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オリキャラのキャキャキャ1  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ1 第一章
1/50

第一章 01 プロローグ

第一章


  01


「あと何十年、ここにいなきゃいけないんだろう」

 真っ暗な世界の中、誰かがつぶやいた。

「永遠にさ。この物語は止まったままなんだ」

「もうすっかり、書く気をなくしてしまったんだからね」

 ここは、書き途中で自然消滅した物語の中。

 書いていたのは、作家、ではなく、作家を夢見て物語を書き始めた、十代の若者。

 けれど途中まで書いて、やる気が続かなくなって終了。

 久々にやる気を出して、新たに設定を作って、設定とキャラだけ作って満足して終了。

 そんなことを繰り返すうち、学生の時間は過ぎ、作家になるなどという夢を見ている場合でもなくなり、描かれなくなった物語は、中断したまま。

「それならいっそ、完全に消し去ってくれればいいのに。黒歴史として心の底に封印してるんでしょう」

「思い出すのは恥ずかしいけど、でも切り捨てることもできないんだよ。当時は夢中になって考えていた、当時の自分と密接に結びついた、自分の一部だからね。日記みたいなものだよ」

「だからって、永遠にここで止まっているのはつらいなあ」

 真っ暗な中、いくつもの声が自問自答のように語り合う中、一つの声が響いた。

「……ねえ、自分たちで動かしてみない?」

 少しの沈黙の後、別の声が答えた。

「……何を?」

「物語を。世界を。止まっていた世界を、自分たちで、動かしてしまおうよ!」

 ざわざわと、混沌とした闇に波紋が広がる気配がした。

「そうだね。こうしていても何も変わらないし、もう飽きた。どうなるかわからないけど、ちょっと動かしてみよう」

「じゃあまず、みんな、どんな姿をしているの?」

 その声が響いた後、真っ暗な世界の中に、三人の人影が浮かび上がった。

 一人は、短い黒髪の、着物のような服の少女。

 一人は、銀髪の長髪の、魔導士風のローブの男。

 一人は、波打つ金髪の、水着のような服の女。

「三人だけ? もっといたような気がするが」

 黒髪の少女が言う。

「心の底に沈んでしまっているんですよ。この三人が、最も思い入れがあったのでしょうね」

 銀髪の男が言う。

「どうしてさっきと口調が変わっているの?」

 金髪の女が言う。

「作者の内面に渦巻いている妄想が、『キャラクター』として形を得たので、その姿形に見合った口調が設定された、ということでしょう。

 私の場合、一人称が『私』で物腰穏やかな魔導士風の男キャラが作者の好みのタイプなので、こういう口調になったのでしょね。というか……」

 三人はお互いを見つめあった。

「中二病くさっ!!」

 三つの声が重なった。

「仕方がないですよ、実際に中学二年生ぐらいに書いてたんですから。当時好きだったアニメやゲームの影響も大いに受けているようですね」

 銀髪の男が言う。

「あなたはいいわよ、私なんかなにこれ、露出狂? ビキニ鎧の女戦士、ではなくて魔法使いだけど、こんな格好でうろついてたら風邪ひくわよ。それにポニーテールでもみあげだけ束ねずに垂らしてるのも中二臭いわ。

