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第五章 砂上の信念

 まだ強くないはずの春の太陽が、背を焼いているように感じた。握った二振りの愛刀が、日の光を反射して痛いほどにまぶしい。屋上のふちに足をかけて、煌太は道を見下ろした。

「……あの」

「何だ」

 構えている煌太の隣には、燈瑞が立っている。

「やっぱり……恥ずかしいです」

 そして、燈瑞の手には、青い紐が握られていた。その先端は、煌太が着ているハーネスにつながっている。

「お前の提案だろうが」

「いや確かに飛び出さないよう訓練したいとは言いましたけど」

 煌太の視線の先には、まだ無人の道がある。じきに、先行している班がマジモノを追い込んでくるはずだ。

「……ふー……」

 改めて、息を吐いて精神を統一する。だが、マジモノが近付いているという事実は否応なしに煌太の心臓を騒がせた。

 分かっているのだ。命令違反が悪いことも、独断専行が危険なことも。それでも、血を見る時間は少なくしたいのが本音であるし、一刻も早くマジモノに引導を渡したいのも正直なところだ。

 ならば――――

「急くな、【アラハバキ】」

 紐を引かれて、煌太ははっとして身を引く。気付けば体は飛び降りる準備を終えていた。歯を鳴らし、煌太は首を振る。

「……自制心が足りないな」

「分かってます!」

「そんなお前に一つ」

 燈瑞は紐を緩め、紐とハーネスをつなぐ金具を外した。

「考えているのはお前だけじゃない」

 燈瑞が煌太の背を軽く押す。無線から連絡が入ったのは、その直後であった。



「お帰り、どうだった?」

「犬のしつけの大変さが分かった気がする」

 煌太をソファに放り投げ、燈瑞は長い溜息をついた。煌太は青白い顔で気を失っている。事務所の玄関には、血に汚れた煌太の得物が転がっていた。

「おかえりなさい、ヒスイ。ホットミルクでいいですか?」

 ウズメが、ぬるめの茶を一杯デスクに置く。燈瑞はそれをあおると、サムライのポーチと剣帯をデスクに置いた。

「ああ、頼む。ついでにそいつにも熱い茶を。じきに気が付くだろう」

「【ムラクモ】、これは?」

 煌太の刀の前にしゃがみ、ヤマブキが燈瑞を振り返る。

「俺がやっておく」

「はぁい」

 ウズメがホットミルクを用意する間、燈瑞は煌太の刀を磨いて鞘に収めた。手入れの行き届いている刃は、血糊を拭えばすぐに美しい刃紋が見える。煌太が丁寧に手入れしているのだろう。

