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例の事件

ここからは雪か美里視点で話を進めていきます。

 私達は三百層の迷宮攻略を無事終え現在は次のステップである魔大陸遠征に向けて準備が進められている。

 まずは遠征にするにおいての外の世界についての説明が簡単にされた。

 近隣諸国のことや魔大陸への入り方、冒険者の存在、陣君達のいるファラリス連邦との共同戦線等の説明を受けたが情報収集をしていて知っている生徒もいれば知らない生徒もいてその落差は大きかった。

 

 「周平君……」


 ただ私は今一つの希望を確信することができている、その希望に向かって私は前に進んでいる。

 あれは迷宮攻略を終えた日の夜、美里ちゃんと二人で部屋に戻った時のことだ。

 

 

 ◇



 「周平君は生きているわね」


 美里ちゃんの部屋に戻った第一声はこれだった。


 「うん、間違いないね……美里ちゃん私……」


 私はとてもウキウキしていた、三百層まで行っても周平君の痕跡たるものはなかったからだ。

 何しろ周平君の勇者カードの反応を逃さないよう本来の範囲に加えて、迷宮の周辺は私が離れていても感知できるように魔道具を使用していたから間違いない。

 迷宮の中の転移装置は基本入り口へと戻る、つまり周平君は私が魔道具を設置する前に迷宮から脱出し王都をでたということになる。


 「問題は周平君がどこへ行ったかね?」

 「王都を出たとしたらなるべく遠くへ行っているはずよね?」


 戻ってこなかったということは戻る気がなかったということになる、当然そうなれば遠くへ行ったと考えるのが妥当だ。


 「あと、戻って来なかった理由はクラスメイトに敵意を覚えたからというのもほぼ確定ね、彼が狙われたっていう話をクラス会議でしたし尾形君はそれを見たと言っていたからね」

 「周平君はあの時自分が殺されかけたことがわかったから戻らなかったんだね……」


 犯人は絶対に見つけだして謝らせないと。


 「不可解なのは周平君がどうやってあそこから脱出をしたかね」


 美里ちゃんの言う通りそれが一番の謎なのだ、ただ脱出したということは何かしらの力を得たということが考えられる。


 「何かしらの力を得たというのが妥当じゃない美里ちゃん?」


 それ以外には考えられない、それか誰か助けてくれる人に迷宮で出会ったかにどっちかだ。


 「私もその線が一番妥当と考えているわ」


 美里ちゃんも同意見のようだけどここで議論しても正確な答えがでるわけではない。


 「ねぇ美里ちゃん、周平君の向かった先は陣君のとこかな?」


 もし周平君が一人で旅をしたとして目指すのは知り合いのいる所だと思う、私達じゃなければ陣君の所以外考えられない。


 「雪の言う通りね、近いうちにファラリス連邦との接触があると思うからそこで手掛かりを得れるかもしれないわ。ただそこで得れないと正直どこにいるか……考えたくはないけど旅の最中の死亡も充分考えられるからね……」


 それは希望をぶち壊す考えに他ならないが当然その可能性もある、ただ今は生きているものとして探したい。


 「うん……その可能性はあるよね……でも私は生きているものとして周平君を探すわ、美里ちゃんは?」

 「当然私も同感よ、さて次は犯人探しね……」


 周平君を嵌めた二人……何が何でも見つけないといけない!


 「それで雪、私は犯人について尾形君の残してくれた候補からあの事件が関係していると思うの」

 「あの事件ってあれ?あの事件だよね?」


 周平君が濡れ衣きせられたあの事件……



 ◇



 クラス替えによって仲良し四人のうち陣君だけ外れた二年一組だったが周平君や美里がいて嬉しかったのを私は覚えている。


 「おはよー今年も同じクラスだね~」

 「またそばで雪のお守りができて私は嬉しいね~」


 私は美里ちゃんとは小学生の頃からの親友で付き合いが長い。

 

 「はあぁ~、お前ら朝から騒がしいな」

 

