知恵の神カナーン
二人は地下に広がる迷路を進む。途中で蘇生した歴戦の戦士と遭遇して倒して奥まで辿り着いた。
「ようこそ侵入者よ」
複数のフードを被った男達が陣とアンの前に立ちはだかる。
「あんたが首謀者か?」
「いかにも、私はクラウン・ポーター。世界で最も偉大な研究を成し遂げた男よ」
男はフードをとって自信満々な表情を見せる。初老ぐらいの容姿だが衰えを感じさせない身体つきと、勢いのありそうな印象だ。
「世界で最も偉大な研究?いささか自分を過大評価しすぎなのでは」
陣は軽蔑的な眼差しでクラウンを見る。
「ほう?私の研究にケチをつける気か?そうか貴様にはこの偉大な研究は理解できんか。この研究の成果は世に広まれば、たくさんの需要で溢れる。一度死んだ人間をゾンビではない方法で甦らせる画期的な方法なのだ!」
クラウンは自分の研究に誇りと自信をもっており、研究が偉大である事を信じて疑わない様子。だが人の命を簡単に踏みにじる研究は、陣からすれば許される事ではなかった。
「この研究で何人を犠牲にした?」
「面白い質問をするものだな。犠牲にした人数等覚えていない。崇高な研究には犠牲はつきものだろう?」
クラウンは陣の神経を逆撫でするかのように言う。
「悪魔め……国王がこれを容認しているというのか?」
「ふっ、国王は今や我々の思うがままだ。奴の中に眠っていた野心を少しつついたら、研究費を上乗せしてくれたよ。今になって怖くなったのか、ジャジルのエミリアには脅されてからは弱腰で研究を止めるように言ってきたが、最早国王ごときに我々は止められない」
クラウンは不気味な笑みを浮かべる。それを見た陣は明確な殺意を見せる。
「消えろ!」
陣はゼロディメンスィオを発動し、クラウンを消し去ろうとしたが、防がれたのだ。
「なっ……」
「陣の攻撃が……」
「クラウン博士、下がったほうが宜しいかと」
陣のゼロディメンスィオを防いだのはクラウンの隣にいたフードの男、ゼロディメンスィオを防がれた事で陣は警戒態勢に入る。
「今のを喰らえば、私の命はなかったわけか……どうやらお主に任せた方が良さそうだな」
陣はその場を去ろうとするクラウンを追撃しようとするが、複数のフードの男達によって邪魔をされる。
「ちっ……邪魔を……」
「博士はやらせない!」
「雑魚が……」
陣は向かってくる戦士達を倒す。
「プリズムアーク!」
第九位階魔法を喰らった事で、大半がその場で倒れる。
「あいつ化け物クラスか……」
陣の力で周りが怖じ気づく中、陣のゼロディメンスィオを防いだ男だけは冷静だった。
「あれだけの力とオーラ……まさか奴は」
「隙あり!」
一人の剣がアンに向かうが、陣は剣が届く前にその男の頭を掴む。
「は、離せ……」
「アンには手を出すとはいい度胸だ……ディバィンデス!」
「ギャァァァァ!」
男は断末魔を上げてその場で絶命する。
「今ちょっとイラついているんだ。悪いが一人残らず死んでもらうぞ」
「ぐっ……」
「やれやれ……ヴァイスシュヴァルツ!」
フードの男がヴァイスシュヴァルツを放ち、陣とアンに襲い掛かる。
「マスターシールド!」
マスターシールドにて敵の攻撃を相殺する。
「なっ、第八位階魔法を……」
「驚くことはないさ、アイツだけは一人格が違うからな」
「えっ……」
「お前何者だ、あれで復活したには随分とオーバースペックだが?」
「ほう、気づいていたか。流石は忌々しき者よ」
男はフードを取り、顔を見せる。
「忌々しき者?」
「その忌々しいオーラと力には悪い思い出がよぎる……我が名はカナーン、貴様等を憎む者なり!」
「カナーン……誰だか知らないが勝手に憎まれても……」
「陣、そいつの言っている事が正しければ、その男はエクリプス十神の一人、知恵の神カナーンです!」
陣は周平達のように百年前の戦争を経験しているわけではないので、エクリプス十神の存在を知らない。だがその名を聞いた陣はヤバい相手にだという事は認識する。
「偽神か……だがそんな奴がどうして術で蘇生できるんだ?」
反魂憑依は限界突破しているような人物を対象に発動する事は出来ないとされている。
「ふっ、確かに本来であれば復活する事は出来ない。力だって全盛期には程遠いからな」
「ならばどうして?」
「ここは我らの統治する世界、先の大戦で完全消滅を免れ、残留思念としてさまよっている時にクラウンと会った。彼に知識を与え、私を深く信仰する信者数百人の魂に対して反魂憑依を使い、数百人の魂と共に私は再び甦ったのだ!」
「なるほど、それで再び主君の為にってわけか」
「ファーガスは愚かにも我らに歯向かっていると聞いているからな。ここで一つ我らの力を思い知らせてやるつもりだ」
「理解したぜ、これでお前を殺す事ができるさ」
カナーン側にいたフードの男達は一斉に下がり、陣とカナーンの間に時間が止まったかのような間が出来る。力的には陣の方が強い事は間違えない。だがそれでも陣が一ミリも油断をしていないのはいくつか理由があった。一つはアンがいること、もう一つは相手が偽神であること、そして最後は自身がまだ力を完全にコントロールしきれてない事だ。
「こいアベル!」