「うう、ん……?」

 煌太が呻き、ウズメが熱い茶とミルクをローテーブルに置く。

「起きたか。茶にしよう」

「う……はい……」

 煌太は体を起こし、頭を振った。

「……一つ、聞いておきたいことがある」

 煌太の向かいに座り、燈瑞はカップを取った。

「どうして突然、訓練なんか」

「……飛び出すのさえ直せれば、俺は俺の考えを貫けると思ったんです」

 煌太はふいと燈瑞から視線を逸らす。啜った茶が思っていたよりも熱く、舌先が痛んだ。

「何つーか、色々考えたんすけど……結局、俺が飛び出す理由は変えられねえし、変えるつもりもありません。でも、やっぱり飛び出す癖はどうにかしたくて……」

「……考えた結果が迷子紐か」

 燈瑞は苦笑した。煌太は「言わないでください」と俯く。

 ウズメが、食器棚の下から菓子の袋を持ってきた。爆ぜた米のスナック菓子が、ざらざらと皿に注がれる。

「……何ですかこれ」

「ポン菓子です。知りません? スーパーで安売りしてたんですよ」

「また懐かしいものを買ってきたな……」

 煌太は緑茶をすすりながら、菓子を取る。ウズメもエプロンを取って煌太の隣に座った。

「ところで煌太」

「はい」

「ミズチというマジモノを知っているか」

 燈瑞の言葉に、煌太ではなくウズメが背筋を伸ばした。

「……いいえ」

「半年前のダウンタウン襲撃は?」

「それは、もちろん。俺その直後採用なので、初日の研修からしつこいくらいに事例として聞かされました」

「ミズチというのはな、そのときのマジモノの名前だ」

「……えーと」

 煌太は茶碗を置いて頬を掻く。

「……マジモノに、名前がついてたってことっすか」

「ああ」

「はあ、それが?」

「お前は、そのマジモノを斬れるか」

 煌太は視線を巡らせ、眉根を寄せる。

「斬ります」

「……ならいい」

 燈瑞は空になったカップを台所へ置きに行った。

「……あの」

 膝の上で、煌太は拳を握る。長い息を吐いて決意を固め、勢いよく燈瑞を振り返った。

「相談があるんでっ痛ってぇ!」

 振り返った先に、丁度立ち上がったウズメの肘があった。鼻を打ち、煌太は言葉を切って鼻を覆う。

「ご、ごめんなさい大丈夫ですか?」

「大丈夫……」

「……お前猪年か?」

「猪突猛進で悪かったですね!」

 涙目で煌太が言うと、燈瑞は笑みをこぼした。

「で、何だ相談とは」

「……今度でいいです」

「今言っておけ。Bダッシュは維持することが大事だ」

「……ゲームするんすね」

 煌太は座り直し、改めて真面目な顔を作り直す。

「俺、血液恐怖症なんですけど」

「知っている」

「実はその……俺が飛び出しちまうのは、それだけじゃなくて……」

「知っている」

「それで……えっ?」

 煌太は顔を上げて目を瞬かせた。燈瑞は煙草を咥え、「何だ」と煌太を見やる。

「気付かれていないとでも思っていたのか?」

「……はい……」

「血が怖いだけの奴が積極的にサムライの世界に飛び込んで、前線に飛び出すわけがないだろうが」

 煙を吐き出し、燈瑞は苦笑する。

「ただまあ、それを俺に言おうとしたことは、進歩と言えば、進歩か」

 ぼっ、と煌太の顔が赤くなる。俯いて拳を握ったまま、煌太は肩を震わせた。

「……何かすっげぇ恥ずかしい……」

「その、お前の信念だか矜持だかは否定しない。それはお前にとって一番大事なものだ」

「……そっすか」

 煌太はややぬるくなった茶を一気にあおった。

「……その、俺の、信念? それの話なんです。……その……支部でこんなこと言うとハブにされそうですけど、俺、マジモノに同情してるんです」

 空になった煌太の茶碗に、ウズメが二杯目の茶を注いだ。

「ありがと……で、えっと、マジモノに、というか、マジモノになっちまった人に同情してて、そりゃ、自業自得ってところはあるかもしれないけど……人の姿を失って、暴れまわることしかできなくなった人を、早く楽にするのも、サムライの仕事じゃないかなって……だから、サムライの安全第一で時間をかけるのは、否定はしませんけど、肌に合わなくて……」

「…………で?」

「自制心が足りないっては分かってるんですけど……俺の考え、間違ってますかね」

「『間違っていない』」

 ぱっと煌太の顔が明るくなる。

「……と、言って欲しいんだろう。否定しないとは言ったが肯定するとは言っていない」

 だが、続いた燈瑞の言葉は、煌太の顔から笑顔を消した。ウズメが音もなく立ち上がり、奥の部屋へと姿を消す。それを見送ってから、燈瑞は煙草を灰皿に置いた。

「煌太」

「はい」

「……俺の意見だ。サムライの総意ではなく俺一個人の意見として聞け」

「はい」

「俺はマジモノに対して、いかなる感情も抱かないよう心掛けている」

 消えた煙草の先から、細い煙が立ち上る。

「アレは、討伐できる災害だ。台風に嘆く人はいても台風を憎んでもどうしようもないだろう。まして憎しみ、怒りはマジモノの力になる。だからこそ俺は、マジモノにではなく、被害者に心を向けることにしている」

