愛情の形
ギャラントプルームのとある場所のベンチで一人寝そべり、考え事をしていた。
勇者と魔王軍の戦い……実や九十九達を行かせているから今は問題ないだろうが、今後が心配だ。あれが終わるにはまだ時間がかかるだろうし、それまで持つだろうか。
雪や美里はやはり無理矢理にでもこちら側に引き入れるべきだったのではと今でも判断に悩む所ではある。結局本人達の判断やあれをやる事になったが、それまで本人達が持つかどうかは分からない。
こっちとしても戦力を削られたとはいえ偽神は着実に倒している。戦いの終わりに近づきつつあると考えてはいるが……
「難しい顔して何考えてるのかしら?」
突然声がしたと思ったら立花が目の前に現れた。
「ウォッ!」
「フフッ、相変わらず可愛い反応ね」
「考え事をしていてな」
立花は俺の隣に座りながら頭を撫で回す。
「少し余裕がなくなっている表情ね」
「ああ……流石にちょっとな。九兵衛さんに続きシンもだからな。あと二人もそのリスクを背負って戦わないといけないと考えたら重くもなるさ」
「そうね……でもあともう少しでもあるわ。全て倒せば救出もできるでしょうし、そこまで重くなる事もないわ」
立花は微笑みながら俺の唇にキスをする。
「ありがとな、わざわざ励ましてくれて」
「フフッ、嫁として当然よ。それと今日一日私に付き合ってくれるかしら?」
「勿論、どこかいきたい場所でもあるのか?」
「ええ」
◇
「まさか行きたい場所がこことはな……」
その場所とはファラリス連邦の聖地ペブルスだった。デートがてら様子を見に来たかったらしい。
「シン達が暴れてくれたお陰で、前に来た時よりマシになったか確認したかったの」
「なるほど、というか転生してから行った事あったんだな」
「前に別行動した時にここにも寄っておいたの」
「それで前来た時はどんな感じだったんだ?」
「ダーレー教徒しかいない胸糞悪い街だったわ」
「ははっ、そりゃ聖地だからな~」
というかそれはシン達が暴れた後でも変わらない気が……
レダさんの話ではシンは腐敗したダーレー教を立て直すという名目で教徒達を味方につけて上層部を一掃したみたいだし。
「まぁ今でもダーレー教徒が殆どでそこは変わらないけど、多少はマシになっているはずよ」
「そりゃそうだろうな。上層部が一掃され、街は混乱しているし別の意味で活気だっているだろうからな」
ダーレー教は生まれ変わろうと街は暫く混乱を迎える。本来ならこのままダーレー教そのものを潰したいのが本音ではあるが、ダーレー教を信仰するものが多いのも事実。今そこに力を割く余裕はないし、偽神を倒し二十柱の統治を宣言してから徐々に弱体化させていくしかないだろう。
「ええ、そんな今だからこそ見れるモノを見ておきたいの」
「何を見たいんだ?」
「フフッ、行けばわかるわ~」
立花が真っ先に向かったのは大聖堂ブランカだった。
「大聖堂ブランカか」
「この中に教団が残した資料があるわ。そこには色々と貴重なモノとかアイツらに関しての記載があるモノもあるはずよ。今なら邪魔なく入るし」
レダさん達の話では膨大な資料があると言っていたな。前の時は大戦中で、途中で戦死した事もあってこっちまで手が回らなかったな。
「なるほどね~てっきりに街並みとかそっちが見たいのかと思ってたけどな」
「そっちは後でちゃんと回るわよ、デートだし」
立花と腕を組みながら大聖堂ブランカに入ろうとするが、たくさんの人が並んでおりすぐに入れそうにない。
「まぁ並んでるよな~」
「フフッ、想定済みよ~」
立花はエミリウスの宴を発動して周囲を石化させる。
「効果は街全体にかけたわ。早く入りましょうか」
石像になった人達に当たらないように、中に入る。
「確かレダさんの話だと書庫があるのは上の階だったな」
「ええ、もう石化は解くから見られたら、その都度石にしていくわ」
「了解、というか街全体の人を石にした時に、それが聞かなかった人物もいるんじゃないか?たぶんミッディとかここにいるだろうし」
立花のエミリウスの宴は対象を石化させ、かつ範囲は任意で広範囲にまで広げられる。範囲を広げすぎると持続時間が短くなるが、魔力の低い者であれば基本的に長時間石化状態を維持できる。だが魔力の高く、魔法耐性のある者に対しての効果はあまり高くない。
「まぁミッディには効かないでしょうね。でも彼女は敵ではないし、問題ないわ」
「そうだな、他にいたとしても俺達の敵じゃない」
「そういう事よ~」
書庫に入るとたくさんの本が保管しており、小さな図書館のようだ。一日二日で読破できる量ではない。
「けっこうあるわね」
「こいつはどうするんだ?流石に読むってなったらけっこう時間かかるし、外でのデートは出来ないぜ」
「決まっているでしょ、あなたの宝物庫にいれて回収してギャラントプルームに持っていきましょ」
「あーやっぱりそんな感じしてたわ」
この量の中から重要そうな文献のみを見つけて回収なんてやってたら日が暮れるからな。
「メインはデートだし、ここはあくまでもオマケだから頼んだわよ」
「はいはい、わかりましたよ」
本を掃除機の如く回収し、書庫はあっという間に空となった。これ見た人ビックリするだろうから、後でレダさんやレイチェルに言っとかないとだな。
◇
「それじゃあ早速デートね~」