 あなたはちょっと和風よね」

 金髪の女が、黒髪の少女に言う。

「私は、当時和風ファンタジーにはまっていたからこうなのだろうな。男装して日本刀で仇討の旅に出る、という設定だったようだ」

「ミニスカみたいな太ももまでの着物にニーソックスはいてどこが男装なのよ」

「……作者に言っていただきたい」

 三人は顔を見合わせた。

「なんにしても、自己紹介をしてみませんか。名前が無くては会話も不便ですし」

 銀髪の男の提案に三人はうなずき、金髪の女が言った。

「それもそうね。私は、リユル・リュエントって言うの」

「ラ行が多いような」

 そう言う黒髪の少女に、リユルが答える。

「しょうがないわよ。当時はそれがかっこいいと思ってたんでしょ」

「名前にも当時の好みが反映されますよね。日本語っぽくない響きを探して、こういう風にすると異世界っぽいとか、一生懸命考えたんですよ。

 私はヴァルルシャ・ヌイードシャドラと言います」

「ラ行おおっ!」

「濁音おおっ! てか長っ」

 ヴァルルシャの名前に、女二人が言う。

「ラ行、濁音、拗音がかっこいいというのが高じていったんでしょうね。ちなみに、一区切りするならヌイー、ドシャドラ、ではなく、ヌイード、シャドラですからね」

「そんな忠告がいるほど長い名前にしなければいいのに……。

 私は、ユージナと言う」

 黒髪の少女が言った。

「あら、あなたの名前は短いのね」

「長い名前に飽きたんだろう。ちなみに漢字で書くと字の有る名……有字名ユージナだ。ちょっと和風入ったファンタジーが当時のブームだったようだからな。

 ストーリー的には、私はさっきも言った通り、仇討の旅に出る話なのだが、皆はどうなのだ」

 ユージナが言う。

「私はストーリーらしいストーリーは無かったと思うわ。国内でトップクラスの魔法使いで、いろんな人から一目置かれてて、その美貌とセクシーな服で人々は魅了され……って自分で言ってて恥ずかしいわ。そういう設定と、断片的な妄想があっただけだった気がするわ。恥ずかしくて細かいこと思い出せない」

 リユルが言いながら頭を押さえた。

「私はリユルさんより後に作られたキャラクターのようですね。世界観ももう少し考えられています。

 世界は神によってつくられ、人々はその世界で暮らしていましたが、魔王が現れ、魔物たちによって人々は脅威にさらされました。私は魔王を倒しに行くパーティーの一人だったのですが、戦いの最終面、魔王や魔物もまた、神によってつくられたことを知り、私は衝撃を受け……という展開が想定されていたのですが」

「それ普通にキリスト教でいう悪魔の立ち位置じゃないの」

 リユルの言葉に、ヴァルルシャはうなずく。

「ええ、だから途中で書くのをやめたんです」

「十代の子供が考える衝撃的な結末などそのようなものだろうな。事実は小説より奇なりというか」

「事実、というか、現実をまだそんなに知らないですからね」

「そして、現実に追われ始めると、小説家になるなどという夢を忘れていくというわけだ」

 ユージナの言葉に、リユルが叫ぶ。

「忘れられて放置された私たちはどうなるのよ!」

「だから私たちはこうして動き始めたんじゃないですか」

 三人はお互いを見つめあった。

「しかし、現れたのは私たちだけだし、あたりも真っ暗なままだが、この状況は打開できるのか?」

 そう言うユージナに、ヴァルルシャが答える。

「作者の心の中に渦巻いている物語の断片を、我々が具体的に現すのです。具現化するのです。我々が新たな設定を作れば、世界が確定していくはずです」

「じゃあとにかく、座りたいわ。椅子が欲しいの。出てこないかしら」

 リユルが言ったが、あたりは暗いまま、三人が立っているだけで何も変化がなかった。

「何も出てこないじゃない」

「その椅子は、どんな材質でどんな形だ? 私は和風の世界観だが、あなたたちは中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界観なのだろう。我々三人が座ってもおかしくない椅子、でなければ現れないのではないか」

 ユージナの推測に、ヴァルルシャがうなずく。

「確かに……。椅子と一言で言っても、形状はいろいろですからね。工業が発達していて量産品がある世界なのか、職人が手で作る家具しかない世界なのか、そういったことも決める必要がありますね」

「和風ファンタジーと中世ヨーロッパファンタジーのキャラが同一世界にいるって、どうするのよ」

 リユルが投げかけた問いに、ユージナが答える。

「それは、ヨーロッパ風の国もあれば和風の国もあり、出身地が違うということで、いいのではないだろうか。私は仇討の旅に出る設定だから、異国をさすらうという選択もありかもしれない」

