エミリアの介入
あと1話か2話で本編に戻る予定です。
カーリンさんはもう一体の白夜虎の攻撃に何とか反応し咄嗟にガードしたものの耐えられず吹き飛ばされた。
「カーリンさん!」
「ぐふぇっ……なんとか急所は避けましたが……」
赤く光る眼光にオーラを放つもう一体の白夜虎はどうやら夜のモードのようだ。
白夜虎
レベル250
種族:獣族
攻撃:62000
防御:60000
魔法攻撃:40000
魔法防御:55000
素早さ:60000
魔力:50000
固有スキル:守りの牙
おいおい嘘だろ……
俺はその場で崩れ落ちる。
「光一殿逃げてください」
カーリンの声は俺には届かない……いや届いているが悟る。
これを倒すのは不可能だと……そしてここから逃げることも。
「ははっ……無理だわ」
俺は絶望を押し付けられ恐怖を感じてしまった。
迷宮攻略を経て得た耐性もこいつを前にしては無理があるようだ。
膝が笑い俺もなぜだか笑ってしまう。
「はっはっはっ、カーリンさん俺は無理ですよ」
「光一殿?」
「逃げてください、あなたの位置なら俺を犠牲にしてなんとか逃げられるでしょう」
「何を馬鹿なことを……」
「あなたにはスタセリタを守る使命があるでしょ!」
そう、ここで2人死ねばスタセリタは路頭に迷う。
だからここでできる最善の策はどちらかが生き延びてスタセリタを安全なとこに避難することだ。
「何を馬鹿なことを!あなたが死ねばお嬢様が……」
白夜虎は威嚇しながら睨む中カーリンさんは俺の元に戻る。
「カーリンさんどうして?」
「あなたを置いて行ったら私がお嬢様に怒られます」
「あなたはアホですか?2人死んだら意味がないのですよ」
「それでも背中を預けた戦友を捨てるなどもってのほかです。幸い奴は瀕死の仲間を気にかけています、離脱はできるかもしれません」
俺は良い人にめぐりあったものだ。
さてどうする?
瀕死の白夜虎は動く様子はないがもう一頭は今にもこちらを襲う気満々だ。
「光一殿何か策は?」
「魔法剣ダークで撹乱し離れながら瀕死の一体に遠距離攻撃を加えてもう一体を動けなくするぐらいしか思いつかないです」
「ふむ、それでいきましょう。朽ち果てる時は共に逝きましょう」
「魔法剣ダ……」
その瞬間別方向から大きな声と共に魔法攻撃が白夜虎へと飛んでくる。
「あれは……スタセリタ……」
「お嬢様どうして……」
「あまりにも帰りが遅くて大きな獣の声がしたから来たわ……」
「スタセリタ逃げろ!」
「嫌!2人を置いてなんか逃げられるわけないでしょ!」
クソ!
何で来るんだよ……
無情にも白夜虎はスタセリタの方へ攻撃対象を変えたのかスタセリタの方へ向かう。
「ひっ……来ないで!」
白夜虎はスタセリタに向かい威嚇をしその赤い目で睨み付けるとスタセリタはその場で崩れ落ちる。
「お嬢様!」
「クソ……ウォォォォォ!」
我慢の限界だった……俺は本能のままに剣を向け白夜虎の元に向かった。
「いくぞ!」
俺は白夜虎の元に向かって攻撃をしようとした時だった。
「なっ……」
突然俺は動きが止まり転び倒れると横にはカーリンさんがいた。
俺の動きを止めたカーリンさんが白夜虎の方に剣を向けて向かう。
「先にいかせてもらいますよ……」
カーリンの攻撃に対し白夜虎は大きく飛び攻撃を避け左前足でカーリンさんに振り下ろし押さえつける。
「ぐはっ……」
「カーリンさん!」
白夜虎は左前足で押さえつけながら右前足爪で構える。
「だ、駄目……」
「どうやらここまでのようです……後は……」
カーリンは目を瞑り自身の死を覚悟する。
尾形光一か……少し名残惜しいがお嬢様の隣を任せられる人材に巡り合えた。
彼ならお嬢様に振り回されながらもきっと助けになってくれるはず……
白夜虎の攻撃がカーリンに直撃するその瞬間だった。
「圧縮砲!」
白夜虎に見えない何かがぶつかり吹き飛ばされた。
「なっ!」
「まったく何命知らずのことをしてるのかと思いきや白夜虎に喧嘩を売るなんて……あなたそんな命知らずだったかしら?」
「エ、エミリア殿!」
「エミリアさん!」
「ふふっ、元気そうねスタセリタ」
俺は何が起きたのか一瞬わからなかったが2人の知り合いと思われる女性が助けたようだ。
ステータスを見ようとしても妨害されているのか覗けないあたり只者ではないのであろう。
俺はホッとしその場で崩れ落ちる。
「さてとこの場を閉めるわ」
エミリアと呼ばれる女性は白夜虎に向かって言い放つ。
「引きなさい、そこの死にかけは治してあげるから3人には手を出さないで」
白夜虎は一瞬引こうとしたが納得ができないのか威嚇をする。
「ふふっ、死ぬ?」
エミリアと呼ばれる女性は逆に威嚇し返すと白夜虎は引いた。
