里菜との再会
次かその次で立花視点の話は終わりです。
「里菜……」
それは中学時代に仲のよかった宮本里菜だ、零明高校に一緒に入学するはずだった。
「姉さん知り合いで?」
「友達よ……」
私は席を立つ。
「姉さん落ち着いてください!」
「下がっていなさい!」
里菜のいる席の目の前に行き話しかける。
「久しぶりね里菜……」
「立ちゃん……なの?」
里菜は驚きのあまり言葉がでない様子だ。
「久しぶりのあまり言葉がでないようね、生きていて嬉しいわ」
「立ちゃんなんだね……生きてたんだね……」
里菜の表情はどこか乏しい、昔はこんなんではなかったはず……
「事情は聞いているわ、あなたを連れにきたわ」
すると里菜の隣に座っている魔導士が、口を挟む。
「突然何ですかな?彼女はわが国が召喚した勇者、憎き魔族を倒すための作戦の最中ですぞ」
魔導士は不敵な笑みを浮かべる。
「その通り、作戦の邪魔をするなら罪に問われるとこになるぞ!」
騎士の一人が言う。
「里菜、それはあなたの本心かしら?」
「私は……」
里菜が何か言おうとすると魔導士が口を挟む。
「宮本さん私達の目的はわかっているはずですよね?」
「私は……魔族を倒すための遠征の準備をしているの……邪魔はしないで……」
里菜の目が虚ろになり、その発言は明らかに言わされているものだと察知した。
「里菜私を見なさい!あなたの本当の望みは何?」
これはおそらく催眠の一つだ、ならばその催眠を解いてやればいい。
「貴様いい加減に……」
「エミリウスの宴!」
騎士の一人を石に変える。
「石に……嘘だろ……」
残りの騎士がうろたえる。
「邪魔をしないでもらいたいものね、殺すわよ……」
三人を威圧し牽制する。
「くっ……貴様……」
騎士二人が戦闘体勢に入る。
「おやおや、なかなか奇妙な術を使いますな~」
「私今とってもイラついているから死にたくなければどくことをオススメするわ!」
魔導士は余裕な笑みを崩さない。
私を前にして随分と余裕な態度でいい度胸をしている。
「まぁまぁ落ち着いてくださいな~あなたは何か誤解をしている」
「誤解も何もあなたは私の敵であることに変わりはないわ」
「私は彼女には何もしていません、この目をみてください」
魔導士の目を見ると目が赤く光る。
「なっ……」
「彼女は自分の意思で私達とともにいるのです、私は彼女に何もしていないしあなたもそれを理解しここを引く。そもそも彼女はあなたの知り合いではない、他人の空似なのです」
男の赤く光った目はマインドコントロールの一種、おそらく異能だろう。
その目を見るとさぞ男の言うことが正しいように認識させるかのようだ。
「そんな催眠が私に効くとかナメられたものね!」
当然そんな力が効くはずもなくエミリウスの宴を発動し残り二人の騎士を石にする。
「なっ……」
男はそんな馬鹿なといわんばかりの表情だ。
「なるほど、その異能はAランクの洗脳眼。目を見た相手にこうだと認識させるもの、ただ効果の持続がずっとではないから適度にかけ直す必要があるというものね」
喰らったついでに王の書の異能で解析した。
「くっ、ダーク……」
「破魔軸!」
魔法を発動させる隙なんて与えさせない。
「魔法が……」
「ふふっ、私とやろうなんて千年早いわね~」
男はさっきまでの余裕な表情が一転して私に恐怖を感じているようだ。
「ば、馬鹿な……こんなことが……」
「さて終わりに……」
「ま、待ってくれ、私はヘクタープロテクター。連邦に所属する魔導士だ、私に手を出したことがわかれば上が黙って……」
ヘクタープロテクターと名乗ったその男にそれ以上喋らせることなく石化させた。
「その上とやらを潰しに探りにきたんだからなんて言ってもあなたには聞こえてないわね」
邪魔者を片付け里菜と目を合わせる。
「里菜私を見て、あなたの一番の望みは何?」
洗脳を解くには閉ざされた心の扉を開けてあげることだがどれくらいのブロックがかかっているかで解く難易度が変わる。
場合にもよるが目を見ながら心に語りかけるように相手に言葉を伝え、相手の望みを聞き拠り所になってあげるのが一番効果的だ。
もちろん洗脳仕返せば一番早いが友達相手にそんなことをしたくないのとそんなことをすると脳がヒートしてより負担をかけてしまう。
「私は……帰りたい……」
里菜の目から涙がこぼれだす。
「みんなと学校に通って毎日楽しく馬鹿やって……」
「大丈夫よきっと帰れるわ」
里菜は涙を流しながら自身の望みを語り始め、そんな朧げな表情の里菜の頭を優しく撫でる。
「でも帰りたければ奴隷のように戦えって……それに本当に帰してくれるなんて思ってないし……」
