防衛戦2
ファーガス領の侵入したボリアル王国軍とそれを防がんとするファーガス王国軍との戦いが始まった。勇者達はまだ最前線には出ていないものの、実際の戦いになるのは時間の問題だった。
「メガフレア!」
百年前に七魔女の一人でありダーレー教団所属の魔女だったリリス・オールグレースは魔法でファーガス王国軍を蹴散らしていく。
「この感覚‥‥ゾクゾクしちゃうね〜」
「リリス殿、暴れすぎては我々の出番がなくなってしまいますな〜」
リリスと共に行動するのは元十三騎士のグランツ・シャフリアールだ。
「グランツさんは私の護衛なんだから私のサポートしてくれれば問題ないわ。私に任せなさい な〜」
「こりゃ私の出番はなさそう‥‥うん?」
グランツは前方にいる不吉なオーラを感じ取った。
「リリス殿!」
「ええ、ちょっと危ないオーラね」
二人の目の前にいるのは椿だ。
苦戦している最前線へ到着し、二人を見据えた。
「百年前に死んだはずのゾンビ発見〜中立を宣言したミラーの忠告を無視したリリスとファロス帝国を滅ぼす元凶になったグランツじゃない〜」
「か、神代椿‥‥」
「戦刀姫の参戦ですか‥‥これは少し劣勢しれませぬな‥‥」
椿はニヤッと笑いながら刀を手に取る。
「グランツさん前に出れるかしら?私の魔法もアイツのスピードには勝てません」
「承知!」
グランツが前に出ると椿は敢えてグランツに向かう。
「来い!」
「そんじゃ遠慮なく〜」
グランツは椿の攻撃を見越してまず持っていた盾で攻撃を防ごうとするがその考えは甘かった。
「グフォッ‥‥」
「甘いな〜そんな盾で私の攻撃防ごうなんてさ〜」
椿の攻撃はグランツの盾を破壊して、グランツの鎧にヒビを入れる。
「流石は戦刀姫‥‥私では役不足感は否めませんね。ただ‥‥」
「グランツさんナイスよ!」
リリスの魔法で椿の身体を拘束し、グランツは椿から離れる。
「なっ‥‥」
「喰らいなさい、メガフレア!」
至近距離でのメガフレアの直撃で大きな爆発が起こる。
「グランツさん囮ありがとう」
「いえいえ、こうでもしなければあの化け物にダメージを与える事は難しいですからな〜」
「フフッ、神代椿といえどあの距離でメガフレアを喰らって無事に済むとは‥‥」
その瞬間、煙の中から斬撃が飛び、リリスの肩をかする。
「ぐっ‥‥」
「リリス殿!」
「全くその程度の攻撃で甘いな〜」
煙の中から現れた椿はピンピンしていた。
「あれを喰らってピンピンしてるとは‥‥」
「あの程度で私にダメージなんてナメられたものだな〜それじゃあこっちから行こうかしら」
椿は鬼の力を使い、頭の左右に角を生やし手の爪も鋭くさせる。
「このオーラ‥‥」
「グランツさん、大義の為に命を賭けましょうか‥‥」
「ですな、幸いな事に援軍も来ましたし」
フードを被った複数の兵士達、それは蘇った兵士達を意味する。リリスとグランツのピンチに駆けつけた。
「ゾンビ兵共が複数‥‥面白い、楽しませてもらうわよ〜」
◇
椿が戦闘している同時期、エミリアもジャジルから到着していた。状況が状況だったので周平と一度会ってからはすぐに戦場へと赴いていた。
「復活したゾンビ兵‥‥まさかボリアル王とは独断で動くとは‥‥いやあの狸はこの事も知っていたわね‥‥やられたわ」
エミリアはボリアル王国に行き、国王と会ってファーガスへの戦争を仕掛けないように強く忠告し、ボリアル王もそれに了承していた。
既にボリアル王に問い合わせはしているものの、独断で動いたという回答が来ていた。
「あの狸はこの戦が終わったら即国王を降ろさせないと‥‥」
エミリアは戦場へ着くとすぐに活躍を見せ、敵兵をなぎ倒していく。
「フフッ、久しぶりの戦場で血が騒ぐわね。ゾンビ兵とやらも大した事ないわね〜」
戦闘能力では椿や九十九に劣るにしても、限界突破をして超人の域に到達しているエミリアの前では雑兵では話にならない。
「ゾンビ兵はまだかしらね〜」
「なら私とお手わせ願いませんかな?」
高笑いをしながら暴れているエミリアの笑いがピタリと止まる。
「あなたもなのね‥‥」
目の前に現れた男はフードを取る。
立派な甲冑と力強いオーラを放つ男はエミリアの旧知の男だった。
「久しぶりね、ナシュワン‥‥」
「百年ぶりですね」
元ファーガス王国騎士団長ナシュワン・クロールの姿がそこにあった。
「まさかあなたと戦う事になるなんて勘弁してほしいんだけど‥‥」
「こうした形であなたと戦うのは私にも酷な話です。ただ私にはこの術を抗う術がないのですよ。自殺と味方への攻撃が禁止されています。ならばせめてあなたと戦い私を黄泉の国へと送っていただきたい」
ナシュワンは申し訳なさそうに言いながらも身体は剣を構えて戦闘の体制に入っていた。
「あなたを盟友だと思っている私とはいえ、貸しは高く付くわよ」
「貴方方の手で私を蘇らせて、こき使ってください。喜んで手足になりますぞ」
「待ってください!」
エミリアとナシュワンが戦闘に入るかという所でタピットが割って入ってくる。
「タピット!」
「エミリア殿、私にやらせてください!」
「相手は元ファーガス王国騎士団長にして歴代騎士団長の中でも最も強い男よ。あなたじゃまだキツイわ」
