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立花の判断

「実際には存在しない幻でもこうして話せると懐かしいものだな」

「そうですね、私も嫌な奴とたくさん話しましたよ」

「アンは凄いな、良く一人でこれを乗り切ったな」

「フフッ、あなたのお陰ですよ。あなたとの出会いで私は全ての闇を振り払えたのですから」


 アンは陣とくっついて腕を組む。


 「しかし助かったよ。今回アンがいなければヤバかった」

 「フフッ、妻として当然の事をしただけです」


 今まで陣を戦闘面で助けるという場面がなかっただけにアンはご満悦な表情を見せる。


 「なんかご褒美をあげないとだな。何かあるか?」

 「ご、ご褒美……そうですね……」


 アンは色んな想像を頭に思い浮かべると、顔を赤くしながらその場でショートした。


 「ど、どうした?」

 「ち、ちょっと考えておきます。い、今はここを抜ける事を考えましょう」


 アンは頭に浮かべた妄想を一生懸命振り払う。


 陣に尽くしてもらう自分を想像しただけで気持ちが高ぶる。


 「そうだな、あとはここを抜けるだけだが……」

 「果たしてそれができるかな?」


 二人の目の前にカナーンが現れる。


 「随分とやってくれるじゃねぇか」

 「まさか乗り越えるとはな……」


 カナーンは忌々しそうな表情を見せる。


 「二十柱としての力と矜持は自覚しているからな」

 「ふん、だがここではお前の力は発揮できない。乗り越えたからといってこの世界から抜けだけるわけではないからな」


 陣は力を使って周囲の空間を歪ませようとするが、それが出来ない。


 「特殊な空間ってわけか……」

 「その通り、最早この空間で貴様達に精神的なダメージを与える事は叶わぬが、そう簡単にはここから出さん」


 この空間では他にも精神的につけ入る隙があればじわじわ苦しめる事が出来るが、二十柱となった陣につけ入る隙がいくつもあるかといえばそうではない。アンに関しては陣という存在だけでその全ての隙がない。


 「ならばここから出る術を探すまで。それにお前の術で作り出した空間が一生持つとは思えないからな」

 「フッ、せいぜい足掻くが良い。私の目的は達成されたのだからな……」


 カナーンは陣達の前から姿を消す。


 「どうやら閉じ込められちゃったな~」

 「そうてすね。早いとこ出る術を探しましょう」


 二人で異空間の中を歩きながら、黒い地平線に向かいつつ白い道路のような道を探りながら進んだ。


 「何もないですね」

 「そうだな、空間を歪ませて他の道を探しているが全然だな」

 「向こうの目的が達成されたっていう言葉も気になりますし……」

 「それなんだが多分俺達の負けかもしれんな」

 「どういう事ですか?」


 陣達の目的はボリアルの異変を調べながら内部で起きている歪みを正す事。内部で起きている歪みの原因を見つけ出し、その原因と呼べる相手を追い詰めた。だがこうしてる間に逃げた者達が行動に移している可能性があるからだ。


 「あいつらの目的はファーガスを侵攻する事。こうしてカナーンに足止めされているという事はこの状況が続けばきっとあのゾンビ兵どもはファーガス侵攻を止められない」

 「まさかそれが狙いで私達を……」

 「恐らくな、流石は知恵の神なんて言われて崇められていただけの事はあるな。忌々しい……」


 陣は悔しそうに壁を叩く。


 「ファーガスは大丈夫でしょうか?」

 「少し危ないかもな。周平達は俺を派遣したから大丈夫だと思ってるだろうし」

 「何か外部との連絡手段かあれば……」


 特殊な空間にいるせいか外部との連絡する事が出来ない。


 「何とかして出るしかない。あとファーガスの事だがエミリアさんだけは動きを見逃さないはずだ。ボリアルから大きな動きがあればエミリアさんが反応するだろうし、今すぐにどうこうはならないさ」


 だがエミリア一人で全て対処できるかといえばそういうわけでもない。カナーン抜きにしても戦闘力の高い戦士を複数人との同時相手はそう簡単な話でもない。


 「ならばなるべくその負担を減らすべく、行動しましょう。何かあってからでは遅いです」

 「そうだな、早くこの空間を攻略して奴を倒すぞ」



 ◇



 その日の俺は苛立ちを隠せなかった。事の発端は聖地攻略組の帰還の日だ。


 「シンが戻ってこないだと!」

 「ええ、シンとレガリアの戦いの結果を見に大聖堂の地下に潜ったら夥しい死体の山があっただけ。戦いの痕跡はあったけど二人の反応は見られなかったわ」

 「くそっ!シンは生きているのか?」

 「それは間違いないと思いますよ」


 図書館ザ・マスターが苛つく俺に落ち着けと言わんばかりに肩を叩く。


 「どういう事だ?」

 「これです」


 図書館は大きい円盤状の魔導具のようなモノを出す。


 「これは?」

 「これは二十柱の生存状態を確認できます。完全に力を覚醒したメンバーでないと駄目ですけどね」


 図書館が魔力を込めると円盤の中にある点が光出す。


 「これは九兵衛さんでこっちがシンです。察するに九兵衛さんと同じ状態になった可能性があります」

 「確かロードリオンの話ではこちらから干渉できない異空間にいるって話だったな」

 「はい、これは世界を作る為でなく、こちらの戦力を削ぐための手段として考えていると見ていいでしょう」

 「シンがこうして吸い込まれたという事はそういう事ね。シンはちゃんと対策を考えていたし……」


 立花は複雑な表情を見せるが無理もない。

 何故ならシンに九兵衛さんの知らせを受けた段階で、聖地にいるシンにこの話をして念の為の対策を考えてもらった。シンは戦いにおいては隙などないし、シンの想定したプランをもってしても対策できなかったという事は、残り二人との戦闘でも犠牲を覚悟しないといけないという事だ。


