実との再会
書く楽しさを忘れてはいけないですな。
祐二を死にもの狂いで鍛えていた。
まずは一週間で体の基礎をつくり上げ、技の習得率をできるだけ上げるためだ。普通ではこんな短時間では無理だが、レダさんの加護を持つ裕二の肉体ならそれが可能だ。
「よし休憩だ、なかなか悪くないぞ」
祐二は休憩と言われると体が急倒れ込む。
「ふむ、剣技の習得はこのままいけば間に合うな」
「はぁはぁ……周平さん……死にますよ……」
「大丈夫……死にかけまで追い込むが死にはしない」
「それ、答えになってないですよ~」
祐二を生かさず殺さず死の手前まで追い込み、急激な成長を促す。かつて俺や立花がランスロット先生から受けた指導方法だ。おかげで祐二は急激な速度でパワーアップしているし、あと三週間弱でどこまで祐二がいくか楽しみだ。
「特訓は順調なようね」
立花が戻ってくる。気配をしばらく感じなかったところを見ると、おそらく他の地域にゲートで移動していたのだろう。
「おう、立花は王都にでも出かけてたのか?」
「あら、察しがいのね。さすがは私の夫ね」
現世ではまだ結婚してないがな。昔よく夜のいかがわしいお店に出入りしようとする度に、ことごとく見抜かれては無言の圧力を喰らっていたな。夜の店ではそれなりに人気で、こっちとしてもちやほやされたいから九兵衛さんに協力してもらって、コソコソ行ってたのが懐かしい。大抵お説教とセットで後から苦しんだが……
「まぁな、おおかた月島や杉原の顔でも見に行っていたのだろ」
嫉妬深い立花のことだ。俺と仲良くしていた女子を偵察しないわけがない。
「そうよ、でも思わぬ拾い物もしたわ」
「拾い物?」
「よっ、相変わらずだね周平さん」
「み、実じゃないか!お前今までどこで何してたんだよ?」
俺は思わず大きな声をあげた。かつての仲間の安否は常に気になっているだけに、こうやって素直に再会できたのが嬉しい。
初代勇者にして元の世界……すなわち地球においてはかつての帝国日本でトップにたつはずだった王家の子。裏切られ絶望に満ちたこいつを保護した記憶も実の顔を見たことで思い出してくる。
「ちょっと長い睡眠をとっていたんだ。まさかファーガス王国がまだあるなんて驚きだったよ」
「ファーガス城の地下の厳重な扉の奥で眠ってたわ。しかも自己バリア付きでね」
「それはまた……」
かつての戦いで死にかけた時、魔法を施したのだろう。一体誰がやったのか確証はできないが、おそらく直樹が絡んでいるのは間違いないといだろう。
「まぁ何にせよお前と再会できてよかったよ」
「ははっ、それはこっちのセリフさ、それで今は九兵衛さんのとこに行くんだよね?」
「ああ、とりあえず奴と合流すれば他のメンバーの消息がわかるかもしれないからな」
「そしたら九十九ちゃんにも……」
こちら側世界には存在しない、陰陽士であった騎士団メンバーの一人の御子神九十九、実と同じ初代勇者の一人でかつて実とは恋仲だった。見つけられるものなら早く合流したいとこだが……
「一応全員で再集結の予定だ」
「あの時の続きをやるんだよね?不完全燃焼だし準備は万端さ」
実はあの時の戦争の後、この世界の偽神に加担したファーガス王国を滅ぼすという目的があった。自身を罠に嵌め、殺されかけたことへの復讐だ。この発言からして、戦争終結より先に戦線を離脱したであろう実にとってあの戦争はまだ終わってないという事だろう。まぁ偽神を殺し切れていない以上、どのみちメインの戦いも終わってはいないわけだが。
「どのみちあの国には何かしらの制裁は与えるつもりよ。王家を殺したければ時期が来たらあなたに任せるわ」
「できれば戦争の続きなんてやりたくはないんだけどねぇ~」
「周平さんらしくないですね。借りはしっかり返せと俺はあなたに教わりましたよ」
「まぁ面倒はなるべく避けたいんだ。避けられないものに関しては逃げるつもりはないけどな」
