になりたくないからトイレ使いたい、って思う人は多そうだし、そういうところのトイレはもっと頑丈で、20テニエルよりもっと高く設定されてることも考えられるよね」

 公衆トイレの設置とメンテナンス。それが商売として成り立ちそうな設定が固まった。

「じゃあ、今後、もっと深い山奥とかに行っても、大抵の場所には清潔なトイレがある、って考えていいんだね! そういうところのトイレは高くても使う人が多いから、魔物狩り屋の副業として、トイレの管理をやる人もいそうだよ!」

「うんうん、有料でもちょっと高くても、綺麗なトイレ使いたいもんね。ファンタジー世界で冒険の旅に出る話はいろいろあるけど、トイレのことまで書いたるやつって少ないもんね。書かれとらん奴は、みんなどうしとるんだろ」

「私のかつての物語の時も、トイレのことなんて全く描写はありませんでしたよ。当時はどうしてたんでしょうね。実際に物語を動かしてみると、考えなきゃならないことってたくさんありますね。でも、楽しいですね」

 三人の表情は明るかった。だが、設定を考えてばかりで、疲れてもきていた。

「ところでさ、おなか空かん? うちら昼ごはん食べとらんのじゃない?」

 ユージナが胃のあたりを撫でながら言う。

 真っ暗な場所から、部屋を設定し、あれこれを設定し、ここまで来た。

 だが、その部屋は宿屋のミーティング室であり、自分たちはそこの宿泊客であり、昼頃までミーティングをして、それから森に魔物退治に来た、そういう設定になっているはずだ。

 ということは、昼食は食べていないことになる。

「確かに、さっき水は飲んだけど、あいもおなか空いてきた気がする~! この世界で水以外の物、まだ口にしてないもんね?」

「宿屋で夕食をお願いしましたから、用意してもらっているはずですよね。ここらで、帰ってみますか? どんな食事が出るかは……我々が設定するより、宿屋にお任せしてみます?」

「そうだね。あいたち、設定ばっかり考えて疲れたし。どんな料理が出てくるか楽しみじゃない?」

「うん。じゃあ、行こか」

 まだ日没というほどではないが、その時刻に近づいてはきている。

 三人は、宿屋に戻ることにした。


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