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期待

立花と会わせるためにクラスメイトの話もいれました。

 そのころファーガス城ではちょっとした騒ぎになっていた。


 尾形光一が脱走したからだ。

 これにより召喚された三一人はより監視が厳しくなった。まずどこにいるかわかるように発信器機能のついた腕輪をつけなければいけなくなったのだ。クラスメイトの一人菱田隼人はご立腹だ。


 「こんなんで俺達を監視しやがって……まったく尾形の野郎やってくれたな……」

 「まぁまぁ隼人君、抑えて抑えて」


 取り巻きの秋山と大野が菱田を一生懸命なだめていた。


 「菱田落ち着けって」


 二人に続きクラスのリーダー的存在の嶋田も菱田をなだめる。


 「しかしこれはなんとも落ち着かない感じだな」

 「まぁこれ以上脱走されてもたまんないだろ?それに他の街への遠征の時はこれをつけるのを義務つける予定だったみたいだしよ」


 嶋田の親友である木幡が言う。


 今の所クラスでは周平と尾形を除いた三一人が残っていて迷宮も二五〇層までの攻略を果たした。昔召喚された初代勇者は三〇〇層をクリアしたことで迷宮クリアとなり、そこにある転移装置で入り口に戻ったという話だ。尤もこれは三〇〇層をある条件でクリアすれば、さらなる下層にいけるという条件を満たしてないだけである。だから世間一般的なクリアは三〇〇層なのだ。


 「三〇〇層のクリアを持って外に遠征されるってわけね……」

 「頑張ろうね美里ちゃん」


 美里と雪はついに周平の手掛かりがわかるかもと少し楽しみな反面、怖い気持ちもあった。召喚されし者のプレートの反応があればそれは周平の死が確定だからだ。プレートの反応がなければ周平は迷宮をでたという証にもなる。

 ただ三〇〇層のボスのソロ攻略こそが深層への道というのはおそらくわからないだろう。でも結果その勘違いは周平の生存を勝手に結論つけることになる。

 プレートの反応はあの時パーティ登録をしている雪にしかわからないことで、このプレートのパーティ機能は位置情報特定機能としての機能があり、迷宮で反応がなければ周平はここをでたことになるからだ。ちなみに有効なのは数キロ程度だ。


 「尾形君はなぜあのタイミングで脱走なんかしたんだろうか……」


 雪は怪訝そうな顔を見せる。この二人も尾形の脱走の理由がわからなかった。彼がもし犯人だったからというのも考えもよぎったが、それも違うだろという結論に至った。


 「おそらく尾形はこの国からでたかったらだと思う。それでたまたま好機がやってきてそれで抜け出したんじゃないかな?」

 「おそらくそうだと思うけど……協力者もいたはずよ」

 「協力者?」

 「尾形の能力で抜けられるはずがない。警備はそんな甘くなかったはずだし抜けようとしたクラスメイトは過去に何度も注意を受けているし」


 そう、脱走を試みた生徒は過去に何人かいたのだ。もちろん未遂だったり、ほんの出来心だったりで牢屋行きなどにはなってないが、その度に警戒レベルを上げてきたし注意もされてきた。そんな中脱走を成功させたのは協力者がいないと無理だからだ。


 「まさか周平君?」


 雪はその名前を思わずだした。そのほうが都合がいいし、そうであってほしいという希望があるからだろう。だが美里はそれをすぐさま否定する。


 「可能性はゼロではないわね。でもその線は低いわ」

 「なんで?」

 「もし仮に周平君だったら尾形より先に私たちと接触するはずよ。特に雪はプレートのパーティ登録があるから場所の特定にも困らないだろうし」

 「ぐっ、確かに……」


 雪は早く彼の生存を決定づけたかった。それがきっと心の支えになるからだ。


 「明日の迷宮攻略で三〇〇層まで行けば周平君の生存か死かのある程度の結論がつくわ」

 「うん……」


 二人はこの後、木幡と嶋田と共に街でご飯の予定だった。というのも嶋田から明日の作戦会議も兼ねて、今日は城をでて外でご飯を食べようという話を持ち掛けられていた。


 「二人とも待たせてごめんね~」

 「大丈夫だよ」


 嶋田は優しく声をかける一年生の時から女子に人気があり、サッカー部のレギュラーである嶋田が落とせない女子などほとんどいないと言われていた。


 「行こうか」


 木幡は内心張り切っていた。寡黙だが女子から抱かれたいランキングでは嶋田を上回って、一位だった木幡だが、一年生の時から狙いは杉原一人だった。はたから見たら美男美女のダブルデートとのような構想だ。


