尾形の脱走
クラスメイトの尾形の話です。
同時期、尾形光一は王都で食べ歩きを堪能していた。
尾形光一
性格は大人なしめでスクールカーストでいう所の下位に属する。
身長は一六八センチやせ型で顔は真ん中ぐらいといったところだ。
ゲームは達人級で同じく達人級だった周平とは様々なゲームをやる仲であったが二年生の時クラスで周平が浮いたところで直接話すことはなくなった。
周平は彼のためを思い距離をとったし、尾形もそれを理解し直接話すのをやめたわけだが、自分にとっては恩もあり自分に足るレベルのゲーム力のある周平にそうしなくてはいけないのは断腸の思いだった。周平とは夜にオンラインゲームをやりながらよく話していたし、それなりの仲であると少なくとも自分は信じているのでそれだけにこないだの件はショックであった。
「やはりこの店の食べ物は味が濃くて美味い!早く色んな街に行きたいものだ」
今の所王都から出るのは禁止されているが密かにここを出ることも考えていた。それはこの脳対話の異能でこっそり王様の心の声を聞き取ったからだ。というのもこの異能は目を合わした対象一人と脳内で話せるだけではなく、つながった状態でオンにしておけばそれが可能なのだ。ただしその場合こちらから一度脳内に声をかけて繋がった状態にする必要があるのと、こちら側が無言状態になって三十分がたつと自動遮断される。
盗聴防止の魔法等で防がれる可能性も当然あり万能ではないが使い勝手がよい異能だ。
結論から言えば俺達は魔王を倒す捨て駒なのだ。元の世界に戻る転移はあるみたいだが、膨大な魔力と準備のかかる魔法を彼らがちゃんと発動してくれて元の世界に帰してくれるのか……そもそも魔王倒すうえで俺達が生きていられるのか……周平君のこともある。
そんなこと聞いて言うことなんか素直に聞いてられない……そもそも俺は大人しいほうだし友達もそんないるわけじゃない。
ぶつぶつ独り言えを言いながら考えて街を歩いていたら目の前で窃盗事件が起きた。
「ど、泥棒!」
露店のフルーツを盗んで逃げて行ったのは若い女性にも見えた。
「あんな若い子が泥棒なんて世も末だな……」
特に追うこともなく街を散歩だ。俺はそんな主人公体質じゃないしましてやクラスの隅にいるようなキャラだからな。俺は自分にそれを言い聞かせる。
そして数時間後に王都の外れのほうに足を運ぶ。勿論脱走経路の下見の為だ。
やはりここが一番薄いし抜けるならやはりここになるな。
警備がザルになるような時間までくまなく調査する。
今日はここの店で警備の態勢をチェックだ。
お店に入るとウエイトレスがお出迎えするので、警備兵が見える位置に座り観察を始めた。
城には夜に二一時前には戻らないといけないからな。
あれから城の図書館で色々な書物を読んだ。周平君が漁っていたであろう書物も拝見し、ダーレー教団が胡散臭いことも閲覧禁止の棚の歴史書を見てある程度わかった。閲覧禁止の棚に反ダーレー教団の書物があるのが何よりの証拠だ。
夜こっそり拝見した甲斐があったものである。
しかし脱出した後はどうするかだな……頼る宛があるわけでもない。それなりに強くはなってきたけど、連れ戻される可能性を考えて別の国まで行く必要もでてくる。
まぁ召喚者としてある程度の能力はあるから冒険者になるのも悪くない。周平君を迷宮で嵌めた奴らが誰なのかは気になるところだが……
「動くな……」
背後からいきなりナイフのようなものを突きつけられた感覚がする。
「なっ……」
よく見ればさっき盗みをやっていた女によく似ている……というか盗んだ奴だ。
「これよりあなたを人質にとる。騒げば命はないわ」
小さい声で言われ周りは気づいていない。さりげなく相手と目を合わせ異能を発動させる。
「君はいったい何者だ?」
「脳に声が響く……あなたの異能かしら?」
「ああ、それでいったい俺に何をするつもりなんだ?」
内心ビビってるのになぜか落ち着いていた。召喚された者としてある程度の能力を得たからなのか……昔ならもっとビビって声も上手く出せなかったに違いない。
「あなた召喚された勇者よね?」
「うん」
「私はあんたたち勇者の召喚をしたこの国及びダーレー教団に恨みがあるものよ」
反王国派の人か。絡まれるとはついてないな。
「それで?俺にどうしろと?」
「一緒にきてもらおうか。王都をでるわ」
うん?