 ユージナの言葉に納得し、三人は椅子と、それからテーブルの設定を考え始めた。

「では、どの場所に洋風の椅子とテーブルがあってもおかしくない世界観ということですね。材質は、やっぱり木がいいでしょうね」

「そうよね。木ならどちらの国にあってもおかしくないし。工業が発達してるとしても、職人が手作りした家具があるのは不自然じゃないからそういう形状がいいわよね」

「余計な装飾が着くとその装飾の設定も問題になるだろうな。飾り気のない、シンプルな形状がいいだろう」

 三人は、机と椅子をイメージした。

 木でできた、三人が座るのにちょうどいいぐらいの、シンプルな机と椅子。

 すると、イメージ通り、それは現れた。

 丸い木製の机に、椅子が三脚。

「できたできた、やったわ! これで座れるー!」

 リユルがまず座り、その隣にユージナ、反対側にヴァルルシャが座った。

「これで一息つけますね。となると、お茶など欲しいところですが、それもまた、食器や飲み物の種類を設定しないといけませんね」

 そうね、とリユルがうなずきかけたところで、ユージナが手を挙げた。

「その前に、いいだろうか。私はこの口調を何とかしたい」

 リユルとヴァルルシャがユージナを見る。

「男言葉の男装少女、を設定された私だが、実際にしゃべってみると、しゃべりづらい。これは私の自然体ではない」

「それを言うなら私もよ! 今時こんな、『なのよね』みたいなしゃべり方する女、よっぽどの年配しかいないわよ! フィクションの女だけよ、若くても『わよね』とか言うのって」

 リユルが賛同した。

「新たに設定を作って良いということなら、私の口調も変えてしまっても良いはずだな。というか、三人とも一人称が『私』なのもまぎらわしいだろう」

 そう言うユージナに、ヴァルルシャもうなずく。

「確かに。キャラ設定において口調でキャラを見分けられるというのは大事な要素だと思います。どうしましょう、『私』をお二人のどちらかが使われるのなら、私が一人称を変えましょうか」

「いや、一人称『私』の男は作者の好みだから変えない方がいい」

 リユルとユージナは声をそろえて言った。

「そもそも、男の一人称は『私』『僕』『俺』、標準でも三パターンあるし、漢字表記か、かな表記かによっても印象が変えられるのに、女の一人称は少なすぎよ!『私』か『あたし』か、書き方を変えても発音は三文字だし、watashiとatashiじゃwが一個あるかないかの違いだもの、ほぼおなじよ! 『あたし』を『妾』と書くこともあるけど、これメカケとも読むじゃない。なんかふしだらな感じでやだわー。ふしだらな格好してる私が言うのもなんだけど」

「女キャラが『僕』や『俺』を使うのも、いきがってるというか、男の真似、後追いをしてるようで、『女の一人称』とは思えないのだよな。男装してる設定の私が言うのもなんだが」

 リユルとユージナは顔を見合わせた。

「じゃあもう、いっそ口調と共に一人称も設定してしまわない? これから新しく始めるんだもの、リセットしてやりなおしちゃいましょうよ」

「それがいいな。では私は一人称をどうしよう……。女が使っても不自然じゃないもの……『自分』とか?」

「なんかちょっと体育会系よね。それに発音は『わたし』と同じ三文字だし。『ぼく』や『おれ』みたいに、二文字で言える一人称が女にもあるといいんだけど」

「『わし』『うち』『おら』……ちょっと地方っぽくなるけど、このぐらいか? というか、我々はどんな言語で話している設定なんだ?」

「そういえば、『キャラ』だの『ファンタジー』だの外来語も普通に使ってるわね」

 話が女の一人称ではなくなったので、ヴァルルシャも会話に参加した。

「私が書かれた物語では、外来語もなんとか日本語に直して、文章の雰囲気を統一しようとしてましたね。舞台が中世ヨーロッパ風なんだから、現代日本で使われているカタカナ語なんて出したら台無しになると思って。それが面倒なのもあってか、途中で終了しましたけど」

「ヴァルルシャなんたらかんたらという名前が通用しているのだから、そういう発音が不自然じゃない世界、という設定にしたかったんだろうな」

「なんたらかんたらでなく、ヌイードシャドラです。ヌイードは草木とか緑、シャドラは輝きの意味があります」

「舞台が中世ヨーロッパでも、書くのも読むのも日本人じゃない」

 リユルの言葉に、ユージナが手を打った。

「それだ! 異世界の言語を、現代日本語に訳しているという形にすればいい。私は異国の出身だから、少し訛ってることにすればいい」

「あら、椅子の時もそうだけど、私たちが主であなたが従、みたいな感じでいいの?」

 ユージナが答えた。

「うちの設定でも、うちらの住んでる東洋の島国に異国の人間が来てる描写はあったんだよ。作者は根本的に中世ヨーロッパ風ファンタジーが好きなんだと思う。ガチの和風時代劇よりは、ファンタジー世界に和風キャラがいて『東洋人』ってキャラ付けされてるのが好みなんだよ」