里菜の表情は暗くまだ少し虚ろだ。
「ふふっ、私はあなたを帰してあげられるわ」
「そんなの無理だよ……」
「あなたの目の前にいるのは誰?あなたを何度も助けてあげたの忘れたかしら?」
里菜の瞳に生気が宿り始める、もう少しだ。
「あなたにとっての神明立花はどういう存在だったかしら?私が可能と言ったことは可能だとあなたに前に言ったわよね?」
「立ちゃん……私は……い、痛い頭が……」
里菜が痛みに悶えだす。
「里菜、私を見なさい!目をそらしては駄目よ!」
「い、痛い……頭が……」
「あなたの望みは叶うわ、だからあなたの底にいる自分をさらけ出しなさい!」
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
里菜の心の悲痛ともいえるその声がこだまし店全体に響く。
そして数秒ほどの静寂が訪れると周りに座っているもの達はその静寂を崩さないよう息を呑んだ。
「立ちゃんありがとう……私また助けてもらっちゃったんだね」
里菜がその静寂を破る、瞳には光が宿り生気に溢れている。
「ふふっ、よかったわ。でも今は寝ていなさい……まずはゆっくり休んでからよ」
私の言葉に安心したのか里菜は私に倒れかかるようにして眠りに入った。
「この子を休ませてあげたいのだけど部屋はあるかしら?」
「ええー奥に」
マスターに案内されシスオンバイと共に里菜を奥の部屋に連れていって寝かした後席に戻る。
「いや~姉さんの強さに脱帽ですな~」
シスオンバイはえらく上機嫌で高揚している。
「随分と上機嫌ね、その理由は何となく理解しているけど」
「姉さんとはしっかり協力関係が結べそうなのが今のを見て確信しましたので」
シスオンバイのこの勝ち誇った顔は少し腹立たしい。
「安易に味方だと信じていいのかしら?」
「どうでしょうね、ただ私の勘はそういっていますので」
「はいはい、それでここにいるビースト達はみな奴隷になるのを逃れた人達かしら?」
この店に来ている者達は石にしたあいつらを除けばみな獣人族だ。
「ええ、冒険者をやっていたりして奴隷を逃れた者やその子達ですな」
「なるほど……それで反連邦として活動し将来的にはダルシ国の復活を目論むレジタンスって感じかしら?」
デカい街ならそういう動きがあってもおかしくない。
「さすがは姉さんですな~その通りです、そして姉さんが石にした奴らはそれを嗅ぎまわる連邦の特殊部隊ですな」
「嗅ぎまわられていたということね、撃退するのにまんまと使われちゃったわね。高くつくけどいい?」
「いやいや、あっしは行くのを止めましたぜ」
少し意地悪を言うとシスオンバイは苦笑いをしながら首を横に振る。
「ふふっ、まぁいいわ。それでいつ決行するとかそういうのは決めているのかしら?」
「明確な日時は決まってませんが組織も大きくなってますし遠征によって手薄になった頃が狙い目かなと」
まぁそれが妥当か……ただ連邦もそれは読んでいるだろうからあまり得策とは思わない。
もっともそれ以外のいいタイミングがあるかどうかと言われれば微妙ではあるが……
「いずれ私達が潰すときに乗っかった方がいいかもね」
「それはどのタイミングで?」
「それはまだ未定よ」
仮に潰したとしてもその後が続くかどうかだ、獣人族の難点は絶対的な王がいない所にある。
「そっちのタイミングというのも詳しく知りたいですな~」
「う~ん、今は他の仲間も各地に飛んでて色々やってるのよね……」
周平の方が終わってレダさん達とも再開してメンバーが揃ってからになるはず……
「まぁそのタイミングがきたら教えてくだせぇ」
「ええ、それともしその革命が来たとして王に立つような指導者はいるのかしら?」
滅びたダルシ国の王族の血をひいているようなのがいればいいけど……
「一応王族の血をひくお方はいますがその後どうするかはまだ明確には決まってませんので……」
「というとその王族の血をひくのはあまり乗り気じゃないということ?」
シスオンバイは顔を顰める。
「それもありますな~奴隷になっている者達の奪還等含めてかなりの犠牲がでると言って後ろ向きなのですな……」
「気持ちはわからなくはないけど……生きたまま奴隷としての生活を強いられている者達のことを考えたらそんなことも言ってられないと思うんだけどね~」
まぁ王族の血をひくからといって自身の意思を無視で担ぎ込まれるのも決していいとは言えないだろう。
「今は本人を説得しているとこですな、そういえば姉さん達はどれぐらいの軍勢を率いて攻める予定で?」
攻める人数?どれぐらいかしら?