昔はもっと好戦的だった気もするけど、自分でもなんだか大人しくなった気がして不思議な気分だ。
記憶がもっと戻れば好戦的に戻るかもしれないな。
「周平は記憶と力をつい最近取り戻したの。だからまだ実感がわいてないのよ」
「なるほど、それで前より覇気がないんですね」
ほっとけ、大人になったと言って欲しいものだ。確かに昔は怖い者知らずで戦っていた記憶がある。
死んだときの明確の記憶はまだないものの、何かと相打ちをした記憶がうっすらある。転生魔法をかけていたみたいなので詳細はよくわからんが、相打ちしたあたりおそらくそれには慢心があったのかもしれないな。
今度はそういう慢心をせずにいくつもりだ。
「それでそこにいるのは?」
「ああ、紹介するよ。俺達がわけあって訓練している二本柳祐二だ。名前から察するに地球生まれだ」
「どうも、よろしくお願いします」
「俺は天竜院実だ。周平さんと同じ騎士団のメンバーで昔周平さんには鍛えてもらったんだ」
「ということはかなり強いのですね」
「まぁそれなりにな」
実のステータスを確認する。
天竜院実
レベル:333
種族:人間
職業:剣士(マスター級)
攻撃:111111
防御:99999
魔法攻撃:111111
魔法防御:99999
素早さ:111111
魔力:105000
固有スキル:皇家の光
コントラクトスキル:戦国統一絵巻
ギフト:身体強化、成長速度UP、剣士適性
異能:剣歯虎の牙(AA)
称号:居合マスター、王国の英雄、神速の空間斬り
ふむ、なかなかだな。固有スキル、コントラクトスキル、ギフト、異能と四種類持っているのは実ぐらいだろうな。俺達もコントラクトスキルは解放されていないだけで、そのうち使えるようになるだろうが俺達にはギフトがないからな。
おそらく月島達が実ぐらいまで成長したらこれぐらいになるのだろう。ただ実は固有スキルを発動すれば能力はもっと上がる。果たしてあいつらがここの域まで辿り着けるかどうか……だが辿り着いたとしても俺達には遠く及ばない。あの国に使われるというのは最終的に破滅の道を歩むことになるのだ。
しかしそれは破滅する寸前まで行かないとわからないだろうし、実は自身の死の危険や破滅の道を悟り俺達の元に来た。
特に嶋田あたりはそうならないとわからないだろう。
◇
四人はゲートで祐二の宅へと帰還、今日の晩御飯は頼んでいた天ぷらと茶碗蒸しだ。
実の自己紹介も兼ねて六人でテーブルを囲い、飯を食べていると二本柳父はとある事に気づいたようで実に質問をぶつけた。
「実君の天竜院ってのはまさか……」
「ああ、帝国日本の大元帥だった明けの王の嫡男だ。正の王は俺の弟だ」
「やはり……嫡男は若くして死亡となっているが、死因がよくわかっていないんだ。まさかこっちに召喚されていたとは……」
「俺は須佐の王の隔世遺伝だ。だから向こうでも異能力を使えた、今の日本の現状は二人からさっき聞いたけど、もし召喚されなければ今頃帝国日本は残っていたかもな」
「確かに……」
「まぁそれで平和じゃなかったらあれだし、今向こうが平和ならとりあえずはいいんじゃないかな」
実が王ならおそらく帝国は敗戦という道は歩まなかったと俺達は確信していた。こいつは人の上に立つ器を持っている。もし俺達が役目を終えたらこいつに任せたいとも考えている所だ。
「明日からは祐二の特訓は俺も手伝いますよ」
「ああ、よろしく頼むよ」
祐二の特訓は日に激化。
何度も死にかけながら、それをなんとか耐え続け、こうして期限の一ヶ月はあっという間に経過していったのだ。
祐二編はそろそろ終わりですね。
コントラクトスキル
強い力を持つ者との特殊な契約によって得る事のできる能力で、
契約には二十柱クラスか二十柱の加護を受けている戦姫でなければ行使する事ができない。
固有スキル
ごく稀に持つ者がいる。遺伝や突然変異による生まれ持っての場合と、
後天的付与の二パターンに分かれる。




