九兵衛の想い
個人的にはうまくかけた回だと勝手に思ってます。
九兵衛さんの家へ帰還すると、実と九兵衛さんに何故かザルカヴァがいた。
「デートは楽しかったかい?」
「ええ、九兵衛さんが作ったお店で、俊樹さんの料理をごちそうになったわ」
「話は聞いているよ、喜んでくれて何よりだよ~」
「それで九兵衛さん俺達に話があるんだろ?」
九兵衛さんは険しい顔になる。
「うん、とりあえずアザムールから話を聞いていると思うけど、召喚された勇者がクレセントの迷宮の三百層の仮クリアをしてしまったからね。もうすぐ本格的に遠征になると思う」
「思ったより早い……俺が離れてから、まだ二カ月も経っていないからな。俺の見立てでは、三カ月弱はかかるとふんでいたのにな」
今回の勇者は本当に粒ぞろいで優秀ということか……まぁ人数も多いし、当然か。
「周平はどうせ、迷宮の特性があるから助けにいかなくてもと思っていたのだろうけど、迷宮以外で死ねば生き返らせるのは難しいからね」
「ああ、四人は助けたいんだがね……」
「その勇者達は、どれぐらいの戦闘能力なんだい?俺達の脅威になるとは思えないけど」
実の質問に対し、九兵衛が答える。
「シルキーサリヴァンの調査だと、一番強い五人が冒険者でいうと、この白金ランクだそうだ。能力的にはザルちゃんやシルキーサリヴァンと同等ぐらいだね、たぶん今は二人でも経験値で勝てるだろうけど、ステータスで上がれば、そのうち勝てなくなるだろうね~」
それを聞いたザルカヴァが対抗心を燃やす。
「私はそんな奴らに、負けるつもりはないですよ総長!」
「彼らはギフトがあるからね。実際ザルちゃんも極限まで鍛えたら、実ぐらいまでにはなる。ただ彼らはそこまでいくのが早いのさ~」
「まぁ私達の脅威ではないけど、周平が月島さんや杉原さんをどうしたいかね」
そうだ、迷宮での死は、俺達の権限で蘇生が可能だが、迷宮をでれば違う。
俺はあいつらを助けたい!
その気持ちに嘘偽りはないし、絶対だ。
「勿論助けたい。まずは妖精の国だが、その後は情勢を見て救出だ!」
まずはかつての仲間と合流し、力を取り戻すことだ。
「そうだね、たぶん魔大陸遠征には、ここかファラリス連邦を通る。おそらく同盟を結んでいる、ファラリス連邦から遠征をする。ただあそこは、しばらくごたごたが続いているし、ファーガスの勇者達も色々準備したり、遠征するにあたっての会議とかがあるだろうから、どんなに早く見積もっても一ヶ月ぐらいは王国からはでないはずだよ~」
「つまりその間に、妖精の国で二人を回収して、迷宮攻略を最低限済ませることね」
迷宮攻略一〇〇一層までの攻略は、そんな短期間でできるものではないからな。
聞くと妖精の国の王都に行くのに、どんなに早くても往復で六日間。加えて攻略も最速でも二週間はかかかってしまう。ペースは、少し早くする必要があるな。
「じゃあ早速、明日出発だな」
「そうだね、それとザルちゃんも同行することになったから、みんな仲良くしてね~」
九兵衛さんがそれを言うと、ザルカヴァは九兵衛さんにくっつき、にっこりピースしてこっちを見る。
説得できなかったんだな……というか逆に説得させられたか。
九兵衛さんって有能なはずなのにポンコツなんだよな~
「よろしくね、足引っ張るかもだけど、一生懸命頑張るからお願いします!」
ザルカヴァがこちらに頭を下げる。
まぁ別に連れてってもいいんだけどね。このメンバーなら何かっても守れるし。
「フフッ、よろしくね。それと大丈夫よ、私達強いし、あなたも鍛錬すればもっと強くなれるわ」
「まぁザルカヴァがクラスに迷宮は、能力アップにはいいかもな。俺達いれば危険を最小限にしてレベルアップできるし」
「周平さんに立花さんよろしくです」
「迷宮攻略までだからね~」
九兵衛さんが念をおして言う。
「わかってますよ。それにファラリス連邦にはまだ行けませんから……」
ザルカヴァが力のない声で言う……何があったのかわからないが、獣人奴隷がいるだろうし、行きたくはないだろうか。たとえ白金冒険者でも、差別的扱いを受けるだろうし、いい気持にはならないはずだ。
「それと周平、君のクラスからも脱走が一人でているらしい」
「まじか、それはどいつだい?」
そんな勇気ある行動をするのが、うちのクラスにもいたのか。
「たしか尾形とか言ったかな。部下からそういう報告を受けているよ~」
「おお、マジか、あの野郎やるじゃねぇか」
尾形のことだ、おそらく国が怪しいと考えて脱走したに違いない。