 眼帯に手を当て、燈瑞は目を伏せた。

「サムライは護る存在だ。そして、理不尽に命を奪われた被害者の無念の代行者だ。……だから、俺はマジモノに同情しない」

「……やっぱり、俺変ですよね」

「人の意見に流されるのが必ずしもいいとは言えない。自分がそれでいいと決めたのなら、肯定なんぞ欲しがらずに貫いてみせろ」

 燈瑞は菓子を口に入れ、煌太の顔色を窺った。煌太はローテーブルを睨んだまま、唇を引き結んでいる。

「結局肝心なのはな、お前はどうしたいか、だ。好きなだけ悩め。だが俺は相談に乗るのは下手だぞ」

 やれやれと首を振って、燈瑞は立ち上がった。そして奥の部屋に向かう途中、大きな手で煌太の肩を叩く。

「それと、もう一度言おう。考えているのはお前一人じゃない」

「……分かってますよ」

 煌太は唇を尖らせた。



 刀、それも日本刀を手にするサムライ達は、養成校時代からいくつかの流派に分かれている。剣、弓、長物、銃など武器の種は多々あれど、その全ては必殺の一撃を持つ、文字通りの武術だ。サムライとして正式に働き始めたのちも、月に二度ほどは流派ごとに稽古の時間が設けられていた。

 煌太をはじめ、二刀流のサムライの多くは二天(にてん)(えん)(しょう)流に属していた。宮本武蔵の二天一流から派生した、二刀流に特化した流派である。握る刀は左右で長さが異なり、機動力と防御力に特化した二刀流の剣士は、小型のマジモノが相手の現場で重宝された。

 アンダーシティ支部に属する篠原威斯(しのはらたかし)も、二天燕翔流の門下生である。

「遅い!」

 木刀同士がぶつかり、床に転がる音がした。

「それでも貴様らアンダーシティ支部のサムライか!」

 支部の地下道場に、力強い女の声が響く。

「機動がウリなら、捉えてみせろ三下!」

 床に転がされているのは、まだ若いサムライ、威斯。その頭に木製の薙刀を突き付けるのは、利佳子だ。壁際で待機している煌太やほかのサムライが、首を竦めてその様子を見ていた。

