尾形の山越え
久しぶりに尾形の話です。
話は遡り王都を脱走した尾形光一は馬車に揺られながら景色を見ていた。
向かった先は王国を西にいった小国らしい。
そしてスタセリタの自己紹介をされて俺は驚きを隠せなかった……
「改めて、私はスタセリタ・スウィープ・ジャジルよ。ジャジル王国第3王女よ」
「私はスタセリタ様の護衛をやっているカーリン・ハンセルと申します」
「まさかの王女ですか?」
ただの人攫いかと思ったらまさかの王女とは……
「ええ、驚いた?」
「驚かないわけが……しかし王女様が泥棒したり誘拐なんて危険な真似はやめたほうがいいかと……」
万引きはいかんよな~
1円盗んだって犯罪なわけだし。
「光一殿の言う通りです……まったくお転婆には困ったものだ……」
「それが私じゃない!」
「そういう問題じゃないよ。物を盗むというのはね……」
スタセリタがうんざりしたのか声を荒げる。
「ああ!うるさいうるさい!あの国へのせめてもの復讐なんだから!」
まるで子供のようである。
というかそんなセコい復讐はみっともないことこの上ない。
カーリンもそれを聞き溜息をつく。
「それでそのジャジル王国にいくにはどうすればいいんだ?」
「今ジャジル王国に向かっているんだけどファーガス王国とジャジル王国の国境であるハクショウ山を越えればつくわ」
「国境沿いの警備兵は大丈夫なのか?」
「ええ、問題ないわ」
「ハクショウ山には我々側のみが使える隠しルートがありましてそこを通れば関所はパスできます」
王都を抜けて一夜が明けているが多少無理して夜のうちにかなり進んだ。
それでももう捜索隊はでているだろうし時期指名手配されるだろうが……
「そろそろ山のふもとね」
王都を脱走してもうすぐ20時間ぐらいだろうか……当初の予定では昼ぐらいだったが朝にここに辿り着くことができた。
「このままいけば警備兵に見つかるので山ではなくまずはこちらにいきます」
カーリンが向かったのは少し離れた場所にある洞窟だ。
「この洞窟の先を行けばわかりますがすぐに行き止まりです」
「でもいくということは何か仕掛けがあるのですね」
「そうです」
洞窟の中は薄暗くスタセリタの魔法で中を照らさないと進めないぐらいだ。
「行き止まりですね」
少し進むと行き止まりでこれは洞窟というより少し広い洞穴だ。
「ええ、ここはね特殊な転移装置があるの。100年前の戦争の後ジャジル王国を建てた初代王の友達だった天才が作ったの」
「へぇ~」
スタセリタが呪文を唱えると壁から出るように転移装置が出現した。
「これは作成者とジャジル王家の血を引くものしか使えないの」
確かに制限がなけれな誰でも使えてしまう。
しかしこれを作る天才とやらが至る所に作ればその天才がいるだけで戦争を簡単に勝利できるな。
「これ作った人は恐ろしい……」
「そうですね、境界騎士団という100年前の戦争で勝利した反ダーレー教の英雄の一人である天才藤島直樹という方は作成しました」
「そんなのがいたら余裕ですね」
「はい、でも彼はその中では弱い方で裏方だったらしいですがね。それにこの転移装置はそんな遠くまで飛ばせないのでね」
確か王国の閲覧禁止のとこにあった歴史書物のとこに13人の反逆者が立ち上がり神々を封じ込めたなんて書いてあったな。
少しすると転移装置に魔力が貯まりスタセリタが起動させる。
馬車ごとの移動なので転移装置から広範囲の魔方陣を発生させる。
「そろそろいくわ」
スタセリタの声と共に魔方陣が光る。
「そういえばこれでたままだけど大丈夫ななの?」
「私達が移動し終えると自動的にまた壁の向こうへ消えるようになっているわ」
「まぁそうしないととっくにバレてるか」
「そうそう」
俺達の周りが光だし転移した。
転移すると暗い洞窟の中に移動された。
どうやらちゃんと移動はしたらしい。
「暗いな……」
「任せて!」
あまり魔法は本腰をいれてなくクラスでも下のほうだったので魔法は本気で覚える必要があるな……
スタセリタが魔法で明るくするとさっきとはぼ同じ形をした空洞だ。
「ここは?」
「山を少し登って下の方にあるとある洞窟です」
「つまり移動はうまくいったんだな。」
「当たり前じゃない!この転移装置をなめないで頂戴」
スタセリタは自信満々に答える。
「少ししたら昼食にしましょうか。ここはもうファーガス王国の領土ではありませんので光一殿も安心してください」
「完全に王国を離れたんですね~しかし5日かかるというのはこの山越えが大変ということですか?」
「正確にはジャジル王国の王都バイムレックまで5日間ぐらいでこの山越えは3日ですな」
3日か……随分かかるな。
「3日もかかるとはなかなか……」
「この山は3つの国と1つの非戦闘地帯に挟まれています。ファーガス王国、ジャジル王国、リユーン共和国……そして眠らずの地」
