覚悟の差
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菱田と木幡を戦闘不能に追い込んだところで後ろに下がる。
「シン、後は頼んでいいか?」
「ああ、任せてくれ」
シンは前にでて残りの三人と対峙する。
「さて、やろうか」
嶋田は険しい表情を浮かべる。
「杉原は後ろで援護してくれ、月島は俺に続いてくれ」
「諦めてないようで何よりだ、さぁこい!」
自身のもつ異能である元始の爪を発動しシンに向かう。
「なかなか珍しい異能を持っているじゃないか」
シンは微笑しながら嶋田の連続攻撃を軽快に避ける。
「当たらない……」
「お前達の攻撃が当たらないことは最初に向かってきた奴と友との戦闘でわかったはずだ」
「くっ……」
嶋田の表情から焦燥感がにじみでている、おそらく今の嶋田は勝てなくとも何とかシンを一泡ふかせようと考えているはずだ。
「焦っても何も変わらんぞ、そんな闇雲に突っ込んだところで俺に攻撃を与えることはできんだろう」
「それはどうですかね?」
嶋田は両腕を恐竜の腕に変化させ猛追する。
「ふむ、少しはマシのようだがまだまだだな」
いくら猛追してもシンには見切られている、さてどう攻めるかだな。
「月島!」
「スモークアウト」
嶋田が月島の名前を呼ぶと月島は魔法を唱え煙により視界を撹乱する。
「むっ……」
「杉原!」
今度は杉原が拘束魔法を唱えた。
「ダークバインド」
煙の中、シンの足元から黒い鎖が出現し拘束しようとする。
「甘いな!」
シンはバインドを避け高く飛び上がり避ける。
「ここいらで沈めるか……」
シンは高く飛んだ状態から嶋田に向けて落下する。
「これで終わりだな」
落下と同時に嶋田に向けてストレートを一発撃ちこむ。
「ぐはっ……」
肩に目がけて放たれたそのストレートは嶋田を戦闘不能にするぐらいの威力を放ったがさっきの菱田のように吹き飛ぶことなく耐えたのだ。
「捕まえましたよ……」
嶋田は痛みに耐えながらも不適に笑う。
「むっ……」
シンも異変に気付くがバインドが自身の腕に絡まっていた。
「なるほど……ダークバインドはお前を拘束していたのか……」
「あなたが俺を攻撃しそれを俺が受け止めれば自動的に俺の体を伝わりあなたを拘束する」
シンの体はダークバインドによって拘束される。
「なるほど……しっかり考えていたようだな」
「あなたに勝てないのは菱田と竜也がやられた時点でわかりましたからね……」
さすがは嶋田か……闇雲に突っ込んでやけくそになるほど落ちぶれてはいないか。
「ただダークバインドによる連携は指示等していないと思うが……」
「それは私の勝手な判断ですよシンさん」
杉原は軽快な物言いだ。
「以前ダークバインドの使い方について議論しましたからね~嶋田は私のダークバインドが自分に絡みついた時点で私の作戦を理解したんです」
「ほう、大したコンビネーションだな」
シンは感心する、確かにここまで連携が取れて戦い方が出来るのは素直に感心せざるを得ないな。
「月島やるんだ!」
煙が晴れると嶋田の背中に引っ付き異能でネコ化していた月島が飛び上がり人の状態に戻り魔法を発動する。
「ライジングストーム!」
雷を帯びた暴風がシンに至近距離で直撃する。
第五位階魔法を無詠唱か……月島の奴成長したな~
「やったか」
嶋田はしてやったと喜びの表情だ。
「ふむ……コンビネーションは悪くないな……」
「嘘……」
煙が晴れるとその場所から移動することなくシンが立っている、ライジングストームを至近距離で喰らったがこの程度なら当然無傷だ。
「ふん!」
シンはダークバインドの拘束を力づくで引き離す。
「なかなかよかったぞ、あんな拘束すぐにでも解けたがお前達のコンビネーションを称えて魔法もあえて喰らったからな」
シンは涼しい顔で言う。
「月島の至近距離のライジングストームが無傷とは……」
「まだやるか?」
シンが言うと嶋田は手を上げ首を横に振る。