「だからこそです。彼こそ私が超えなくてはならない壁です!」
タピットはエミリアを前に引く様子を見せない。だがその様子を見ていたのはナシュワンだけではない。
「あなたにはまだ早‥‥」
「ならまずは私とやるべきだな」
ナシュワンの横にフードの男がやってくる。エミリア、タピットが共に知っている人物だった。
「バスティノ団長!」
「久しぶりですねタピット、それにエミリア殿も」
「まさかあなたまでいるとは‥‥」
ファーガス王国先代騎士団長にして元十三騎士のバスティノを前にエミリアは溜息をつく。バスティノを前にした事でタピットもナシュワンと戦う事から引く。
「なるほど‥‥ならタピットはバスティノに引導を送ってあげなさい」
「分かりました!」
「元騎士団長として剣を交えてあなたに伝えましょう」
「行きますよ!」
タピットとバスティノが剣を交えて二人の戦いが始まった。
「私はあなたを救うわ」
「遠慮はいりませんよ」
◇
「そうか、ナシュワンまでもが蘇っているのか‥‥」
王都アスタルテにいる周平はエミリアや椿から通信で連携を受けていた。
「状況は宜しくない感じかしら?」
「今の所は問題ないよ。椿とエミリアが劣勢だったのを押し返している。タピットさん達精鋭も参戦しているし、むしろ勢いはこっちにある」
「須貝さん達も心配ね」
玲奈は参戦した生徒達の身を案じていた。
「須貝達は参加しているとはいえ最前線ではないし、今は心配しなくていいよ」
「あなたがそう言うなら信じるわ」
玲奈は何だかんだで周平が優しいのを知っている。だからこそ玲奈は周平を信頼していた。
「なぁ先生。ちょっといいか?」
「ええ、どうしたの?」
「俺がもし二十柱としてではなく他より強いぐらいの勇者だったら俺は輪の中にどうなっていたかな?」
俺は二十柱として前世の記憶に目覚め、幼馴染の嫁と他の仲間達との再会を果たし、勇者達とは違う視点で目的を為そうとしている。だが立花や仲間の事がなくて雪や美里達と勇者をやるような道だったらどうなっていたのだろうか。
「そうね〜反感はあったと思うけど、あなたならクラスをまとめてクラスメイトを導いていたと思うわ。月島さんや杉原さんだけじゃなくて菱田君達や須貝さんを味方につけていたんじゃないかな」
考えても仕方ない事だが、異世界転生した勇者として仲間と協力して魔王を倒すルートも楽しかったのかもな。
「なるほど、的確ですね。そんでもって嶋田や橋本達とは争っていると」
「嶋田君と木幡君は徐々に認めていって最終的に橋本君達と争うと」
「ハハッ、違いない」
「フフッ、クラスメイトとの関係が恋しくなったのかしら?」
「そこまでじゃないけど、助けないといけない奴もいるからね」
クラスメイトなんざ大半はどうでもいいなんて思っているのは事実だ。俺を嵌めて殺そうとした奴にそんな気持ちはない。だけど助けないといけない奴もいてそれが増えていくとそういう事も考えてみた。ただそれだけだ。
「神山君はやっぱり優しいわね。あの事件がなければなんて思っちゃうわ」
「遅かれ早かれあの類の事は起きていたと思うぜ」
「それは否めないわね‥‥全くこんな事になるならクラス編成もうちょっと考えるべきだったわ」
「そうっすね〜陣が同じクラスにいたら今頃クラスメイト率いてますね」
リーダーシップの取れる嶋田と陣を同じクラスにするという選択肢もないだろうけどな。
「そうね〜色々考えちゃうわね。でも神山君達のお陰でファラリス連邦の二組のメンバーの開放、遠征の自由化ができたわけだから良い面もあったわけだし、全部が駄目なわけじゃないわ。後は神山君も目的を果たして、遠征組も無事戻ってきてくれれば」
「そうっすね、ただ今の勇者達じゃ魔王は倒せないっすよ。というか戦ったら皆殺しです」
現魔王は俺よりは弱いとはいえと勇者達に比べたら段違いに強い。そもそも召喚した教団は魔王を倒す算段をつけて召喚しているのだろうか。初代勇者はガルカドール卿以外の魔王を倒す戦力を持っていたし、二代目勇者のリーダー格のペアも強かったらしいが、三代目と四代目はあまり特筆した点はなかったと聞いている。五代目は色々とイレギュラーだが。
「そもそも勇者達は魔王を倒す事ができるのかしら?」
「難しいですね、今のままじゃ無理かと」
「そう‥‥本当は遠征なんてしてほしくないわ」
「まぁそんな状況なんで雪と美里には一つ提案をしてるんですけどね」
この先も二人を守る為に出した案。先生にも伝えて置くべきだろう。
「何それ、興味あるんだけど聞かせてくれるんでしょ?」
「そうっすね、特別に先生とこの後話すであろう須貝には伝えようと思ってます」
先生にはその事を伝えると先生は目をキラキラと輝かせて喜び、待ってましたかと言わんばかりの表情で俺の肩を叩いた。
「この話をした須貝さんの表情が見たくなっちゃったな〜」
「やっぱり止めようかな〜」
「男に二言はなしでしょ!」
「いてっ!」
この話を聞いた後の先生はテンションが高く、鼻歌を歌いながら周囲を歩き回っていた。
遅くなって申し訳ございません。
書き終えたタイミングで上げていきます。




