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向き合う気持ち

「まさか今回が本番だったってのか!?」

 「聞いてないよ!」

 「ちゃんと情報共有してくれても良かったんじゃないの~」


 事情を知らないメンバーが揃って小言を言う。本番のつもりでの予行演習だったとしても本番とは訳が違う。


 「落ち着いてくれ、これにはちゃんと訳があるんだ。その説明も橋本が今してくれる」


 木幡は回りをなだめる。


 「皆、すまない。だが今木幡が言ったようにちゃんと理由がある。その理由とは一組の中に二組と繋がっている内通者がいるからだ。内通者に関しては分かっている人もいたかもしれないが、それを出し抜く必要があったんだ」

 「俺達も内通者が誰かの特定は困難だったからな。仮に特定したとしてもそいつだけを置いていくとなるとそいつと仲の良いメンバーが反対などをしては支障が出る。ならばいっそのこと、割り出さずにそいつが内通する事自体を防ぐ作戦に出た」


 完全に離れて別行動になれば一旦は内通者の事を気にする必要はなくなる。洞窟やその先の事を知っていたのは雪と美里と木幡と橋本のみで、洞窟の出口を封鎖するのも直前に考え付いた事だった。


 「クラスの総意であった離脱に協力する意志は予行演習の時点で確認はとれているからな。このまま進むのであれば、内通者の事は一旦は目を瞑るつもり」

 「どのみちあの洞窟の出口を塞いだ以上簡単には向こうには戻れない。行くしか選択肢はないさ」


 その洞窟は岩山をくりぬいたようにそこだけ空洞になっていただけに、元いた場所に戻るには倍以上の時間がかかる距離にある。


 「まさか今から本番とは……」

 「でも出口塞いでるし後戻りは出来ないからね……」

 「ちょっと不安になってきた……」

 「やるしかないっしょ、その為に準備してきたし!」


 いきなり本番だとわかるや、知らされなかったメンバーの反応は不安に思うメンバーもいれば、決心のついているメンバーと様々だ。そんな様子を見て雪は全員に問い掛ける。


 「皆このまま進むけど大丈夫だよね?」

 「そんな事聞く必要はないわ雪、だってここのメンバーは皆脱退する事を選んだんだから!ねぇ?」


 杉原は周りに圧をかけるように言うと、誰も反論はしない。

 そもそもこの時点で抜けようとすれば、内通者だと自ら教えるのと同義。戸惑ったクラスメイトにしても脱退する事を願っていたのだから、異議を申し立てるような事はない。


 「決まりだな、このまま進むぞ」

 「進むのはこの先の崖の下までだ。そこについたらキャンプをして次の日だ。疲れるかもしれないが、追跡されないように最初は飛ばしめに行くからそのつもりで頼む」


 こうして二年一組は軍と二年二組から脱退した。後にこの事はファラリス連邦軍とファーガス王国軍のぎくしゃくする原因となった。



 ◇



 「ねぇ先生、私達の判断は正しかったのでしょうか?」


 ファーガス王国城内、勇者として召喚されながらも遠征に行かなかった須貝直美は担任である藤田玲奈に相談していた。遠征しない残りのメンバーの為を思って残ったが、結果的に辛い事から逃げたのではという罪悪感があったのだ。


 「須貝さん……」

 「遠征に行ったメンバーに加わらなかった事が自分的に良かったのかどうか……」

 「大丈夫よ、あなたの判断は正しかったわ。だって実際にあなたは残ったクラスメイトをまとめ上げているもの。あなたがいなかったらむしろ残ったクラスメイトがもっと苦労していたもの」


 遠征をしないで残ったメンバーはファーガス城で待機しているが、召喚された勇者という身である以上、国民を納得させる為もあり、城内の警備等の任に就いていた。もし隣国が攻めてくるような事があれば防衛に入るという役目もある。


 「先生……」

 「だから大丈夫よ。不安になっている待機メンバーをまとめているあなたが今この場では必要不可欠な存在……もっと自分の判断に自信と誇りを持ちなさい」

 「はい!」


 玲奈は須貝の頭を撫でて優しく微笑む。事実残ったメンバーのケアは玲奈と須貝でやっていた。先生である玲奈とクラスでも存在感があった須貝の存在は他のクラスメイトの支えになっていた。


 「私は本音を言えば誰も遠征して欲しくなかったわ。このまま待機していれば時間はかかるかもしれないけど、その間に神山君が何とかして地球に戻れる手段を確立してくれるだろうし、それなら命を優先して欲しいもの」

 「でもそれは神山君が本当に何とかしてくれるかの保証はないですよ。何とかしてくれない場合もあるだろうし、そもそも神山君は……」

 「神山君がクラスメイトから信用されていないのは知っているわ。でもそれは信用というより手を借りたくないというのが本音だと思うの。あなただって分かっていると思うけど、神山君達は特別な力を持つ特別な存在。でもきっとそれを認めたくないのよね」


 玲奈は全て周平に託して、クラスメイトもそれに従うのが安全かつ早い解決策だと思っていた。周平頼みになってはしまうが、二十柱という宇宙を管理する立場にある事、同じ二十柱含む、超人クラスの仲間がいる事からその下に入れば守られる。