「いやこれ以上やろうとは思いませんよ、そもそも勝ち目がないのは菱田がやられた時にわかってますから」
「そうか……」
模擬戦は終了し俺はクラスメイトに対して感じたことを言う。
「まぁ今の戦闘で感じたことだが戦いに対しての覚悟があまり感じられなかったな」
「確かに、友の言う通りそこの嶋田も菱田も最初の攻撃は急所を外していていたな、攻撃が当たらなくなってからはなりふり構わなくなったが戦争で戦い抜くなら少ない攻撃で相手を戦闘不能にするのが得策だ」
俺とシンの言葉を嶋田は強く受け止める。
「それを言われると返す言葉がないですね……」
大した努力をすることなく大きな力を与えられたこいつらが人を殺すことを覚えればどうなるか……俺も戦争で虫を殺すように敵を殺めたがそれに対し特に何も思わなかった。
俺は前世のこともあるし戦争なんて大きな殺し合いだとしか感じないが平和な世界で暮らしていたこいつらはどう感じるのだろうな……
「ただお前達が元の世界に帰るには殺すことは避けては通れない道、自分の中で覚悟決める必要があるだろうな」
「はい……」
嶋田もおそらく迷っているのだろう、ただそれはクラスのリーダーたる嶋田が先導してやらなければいけないことで誰かに任せられることではない。
「そういえばあなた達は魔王討伐には参加しないんですか?」
発言をしたのは田島亜紀だ。
「確かにそれだけ強いならぜひ一緒に戦ってもらいたい」
橋本も続けて発言する。
「何でそんなことをせねばならんのだ?」
シンは首を傾げながら言う。
「何でって人間族のピンチなら冒険者ギルドとやらも強力すべきでは?」
「確かに……冒険者ギルドは魔王討伐にはどういう考えなのですか?」
嶋田が質問する、あんまし答えたくない部分だな……
「そうだな、冒険者ギルドは基本中立だよ。連邦に国を追われた獣人族なんかも冒険者として在籍している、当然魔族もな」
なかなか難しい問題ではあるな、九兵衛さん自体巨人王だしそもそも人族に一方的に加担することはない。
「魔族が所属しているんですか?」
嶋田が驚いた表情を見せ周囲も動揺する。
「冒険者ギルドは種族による差別はしないからな」
「ギルドの総長も俺も友も初代魔王と呼ばれた背徳卿と深い親交があるからな」
シンのその発言は更なる波紋をよぶ。
「どういうことですか?初代魔王と親交?」
「ああ、昔の話だよ。正直俺もシンも自由に暮らしているから戦争とか割とどうでもいいんだよ」
シンの発言は少しヤバいので一応フォローをいれておく。
「長いこと生きていれば戦争による種族間の争いなんても些細なものだ」
「でもそれは人族が戦争で負けてもいいということですか?」
嶋田は少し険しい表情で言う。
「まぁその戦争についてはどっちに加担する気もないということだ、総長もそんな感じだしそもそも中立の冒険者ギルド所属だからな」
「そうですか……」
嶋田は残念そうな表情を見せる、月島も杉原も複雑な表情だ。
「まぁここにいるうちは教えられることは教えるしお前達は俺達を使えばいい、お前達に今必要なのは力だろ?」
シンのその発言は淡々としており人によっては反感を感じたかもしれない、だがこれはクラスメイトと俺達とでは人の命をどう見ているかの相違があるからだ。
クラスメイト達は地球で平和な生活をしており生命の危機なんぞに直結していないから生命の危機があれば助けてくれてもいいじゃないかと思っているのに対し俺達は今までで何人も殺めているしちょっと話したことがあるぐらいの奴が目の前で殺されてもあまり気にしないだろう。
それはつまりこの世界がどういう世界かを本当の意味でわかっていないということの表れでもある。
◇
ファラリス連邦の首都ファラモンドに向けて向かっているのは立花、九兵衛、ヴィエナの三人だ。
コートマーシャルの街にてヴィエナを奴隷から解放し冒険者にしてから数日、馬車で旅をしていた。
「九ちゃんあ~ん」