「尾形君って。周平が中学の時助けてあげた、あのゲーム友達?」
「ああ、あいつは無能ではないからな。九兵衛さん、部下にあいつの居場所を突き止めてもらえないかな?」
「それも今やっているとこだよ~時機消息が掴めるはずだ」
あいつは見つかり次第救出だ、きっと俺の生存がわかればびっくりするに違いない。あいつとも会うのが楽しみだな。
「それでファラリスの方の脱走者は?」
「残念ながらそっちはまだ特定できていない。あそこは勇者を軟禁状態にして教育したみたいだから、いまいち詳細が掴めてないんだ~」
陣だったらテンションが少し上がったが、希望的観測でものを言ってはいけないな。
「あと俺達が国を滅ぼすのは簡単だ。たぶん立花ちゃんも実も、連邦や王国共々潰す気まんまんだよね?」
「「当たり前!」」
まぁ当然の反応だ、俺も記憶が万全で、クラスメイトのことがなければ潰すに賛成なはず。
「ザル話していいかい?」
「はい、大丈夫ですよ」
ザルカヴァの表情は重い。何やら深刻な話をするようだ。
「わかった。実はザルは幼少期まで、連邦で奴隷だったんだ」
「そうなのか?」
考えてみたら昔は獣人族の国があったし、全然見かけないのはおかしいと思っていた。
「元々獣人族の領域は今の連邦領にあってね。ファラリス連邦は、ここ数十年で国土を増やし、大国になったんだ~」
九兵衛さんは説明を続けた。
人間至上主義を掲げる連邦は、獣人族領を制圧後は、獣人族を奴隷にした。逃げた獣人族もいたが、大半は奴隷となり、ザルカヴァもまた生まれもっての奴隷だったのだ。
「私は小さい頃から、家族と離れ離れになり、とある貴族の家へと売られた……」
そこではペットのような扱いを受け、特にそこの貴族の息子だった男からは、虐待まがいのことをされたという。
「私は死のうと思ったけど、隷属の腕輪を嵌められ、死ぬこともできなかった……」
ザルカヴァの目から涙がポロポロこぼれ落ちる。マズイと思ったのか九兵衛さんが止めに入る。
「ザル、もういい」
「いえ、九兵衛さんは続けさせてください!」
ザルカヴァは話を続けた。
「十数年前、私もその貴族の子供が十歳の頃、私はいつも通り虐待を受けていると、地震があって川が氾濫し、川に落ちて流されたのです」
流されたのを助けたのは、イネーブルを連れた九兵衛さんだった。九兵衛さんは助け、介抱してあげると奴隷であることに気づいた。
「その地震はファラモンドに行った時の、奴隷市場の現状を見て、俺が怒って起こしたものでね~」
「九兵衛さんは私にかけられた隷属の腕輪を破壊し、契約も破棄してくれたのです」
「それで冒険者ギルドに?」
「はい、ただ白金ランクまで上がっても、まだあそこには足を踏み入れられない……あの男と鉢合わせしたらと思うと……」
ザルカヴァは体をびくびく震えさせている。
子供の頃植え付けられたトラウマは、なかなか消えないからな……
「俺もあんな胸糞悪い国とっとと潰したいし、リオンもレダも同じ考えだよ。潰すのなんて簡単だけど、その結果起こるいざこざだったり、一八〇度方針を変えた国作りは、俺が王になったとしても難しい……結局国は人がついてこなければ成り立たないからね~」
九兵衛さんは苦々しく言う。
その通りだ、安易に力任せで滅ぼすだけでは駄目なんだ……俺達は偽神の殲滅もある。
「必要なのは俺達の思想を浸透させ、それを受け継いていく者たちだな。それも最低白金ランクぐらいの」
「そう、だから二人が来るのをずっと待ってたんだよ~騎士団を再集結させ、世界に宣戦布告し、世界を変えるためにね!」
世界に宣戦布告か……正直まだ記憶も戻らなくて実感も湧かないし……次から次へと面倒は来るし、まったく……
だけどそれを聞いて、すごいワクワクしていた。自分も昔はこんな感じだったんだなと、記憶が教えてくれる。
世界に宣戦布告とか上等だよ!
「だったらやろうぜ!そんな胸糞悪い奴ら全員殲滅して、世界ごと変えてやればいいさ」
「そうね、私達の帰りを待っていた、メンバーの為にも動かないと」
「ははっ、俺も二人について行くよ~ファーガスには恨みがあるからね」
「その言葉を聞けて嬉しいね~百年も待った甲斐があったよ~」
九兵衛さんも少し涙を流していたが、それはおそらく嬉し泣きなのだろう。立ち上がるその日をずっと待っていたのだ。
その日の夜、テンションが上がりまくって寝れなかった。遠足にいく前日の子供のように、興奮状態だったのだ。
主人公とがどんどんクラスメイトに関心をなくしていってますがちゃんと犯人とのやり取りは書きますw