 大きな欠伸とともに話かけて来たの周平君だ。


 「ふふっ周平君、よかったね私達と同じクラスで」


 美里ちゃんはニヤニヤしながら言う。


 「そうだな、陣の奴はご愁傷様だな、また杉原には面倒見てもらうさ」

 「ふふっ、私だけに頼むと雪が妬くから雪にも頼んでおきなさいね」

 「ははっ、そうだな。月島またノートよろしく」


 周平君は基本授業は聞かないしいつも寝ているから私からノートを借りている。

 凄いと思うのはそれでいてテストの点がいつも高いことだ、少しムッとするがその度に何か奢ってもらっている。


 「まぁまた好きな物奢ってやるからお願いな」

 「周平君雪の使用料金は高いわよ?」

 「わってるよ、代わりにお前らにはしっかり使われてやるから」


 私と美里ちゃんは不本意ながら二年のアイドルなんて言われて有名だったが周平君や陣君は別の意味で有名だった。

 周平君はいつも寝ているが頭が良くスポーツもでき副業でかなりお金を稼いでいることで知られていたし陣君は両親が傭兵で、自身も語学堪能で喧嘩も強いことで知られていた。

 もっとも周平君はそんな陣君があいつには勝てないと認めていたところだ。


 新たにクラスでの友人を見つけつつも四人での交流は絶えることはなかったし楽しく過ごしていた。

 一月が経った頃クラスで変な事件が起きていた。


 「私の体操服がないわ……」

 

 クラスメイトの一人田島さんの体操着が盗まれたのだ。


 田島さんの体操着がなくなっていたことでクラスメイトがまず疑われたが、朝来た時に発覚したのもありその時点では他のクラスも犯行可能であり容疑者が多すぎて誰が盗んだのかは検討がつかなかったのだ。


 「田島ってあのギャルっぽい奴か~あれの体操着は要らんな」

 

 その日の放課後四人で集まった陣君は笑いながらそんなことを言っていた。


 「もう、そんな不謹慎なこと言っちゃ駄目よ~」

 「そうよ陣君」

 「ごめんごめん、でも俺や周平なら田島の盗む前に雪ちゃんや美里ちゃんに頼んでパンティ嗅がせてもらうように頼むよな」

 「ふっ、陣よおれはブラジャーでもいいぞ」


 陣君と周平君は美里ちゃんから強烈なパンチを喰らうがこれを聞いて二人は絶対の絶対に違うと確信できて安心したんだ。


 「でもよ、早く犯人捕まるといいな……正直容疑者扱いは面倒だからな」

 

 周平君が少し暗い表情で言う

 同じクラスメイトの男子となると嫌でもそういう目にあうからそこはすごい同情するところだ。

 だがその三日後、犯人は捕まるどころか今度は河内さんと白井さんの体操着が盗まれたのだ。

 しかも今度は、朝はあったが昼前にはなく間の移動教室の時間内の犯行とされた。

 その移動教室はパソコンの授業だったが先生の手違いで何人かの生徒が教室に忘れものをとりに行く事態になった為、十名の生徒が教室に戻っていることから犯人はその十名のクラスメイトの中にいることがわかったのだ。

 厄介な事にそれをとってくるタイミングがバラバラで大半が一人で教室に戻っておりその十名の中には周平君が入っていたのだ。


 「ねぇ周平君?」

 「どうした杉原?」

 「私の体操服欲しい?」

 「いらん、下着ならまぁ考える」


 美里ちゃんは疑われた周平君に気を使うためにこんなことを言ったのだ。


 「ははっ、周平君が彼氏になってくれるなら考えるよ」


 美里ちゃんはたまにこうやって冗談交じりで周平君を誘惑するがいつも周平君は笑いながら断る。


 「ははっ、魅力的な提案だけど未練タラタラの俺にはきついな」


 周平君はずっと失踪した幼馴染のことを想っている、美里ちゃんも当然それを知ってるからからかって言っているとは思うが本心は気になるところだ。


 「杉原、ありがとな。月島も陣も心配かけてすまんな」

 「ううん、周平君もついてないよね」

 「そうだな、教室に戻らなきゃな~」


 あの時教室に行かなきゃ犯人候補から外れて容疑者の身も晴れていたのだ。

 

 「しゃーねぇーだろ、あれは先生が悪いわ」

 「でも二人はしっかり持ってきてたんだろ周平?」

 「ぐっ……痛い所を……」

 「ははっ、それと俺はお前が犯人じゃねぇの知ってるから心配はしてねぇよ」


 陣君は笑いながら言う。


 「陣に言葉はいらんな」

 「まぁ気になることが一つあるが……まぁ杞憂に終わるだろうからいいわ」


 この気になることをちゃんと陣君が言っていれば警戒をしたかもしれないが時すでに遅しだった。

 