馬車の中で食事をするといつもこんな感じだ、ギャラントプルームに戻った時のザルカヴァの顔が目に浮かぶ。
「はぁ~」
いい加減うんざりしている、早いとこ任務を終わらせて周平の元へ行きたい。
「結局首都ファラモンドの立ち入り許可はおりませんでしたね」
「残念だね……暴れた勇者の国外逃亡を確認できた見たいだけどインフィニティシールドの解除に時間がかかるみたいだからね~」
連邦としてはインフィニティシールドを自由に解除できないからなんてかっこ悪いことを言えないものだから体裁を保つために許可を出さないのだ。
「想定内だし問題ないわ、しかし獣人族に対しての扱いはどうにかならないのかしらね……」
途中で通った街ではもっとひどい扱いの受けている地域もあった、
「そうだね……今は耐えるしかないのが悔しい……」
九兵衛さんも苦虫を嚙み潰したよう表情だ。
奴隷とはいえ獣人族に対しての街中で暴行したり首輪つけて犬みたいに連れたりとそれらを見て破壊衝動に駆られてしまった。
「あなたよくあそこまで一人で来れたわね、ゲスな貴族に捕まる可能性もあったんじゃないかしら?」
「他人の奴隷に手をだせば重い処罰になります、奴隷を持つものはそれなりに財力があったり社会的地位が高いですから……」
ヴィエナは険しい表情だ、主人によってこうも差異があるわけだけど他の奴隷のことを考えると自分の主人がいい人であったことを素直にそのことを喜べないようだ。
「首都まではあとどれぐらいかしら?」
「この後タウィーという街につくからそこから1日あれば行けるはずだよー」
タウィーには冒険者ギルドがあり九兵衛さんはそこに顔をだす予定だ。
「私はどうやって首都ファラモンドに入るかね」
「立花ちゃんならインフィニティシールドを破るのは造作もないよね?」
「バレないように一部だけ破壊して潜入するのは少し骨が折れるかもしれないわ……」
現在の警備状況がどうなっているかで難易度が変わってくる。
「まぁ最悪入るとこ見られても顔さえ見られなければ問題ないよー」
九兵衛さんは楽観的だが侵入者に正面突破されるという事例が表にでればさらに警戒を強められて勇者達の遠征に遅れが出てしまう。
ファラモンドでの迷宮攻略もあるしなるべく手薄になってくれていた方が都合がいいのだ。
「手はいくつか考えているから大丈夫よ」
◇
夕方ごろタウィーに到着した。
「さて宿だけどここのギルドマスターが手配してくれてるから安心していいよー」
そういうところは冒険者ギルドの総長といった感じね。
「はいはいー私九ちゃんと同じ部屋がいいでーす」
ヴィエナは顔を赤くして言う。
「ふふっ、私は構わないわ」
ヴィエナの恋路は応援してやるべきだろう、ギャラントプルームに戻ったらザルカヴァもいるし独占してイチャつくことはできない。
「姉さんありがとう~」
ちなみに私はあの日から姉さんと言われている、人懐っこい性格なのか私にもすぐになついてくれた。
「ふふっ、九兵衛さんはどうするの?」
「俺の肩を枕にして欲しいとこなんだけどね……」
九兵衛さんはばつが悪そうな表情だ。
「問題ありな感じ?」
「九ちゃん?」
「ここの総長は女でさ……何というか俺のことよく知ってるんだよね~ははっ……」
九兵衛さんの顔が暗い……
「まさか九ちゃんその人に手を出してるんじゃ?」
「有り得るわね……」
ヴィエナと二人で懐疑的な目で見る、ダメ男っぷりは健在か。
「そういうことは一切ないって!彼女は真面目な上に恋愛面は疎くてね……しかも考え方がプラトニック」
ああ……九兵衛さんの苦手なタイプか。
「なるほど、つまりその人の手前男女一緒はNGな感じね」
「そういうことだね、三人って言ってあるけど彼女はきっと一人一部屋でとっているだろうし」
それを聞いたヴィエナは落胆する、昨日も同じベッドで寝ていたしすっかり押しかけ妻状態なのだ。
「とりあえずギルドに行きましょうか」
タウィーの街に入ってすぐギルドに向かった。
次の話は立花視点の話ですかね。