 「こういったリフレッシュも必要だね」

 「そうね、たまにはこうやって街を歩くことも大事ね。基本迷宮攻略とトレーニングの、毎日だからね」

 「ふふっ、嶋田君も美里も疲れてるね」

 「笑っているがそういう月島だって疲れているはずだ。俺も色々あってくたくたさ……」


 この四人は特に王様たちから期待を寄せられている。召喚された者たちの中ではトップクラスの才能と力を持っており、その分みんなの期待も大きい。


 「今日はちょっとでもリフレッシュするのに集まってもらったんだ。最近竜也と見つけたいい店があるんだ。案内するよ」


 四人は男女で二対二となって歩く。


 「なぁ杉原、あの時の答えってのはいつ聞かせてくれるんだ?」

 「こないだの告白ね。あなたって寡黙な割に結構大胆よね」


 美里は二〇〇層の攻略を終えて何日かしたころ木幡から告白されたのだ。突然だったので返事はしていない。


 「好きな相手には当然だ、昔からお前のことが好きだったからな」

 「知ってるわ。あなた私のことずっと見ていたもんね。陣君と周平君と雪と私が話している時とか特にね」

 「だから神山にはあんまりいい印象がなかった。あいつがクラスで外されてからはそれをよかれと思ってしまったしな」

 「あんた、それ私に言わなくてもいいことよ……」

 「お前が好きだからこそ正直にいくさ。俺は神山に嫉妬していたからな……」


 木幡の言葉に美里はため息をつく。正直今こんなことを言われても困るというのが本音だった。


 「あんたの気持ちは嬉しいよ。でも今私はあんたの気持ちに応えられないわ」

 「やはりお前も神山が……」

 「周平君にそういう感情はないわ。もちろん告られたら付き合うかもだけどね」


 その言葉に木幡はイラついた表情は隠せない。だが周平にはずっと好きだった人がいるし、彼がその人のことを忘れない限り、お呼びじゃない事も理解していた。仮にその人のことを吹っ切れたとしても雪という存在がある事も。


 「あんたや嶋田と周平君の差って何だと思う?」

 「差?」

 「あんたたちクラスがさ……周平君を妬んで外したことについて私はとってもイラついてるの。それと周平君ってさ、向こうにいる時は凄く強かったわ。それこそ口だけ威張ってる菱田なんかたぶん軽くボコせたと思う」

 「そうなのか?」


 木幡はそれを聞いて驚く。


 「昔私と美里と陣君と周平君がゲーセンで不良に絡まれたことがあったんだけどさ……」


 一年生の秋ぐらいの話だ。四人でゲーセンで遊んでいたら美里と雪が絡まれた。だがその時周平と陣は見事に不良を撃退した。


 「でもそしたら今度はそのやられた数人が二十人ぐらい引き連れて二人を囲んだんだ……でも二人はその二〇人軽くボコボコにしたよ。すんごい強かった。戦慄したし惹かれたよ」


 美里はその話を楽しそうに語る。そんな美里を見て周平に対する嫉妬心が増大するが、木幡はこの話を聞いて疑問を感じた。


 そんなに強いなら菱田なんぞ簡単に倒せたのだろう?どうして何もしなかったんだと。


 「なぁなんで神山はそんな強いのにクラスであんな目にあっても何もしなかったんだ?」

 「私や雪も言ったんだよ。あんな奴ボコボコにしちゃえってさ。そしたら周平君はそんなことしても意味はないってさ。クラスメイトの本質を見たし、仮にあいつをボコボコにしてもあいつらと真の友達にはなれない。それにお前らは気にせずこうやって話しかけてくれるだけで俺は十分だってね。あんたたちは同じ状況でも周平君と同じこと言えるかしら?」