「あなた達は役目を忘れてはならないわ」
エミリアは瀕死のもう一頭の白夜虎の受けた傷を完治させると2頭は山の奥へと消えていった。
「エミリアさんありがとう。私達どうなるかと思って……」
「ふふっ、これに懲りてもう少し冷静に動いた方がいいわスタセリタ」
「カーリンさんこの方は?」
朱色の長い髪に眼鏡をかけた美しい女性で地球にあるPCゲームの中のヒロインの1人に抜擢されそうなプロポーションだ。
「なんだか失礼な想像されている気がするわね?」
「いえ、そんなことはないです。むしろ褒めえてます」
この人鋭いな。
「光一殿この方はジャジル王国の特別顧問で王国最強の魔法使いです」
「エミリア・ルーナ・アーバンシーよ、よろしくね」
「尾形光一です」
「その珍しい名前はあなたもしかして召喚された勇者の一人?」
「そうです、なぜそのことを?」
「ふふっ、ちょっとね」
何か知っているようだな。
そしてさっきから俺を品定めするように見てくのも気になるとこだな。
「光一はファーガス王国に不信を感じててそんな時私と出会い王都を抜け出したの」
「あら、ということはまともな人材ね、この子はどうするの?」
「ジャジルにいったら機密情報を話してくれるそうで、その後はお嬢様の部下という扱いで保護する予定です。」
「ふ~ん、ならあなたは運がいいかもしれないわ」
エミリアは何やら持っていた紙に何かを書きスタセリタに渡した。
「これは!でもいいんですか?」
「大丈夫よ、その坊やがもしあなたを裏切るような真似をするようなら私が責任をとって断罪するわ」
なんか怖いことを言っているようだが……
「何の話ですかね?」
「喜びなさい!光一を私の部下という扱いにするという話を決定的にしてくれたのよ」
「どゆことだい?」
「ふふっ、ジャジルで私に逆らうことのできる人間はいないわ、そしてその紙はあなたを私の庇護及びスタセリタの部下にするというのを認めさせる紙よ」
「簡単に言えば王に対してそれを認めさせる脅迫文ですな」
「ああ……」
つまり最強のカードを手に入れたわけだ。
これである程度の自由は約束されるかな……
「あなたは一体何者なのですか?」
「今は内緒、あの国は私なしでは存続できないのよ」
白夜虎を一瞬で黙らせられるあたり相当な実力者であることは間違いないからな
王様より上なあたり他にも何かあるのだろう。
「エミリア様は何処にいかれるのですか?」
「ちょっとファーガス王国にね、2週間ぐらいしたら戻るわ」
「ファーガスですか?」
「ええ、ああ大丈夫よあなたの話はしないから安心して」
「はい」
つい動揺してしまったがさすがにそんなことはしないよな。
ジャジルはファーガスが嫌いみたいだしジャジル側の人間がファーガスで俺の話などしたら問題だ。
「戻ってきたらあなたともじっくり会話をするわ光一君、何しろ私の庇護下にいるからね」
「是非その時は」
もしかしたら色々聞けるかもしれないな、それに今の俺に足りないのは情報だ。
もっとたくさんの情報を得ないといけない。
「それじゃあ私はいくね、白夜虎があなた達を襲うことはないから安心してジャジルに向かいなさい」
「はい、ありがとうエミリアさん」
「しっかり光一を監視しなさいねスタセリタ」
「任せてください!」
エミリアさんと別れた後は俺とカーリンさんは正座をしながらスタセリタから泣かれながらの説教を受けビンタを数発、俺に至っては追加でグーパンも喰らう羽目となった。
だがスタセリタはそれだけ俺達のことを大切に想ってくれたからこそであり生きててよかったなんて言われた時は俺も流石に反省した。
正直同世代の女の子にここまで心配される経験をしていなかった俺からするとこれはとても嬉しかった。
「とにかく今後一切私の許可なく危険な真似はしないこと、それと私を置いて行かないこと、私に逆らわないこと」
「確約はできないっすな~」
「まだいうか!」
最早名物となったヘッドロックを喰らい悶える。
「ず……みま……しぇん」
「反省が足らない!あんたは今私の部下なんだから」
苦しいけど胸が気持ちいのでこのまま落ちてもいいなんて思ってしまう。
カーリンさんは俺が胸にあたって喜んでいるのを察しているようだが気づかないふりをしてくれているな。
「とにかく私を置いていくことだけはやめなさい!せっかくめぐり逢えたんだから」
スタセリタは俺の口を引っ張りながら言う。
「はひぃ」
「ははっ、2人のやり取りは見ていて飽きませんな~」
漫才してるわけじゃないよカーリンさん~
3人はこの後何も起こることもなく無事山を越えジャジル王国の王都バイムレックに辿り着いた。
少しづつ地道にですかね。