「二十人弱ぐらいじゃないかしら?」
それを聞いたシスオンバイは目が点になる。
「よく聞こえなかったんですが二十ですかい?二万とかではなく?」
「そうよ、むしろそんな大軍必要ないわ。私と同等かそれ以上のが数人いるしこんな国一つ余裕よ」
昔現連邦内の大都市での戦いの時怒りに任せて敵兵の大軍全員石にして砕いたこともあるし雑兵ならエミリウスの宴を発動すれば敵の人数がいくら多くても問題ない。
「にわかには信じがたいですが姉さんが嘘をつくとも思えませんが……」
バーのマスターがシスオンバイに続き話しかけてきた。
「というかあんたは何故協力するんだ?ボランティアってわけじゃないだろ?」
バーのマスターは私が信用できないのか睨みつける。
「あら、疑っているのね、いいことだわ」
「当然だ、シスのやつはあんたを信用しているようだが俺は素直には信用できない、確かにあんたは桁違いに強いのかもしれいし同じように打倒連邦の意思はあるのもわかるがずっと味方でいるとは限らない」
私みたいな得体のしれない相手にはこれぐらいの警戒心が必要だろう、この男の言う通りずっと味方という保証がないのも事実。
この先どうなるかはわからないが二十柱に反逆するような真似をしたら当然容赦はしない。
「理由はそうね……私の大事な友達に酷いことをしたからよ」
マスターはそれを聞くと怪訝な表情でこちらを見る。
「お前さんは友達が一人酷いことをされただけで国を滅ぼすのか?」
「ええ、正確にはもう二つあるけど私はその理由だけで十分よ」
「だったらそっちの理由を聞きたい、悪いがそれじゃ納得できない」
真なる獣人王が現れるその時の為に種族を繁栄させておく為と後の世に禍根を残さない為といってもわからないだろう……二十柱は世界の管理と各種族を繁栄させる義務がある。
人間は色んな世界で繁栄しているが獣人族は人間ほど多いわけではない。
「同胞たる第十五の奇跡が目覚めていないからと言って通じるかしら?」
マスターは何のことだかわからないといった表情だがシスオンバイは少し考えると何か知っているようなのか納得した表情を見せた。
「なるほど、マスター心配しなさるな。たぶん疑うだけ無駄でっせ」
「あら、今ので通じるのね」
「これでも歴史の研究はライフワークなもので」
なかなかの優秀な人材であることは素直に認めざるをえないようだ。
「てことは私のことも少しはわかったかしら?」
「おそらくあなたは十番だと私は見ています」
シスオンバイはニヤニヤと勝ち誇った表情を見せる。
「さすがね、百点満点よ」
「へへっ、ありがとうございます」
この男は味方につけておく価値は十分にある、思わぬ収穫だ。
「お、おい俺に説明してくれ~どういうことなんだ?」
「ふふっ、悪いけどわからない人にはまだ説明できないわ」
「そうですな、まだおおっぴらには話せる内容じゃありませんし……」
「そ、そんな……」
マスターは悔しそうな表情だ。
「そういえばあなたたちは革命軍的な中では要職に付いているのかしら?」
「あっしはそれなりの役職ですな~マスターはあっしのボディーガードです」
ステータスを覗くとマスターはそこそこのステータスだがシスオンバイの戦闘能力はそうでもない。
フィダルゴ・アイポッパー
レベル:170
種族:獣人族
職業:剣闘士
攻撃:22000
防御:20000
魔法攻撃:18000
魔法防御:20000
素早さ:22000
魔力:19000
異能:ブラックサイス(B)
称号:鎌斬り隊長
シスオンバイ
レベル:90
種族:獣人族
職業:旅人
攻撃:6000
防御:6000
魔法攻撃:6000
魔法防御:6000
素早さ:6000
魔力:6000
異能:死霊の叫び(A)
称号:亡国の知恵袋、奈落の先導師
王の書による解析によるとシスオンバイの持つ異能である死霊の叫びは発動した場所で眠る死者の声を具現化する異能である。
「なるほどね、とりあえず今日は里菜を連れて帰るわ。私一度きた場所は自由に転移できるから近いうちにまた来るしその時詳しく話しましょう」
「姉さんに睨まれたら生きてくことが難しいのを認識する一言ですな~了解しましたぜ」
昔ゲートを使って逃げ回る敵を追い詰めたことは何度もある、転生したせいで昔行ったことのある場所へ自由に行けなくなってしまったのがネックではあるがいずれはエクリプス内の全ての場所へ自由に移動することが可能になるだろう。
「ふふっ、それじゃぁよろしくね」
寝ている里菜をおぶってゲートを開き宿へと帰還した。
最近寒くて家から出たくない(切実)
仕事にいくのが辛い……