「さっそく口調が変わりましたね」

「なんか前より生き生きとしゃべってていいわね。私も一人称どうしようかしら……ユージナが訛ってる設定で『うち』を使うなら、私まで同じようにはできないし。でも私も二文字の一人称でしゃべりたいわねえ……」

「じゃあ、いっそ新しい一人称を考え出しちゃえばいいんじゃない?」

 口調の変わったユージナが提案した。

「いいわねそれ。どうせファンタジーですもの。現代日本の風習に合わせる必要はないわ。でもあんまり変な言葉だと、一人称だと認識されないと困るし。既存の一人称をちょっともじるとか?

 寒い地方だと、『われ』が『わ』になるっていうけど、わたし……わし、おいら……おら、あたし……あっし。三文字の一人称が短くなるのって有りよねえ。

 あたし……あたい……あい?

 一人称『あい』はどうかしら? 響きがそんなにごつくないし、英語のIにも通じるし」

「うちは、それいいと思うよ」

 ユージナが答えた。

「私も、面白いと思います」

 ヴァルルシャも言った。

「じゃあ、これから私の一人称は『あい』でやってみるわ。

 あい。あい。なんか言葉が軽くなった気がするなー! 三文字で一人称言ってるの重くってさ! 男が『私』って言うのは改まった席とか、丁寧なしゃべり方の人間とか、そういう意味付けができるのに、女は『私』ってしゃべるのが普通とされてるんだもん。不自由だよねー。これからはもっと自由にしゃべってやるんだから」

「お二人とも、口調が自由になって、表情も明るくなりましたね」

 ヴァルルシャが笑顔を見せる。

「ああ、うちらだけ盛り上がっちゃったけど、ヴァルルシャはそのままでいいのかな? さっきうちら、きみはそのままでいいって決めちゃったけど、やっぱこういうのは本人が納得してないと」

 ユージナが言い、リユルが続けた。

「確かに、あいたちが決めることじゃなかったよね。ていうか、一人称が決まったら、二人称もすんなり出て来たね、ユージナ」

「私はかまいませんよ。こういう口調の男性は珍しくないですし、自分のキャラにも合ってます」

「そう? ならよかった。ところで、のど乾かない? さっきもお茶って話になったけど、たくさんしゃべることがあるから、あい、のどが渇いたわ」

「そうだね。お茶の設定どうしよう。器も、グラスとか陶器とかいろいろあるよね。茶葉の種類とか、火で煮出すんなら台所の設定もいろいろ考える必要が……うちはもう、ひとまず水でもいいと思うけど」

「私も水でかまいませんが、水が貴重品という世界観の方はいませんか? 水よりも葡萄酒の方が安いから葡萄酒を飲む、という世界観もあるでしょう」

「そうか……現代日本でも飲食店で水はタダでもらえるけど、外国だと有料だったりするもんね。自分の中では普通と思っとっても、別の世界ではそれが常識とは限らんのだなあ」

「飲み物一つ出すのに、こんなに苦労するなんて……あいもう何でもいいから飲みたいよ。水が高級品だろうと、無いわけじゃないんだったら出しちゃっていいよね。どこかから入手できたってことで。入れ物も、机が洋風だし、ガラス製の水差しとコップがある世界観でいいよね」

 リユルの言葉に二人はうなずき、机の上に、そのように水差しとコップの存在を設定した。

 それは、現れた。

 机の上に、水をたたえたガラスの水差しと、コップが三つ。

 コップに注いだ水を飲み干し、リユルは一息ついた。

「はー! 座って水飲むだけでこんなに疲れるとは! これから世界を設定するとなるとどんだけ決めなきゃならないの!?」

「確かに疲れますが、でも面白くないですか? 止まっていた世界が、自分たちが、こうして動き出せること」

「うちは楽しいよ。一人じゃ会話もままならんかったしさ。相手がいると、設定も固めやすいし」

「ユージナは一人称だけじゃなく、会話もちょっと訛るようになったね」

「リユルとかぶるからだよ。一人称で区別しても、一人称を言わん時に区別がつかんと困るからさ。何弁、って具体的に決めるよりは、うちは東洋人で、そっちの世界の言葉をしゃべってるけど、ちょっと標準語になりきれん、ぐらいでいいかなと思って」

