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美里と周平3

 「ハァハァ……」


 周平は焦っていた。

 まさか朝の通勤帯を狙われるとは思っていなかったのだ。


 だがまぁこれで心置きなくやれるか……


 向こうから来た以上はこっちも正当防衛だという気持ちでぶちのめす事ができる。二度と手出しが出来ないようにボコボコにと意気込んでいた。

 周平は指定された場所である廃棄された工場へと向かった。ドラマとかで使われそうな雰囲気が漂うその場所へと入っていくと、声が聞こえてくる。


 マジか……


 周平が陰から見つからないようにこっそりと覗くと、二十人ぐらいいるのがわかる。


 まさか俺を倒すのにこんな人数集めたってのか……


 「だが本当にその神山って奴は来るのか?」

 「間違いないさ、さっき電話をした時、殺気じみた声で話したからな~」

 「なるほど、そんでもってそいつがここに来たら袋叩きにすると」

 「この女はどうするんだ?」

 「へへっ……それはお楽しみだな~」


 美里の中学校時代の先輩は、美里を舐め回すような目で見ていた。美里は強気な態度を見せつつも、内心怯えていた。


 「何が望みなの?」

 「そうだな……大人しく俺の女になるなら恥ずかしい思いはしなくて済むかもな~」


 先輩は美里に近付き顔に触れる。抵抗しようにも他の奴らが暴れようとする美里の腕を抑えていた。


 「や、止めなさい!」

 「怒った顔も可愛いね~」


 押さえ付けられる美里を見て、周平は怒りを増幅させていく。


 「周平君来たらただじゃ済まないわよ……」

 「お前が頼る相手だ、腕っぷしも弱くないからな~だからこそお前の前でボコボコにして、何もできないままお前を奪ってやるのさ!」


 先輩は美里の頬を強く掴む。


 「うっ……」

 「あの男がフルボッコにされる様を見て、心変わりするのを期待してるぜ~」


 先輩の下品な目つきに耐えきれなくなった周平は影から飛び出した。それと同時に涌き出るどす黒い本能に忠実に動く事を決めていた。


 「俺の女に手を出すんじゃねぇ!」

 「周平君!」


 周平が目の前に出ると、男達はニヤリとしながら武器を手に集まる。まるで獲物がノコノコとやってきたと言わんばかりに。


 「きたか!」

 「助けにきたぜ!」

 「バカ……どうして……」


 美里は周平の元に来ようとするが男達に抑えられる。


 「お前の為に来るのは当然さ」

 「この人数の前にカッコいいね~」

 「俺を倒す為に大層な人数集めたな~」

 「へっ、お前をボコボコにするって考えたら、これぐらいいればいいと思ってな~」


 先輩は鉄パイプを手に不気味に睨む。頭の中では周平がボコボコにされるビジョンしか見えていないのだろう。全くおめでたい男だと呆れながら溜め息をはく。


 「そんなに怖いかね~」

 「あっ?」

 「ははん~さてはお前臆病者だな~内心ビビってるのが丸見えだぜ~」

 「ぶっ殺す……いくぞ!」


 先輩達は周平に向かってきた。


 ちょっと人数が多いな……体力があるうちに間引かないとだな。


 「おらぁぁぁ!」


 男達の一人が鉄パイプを振り回してくる。


 「おせぇ……」


 鉄パイプを避けて顔面に一発打ち込む。手加減は抜きだと言わんばかりの本気の一発だ。


 「グホッ……」


 男の手から鉄パイプが落ち、そのまま崩れ落ちる。


 「なっ……」


 一発でダウンした事で男達が怯む。


 「どうした?ボコボコにしたいんだろ?本気でやってやるから本気で来いよ!」

 「ひ、怯むな!相手は一人だ……いくぞ!」


 先輩が一瞬怖じ気づいたが、流石に一人倒したぐらいじゃ後退しない。ここで完全に折る必要があると考えていた周平は、手加減なしで戦った。


 「死ね!」

 「お前がな!」

 「ゲホッ……」

 「おらっ!」


 攻撃を上手く交わしつつ、一人ずつ攻撃を当てていくが、人数差による攻撃が周平を襲う。


 「くたばれ!」

 「ちっ……」


 鉄パイプが周平の左肩に強打し、痛みが走る。


 流石にこの人数相手じゃ無傷じゃキツいか……だけど……


 「きかねぇな!」

 「ガハッ……」

 「へへっ、上等だ。まとめてぶっ倒してやるよ!」

 「凄い……これが本気の周平君……」


 美里は周平が自分の為に戦う姿を見て、申し訳ないという気持ちと同時に周平への気持ちを意識する。雪が周平の事を好きになった理由を改めて実感していた。


 一人また一人と倒し半分になった頃、男の一人の鉄パイプが周平の後頭部に被弾した。


 「グハッ……」

 「周平君!」

 「糞が!なめんじゃねぇぞ……」


 周平の後頭部に激痛が走る。だがそれと同時に周平の身体は勝手に動き、鉄パイプを持った男を殴り飛ばしていた。


 「それはこっちのセリフだよ!」

 「ガハッ!」


 頭に痛みが走っていたが、もし自身がここで倒れれば、美里が酷い目に合う。そうなったら後悔してもしきれないという思いが痛みを吹き飛ばした。その後悔に比べれば痛みなんか屁でもなかったのだ。


