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防衛戦3

「ブレイククラッシュ!」

「はっ!」


タピットとバスティノの一騎打ちが続いていた。上司と部下の関係にあった二人の戦いにはお互いに思うところがあったのか、剣を交えながら、時折会話を交わし二人の世界に入っていた。


 「力をすぐに受け継がなかったのはお前にとって致命傷になりえた。反省しなさい」

 「重々承知しております。だがあなたを殺したエミリア殿よりも、エミリア殿に逆らいダーレー教の忠義を貫いて勇者を不幸にして死を選んだあなたに疑問を持ってしまいました」


 ファーガス王国の騎士団長は十三騎士ナイツオブラウンドの一つを引き継ぐ権利を持っており、それを引き継ぐ事で力を得る事ができる。

 タピットはバスティノに死んでほしくはなかったし、エミリアにも嘆願した。だがバスティノはエミリアの出した条件を呑めず、死を選んだ。結果的に先代勇者を不幸にしてしまったのもあり、そこまでして教団に忠義を尽くしたバスティノに疑問を持っていた。忠義を尽くすべきはファーガス王国ではないのかというその葛藤からバスティノのからの力をつい最近まで引き継がなかった。


 「確かにその疑問を間違っていない。反省すべきと言ったが、お前が私と違う選択肢を選んだのを聞いて、あの時の私の死が無駄ではなかったと確信できましたよ」


 タピットが力を受け継いだのは、エミリアの意向に沿う形を取る事が出来た事によるもので、力を受け継いで殺されるぐらいなら受け継がない方がいいと考えていた。


 「ではあれは命をかけて私に教えようとしてくれたのですか?」

 「そこまで大層なものではありません。ただ先代も同じような理由でエミリア殿に殺されている。私は抗おうとしたが家がそれを許してくれなかった。だからこそ私はお前を後継者に指名しました。お前の代でエミリア殿と手を取れるようにする為に!」

 「バスティノ団長……」


 タピットは少し悲しそうな表情を見せる。そこまで考えてくれていたにも関わらずバスティノの死を回避する事が出来なかった自分に悔しさが残っていた。


 「さぁ来なさい!お前の全てを以て私を殺すのだ!」

 「私はあなたから沢山の事を教わってきました。今ここでその全てを見せます!」


 タピットは自身の異能であるソードランスを駆使し、自身の剣を一時的に槍のような形状に変える。この異能は自身の武器を一時的に剣か槍へと形状を変化させる異能だ。


 「異能の使い方もうまくなりましたね」

 「あなたに教わった戦い方です」


 槍に気を纏い、渾身の一撃をバスティノに向けた。


 「忠義の槍!」

 「来なさい!」


 タピットのその攻撃においてバスティノは応戦したが、敢えて回避せず受け止めた。タピットの渾身の一撃はバスティノの剣を破壊し、しっかりと胸を貫いていた。


 「バスティノ団長……」


 胸を貫かれたバスティノだが安堵の表情を見せていた。

 復活させられた後のこの戦いは術式に抗えない事から無理矢理であり、何より故郷を責めるのは、気持ちに反した行為でもあった。だからこそ心の底では誰かに止めて欲しかったのだ。


 「た、例え術式で縛られようと、攻撃を真正面から受けて戦うという選択肢を防ぐのは出来なかったようですね」


 タピットの渾身の一撃を避ける事はバスティノに取って難しい事ではなかったし、仮に避けきれなくても致命傷を避ける事は容易だった。だがバスティノはかつての部下の成長した一撃を真正面で感じたいという気持ちから、避ける事なく正面で攻撃を無効化しようとし、結果タピットがそれを打ち破ったのだ。


 「あなたの想いは私がしっかりと引き継がせて頂きます」

 「エミリア殿と手を取る事が出来たあなたになら安心してファーガスを任せられます」


 タピットはバスティノが微笑んだ事で涙を流し始めた。


 「ご指導ありがとうございました!」

 「見事でした……あなたのその技は私を超えた。それをこうして実感できた事、嬉しく思います。後は頼みました……」


 バスティノはその言葉を最後に、息を引き取った。そして少し離れた場所でも同じような事が起きようとしていた。



 ◇



 「ヴァイスシュヴァルツ!」

 「グフォッ!」


 エミリアもまたタピット同様ナシュワンと昔話をはさみながら戦い、徐々にナシュワンを追い詰めていた。


 「これで終わりかしら?」

 「それも悪くない……あなたとの昔話やこの百年の話を聞いてある程度満足しましたからな」


 エミリアとナシュワン、周平達、境界騎士団と敵対していたファーガス王国を繋げた二人であり、ナシュワンがエミリアと肩を並べる未来も有り得た。

 そんな思いをぶちまけ、過去を振り返りながらの戦いは二人にとってかけがえのないものだった。


 「あなたと肩を並べる未来を実現出来なかった事が何より残念よ。あなたの顔見ていたら嫌な記憶が溢れ出てきちゃったじゃないの!」

 「ハハッ、ご期待に沿えず申し訳ない……」

 「あの時不老になる術式をかけるべきだったわ。あそこでの選択が何よりのミスね。そうすればこの程度の攻撃ではまだ立っていたはずよ」


 エミリアは百年前の戦争時に騎士団と敵対していたファーガス王国の騎士団ナシュワンと出会い、ファーガス王国との裏工作を進めていた。ファーガス王国を降伏させる功績を作ったのはエミリアとナシュワンがいたからであり、そんなやり取りをしていくうちにナシュワンをこちら側として迎え入れようとしていた。