 木幡は何も言えなかった。そしてどこか自分が周平に負けているということを実感する。前からわかっていたけど認めたくなかったそれをこの話を通じて認めざるを得なかったのだ。


 「まぁあんたもさ別に悪い人じゃないんだしもっと私が惹かれるようなことしたら?何度も言うけど私も雪も周平君を外したクラスメイトに少なからず悪い感情を持っているわ。あんたや嶋田は周平君が外されて見て見ぬふりをした側だけど外れるきっかけとなったあの事件の首謀者を私は許さない!」


 昔のとある事件、周平が濡れ衣を着せられた。もしかしたらその犯人こそが周平を迷宮に落としたのかもしれないと美里は感じ取っていた。


 「あれはたしかに神山ではないというのは俺もうすうす感じてはいる。だが犯人の目星はついていないのも現状だ。あれに関しては浩二と一緒に犯人を捜していたからな」

 「そうだったわね、あれに関しては結果として周平君の助けになる行動をしていたもんね」

 「杉原、俺杉原が好きになってくれるような人になれるよう頑張るからこれからもよかったら見ていてほしい」

 「そう、まぁあんたとは一応パーティ組んでるし嫌でも見ているからせいぜい頑張りなさい。それとまず周平君が帰ってきたら謝んなさいね」

 「神山は死んだはずじゃ……」

 「周平君の生死は明日わかるわ。それとたぶん彼生きているわ。私の直感だけどね」


 木幡はその意味をわからないでいた。前を歩く二人は後ろの話がちらほら聞こえていた。


 「神山にそんなエピソードがあったんだね」

 「うん」


 当初二人は世間話をしていたが、後ろの二人の話の告白のくだりを聞いてから、後ろの話を聞こえる範囲で密かに聞いていた。


 「菱田を簡単に倒すところを個人的に見たかったかな。それとあの事件に関しては、竜也と一緒に調べていたし、神山は無実だと勝手に結論つけているよ」


 嶋田はあれが周平でない事は確信していた。あの事件の犯人が周平ではないのは調査でわかり、その後真犯人を探したが、見つけられず悔しい思いをしたからだ。


 「ふふっ、私もそれは正直見たかったね。あの事件は、周平君は何も関係ない……ほんと真犯人は許せないんだから」

 「神山も月島や杉原にそういう風に思ってくれてて嬉しかったと思うよ。やっぱり月島は神山のこと好きなの?」


 嶋田はこれは聞いておかなければならないと考えていた。周平のいない今、雪がどう思っているかを確かめる必要があった。


 「どうだろうね、私も正直わからない。ただ周平君はとても大切な人かな」


 その曖昧な答えに嶋田は困惑する。


 「君にとって神山はとても大事な存在だったんだね」

 「うん、周平君がいなきゃ私死んでいたかもしれないからね。それぐらい周平君には感謝してるの」


 嶋田は前から雪の心にここまで入り込んでいる周平には嫉妬しており、それを感じる度に悔しさにじみ出ていた。悔しかったが何度もそれを押し殺して接してきた。平静を装い、クラスのリーダーをして雪を振り向かせるために色々してきたのだ。そして今まさにチャンスであると。


 「俺もさ、君にとっての神山みたいな存在になりたいと思ってる。だから僕を見ていてほしい」


 嶋田はまずは遠回しに気持ちを伝えた。ずっと狙っていた雪を徐々に落として手に入れるために。


 「ふふっ、ありがとう。じゃあ嶋田君にも期待するね。このクラスを引っ張る嶋田君には少なからず助けてもらうことはあると思うから」


 雪のその返しに嶋田は喜色の表情を見せる。

 

 もうあいつはいない……今度は俺のターンなんだと自身の心に強く念を押す。


 「ああ、任せてくれ!」


 嶋田は歓喜していた。このままいけば雪を落とせるだろうと、そんな確信を勝手にしてしまったのだ。

 雪は表には出さないが、クラスで孤立する周平を見て見ぬふりをしたことを少なからず忘れていない。

 雪の心の中を知り得ているのは三人だけなのだ。


菱田が周平にしていたちょっかいはクラスメイト全体に外されたのと別という風に考えていただいていいかもです。

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