 「くそっ!あと二人……オルメタとオンラクが残っているのが厄介だな」

 「オンラクはリオンが行っているはずです。最悪そこの犠牲も想定しないといけませんね」

 「仲間を犠牲にしろってのか!一旦連れ戻すべきだ!」

 「では誰が代わりに行くのですか?妖精の国の事ですしリオンはそれを認めません。それにクレセントとレガリアを倒した時点で向こうも動くでしょうし、余裕もありません」

「くっ……」


 そうだ、勇者達の事もあるし、そんな余裕がないのも事実だ。勇者が魔王城に行く前にこっちも終わらせないといけない。今の勇者達では魔王は倒せないだろうし、遠征を自由にした結果、戦力を削ぎ落とした事もあり、その前での全滅も有り得る。

 こっちもその補填はやらないといけないが、かといって今勇者達に直接介入し魔王を倒す側に回れば百年前こちら側に味方した一部の魔族達への裏切りだ。遠征を無理矢理やめさせれば勇者達は偽神に不必要とされ、残存している教団の刺客によって命を狙われる。

 ならば早いとこ偽神を倒して世界に二十柱の統治を宣言し、魔族と人族の戦争を止めさせる他ない。


 「ならば誰をオルメタに行かせるかという話をしないといけないわね」


 立花のこの発言で誰を行かせるのが最適解かを考える。

 今空いている二十柱は俺、立花、図書館、アーシアの四人。陣が戻るまで待つのを考慮すれば五人だが、ボリアルの動きが怪しいのを考えれば保険を考えて数にするわけには行かない。

 うち図書館はこのギャラントプルームの砦と考えれば俺、立花、アーシアの三人だ。


 「ならば行くなら俺が……」

 「私が行くわ」


 俺の言葉に割って入ったのは立花だ。


 「なっ……」

 「あなたを行かせる訳には行かないでしょ」

 「だがな……」

 「この状況化でリーダーが抜けるとか有り得ないわ。こういう状況だからこそ最適解を出すべきね」


 立花の言葉が突き刺さる。確かに今のメンバーの中で誰が一番いいかを考えれば立花だ。アーシアは合流したばっかりで少し様子を見る必要がある。


 「立花……」


 俺は正直立花に行かせたくはない。リーダーとして失格かもしれないが、傍にいてほしいという自身のエゴが頭に過る。


 「フフッ、私は大丈夫よ。それにもし私が異空間に吸い寄せられたら救出してくれればいいわ。逆にその方がロマンチックじゃない」

 「お前な……」


 それが簡単にできれば苦労はしない。

 だが今の立花を止める材料もないのも事実。

 悔しいが任せる他ないな。


 「決まりね」

 「そうだな、立花が留守の間は引き続き親玉である主神ヘロドを探す。他のメンバーも引き続き仕事をしてくれ」


 会議が終わるとアーシアが話しかけてくる。


 「周平君!」

 「どうした?」

 「ごめんなさい……本当は私が行くべきなのに……」


 アーシアは過去に実の父とヘロドによって洗脳され、ガルカドール卿、シン、俺の三人は犠牲となった。二十柱としての力は覚醒しているし、あの時命をかけた甲斐もあって流石に同じような事は起きないと信じているが、まだあの時の事をよく思ってないメンバーもいる以上、今は傍に置いておくのが一番だ。


 「気にするな、復活してまだそんなに日も経っていない。そんなお前に行けという指示をする事は出来ないさ。何より立花が行くといったんだ」


 立花もきっと俺が指名しづらいと踏んでいたのだろうな。力や能力も信頼しているがやはり嫁となるとどうしても私情が挟む。

リーダーとして失格かもしれないな。


 「立花ちゃん偽神のいる場所把握してるのかな」

 「どうだろうな、だが聞いた所、オルメタは立花が相討ちした相手でもある。もしかしたら場所も見当がついているのかもな」


 行かせるにあたって椿あたりでもつけさせてもいいかもな。

 もし何かあった時に消息が分かる。

 どういう結果になろうともそれが分からなければ、希望的観測で物事を考えてしまう可能性もあるし、立花の事なれば尚更だ。


 「周平君……今度は絶対力になるから!私を助けてくれた皆や裏切る事になってしまったレイルリンクの民達の為にも……私は戦います!」


 アーシアは責任感の強い女だ。きっと本当は自分が行って役に立ちたかったはずだ。あの時の自分を今でもずっと悔いているだろうからな。


 「ああ、頼りにしてるさ。近いうちにアーシアの力が絶対に必要になるからその時よろしく頼む」


 主神ヘロドは一筋縄ではいかないだろうし、戦いには二十柱複数で臨みたい。その戦いにアーシアは必要不可欠だからな。


久しぶりに主人公を出しました(笑)

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