 「ハハッ、騎士団内で保留になってしまった件ですね」

 「シュウに強く意見すればまた違った未来があった。後釜のムトトに老いで後れを取るなんて事はなかったでしょうから」


 結局戦争中は完全に味方か信用できなかったので保留となった。

 戦争が終わってナシュワン自身の騎士団長としての引退が来た段階で、本人が望むならこちら側につく事を条件に不老にする術式を施すという所まで約束したが、戦争終盤にエミリア自身も戦闘不能となって復活までに長い時間が必要となり、約束は宙ぶらりんとなった。

 加えて周平達主力クラスもいなくなり、騎士団メンバーも少なくなってしまった事でその術式をすぐに用意できなくなってしまい、エミリアが完全復活する頃にはナシュワンも衰弱しておりその術式に耐えられない程まで衰えてしまった。結局諸々の事情で断念し、約束を交わしてナシュワンは息を引き取った。


 「ファーガス王国も一枚岩ではなかった……私もまさか寝首を搔かれるとは思っていませんでしたから老いとは恐ろしいものです」

 「私にはもう忘れた感覚だけど、老いは人を退化させるわ」

 「人間の宿命ですな……だからこそ人は足掻き、高みを目指す。その先にあるあなたのようなほんの一握りの強者になる為に」


 ナシュワンはこうしてまたエミリアと手合わせしながら話ができた事に感謝しており、それはエミリアも同様だった。


 「残念だったわ……最後に一つ聞きそびれた事があったんだけどいいかしら?」

 「何でしょうか?」

 「あなた達を率いているボスは何者?」


 すると複雑そうな表情を見せる。何か話そうとしても声を出せていない様子だ。


 「どうやらこちら側の事を話す事ができないようにしているみたいですな」

 「ムカつくけど対策はバッチリって訳ね」

 「ですが穴もあるみたいです」

 「穴?」

 「私の記憶を覗いてください。話す事はできなくても見せる事はできます」

 「そういう事ね」


 エミリアはナシュワンに近づき記憶を見る。そしてその記憶を見た事で黒幕の正体を確信した。その人物はエミリア自身も知る人物だったのだ。


 「すぐにシュウに伝えないといけないわ」

 「それがいいかと思います」

 「ありがとう、助かったわ……」

 「ええ、それでは後を頼みます」


 エミリアがナイフでナシュワンの胸を突き刺すと、ナシュワンは安堵の表情を浮かべて息を引き取った。


 「奴がボスなら今のままじゃ危ない……急いで伝えないと」


 友との戦いの感傷に浸る暇もなく、すぐに切り替えその場を後にした。



 ◇



 「くそ……」

 「やはり強い……」


 椿は蘇ったかつての猛者達を相手に圧倒し、交戦していたグランツとリリスは虫の息まで追い詰めていた。


 「ゾンビ共は大人しく元居た所に帰りなさいっての~」

 「リリス殿……どうやらここまでの様ですな……」

 「そのようね……」


 椿の容赦ない攻撃でそれが二人の最後の言葉となった。グランツとリリスも息絶え、その他復活したゾンビ兵共々椿と対峙した者は皆息絶えた。


 「ふぅ~他のゾンビ兵達ももう少し頑張ってくれると思ったんだけどね~」


 昔の椿であれば戦闘を楽しみながら、相手を血祭りに上げていた。戦場を真っ赤に染めていた百年前に比べたら丸くなったと言えるだろう。


 「あの……神山君の仲間の方ですか?」


 椿の後ろにいた部隊の中には須貝がいた。最前線には出ていなかったものの、部隊に配属され椿の為に後方支援をしていた。


 「ええそうよ。あなたは周ちゃんのクラスメイトかしら?」

 「はい、須貝直美と申します」

 「私は神代椿、よろしくね」

 「よろしくお願いします。椿さんはとてもお強いですね」

 「周ちゃん達に比べたら落ちるけどね~」

 「十分お強いです、現在ファーガス軍が優勢なのも椿さんのお陰かと思います」


 現在椿とエミリアの介入によりファーガス軍が優勢になっている。特に椿を倒す為にグランツやリリス以外にも名だたる精鋭を送り込んでいたが、それらも含めて倒したので戦局がファーガス側に傾いたのだ。

 須貝のいる部隊は椿の後方サポートで椿が倒し損ねた相手を処理する役目を担っていたが、椿がほとんど倒してしまい、後方部隊も拠点確保で進軍した事で椿に追いついたのだ。


 「まだまだ油断はできないから雑魚の退治はしっかりお願いね」

 「はい!」


 そんな余裕のムードを見せていたが、椿は嫌な気配を察知し刀を構えた。


 「ごめん、ちょっとやばそうだから周ちゃんとこ戻っていいよ」

 「えっ……」

 「全部隊撤退して、元の場所に戻って!」


 椿が大声で指示をするが、その嫌な気配は直前まで迫っていた。そして指示を出してすぐに禍々しいオーラを纏い、椿の目の前に現れた。


 「これはこれは忌まわしき戦刀姫ではないか~」

 「あんたまさか……」

 「久しぶりだな……」


相変わらず間が空いてすみません。。


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