レストランへ
深夜ですがあげていきます。
雑貨屋を出た後は、ご飯を食べようとお店を探して歩いていた。立花は俺と腕を組んで歩いているのだが、わざと胸を当ててくるので、俺の胸はドキドキである。
「フフッ、周平ったらドキドキしてるでしょう?」
「そ、それはそうだ。立花みたいに記憶が完全じゃないからな」
頑張って平静を装うが、やはり反応してしまうな。
「どうも腹立たしいことに、私と夫婦をしていた記憶がけっこう欠落してるみたいね。私との夜は覚えてる?」
「一応したこととかの記憶は部分部分ではあるよ」
「そう、ならやるときは上手くやってくれるわね~」
立花さん、そんなこと言われたら想像が膨らんじまうよ。そんな想像をしていると、俺の息子はみるみる膨らんでいく。
「想像して大きくなっているわね、可愛い所は変わってないのね~」
「は、恥ずかしい……」
「何を恥ずかしがっているのかしら?それとそこは、大きくなってもらわないと困るとこだし」
いくら強くても性欲には抗えんな……
立花からすると、これは夫婦のお出かけだが、俺からすると恋人とのデートって感じなんだよな。この温度差もなんとももどかしい……
「私は別に今は温度差があっても大丈夫よ。むしろからかいがいがあって楽しいし」
エスパーかよ。
立花は俺の顔を見てニヤニヤしてくる。
「僕の負けです」
「フフッ、それでどこで食べる?」
そうだ、お店を探しているんだったな。頭から抜けてしまった。
「ここいかにも高そうだけど行ってみる?」
少し先にある大きな建物がある。街で一番高い建物は、高級レストランだと九兵衛さんが言っていたからな。
「九兵衛さんが言っていたお店ね。行きましょうか?」
俺達はお店へと向かい入った。
「これはまた中も豪華や~」
「そうね、それで一番高級なのは一番上の階ね」
どうやら魔力で動くエレベータのようなもので行くみたいだ。
「お客様ご予約の方ですか?」
エレベータのようなものに乗ろうとしたら、係員に引き留められた。
「あっ、違います」
「それですと上の階にはいくことができませんが……」
昼の時間は少しずれているはずだが……でもそういわれると余計に行きたくなるな。
「何時間待ちかしら?」
「そうですね……一週間待ちですね」
「まじ?!」
はっ!?一週間だ?
だが立花表情を見るととても引き下がりますなんて顔はしていない。
むしろむきになってヒートアップする。
「その予約をすっ飛ばす方法は?」
「立花さんそれはいくら何でも……」
「周平はちょっと黙ってて!」
「は、はい」
ヒートしてる立花は止めない方が無難です。というか楽ですはい。
「あなた方に、その資格があるとは思いませんが、ここは冒険者ギルドの総長が作ったお店なので、冒険者のランクが高ければ優先して入れます。特に白金なら予約を飛ばして入れます。お金では動きません」
ランク?まてよ、それなら俺達は余裕じゃ……
立花はそれを聞いた瞬間ニヤッとした。勝ちを確信したからだ。
「なら大丈夫ね、行きましょう周平~」
「そうだな~立花の勝ちだ」
「フフッ、こんなんで私が負けるわけないでしょう。」
「ははっ、だな~」
というか今のに勝ち負けとかないんだが……とは口が裂けてももちろん言わない。
ただ係員の態度と門前払いが気に入らなくて、勝手にヒートして無理やりでも、それをねじ込んだ立花からしたらこれは勝ちなのだ。
「ちょっと言っている意味が……」
それ以上は口を開かせる気はなかった。
俺達は九兵衛さんと同等のブラックランクのカードを見せつけた。勝利を確定させる、ここである意味最強の切り札だな。
「嘘……総長と一緒……」
係員は唖然としてしまった。
人は見かけによらないということを少しは学んだかな。俺達はエレベータのようなものに乗り、最上階へと向かった。
「これ作ったのって……」
「直樹でしょ」
「ですよね~」
この世界にこんな地球チックなものをつくれるのは、騎士団メンバーの一人で、天才と言われた、藤島直樹しかいないな。九兵衛さんが作らせたなら間違いない。
「あの時も私達十三人で、自由に空を飛ぶ乗り物も作ろうとしていたわよね?たしか戦空挺だったっけ?」
「そうそう、結局構想段階で戦争の激化で作れなかったやつな」
「私達はこの力で脳も含めて強化されているし、私には王の書、あなたには完全記憶があるのに、彼の頭脳には到底届かないあたり、私達が神じゃないことを証明していると思わない?」
「確かにな、俺達もかなり頭は回る方だと思うけど、あれはまじで異常だよな」
あいつを二十柱にいれたほうがいいんじゃねなんて思ったのはよく覚えている。それぐらい頭の良い男だった。
「そうね、でも九兵衛さん曰く、それでも彼は二十柱の器ではないってのがまた不思議よね」