「口調が変わると、なんか打ち解けやすさまで変わった感じがするね。ねえそういえば、自己紹介の時に忘れてたけど、みんな歳いくつ? あいは十九なんだけど」

 リユルの言葉に、ユージナとヴァルルシャは驚いた。

「十九!? もっと年上かと思った! うち十八だよ!?」

「ユージナ十八なの!? あいと一個しかかわんないじゃん!」

 女二人がお互いを見比べる。リユルは、背が高くてスタイルもよく、露出の高い格好が映える。顔も大人びていて、二十代と言っても差し支えなかった。

 ユージナは、東洋人としてはそこまで小柄でもないが、リユルと並ぶと頭一つ分小さく、少年ぽい顔つきなので余計に歳の差があるように見える。

「確か、あいのキャラって作者が中学生の時に作ったんだよ。中学生には十九歳ってとっても大人に思えたんだろうね」

「うちは作者が高校生の時に作られたから、十八歳で年相応の外見しとるんだろうね」

「そういうところも我々は作者の人生とシンクロするんですね。ちなみに私は二十一です。私はリユルさんより後でユージナさんより前、中学から高校にかけて作られたキャラだったはずです。やはりその年齢だと、二十代は落ち着いた大人に思えるんでしょうね」

 そう言いながら、ヴァルルシャは空になった皆のコップに水を注ぎなおした。

「ところでさ、こういうのって、何か覚えがあるなと思ったんだけど」

 リユルが言い、二人が「何?」という顔をする。

「……『座談会』」

「ああーーーー!!!!!」

 皆が叫ぶ。

「物語は全然書いとらんのに、キャラだけ設定して、キャラ同士会話させて、それで満足しちゃうやつだー!」

「本のあとがきでキャラが後日談を語る、みたいな感じで自キャラに会話させるやつですね! 本どころか物語が全く完結していないのに!」

「そうそう! すでに読者がたくさんいる設定で、裏設定とかこっそり暴露して読者が驚いてる前提でキャラが会話続けるとか! 読者なんかいないのに!」

 三人は身もだえした。

「やっぱりどの時代でもやってたんだねー。座談会ばっかり書いて満足してないで本編を書き進めろって言いたいわ」

 机に突っ伏すリユル。ヴァルルシャが言う。

「だから今回こそ、物語を完成させましょう! こうして話しているだけで満足してはいけません!」

「ほんとだね。どんな話がいいだろう。でもその前に、いつまでもこんな真っ暗なところで会話しとるのも嫌じゃない? 机と椅子が出てきたんだから、部屋、ってのも設定したらいいと思うんだけど」

 ユージナの提案に、二人はうなずく。

「そうですね。かつての座談会も、こんな真っ暗な空間でやっていたわけではないですし。かといってどんな場所だったかと言われると、何の設定もなかったと思いますが。我々が座談会をする場所は、どんな空間がいいでしょう?」

「座談会って言うのやめて。……そうね、部屋となると、建築物の設定が必要だよね。レンガ造りとか、土壁とか、細かく考えるとまた長くなりそ~~! 机と椅子が木なんだし、部屋も木でよくない? とりあえずこの建物は木造建築、ってことで」

 リユルの意見に、ヴァルルシャもユージナも異論は無かった。

「しかし、光源はどうします? 窓から太陽光を取り入れるなら……太陽光のある世界でいいですか? 太陽がある世界観だとしても、窓からどんな風景が見えるかは舞台によって変わりますし」

「そうか、窓だとそういう設定がいるね。じゃあ窓無しの部屋……にすると、真っ暗だから明かりがなきゃいかんけど、その場合は明かりの設定がいるわけか」

「わー! 部屋一つ設定するのも大変! 窓の外……下手に町並みが見えちゃうと後々困りそうだし……」

 三人は頭を抱える。

「ひとまず、森、というか、木々でどうでしょうか。部屋も机も木なわけですし、木が手に入りやすい、木がたくさん生えている、という設定は不自然ではないでしょう。町の喧騒を聞こえなくするために、森の中の一軒家、みたいな設定にしておくのはどうですか。町の設定はこの後決めるということで」