立花は隣でウキウキしながら歩く。
「歩きがてらご飯に行くか」
「そうね、この先に大聖堂に続く一番栄えている通りがあるわ。さっき大聖堂来る時にちらほらご飯食べる所があったわ」
のんびり歩きながら向かう。シン達が暴れる前は活気がなかったらしいが、教団の上層部を一掃した事で取り締まる者もいなくなり、すっかり活気が出ている。
「ここいらは活気が出てきたけど、ダウン街はどうなっているんだろうな」
「教団の取り締まりがなくなったお陰で多少はマシになるだろうけど、貧困層の住む場所はどうしても難しいわね」
聖地ペブルスに訳有りの人達が住むスラム街のような場所が出来たのは、ダーレー教を信仰する者は誰でも受け入れるといったスタンスを教団がとったが故で、どんどん肥大化していった。結果的に抑えきれず一つの区画をダウン街と名付けてそこに押し込んだ。
「無理に追い出してそれが別の街に流れれば、結局また問題になるだけだしな。それに今は街の混乱もあるし、放っておく他ないさ」
店の中に入り、昼食を取る。色々見て回ったがどこの店も活気が出ていた。
「悪くない味ね」
「聖地ってだけあって交易品の輸入はかなり栄えているからな。色々とモノは豊富なはずさ」
「フフッ、それもそうね。それよりさっきからどうにも落ち着かない感じね。どうかしたのかしら?」
立花は俺を見てクスッと笑う。俺の考えている事などお見通しという事だろう。
「多分分かっていると思うかオルメタ遠征の件だ」
「私を愛してやまないあなただから、私を遠征させず自分が行こうとしていた……」
「ああ、もしお前も九兵衛さんやシンと同じようになったらと思うとな……」
高校入学前に立花を失い、自暴自棄となってしまった。今でこそ落ち着いたが、もう離れ離れになりたくはない。
「あなたが私を失いたくない以上に私もあなたを失いたくないの。昔あなたを失ってここいらで暴れて、何人もの人間を石にして砕いたわ。私があの時志願したのはあなたがリーダーだからではなく、私の前であなたがいなくなるのを防ぐ為だし」
昔俺が戦死した後の立花は鬼神の如く暴れ回り、誰も手が付けられない程だったと聞いている。いつも完璧で俺を引っ張ってきた立花だけに聞いた時は驚いたが、きっと立花が完璧であり続けるのは俺がいるからなのかもしれないな。
「気持ちじゃ俺も負けてないと思うんだけどな~」
「あら、月島さんや杉原さんの事も考えてるくせに、気持ちじゃ負けてないなんてどの口が言っているのかしらね~他にもダルジナちゃんとかもいるし油断も隙もないわ」
「あ、あれは……ほら高校入ってからの事とかあれとか色々あるし。それとダルジナは全然そういうのじゃないから!」
ダルジナは本当に違うんだが、何故か対抗意識があるんだよな。まぁ妹が出来たみたいで可愛いけどな。
「いいえ、ダルジナちゃんこそ最大のライバルね。周平がダルジナちゃんに見せる態度は私には見せてくれないし」
「おいおい……」
「フフッ、それだけ私の中心は周平って事よ。まぁ里菜とか騎士団の仲間とかもいるけど私の世界は周平で出来るんだから」
「わかったよ、俺の負けだ」
「当然よ、私以上に周平を想って理解している人はこの世にいないと自負してるわ!」
立花は自信満々に言う。これ以上戦ったらたぶん負けるから素直に引くとするか。
しかし昔から変わらないな。俺はこんな立花が昔からずっと好きなんだよな。
自身の作った心の監獄に、俺を閉じ込めて離さないような立花に惹かれて、今ではその監獄が天国のように心地よく感じている。病気なのか毒されたというような言い方もあるかもしれないが、それでもそこが俺の居場所だ。
「ハハッ、こんなに愛されて嬉しいね。だから俺もお前の世界に中心と居続けるさ」
「一生離さないから大丈夫よ、あなたは私の王子様でありワンちゃんなんだから~」
「俺は犬かい!」
「ずっと昔から一生外れない首輪を私はつけているつもりよ、それにあなただって私に外れない鎖をつけているでしょ」
初めて会った時から今に至るまで一緒にいた時間がそれを証明しているな。歪んでいたとしても愛情の形は人それぞれだからな。
「こりゃ離れられる気がしないな~」
「当然じゃない~」
まず離れる気もない。無理矢理でもその世界に居続けるさ。
「それと今回、九兵衛さんやシン見たくなるつもりはないわ。そこら辺の対策はシン以上に考えているわ」
「まぁお前にはゲートがあるし、シン以上に対策は取れると思うが……」
シンがしてやられたという事実がある以上、不安は拭いきれない。
「シンの事で動揺するのはわかるわ。でも周平が私を信じて背中を押してくれないと上手くいくものも上手くいかないわよ」
立花はジッとこちらを見つめる。
信じてないというよりは心配と不安が強いだけなんだよな。だけどここで背中を押さなければ信じていないのと一緒になる。
「そうだな……少し弱気になってたよ。今回の遠征宜しく頼むな」
「ええ、任せてちょうだい」
むしろリーダーとしてなら立花よりもロードリオンの心配をしないといけないかもな。立花のようにゲートが使えるわけじゃないし
「何しやがる!」
突然後ろから大きな声が響く。
「周平あれって?」
「ああ、見覚えのある顔だ」
毎回投稿が遅くなり申し訳ございません。
久しぶりに主人公視点の話です(笑)