「まぁ二十しか席がないのと、そもそもあいつが補佐タイプってのがあるのかもな」
二十柱は、補佐をするのではなくされる側の存在。それを考えれば当然なのかもしれない。
「ただあいつなら昔、図書館が言ってた、次元エレベータを完成させることができるかもしれないけどな」
それが完成すれば、行き来が自由にする事も不可能ではない。
「たしか図書館はそれに断念していたわよね?」
「ああ、なんでも移動させるエネルギー源の自動確保と、耐久面に難ありだったんだよ。でもたしか昔直樹に話したら、脳内でそれをクリアできる構想ができたと言っていたな」
「あら、直樹ったら頭脳派の図書館も超えちゃうのね~」
「ただ飛ばすときに体が残らないってさ。二十柱クラスならそれに耐えられるだろうけど、それでも難ありでそこはクリアできてなかったな」
そこまでクリアしたら全部色々解決しちゃうんだけど、そこまで世の中は甘くない。
エレベータで上まで着くと、そこはいかにも高級ですと言わんばかりのレストランがあった。二十階にそびえ立つその場所は、選ばれた者のみが足を踏み入れることができる、そんな場所にも思えた。
鉄板料理大和と書かれた、そのお店はいかにも九兵衛さんらしい名前である。
「お客様ご予約の方ですか?」
「いや、こういう者だ」
俺と立花はブラックランクのカードを店員に見せる。見せられた店員は一瞬困惑したが、すぐに冷静になる。
「二十分ほどお待ちくださいませ」
そう言われ、二十分弱座って待つと、再び店員がこちらに来て席まで案内される。
地球でいうとこの、鉄板料理屋と同じような構造を作っており、地球に戻ってきたんじゃないかと思うぐらいだ。
「ここは六本木の鉄板料理やかな?」
「フフッ、同感ね」
さてメニューが気になるとこだが……
するとどうやら支配人と思われる人が挨拶に来た。
「どうもいらっしゃいませ、神山様に神明様」
「俺達を知っているのか?」
「もちろんです、ではここで自己紹介させていただきます。私はアザムール・モレイラと申します。ランクは白金で総長の腹心の一人でございます」
「九兵衛さんの腹心の一人ね。それでここの支配人も任されているわけね」
「左様でございます。先ほどブラックランクの二人が、ここに登ってくると聞いたものでしてね。噂のお二人にお越しいただき、恐悦至極にございます」
同じ腹心でもザルカヴァと違い、随分と紳士的な人だな。しかしそんなこと言われたら、逆に照れてしまうな。
「そんなかしこまらんでくれよ。有名人でもないんだし」
「何をおっしゃられているのですか?境界騎士団と言えば、冒険者ギルドの成り立ちにおいても重要ですし、そこの団長であった神山様や、副団長であった神明様は、九兵衛さん同様天上の方なんです」
うん、あの獣人娘は、この人の爪の垢を煎じて飲ませたほうがいいな。
しかしギルドの成り立ちで、なんで騎士団が関係あるんだ?
「ねぇギルドの成り立ちと騎士団ってどう関係があるの?」
「それはですね、総長がこの街とギルドを作ったのも、そもそも来たるべき時に備えてなのですよ」
「どういうことだ?」
「境界騎士団とは、確かに歴史においては反逆の集団と言われてますが、差別意識の解放と、多種多様な種族の共存という思想を、世界に大きく広めたのです。総長は冒険者ギルドを作るにおいて、理念として境界騎士団が掲げた、この思想を世に広めていくというのを掲げました。だからあなた達は私達のパイオニアなのです!」
確かに偽神を倒し、世界を自由へと解放するってのは大っぴらに言ったし、当時差別を受けていた種族も味方につけて差別意識の解放も掲げたっけ。俺達の終わってない、あの戦争を完全勝利に持っていく為に、九兵衛さんは意志を引き継ぎ、ずっと俺達を待っていてくれたんだな。
「なるほどな、それで俺達が立ち上がった時、この街は俺達の大本営となるわけか」
「ええ、高いランクの冒険者の大半は、九兵衛さんを慕っていますし、冒険者の大半は自由を掲げていますからね」
「フフッ、なら期待に応えないとね」
「だな。それで周りにお客様がいないのが気になるとこだが……」
店に入り、けっこう奥まで連れていかされたが、お客さんはほとんどいなかったな。
「あなたたちが来ると聞いたので、他のお客様はみな帰っていただきましたよ」
「まじか、いいのかそれ?」
「当然です!あなた達と同格のお客様など、総長や他の騎士団メンバーぐらいです!」
俺と立花はそれを聞いて苦笑する。まぁランクで予約を飛ばせるお店だし、当然の対応か。
「ではシェフが来るので数分お待ちを」
アザムールも一旦下がる。
さてここを任されるシェフとその料理も楽しみだ。
冒険者ギルド白金ランクのギルド職員は八人です。
シルキー・サリヴァン
イネーブル・モントヒルデ
ザルカヴァ・ストイコビッチ
アザムール・モレイラ