間を破り、陣は剣を手にカナーンに接近戦を持ち込む。
「マスターシールド!」
「ふん!」
陣が剣を振りかざすとシールドにヒビが入り、破壊される。
「やはりこれでは持たぬか」
「当然だ」
剣で追撃を加えるとカナーンは受けきれず、肩から血を流す。
「イノセントブレイク!」
「小癪な……ハマジク!」
カナーンは第十位階魔法ハマジクを発動し、周囲の空間での魔法の発動を無効にする。
「魔法を封じたか……首を絞めていなければいいな」
「ふん、魔法が発動できないからといってそちらのダークエルフに攻撃ができないわけではないぞ」
カナーンは魔法とは違う遠距離攻撃でアンを狙う。
「呪縛の触手!」
「チッ……」
陣は急いで戻り、触手を切り裂く。
「すみません……」
「気にするな、それと仕方ないからこれでいく」
陣は白灰色の両翼を具現化し、アンをお姫様抱っこして、宙に浮かび上がる。
「ほう、その体制で私と戦うか……面白い!」
「混沌氾濫!」
陣の天魔として得た固有技で遠距離攻撃を放つ。光と闇の混ざった混沌の渦がカナーンを包み込む。
「特殊攻撃か」
「魔法だけが遠距離攻撃だと思うなよ」
「知恵の書の第二……絶対なる防壁!」
カナーンは辞書のような本を手にバリアを貼って防ぐ。
「知恵の神の力か」
「ご名答、私が与えられた唯一無二の力、ミネルバの知恵だ」
「陣気を付けてください、あの力からは嫌な予感がします」
「ああ」
陣自身も警戒していた。カナーンの力が全盛期には遠いとしても、その能力そのものはこっちに近いモノを持っていると考えていたからだ。
「混沌槍!」
宙で無数の槍を作り出し、一斉に放つ。
「無駄だ!」
同じようにバリアを貼って防ぐ。だが陣の狙いは別にあり、槍を放つと同時に接近し、槍を防いだバリアが解除された瞬間への攻撃を狙っていた。
「この程度の攻撃で私に攻撃が通るとでも……」
「通させるさ!」
「なっ……」
「はぁぁぁぁ!」
アンを抱えながら、天魔の力を纏った剣で、深く斬り付ける。
「ウッ……」
「そんな防御力じゃ、俺の攻撃は防ぎきれないぜ!」
「なめるなよ……知恵の書の第一……完全なる破壊!」
上から無数の光が陣とアンに襲い掛かる。
「陣!」
「ああ、わかってる」
陣は後ろに後退し、攻撃を避けようとするが、光の矢が、方向を変えて襲い掛かる。
「俺達にそれは当たらないぜ」
陣が二十柱となって得た歪曲属性は運命を捻じ曲げる力。陣はその力で、光の矢の飛ぶ位置を微妙に変えて、全ての攻撃を避ける。
「なっ!」
カナーンは驚きを隠せない。
カナーンから見れば、確かに矢は陣とアンを狙っていて、軌道を変えるような魔法も一切していないにも関わらず、矢は全て二人の横を通過し、避けられたからだ。陣が矢を避けたのでなく、矢が陣を避けたという認識をするのはそう簡単な事ではない。
「コントロールは慣れてきたかな」
「流石は陣です」
「貴様今何をした?」
「何の事だ?」
「おのれ……ならばもう一度だ!今度は外さんぞ」
再び光の矢が飛んでくるが、陣は能力を使い、全て避けつつ、カナーンに近づく。
「何故矢がひとりでに……」
「混沌氾濫!」
さっきのように混沌の渦で包み込む。
「それは効かぬ……絶対なる防壁!」
同じように防ごうとするが、陣はそれを見越したのか、防壁事混沌の渦で包み込む。
「侵食せよ!」
混沌の渦が防壁の中に滲みこむように、入り込む。
「離れろ……」
「俺の混沌はそう簡単にお前から離れないぜ」
「クッ……だが私の身体にそれが触れる事はない。仮に防壁を覆ったところで、展開し続ければ喰らう事などない」
「それはどうかな」
混沌が防壁を侵食したところで陣の準備は完了していた。混沌そのものを暴発させ、内側から直接ダメージを与えようとしていた。
「混沌大爆発!」
「ぐぁぁぁぁ!」
内側を侵食していた混沌が爆発を起こした事で、逃げ場のない衝撃がカナーンを襲った。爆発を諸に喰らったカナーンは傷を負い、その場で膝をつく。
「これで終わらせてやるよ」
陣は膝をついたカナーンに容赦なく追撃を繰り返す。追撃を受けたカナーンは今にも崩れ落ちそうな状態ながらも膝をつきながらも立ち上がろうとする。
「思ったより耐えるな」
陣は上から見下ろすようにカナーンを見る。
「忌々しき力……やはり力の差は隠せぬか……」
「どうせ一度は死んでいるんだ。そもそもこの復活自体がおかしかったのさ」
陣は剣を手に振り下ろそうとするが、その瞬間にカナーンがニヤつく。
「第四の書……禁断の幻想……」
膝をつき、今にも倒れそうな状態になったが、カナーンはこれを使う機会を待っていた。本が光りだした事でマズイと感じ、剣をそのまま振り下ろそうとするが、時すでに遅く、剣が本の光で弾かれる。
「これを間近で喰らえば、ただでは済まない。私と共に幻想へと落ちるがよい」
「じ、陣……」
「し、視界が……」
二人の目の前が真っ暗となり、意識が落ちていくような感覚に陥った。
歪曲属性
二十柱となった陣の唯一無二の能力で
物事や事象の運命を操り、攻撃を無理やりそらさせたり、
対象の運命を決定づける事が出来る(相手によって限度あり)