もしかしてこれはチャンスなんじゃ……
「俺を殺すつもりは?」
「それはあなた次第よ」
「俺を王都から逃がしてくれるのなら王国での出来事を話そうか。俺はこれでもこの異能を使って王様の機密内容を聞いている」
その言葉に女は食いつきを見せる。
よしこれは賭けだが下手すればいけるな。
「あなたが嘘をつく可能性は?どうやら王国に敵対心があるようけど、脱出の手引きだけされて嘘の情報を持たされてはたまらないわ」
なるほど、確かにこの人の言うことはもっともだ。
「まぁとりあえず話をしませんかね?別に逃げるつもりはないので」
このチャンスを逃がすわけにはいかないからね。
女は対面に座る。
「俺は尾形光一、異世界から召喚された勇者だ」
「私はスタセリタよ」
スタセリタは紅い長い髪に整った顔立ちだ。年齢は自分より上にも見え上品な感じのする女性だ。
「それで君は俺をさらって何をするつもりだったんだい?」
「私の国に連れていってあなたを監禁しようとしていた……そして徐々に召喚された勇者を減らそうとしていた。」
「なるほど」
随分と命知らずな……俺はともかく菱田あたりにやったら返り討ちにあっってもおかしくない。
「俺はこの国に反感を持っている。勝手に召喚されたうえに友達が迷宮の下に落とされて行方不明になったからね。王様の会話を聞いてなおだね」
俺は詳細を少し話した。王様の機密情報は当然伏せる。
「そう……あなたも大変なのね……あなたをここから連れ出すのは可能よ、どうせさらうつもりだったし情報はその後聞くわ」
とあっさりと交渉成立だ。
さすがに裏があるのではと疑いたくなるな……
「俺を信じれるのかい?」
「そうね、確かにその話す内容にもよるだろうけど、あなたはでたがっているしどのみち私のいる国に来ることになる。私の国には嘘をついているかを見抜けるような人間もいる」
「確かにこの国で抜けたのがバレれば脱走犯だからね。君の国まで行かないといけなくなる。俺はそんなに強くはないからね」
「ふっ、交渉は成立のようね。早速脱走といきましょう」
「今午後一時だけど俺は二一時に戻らないと捜索隊がでる。あなたの国までどれぐらいかかる?それと抜けるとき俺が抜けだしたのがわからないようにできるのかい?」
二一時に戻らなければ警備体制が強化され捜索隊がでる。そこで見つからなければ次の日の昼前には脱走がわかり午後には全国指名手配だ。指名手配された段階でどこまでその国に近づけるかだ。
「私の国までは五日はかかる。だが明日の昼すぎの時点では関所のない場所に入ることが可能で、その後は関所を通ることなく私の国までいけるわ」
関所のない場所?山越えかな、どちらにせよなら好都合だ、果たして俺のレベルで超えられるかだな。
「わかった。それで脱出方法は?」
「簡単よ、店の外にでるわ」
俺はスタセリタで連れられるままに店の外に出た。
「あそこの兵士のいる先はカポットの森側の関所への抜け道よ。あなたたちのことがあるから警備が強化されているわね。」
そう、管理という名目の脱走防止策だ。屈強な兵士が四人、あいつらの注意をそらせれば……スタセリタは何やら歩く人々を観察している。
「あいつらが丁度いいわね」
スタセリタは道を歩く屈強な男を見て呪文を唱える。
「それ」
男のズボンが脱げてパンツ一枚になり息子が盛り上がっているのがわかる。
体格通りに大きいな~
男は慌ててズボンを履きなおそうとするがスタセリタは追加で呪文を唱えるとズボンを履こうとすると今度は転び落ち、目の前を歩いていた男は大笑いをし周囲も苦笑している。
「ちょっと、何やって……」
「まぁ見てて」
ズボンを履いたら男は真っ赤な顔して目の前の男に殴りかかる。すると殴り返された男も殴り返し喧嘩が勃発し、周りも盛り上がり野次馬が群がる。