 「俺がこのぐらいでくたばるとでも?舐められたもんだな?」

 「ば、化け物め……」


 化け物か……誉め言葉だな。立花を失ってやっと立ち直りかけている今だ……もうこれ以上失うわけにはいかないんだよ!


 「俺から……」

 「あん?」

 「俺から大事なもん奪うってならお前らをぶちのめす!」


 周平は身体を無理にでも動かし、次々と倒していく。一度ダウンしてきた奴等が起き上がってきたが、それでも奮闘して数を減らしていった。

 大人数を相手に奮闘した事で結構ダメージを貰ったせいで、動きが鈍くなってきたが、相手も数が減り、表情に焦りがでてきた。


 「あと五人……」

 「く、くそ……」


 身体が段々逃げ腰になってきてやがるな……生半可な覚悟で俺を倒そうなんて甘いんだよ!


 「キャッ!」

 「こ、こいつがどうなってもいいのか?」

 「し、周平君……」

 「てめぇ……」

 「へへっ……美里を酷い目に合わせたくなければ大人しく殴られろ……」

 「外道め……」

 「あんまり舐めるんじゃない!」


 先輩は美里を抑えたつもりだったが、美里は先輩の腕を思いっきり噛んだ。


 「イテッ……」


 さらに先輩の金玉を蹴って怯ませる。


 「グホッ……」


 美里は先輩を怯ませると、周平のいる所まで逃げてくる。


 「周平君!」


 そのまま抱きついた。


 「大丈夫か?」

 「それはこっちのセリフだよ……さっき頭思いっきりやられてたし……」

 「ちょっと痛いけどなんとか……それより下がってろ。あと五人倒すから……」


 だが構えようとすると周平の身体がふらつきかける。


 「周平君!」

 「だ、大丈夫……ちょっとふらついただけだから」


 後頭部の一発がかなり大きく、周平の身体も限界に近付いていた。特に美里を取り返した事で身体のスイッチが切れたのも大きかった。


 「どうやらガス欠のようだな~」

 「お前こそ金玉は大丈夫か~随分と痛そうだったな~」

 「てめぇ……殺す!」

 「周平君大丈夫なの?」

 「余裕余裕~ここで倒れる訳にはいかないよ」


 これ以上貰ったらちょっと不味いか……だがやるしかない!


 「いくぜ!」

 「俺も混ぜてくれよ!」


 突然後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。


 「陣!」

 「よっ!随分ボロボロじゃねぇか~」

 「へっ、まだまだこれからよ。どうしてここが?」

 「私が位置情報送ったの」

 「俺もお前が学校出た後すぐに後を追ったからな。うろうろしてるうちに美里ちゃんから位置情報の連絡を貰ったんだよ」


 美里はドヤ顔で周平を見る。周平が戦っている間に隙を見て、陣へ連絡していた。


 「ちょっと喰らいすぎてヤバイから頼りにしてるぜ」

 「ああ、任せとけよ相棒!」


 陣は周平の代わりに前に出て残りを片付けていく。外国で命懸けの生活を送っていただけあって、動きが鮮やかで無駄がなく、しっかりと相手の急所をついて倒していく。


 「陣君も凄いな~」

 「俺より強いだろうからな~」

 「でも周平君の方がカッコよかったよ」

 「ハハッ、身体張った甲斐があったな~」


 さて陣だけに任せないで俺も行くか……


 特にあの男だけは周平自身の手でぶちのめすと決めていた。


 「ちょっと行ってくるからここで待っててな」

 「うん!」


 陣が残りのメンバーと戦っている中に入っていき、先輩を狙った。


 「よう~」

 「てめぇ……グホッ!」

 「陣残りは任せたぞ」

 「おう!」


 先輩をただひたすら攻撃し、隙を与える事なく殴る。


 「ゲホッ……」

 「もう二度とこんな事がないよう徹底的に潰すからな……」

 「こ、この……」

 「おらっ!」


 満身創痍の先輩のパンチは遅く、ヒョロヒョロだった。周平は押し倒すと上に乗り、顔面に何発かパンチをいれた。


 「もう二度とこんなことしないと誓え……」

 「なに?」

 「もう二度とこんなことしないと誓え!」

 「そ、それはわからねぇな……気に入らなきゃ俺は何度でも……ゲホッ!」


 まだ目が死んでいないな……ならば目が死ぬまでやるだけだ!