「痛え……ありがとうございました……」

 威斯は体を起こし、木刀を拾って礼をする。利佳子は頷いて「精進しろ」と言った。

「次、煌太!」

「うぇええっ!?」

「やかましい」

 突然の指名に、煌太は思わず声をあげた。利佳子の手合わせの厳しさは重々承知している。

「あのぉ、百合さん……薙刀で二刀流の稽古に混ざるのは……」

「お前、マジモノに二刀流で戦ってくれとでも言うつもりか?」

「いやありがたいはありがたいですけど」

 煌太は諦めたように笑って利佳子の前に立った。

「……ま、お前の様子見もあるが」

「へっ」

「期待していた部分もある」

 もしや自分に、と煌太は利佳子を見やるが。利佳子の目は道場の入り口を向いていた。にぃ、とその口元が笑う。優しさの欠片もない獰猛な笑みに、煌太は背筋を凍らせた。

「入って来るといい。強者との手合わせなら望むところだ」

「……あんたに伝言があっただけなんだが」

 道場の戸を開き、燈瑞が顔を出す。サムライ達がにわかに色めきたった。

「それに、今は二天燕翔流の時間だろう。俺とあんたの手合わせは……」

「見たいです!」

 食い気味に煌太が言った。威斯が素早く煌太に駆け寄り、その襟首をつかんで壁際まで引きずる。

「是非」

 威斯も燈瑞を見上げて頷いた。燈瑞は唇を曲げ、利佳子へと視線を向ける。利佳子は壁に掛けてあった木刀を取って手招きをした。

「……五分。それ以上は時間を割かない。上にヤマブキを待たせている」

 燈瑞は一礼して靴を脱ぎ、道場に入った。腕時計と腰のベルトを入り口付近に置き、神棚の前に正座して礼をする。戻ってきた燈瑞に、利佳子が木刀を投げ渡した。

 二人は、互いの武器の間合いの外に立ち、一礼する。二人が武器を構えた瞬間、ぴりっ、と道場の空気が張り詰めた。

 ごくり、と誰かが唾を飲む音が、やけに響いた。

 先に仕掛けたのは、利佳子であった。まっすぐな一閃は、燈瑞の額へと振り下ろされる。燈瑞がそれを受け止めると、木刀とは思えない鈍い音が響いた。みしりと木刀が軋む。

 当たったら額どころか頭蓋まで割れそうだ、と煌太は自分の額を押さえた。だが燈瑞は涼しい顔で薙刀を弾き返した。利佳子の上体が持ち上がり、無防備な胴が晒される。だがそこにもぐりこむことはせず、燈瑞は距離を取って体勢を整えた。燈瑞が退いた瞬間、振り上げられた薙刀の下端、石突(いしづき)が、燈瑞がいた空間を斬り上げる。利佳子は舌打ちをした。薙刀の刃を床へ向け、利佳子も構え直す。

 わずか十秒。その間に繰り出された必殺の技は二発。サムライ達は既に、息遣いすら殺して観客になっていた。燈瑞も利佳子も動かず、五秒が過ぎる。

 燈瑞の右足が、わずかに右へと動いた。瞬間、利佳子は大きく一歩踏み込んで、刃を斜めに振り上げる。左側から、燈瑞の顎を捉える軌道だ。

 が――――燈瑞は木刀を逆手に持ち、左腕に刃を添わせてそれを受けた。刃が滑り、利佳子の攻撃は上方へと受け流される。だが、石突はまだ燈瑞の眼前にあった。

 燈瑞は、その石突付近を右手で握った。

「えっ!?」

 威斯が声をあげる。燈瑞はそのまま、片腕で薙刀の柄を捻り上げた。利佳子の顔が歪み、足が一歩退く。だが、空いた胴を燈瑞が逃すはずもなく、逆手に持ったままの木刀が、利佳子の腹に押し当てられた。