「乱闘になったんだけど……」
「ふふん、それが狙いよ~」
当然警備兵がそれを抑えようと野次馬の方へと向かう。
「はい、今がチャンスよ」
スタセリタは俺を引っ張り警備兵のいた場所を通り抜ける。
「この先って関所だよな。俺どのみち関所でストップがかかるぞ」
「その前の所に転移魔方陣つくってあるから大丈夫。まぁ苦労して作った割に王都の外にいくぐらいしか転移できないんだけどね」
転移魔方陣ってけっこう高難度な魔法だった気が……この人いったい何者なんだろうか……
「どこにつながっているんだい?」
「王都から少し外れた馬車置き場の私の馬車の中につなげているわ。関所の手前に馬車留置場があるのよ」
スタセリタは転移魔方陣の前で呪文を唱える。
「いくわよ」
転移陣が光り、二人は転移した。召喚されし者二人目の王都抜けの瞬間だった。転移先は馬車の留置場に無事転移したのでスタセリタは早速準備を始めた。
「この中で大人しくしてて。一応ステルスの呪文をかけて置くけど騒ぐと無効だから大人しくね」
スタセリタは留置場の管理人に声をかけだす準備を始め、しばらくするとスタセリタと管理人が来て馬を連れてきた。
「そういえば一人で馬を操れるのですか?」
「一応ね、だけどすぐ近くの休憩村に連れが一人人いるの。彼とそこで合流するから」
「そういえばここに来た時強そうな男のかたが一緒でしたな」
「だから大丈夫、それじゃあいくわね。ありがとう」
馬車が動き出し留置場を出る。
さて本格的な脱走旅の始まりだ。
「もう大丈夫よ」
「みたいだね」
馬車は休憩村に向かう。休憩村には後三十分でつくみたいだし午後三時前にはその連れと合流して三時には出発できるな。
ちなみに休憩村とは王都から少し離れた遠くから来る旅人や商人が必ずといっていいほど通る場所だ。休憩村の外泊費や飲食費は王都よりも安く、出稼ぎ労働者の格安宿なんかもある。兵隊もそれなりに目を光らせているから治安もいいらしい。
「連れがいたんだね」
「ええ、四十超えた屈強なオヤジだけどとても強いわ。あなたに危害は加えないから大丈夫よ」
「ハハッ、俺の今後含めても考えてそこは信じたいとこだね」
勢いででてきてしまったが果たして大丈夫なのか不安になる。周平君ならもっと慎重に事を進めたんだろうなと思いつつも行動をしたからにはもう後戻りはできない。だが不安よりもワクワク感の方が大きい。
「大丈夫、国についても悪いようにはしないから」
スタセリタを見ると信用したくなってしまうあたり綺麗な人の誘惑に弱い自分を実感し、情けない気持ちにもなるな。
「休憩村についたらまた静かにしててね。兵隊がそれなりにいるから」
「ああ」
ここでバレたら色々水の泡だ。なんにせよ俺としても早くこの王国を離れたい。しかしここを離れて俺は最終的に何をするんだろうか。色々今後が未定すぎて不安しかないが城にいてもそれは一緒だし今はその国とやらに行こう。
村に着きスタセリタは一度馬車を離れ三十分ほど待っていると男が突然馬車にはいってきた。
「私はカーリンと申します。お嬢様が世話になったようでよろしくお願いします」
身長は一八〇超えの鍛え抜かれたガタイと強そうなオーラに圧倒されそうになる。
「カーリン、今は村をささっと抜けることが先決よ。挨拶は後でいくらでもできるわ」
「そうでしたね、ではお嬢様は馬車の中に」
「ええ、それじゃ改めてよろしくね、光一~」
お嬢様?
この人一体何者なんだ?
馬車は休憩村をでて森の方へと向かった。
尾形は当然この後脱走者として認識され指名手配されることになった。
次は主人公の話に戻ります。
2019年10月3日修正