 「グホッ……」

 「ならばこうしよう」

 「な……に……」


 出来るだけ俺が本気でやる男だという演出も見せつつ、こいつに恐怖を与えるように……


 「グァァァァ!」


 周平は先輩の指の骨を折りながら、顔を近付けた。杉原や月島には見せられないような凄みのある表情で睨み付ける。


 「もし次同じ事があればお前の家族にもこれ以上の事をやる。その上でお前を殺す!」

 「ヒッ……」

 「次は手加減はしない!いいな?」

 「わ、わかった……わかったから!だ、だから指を離してくれ……」


 先輩の目は怯えていた。自身が受けたことのない大きい痛みに対して恐怖を覚えたのか、力が抜けていった。下で虐げられる立場になった事がないだけに、虐げられる事に耐性がなかったのだ。


 「周平こっちも終わったぞ~」


 周平が陣の呼び掛けに反応して後ろを振り向くと、全員倒れていた。


 「そうか、すまないな」

 「気にすんなって、それより今回もっと俺を頼っても良かったんじゃないか?」


 陣は複雑な表情を見せる。周平はその表情を見て何が言いたいのかを察した。


 「すまない……あの時熱くなって一人で飛び出しちまった」

 「そうだ、もしもっと大きな怪我を負えば、美里ちゃんも雪ちゃんも俺ももっと心配する事になる」

 「陣の言う通りだ、気を付けるよ」


 そうか……もっと頼っても良かったんだな。無意識に頼る事を避けていたのか……


 以前美里に対して頼れなんて言ってしまった手前、示しがつかないなと反省し、普段から三人には助けてもらっている事を改めて実感した。


 「ちょっとそこ~」


 美里が割って入ってくる。


 「あ、悪い……すっかり邪魔しちゃったな~」


 美里は陣に対してちょっと不服そうな表情を見せると、周平に近付いて抱きつく。


 「す、杉原……」

 「バカ~私の為にそんなに傷を負って……」


 美里は涙を流しながら周平を強く抱きしめた。


 「へへっ、当然だろ。それにこれで杉原を助ける事が出来たんだし、安いものさ」

 「ううっ、頭の傷大丈夫なの?」


 美里は心配そうな表情で周平を見る。周平自身痛みと安堵でふらつきかけていたが、痛みを我慢して抱きしめていた。


 「まぁ何とかな」

 「ううっ……ありがとう。周平君に助けてもらって凄い嬉しかった!今度は私も別方面で周平君の事助けるからね!」


 美里の言葉を聞いたこの時、周平自身きっといつか立花の事が吹っ切れられる日が来るかもしれないと思えていた。雪と美里と陣との生活はそう思えるぐらいに楽しく充実していた。


 月島と杉原といればそれもどこかで……


 「ハハッ、期待してるよ。まぁ杉原と月島にはいつもたす……」

 「周平君!」

 「周平!」


 身体がふらつき、その場で意識を失った。



 ◇



 その後周平は病院に運ばれ、治療を受ける事となったが、幸いそこまで重症じゃなく、程なくして完治した。

 周平と陣の喧嘩騒ぎは学校側に伝わる事なく、ボコボコにした奴らも周平達を恐れて美里にこれ以上何かしてくる事はなかった。むしろたまに見かけると逃げるぐらいだった。


 「もう心配したんだからね!」

 「すみません」

 「全く美里ちゃん守る為とはいえそんな傷まで負って……周平君に何かあったら皆心配するんだよ!」


 周平は雪に泣かれて、説教をたらふく受けたが、この説教に心地好さを感じていた。


 「まぁまぁ、悪いのは私だからそんなに怒らないであげて」

 「美里ちゃん……」

 「これでもう恋人のフリしなくて大丈夫だろうしさ~」

 「全く美里ちゃんも反省してよね!」

 「ごめんなさい~」


 月島の方が大人しい反面、怒ったら怖いのがよく分かったのか、暫くは言うことを聞くようにしたのは言うまでもない。


 「あ、雪ちょっといいかな」

 「うんいいよ」

 「俺も周平に説教するから二人はゆっくりね~」


 雪と美里は何か話があるのか、部屋から出た。


 「さて俺からも色々と言わせてもらおうかな~」

 「月島に怒られて満身創痍だからお手柔らかにな」

 「それは周平次第だな~」


 この後雪と美里が戻ってきてからは、美里が周平に対して、前よりも思わせ振りな態度を見せるようになった。周平は立花の事もあり、結論をださないまま時が過ぎていった。立花の代わりとなる絆を埋め始めたのもこの時期からだった。


間が空いてしまい申し訳ございません。

再開いたします。


過去編はこの回で終わりです。

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