「こちら側からジャジルにでるにはけっこう距離があるのと山の夜の移動は大きな怪我の原因になるわ」
確かに山道での移動は危険な感じがするな。
「この山の魔物をどうなんだい?」
一応召喚された勇者の1人だし迷宮攻略もしてたしそこまで遅れはとらないと思うが……
「ここの魔物はそうでもないわ。それこそアホヌーラ山脈とかに比べたらね」
「ただ一つの例外を除いてですが……」
「例外?」
「夜になるとこの山には強力な魔物が出現します。白夜虎という夜行性の魔物がこの山を徘徊します」
「その魔物だけは桁が違うわ、何人も人を狩っているし倒すといって戻ってこなかった人もたくさんいるわ……」
スタセリタは暗い表情を見せる。
たしか王国の図書館の魔物図鑑ではSランク指定の魔物だったな。
少なくとも俺では勝てない相手だ。
「でもそんな魔物がでるなら夜動かないにしても危険じゃないか?それに昼だってどこにいるかもわからないんじゃ」
「白夜虎は昼の時間帯は基本的に眠らずの地側にある巣で眠っていますのでまず大丈夫でしょう。昼に巣の付近を近づいた者以外は襲われたという話は聞いてませんし」
「夜は奴の通らない行き止まり地点や木の密集する場所に気配を遮断する魔方陣を貼ります」
「なるほど、ちゃんと回避する術はあるんだね、というかここを通ってファーガス王国まで来てるんだから慣れっこか……」
「ふふっ、そういうこと」
スタセリタは自信満々に言う。
なんかこの自身は怪しいとこだ。
「ははっ、カーリンさんが大丈夫なら平気ですね」
「ほぼ大丈夫かと」
「むっ、何それ~魔方陣をはるのは私だぞ!」
スタセリタは俺に近づきにヘッドロックをかける。
苦しさと同時にくる胸の感触と甘い匂いが俺を興奮させる。
「光一にはお仕置きね」
「く、ぐるしぃ……」
しかし体が離れようとしないあたり非リアの俺の体は欲望に忠実だ。
「さ、さすがにギブ……」
俺がそういうとスタセリタはロックを緩めて離れる。
「これに懲りて私には逆らわないことね」
「いっ……まったく乱暴だな……」
「ふふっ、今あなたの命運は私にかかってるんだから」
スタセリタはどこか嬉しそうで今度口笛を吹いている。
俺はスタセリタから離れ馬を操るカーリンさんの隣に座る。
「いててて……」
「大目に見てやってくださいな光一殿」
「まぁ別に大丈夫ですけどね」
「お嬢様には同年代の親しい友人などいませんでしたから」
「そうなんですか?」
あんな性格だし周りに人が集まりそうな感じもするが……
「一見活発で人懐っこい感じがしますが王国ではみなそんなお嬢様に遠慮していましたからね。いつしかお嬢様はそんな顔色をうかがうだけの人達にうんざりしてしまったのです」
「そうだったんですね~」
王族というだけで普通の生活はできないし色々大変なんだな。
俺みたいな庶民にはわからない世界だ。
「だから光一殿はジャジルについてもお嬢様に対して今まで通り接してくださいな」
「はい、頑張りますけど王族のいる前では自粛します」
「ははっ、公の場で国王や王妃のいる前ではそうですな」
しかし今はジャジルを目指しているが俺は最終的にどうなるのか……勢いに任せて脱走をした手前あそこには戻れない……
「迷っておられますな?」
「そうですね、ここの世界には僕の帰る家はありませんからね」
俺の故郷はここではなく地球だ。
今は故郷が恋しいわけではないが帰る家はあそこしかないのだ。
親や妹がいて平凡な日常を過ごした家……
「そうでしたな、ただあなたはまだ若い……ジャジルについて一呼吸ついて頭をすっきりさせたら考えるといいでしょう。なぁに私も相談ぐらいならのらせていたただきますし」
「ありがとうございます」
ジャジル王国という国はよくわかっていないがこの二人をうまく頼れればだな。
しかし万が一に備えて保険も必要だな……周平君ならこういう時もちゃんと考えているんだろうな。
「2人共あそこでご飯にしましょう!」
馬車からスタセリタが声をかけるとスタセリタがさしたのは見晴らしのいい平地だ。
「盗賊とか平気ですかね?」
「ここは盗賊が住みつけるような山ではないですからね~それにそんな輩に我々は後れをとることはないでしょう?」
「まぁそうですね」
一応召喚された勇者の1人ですからね。
俺はステータスを確認した。
尾形光一
種族:人間族
レベル80
職業:魔法剣士
攻撃:11000
防御:8000
魔法攻撃:9000
魔法防御:8000
素早さ:10000
魔力:9000
ギフト:身体強化、成長速度UP
異能:脳対話(B)
称号:上級魔法剣士
まぁそこら辺の盗賊には遅れは取らないな。
少し尾形の話を書いてから主人公達の妖精の国の話を終わらせてクラスメイト編の流れですかね