 現に周平はファーガスを掌握し、ファラリスも抑えているし、自身も絶対的な力を持つ事から客観的に見ても、敵意を示す事がおこがましいと思える人物という認識だからだ。

 それでいてクラスメイトとのいざこざはあっても、周平は助けを求めればその手を差し伸べるような人柄であると認識しているからこそ、どうしてここまでクラスメイトが周平を認めないのかが不思議に思っていた。


 「それは……」

 「私も聞いてもいいかしら?どうして神山君を頑なに認めないのか……別に神山君を全て肯定するわけではないけど、否定し続けるには苦しいと思うの」


 須貝は目を逸らし、回答を避けようとしたが、玲奈先生はそれを逃がさない。須貝は観念したのか口を開いた。


 「皆それぞれ細かい理由は違うと思います。ただ一つ根底にあるのは妬みじゃないかと思います」

 「妬み?じゃあ神山君を敵対する人達は皆それがあるって事?」

 「はい、私は妬みよりも底知れぬ怖さとクラスに交わらず従わない部分を毛嫌いしているんだと思います。まぁ光一があれだけ慕っているという事に対しての妬ましさは前からありましたけどね」

 「なるほどね……確かに月島さんや杉原さんの事で嫉妬されているのは私も把握しているけど……」

 「雪ちんや美里っち関連で嫉妬集めているのは言うまでもないと思いますけど、それだけじゃないですよ。成績優秀な東君にも勉強しても敵わないと思われてますし、スポーツ面でも運動部メンバーからの妬みをありました。しかも神山君って後輩からは結構人気があって慕われていましたから、そういった面でも結構敵が多かったんですよ。加えてあの堂々とした態度とオーラで小言の一つでも言えば、みっともないのは自分。あんまりクラスに積極的に関わる感じでもないし、そういう感情をむき出しにする相手に対しては下手にでる事なく、見透かしたようにただ無関心だったから、余計に厄介だったんですよ」


 須貝は誰とでも満遍なく交流していた事もあって、噂とかどういう感情を抱いていたかとかも諸々聞いていた。


 「でも神山君からすれば、普通にテスト受けて成績を残して、スポーツも普通にやっているだけよ。それに神山君は何も悪くないし、自分にマイナスな感情を向けてくる人を相手にしないのは普通じゃないかしら?確かに授業は良く寝てたけど、成績はいいし、色々頼んだら手伝ってくれるし話すと愛想も良いわよ」


 玲奈のこの発言は須貝を少しイラつかせた。ただそれは玲奈にイラついたというより、あくまでも今までの周平や周りに対しての感情だ。須貝自身、玲奈の言っている事が間違ってない事は理解しているし、自身はそれを理解した上でクラスの輪を尊重している事も自負していた。


 「そこですよ!悪くないから皆余計に嫉妬するんだと思います。つっかかると自分がみっともないだけというのが分かってしまい、かつ自分が欲しいものを無意識に持って行くような人なんて嫌じゃないですか?嶋田君みたく皆をまとめる様な感じならまだしもそうじゃなくいし、クラスを仕切るような人達からしたら目障りだったのかと」


 須貝のそれは自分の意見というよりは今まで周りから聞いてきた意見をまとめて行った様な感じだった。玲奈はそれを聞いて、自身がその考えに至らなかった理由を考え、すぐに答えを出した。


 「それで妬みという負の感情が増幅して今があるわけね。それであの事件か……」

 「はい、だから私はあの事件は神山君にも原因があると思います。それだけ強いなら周りとちゃんと向き合うぐらいしても良かったんじゃないかと思います。皆が皆、神山君や宗田君のようではないんですから」


 誰とでもフランクに話す須貝は、周平の向き合わない姿勢を指摘出来なかった自分自身が嫌だった。仮にそれを周平に行ったとしても、それが周平の為ではなくクラスの輪の為だと見透かされてしまわないように話すのを避けていた。自分のエゴを他人に押し付ける事を見透かされるのは須貝としても堪らなく嫌だったからだ。


 「そうね……先生はきっと神山君みたいな人が近くにいたらななんてずっと思っていたから、嫉妬とか嫌悪感とか一切なかったのかもね。でも教師としてはまだまだだったわ。そういうのも理解した上で双方を導くのが役目だし」

 「先生は前から神山君気に入っていましたもんね」

 「ええ、だって彼を慕えば、きっと困った時手を差し伸べてくれるじゃない」


 玲奈も地球にいた頃から何度か周平に助けて貰った事があった。その時から頼もしさや優しい一面を見ていた。


 「そうですね」

 「でも須貝さんは偉いわ。ちゃんとクラスの事考えているし、周りの事とかも把握した上で本当はどうしたら上手くいくかとか色々考えてる。だからこそ、神山君と会ったら言えなかったその気持ちをぶつけるべきよ」

 「そうですね……あの時から素直に言えていれば今と違う結末があったかもなんて思いますからね。でも今更私が言っても……」

 「大丈夫よ、私がちゃんと見ていてあげるから!きっと須貝さんが言えば何かしらの手助けがあるはずよ。神山君は須貝さんのそういう所も分かっているはずだし」

 「分かりました、次会ったら気持ちをぶつけてみます!」


 須貝は玲奈とのやり取りで一つ決意した。

 周平をクラスメイトと向き合わせ、そしてクラスメイトに周平を認めさせる為の行動を取ると。例えそれが、自身の考えを人に押し付けるような身勝手な考えだと言われようとも、周平と向き合う事を決めた。


暫くクラスメイトの話です。

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