「……、」

「…………」

「………………参った」

 利佳子が苦々しく呟く。燈瑞が利佳子から離れて、利佳子は手首をさすった。ほとんど無意識に止めていた息を吐き、煌太は、一瞬の決着を目の裏で反芻する。

「百三十二勝、百三十敗」

 利佳子に向き直り、燈瑞が言う。利佳子は苦笑を漏らした。

「百三十勝、百三十二敗。……勝ち越せないなあ」

 燈瑞は壁の棚に木刀を戻し、まだ手首をさすっている利佳子に「大丈夫か」と言う。利佳子は「平気だ」と笑って見せた。

「で、伝言だが」

「ああ」

 何事もなかったかのように会話をする神器二人に、煌太は畏怖の視線を向けた。二人とも、息の一つも乱れていない。威斯に背を叩かれて、煌太ははっとして立ち上がる。

「そうだ、お前たち」

 利佳子がサムライ達に向き直った。

「野暮用ができたので失礼する。貴重な時間を減らしてすまない」

「いえ、そんな」

「それと……お前は刀の握りが甘い。腕の力が刀に上手く乗っていない。だが足の運びは上々だ。次、お前。お前は――――」

 利佳子は、手合わせしたサムライを順に見やって助言する。指導を受けたサムライは、頭を下げたのち、壁際に置いた手帳にそれを書き留めていた。

「最後、煌太!」

「えっ、俺やってな」

「頑張れ」

 にっ、と笑って利佳子が言うと、煌太は言葉を飲み込んだ。それから「はい!」と威勢のいい返事をする。利佳子は威斯を手招きすると、声をひそめた。

「多分、ゆくゆくはお前が面倒見ることになるだろう。あいつあの通り馬鹿だが扱いやすいからよろしく頼む」

「……はい」

 威斯も苦笑を漏らして頷いた。



 曇天から、雨粒が落ちてくる。

「……かぁーごめーかぁごぉめー」

 アンダーシティの裏路地に、わらべ歌が響いていた。

「かぁごのなぁかのとぉりぃはー」

 歌に合わせて、白い人型の紙が輪を描く。くるくると回るそれの中心には、赤黒い肉塊があった。

「いーつぅいーつぅでーやぁるー」

 歌うのは、その輪の傍らに立つ綾音であった。人型は光をまとい、やがて半透明の童の姿が浮かび上がる。手に手を取った童達は、肉塊を囲んで歌っていた。

「よあけのばーんにー……」

 綾音に駆け寄ったクチナシが、綾音に傘をさす。童の中の肉塊が、ぶるぶると震え始めた。傘を持つクチナシの手に自らの手を重ね、綾音は歌を紡ぎ続ける。

「つーるとかーめがすーべったー……うしろのしょーめん、だーぁれー」

 綾音の声に合わせ、童達が一斉に『だーぁれー』と問う。肉塊はさらに大きく震え、その上端がぱっくりと割けた。その裂け目が、口のようにぱくぱくと動く。

「……ざぁんねん」

 綾音の声に、童の笑い声が重なった。肉塊は一瞬硬直したのち、半液状になって地面に広がる。綾音は手袋をつけ、その肉塊だった泥の中から木の依代を取り出した。クチナシが差し出した布でそれをくるむと、綾音は童達に呼びかける。

「さあ、お帰り」

 童達は紙に戻り、綾音が開いた箱へと滑り込んでいく。

「……次に行きましょう」

「御意に」

 汚れた手袋をビニール袋に入れ、綾音は新しい手袋をはめた。

「全く、トウキョウの影とはいえひどい街ね。うかばれない魂ばかり。次は?」

「西へ。そちらにも反応がある」

 クチナシの示した方向へ向き、綾音は足を速めた。

「一刻も早く、救済しましょう……須らく」

 綾音の言葉には応えず、クチナシは綾音に従った。



 春の嵐とはこのことか、と煌太は苦い顔をした。風がうなりをあげて、建物の間を吹き抜けていく。さして強くない雨は、風にのってびしびしと顔に当たった。重くなってずり落ちたヘッドバンドを頭から外し、白くかすむ視界に目を細める。

「ご指名どうも、【クシナダ】さん!」

 風の音に負けないように、煌太は街角に立つ綾音に呼びかけた。綾音は振り返り、顔を明るくする。

「よかった、こんな嵐の中すみません」

「いえ。……でもどうして俺なんです?」

「おしゃべりは後で。クチナシ、案内して」

 クチナシが頷いて、「来い」と顎でしゃくった。風で飛ぶからか、襟巻は外している。煌太は、クチナシの左頬から首にかけてに『封』と黒い文字が刻まれていることに気付いた。以前は襟巻を口元まで上げていたので、見えなかったらしい。風で翻った布の下には、緑の左目がちらりと見えた。

「近い。走るぞ」

 クチナシに言われて、煌太は黙って頷く。クチナシが徐々に速度を上げ、煌太と綾音もそれに従って走り出した。

「あなたは私ときっと同じですから、お手伝いをお願いしたんです」

 走りながら、綾音が煌太へそう言った。視界の端の綾音を見遣って、煌太は怪訝そうな顔になる。綾音はにっこりと笑みを深めた。

「あなたはマジモノとなってしまった方の救済。私もまた、マジモノになった方の魂の安寧のために。虐げられるものへ心を砕くのは同じでしょう?」

「……、」

 煌太は「そうかな」と呻いて顔を前へと向けた。

「……ええ、そしてきっと、同志を喉から手が出るほど欲しているのも、同じですよ」

 綾音は穏やかに微笑んで、煌太の背中を追った。


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