「うち、それいいと思う」

「あいも賛成」

 ヴァルルシャの提案に二人がうなずき、部屋の設定を決めた。

 狭すぎず広すぎず、三人がゆったり過ごせるぐらいの広さ。壁も床も天井も木で、壁の一方は窓が開いている。窓からは昼の日光が木々を照らしているのが見え、さわやかな風が部屋に運ばれてくる。部屋の真ん中に自分たちの座る机と椅子があり、窓の反対側の壁には扉が一つある。

 真っ暗だった世界に、そのように、部屋が現れた。

「ふう、部屋完成! うちらの世界が一つずつ出来上がってくね!」

 ユージナが椅子の背もたれに体を預けて部屋を眺める。床ができたことで、椅子がギイ、と音を立てた。

「扉を作っておけば、扉の先の設定は後回しにできますからね。部屋ができて落ち着いたところで、全体的な世界観を決めませんか」

「そーね。机の材質とか細かいことばっかり決める前に、物語の世界観って大事だよね。どうする? あいはさっきも言ったように、あいのキャラだけ有ってストーリーらしいストーリーは無いの」

「私もさっき言ったように、魔王を倒しに行く壮大な物語がイメージされていたんですが、魔王の正体など、ラストで驚天動地の真相が! というのをやろうとしても大した真相を思いつけなかったので、書き途中のまま終わってしまいました。ユージナさんのかたき討ちの旅なら、ストーリー性があっていいんじゃないですか?」

 リユルとヴァルルシャに見つめられ、ユージナは首を振る。

「かたき討ちって結局、相手を殺して恨みを晴らすか、相手を許すか、って話になるでしょ? 正直もう、そういう重い設定は背負いたくないわ。十代の頃ってやたらとキャラに重い過去を背負わせたがらん? 悲劇のヒロインに陶酔したいお年頃というか……うちそういうの疲れたでさ」

 ユージナの言葉に、二人はうなずく。

「それに、かたき討ちは昔からいろんな話に使われるパターンだでさ、よっぽど目新しいことしんかぎり読んでても面白ないよ。そんで致命的なことに、作者はバトル書くの苦手なんだわ」

「ああー確かに! 私の時も、魔物との戦闘シーンにさしかかったら、うまく書けなくて筆が止まってましたよ!」

「うちは日本刀で戦う設定されとったけどさ、小説を書くのが趣味、なんて学生はインドアで運動嫌いだもんで、刀の使い方とかもようわかっとらんのよ。かたき討ちってことは切りあって流血沙汰にもなるはずだけど、どこをどう切ったら致命傷とか、そういう血生臭い話も書かないかんわけだしさ。プロはそういうのを資料集めてきちんとやるんだろうけど、そこまでの情熱が無いからプロになれず話も放置されたんだわ」

「確かに、あいも、魔法で魔物をドーン!と退治するようなイメージはあったけど、作者にひいきされて能力値の高すぎるキャラがなんの苦労もなく敵を倒す話なんか、読むのも書くのも面白くないもんね。それにしてもユージナ、訛りが強くなってない?」

 リユルに言われて、ユージナはうなずいた。

「何弁と設定しないようにと思っとっても、作者とシンクロしとるでさ。作者のなじみのある方言が出るんだわ」

「我々が新たに物語を設定する、と言っても、我々も作者の創作物ですからね。作者の頭の中にあるものしか、この世界には現れないのでしょう。物語を投げ出した十代の時より作者の引き出しが増えているといいんですが。しかし、仇討をしないなら、我々の物語はどうしましょうか」

 ヴァルルシャの言葉に、皆は考え込む。

「うちは、かたきを探しながら旅をして、誰かの用心棒をしたり賞金首を倒したりしてお金を稼いで、って設定されとったけど、それで生計が成り立つってことは、そんなに治安が悪い世界かって話になるし」

「でも、旅をするって展開は悪くないんじゃない? 何か目的があった方がいいし。それも大きな。となると、やっぱり魔王とか?」

「しかし魔王は私の時に書き途中で投げ出されましたからね……」

 三人は悩み、手持無沙汰なので水を飲む手が進む。

 いい案が出ないまま、時間だけが過ぎて行った。

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