 その十名の中でも忘れ物を取りに行った時に三分ずれで教室で合流した河内さんと橋本君や被害者の白井さんにその白井さんと一緒にいった岡部君は除外された。

 また授業終わり間際にとりにいき廊下で他のクラスメイトに目撃されている南井君も限りなく白に近いと言われ残ったのが周平君、東君、中野君、高橋君、安田君の五人だった。


 それからさらに三日がたった朝にその事件は大変不本意ながら終結したのだ。


 「おはよ~」

 「おっす」


 周平君が珍しく遅刻ギリギリでなく普通に登校してきたのだ。

 

 「珍しいね、どうしたの?」

 「最近生きた心地がしなくてさ……おかげで眠くて朝も校門で人とぶつかっちまったし……」


 周平君に対する周りの目は少しキツくなっていた。

 犯人が五人の中に縛られたことでその五人はいつもどこかで見られているような感じになっていたのだ。


 「まぁしょうがないのかな?本当困っちゃうよね」

 「まったくだよ……」


 周平君はため息をつきながら言う。


 「あら周平君早いじゃん!」

 「おはよー杉原、容疑者になるとこうも落ち着かないのな。東の名探偵のアニメにでてくる容疑者の気分だよ……」

 「ははっ、真実はいつも一つだよ~」


 白なのに疑われる役のキャラがでてくるが今の周平君ね。


 「あれその袋は?」

 「ああ、これは俺の体操着だよ、最近臭かったから洗濯したんだよ」


 周平君は袋の中身を取り出した。


 「今日は体育だからな、陣達のクラスと勝負するために……えっ?」


 その時私は目を疑った、その袋の中には最初に盗まれた田島の体操着が入っていたのだ。


 「えっ……これって田島の……」


 周りのクラスメイトは周平君の元に来る。


 「おい、それ田島の体操着じゃ……」

 「嘘だろ……」

 「犯人は神山!」


 周りが騒ぎ立てる中、田島さん本人が周平君の元に来ておもいっきし頬を引っぱたいた。


 「変態!」

 「ちが……俺じゃない!」

 「はぁ!まだ誤魔化そうっての?あんたが持ってきた私物に私の体操着あったのよ!これはどう説明してくれるのかしら?」

 

 すると同じく盗まれた河内さんや白井さんも周平君に問い詰めにきた。


 「返してよ!」

 「俺は本当に知らない!これは何かの陰謀だ」

 

 周平君は必死に弁解し私も擁護する。


 「そうよ、周平君はそんなことするわけない。何かの間違いよ」

 「じゃあ月島さん、これはどう説明するのかしら?」


 田島さんが私を睨み付ける。


 「待って!とりあえず落ち着きましょう!」

 「美里ちゃん」

 「とにかく周平君が朝持ってきたはずの体操着が田島さんのと入れ替わっているのも事実よ。周平君の体操着も探すべきよ」

 「そんなの嘘よ!」


 田島さんは頭に血がのぼって冷静ではなかった。


 「でも私は今周平君とそういう会話をしたわ!さすがにそれであなたの体操着を私達の前で見せるなんて真似は普通しないはずよ」


 美里ちゃんは半ば威圧するように言うと回りは一度静かになり入れ替わった周平君の体操着とまだ見つからない白井さんのと河内さんの体操着の捜索が始まった。

 結果周平君のやつは落とし物として届けてあり、河内さんと白井さんの体操着は袋にまとめてクラスの掃除用具入れにある所を発見されたけどこの一件で周平君は私と美里ちゃんを除く女子と橋本君達のグループから無視をされるようになった。

 周平君は玲奈先生がかばったのと無事紛失した物が持ち主の元に戻ったことでお咎めなし。

 私と美里ちゃんは周平君の無実を知っているし信じているから今までと変わらず仲良く話しているがそんな周平君は残りの男子達の反感を買うようになりさらに孤立し今に至るようになったのだ。




事件の内容はどうでもいいんです、問題は犯人やね。

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