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反魂憑依

 「反魂憑依リバースソウルチェンジ?」


 ヴァルトガイストに入る前にアンが陣に教えた術の名前で、所謂呪術と呼ばれる部類に入るこの術が今回の騒ぎの鍵だとアンは睨んでいた。


 「死んだ者の魂を呼び寄せて別の者の身体に憑依させる術です。色々と制約がありますがこの術を使えば、死んだはずの人間を見てもおかしくない」


 ベンバトルが城で見たのは数年前戦死したはずの将軍と病死したはずの大臣。二人とも大規模な葬儀が行われ、埋葬する所まで確認したという。そんな二人が同じお城にいて、その現場を目撃してしまっては死者が復活したと考えるのは自然の流れだ。


 「待ってくれ、そんな便利な術があるのか?」

 「便利かどうかは考えものです。面倒くさい制約がありますから」


 再魂憑依……死んだ人間の魂を呼び出し、別の人間に憑依させる、呪術の中でも禁忌とも呼べる術式。死んだ人間の魂を一時的に呼び出すだけなら禁忌と呼ばれる事はなかっただろうが、問題は呼び出すと、呼びつける為に憑依された者の魂が犠牲となり、加えて呼び出した魂は自ら消える事なく憑依した身体を侵食、呪いの力でかつての自分の姿を取り戻す。


 「呼び戻した魂は呪われた魂、憑依した身体と魂を貪り、その身体の寿命が尽きると本能的に別の身体を求める」


 「なるほど、魔族が人間に使いそうな術だな」

 「それが汎用性という意味ではかなり悪い術ですのでそうでもないです」

 「どういう事だ?」


 この術は誰が使用しても、術が適応されるのが同族のみなので、魔族が人間相手に使う事は出来ないし、違う種族の魂同士で憑依させる事は出来ない。加えて魔族は呪術耐性の高さからこの術は成功しにくい。あまりメジャーにならなかった理由の一つでもあり、種族を越えて使う場合は限界突破が条件だ。また限界突破をした者の魂には基本的に使う事が出来ない。


 「限界突破していない限り、他種族相手に術の発動ができませんし、同族相手に使う場合には相性等諸々考えないといけません。元々の魂の受け皿だった身体の一部も手に入れる必要がありますし、昔パールダイヴァーでこれの研究をしていた者も、術の発動における反動や周囲の避難から、研究を放棄したそうです」


 術の成立には、身体の相性やその身体がどれぐらい耐えられるかを検証する必要がある。仮に相性の良い組み合わせを見つけても、呪術の発動による術者の負担、それに見合う成果が得られるかが未知数なら普通ならやろうと思わない。


 「でもこいつらはそれを積極的にやっている。つまり何らかの方法で安定した発動をするやり方を得たんだろ」

 「恐らく……一体どうやって身に付けたのか……限界突破をしていない人間があんなもの発動すれば一回だけでも反動があるというのに……」

 「それをやるぐらいに手強そうな相手って事だろうさ。ならそれを暴いて黒幕を倒せばいい」


 仮に反魂憑依で歴戦の雄達をそろえた所で、陣にとっては取るに足らない存在。そんな事は分かり切っている事だが、アンはそれでも不安を拭えなかった。



 ◇



 「嫌な気だ……」

 「はい……」


 下に降りるとそこは広大な空間が迷路のように広がっていた。整備された地下道のような場所を進んでいく。


 「まさかお城の地下がこんな風になっているとは……」

 「昔ファーガスの脅威に怯えた当時の王が作ったというのはエミリアさんに聞いていたけど、まさかここまでとは……」


 近くに気配はないが、少し離れた場所に嫌な気配を感じていた。恐らくそこには原因を作った奴がいて、今なお呪術で強い兵士を量産している。陣にとって必要のない犠牲を強いる者の存在は許せなかった。それはかつて自身がこの世界でそういった痛みを受けてきたからだ。


 「アン、俺の傍を離れるなよ」

 「勿論です」


 奥へ進んでいくとちょっとした大きな部屋へと辿り着き、二人はそこで歩みを止める。


 「出て来いよ!」


 陣はこの部屋に潜む複数の気配に気付いた。


 「これはこれは招かれざる客人ですな~」


 不気味な声と共に部屋の明かりがつく。すると目の前には複数の男達がいた。


 「誰だあんた?」

 「これは無礼ですね~それに人に名前を聞く時はまず自分から名乗るのが筋かと」


 目の前で喋る黄金の鎧の男は、礼儀を重んじる騎士のような感じで、陣はそれにのっかり自ら名乗る。


 「宗田陣、そしてこっちはジャッジ・アンジェルーチだ」

 「ふむ、私はエイダン・スコット。人は皆、私の事を黄金騎士ザ・ゴールドと呼ぶ」

 「黄金騎士?聞いたことがないな」

 「黄金騎士……陣、その男は元十三騎士ナイツオブランドの一人です。エイダン・スコットは五十年前、かつて魔大陸を攻めて占領した土地から金脈を探し当てて、ゴールドラッシュを引き起こした男です」


 アンのこの言葉を聞いて、陣は反魂憑依が行われている事を確信した。五十年前も前に英雄と呼ばれた男の外見とは思えないほどに若かい姿をしているからだ。


 「流石そこのレディーは知っているようだね。そう、私は黄金騎士にして英雄とまで言われた男。だがまだまだ知名度が足りない事を実感してくれて感謝するよ」

 「ケッ、どうやら話は本当みたいだな」

 「話?」

 「お前らが悪い術を使って蘇生しているって話さ。何しろ過去に活躍した有名な騎士が若い姿で出てこられちゃ、信じざるを得ないからな。加えてその邪気……言い逃れはさせないぞ」


 「ほう……御名答、流石はここを嗅ぎ付けるだけの事はありますな~」

 「そこにいる奴等もそうなのか?」

 「その通り、この者達もかつて名を馳せた戦士達。皆甦ったのです!」


 エイダンは悪びれる様子もない。勝手に復活されられといて、その過程で犠牲になった魂に対して悪びれるのもおかしな話だが、陣も当然消す事に遠慮は見せない。


 「なるほど、お前らを甦らせたのは誰だ?」


 陣はいつでも倒す準備が出来ているが、当然ながら聞き出せる情報は聞こうと敢えてすぐに手を出さない。


 「ほう、我が君の事が気になりますか」

 「当然だ、諸悪の原因だからな~」

 「あの方こそファーガスに代わりこの大陸を治めるに相応しい方だ」

 「誰だ?」

 「おっと、これ以上はあなたにいう義理はありません。そこまで見くびってもらっては困りますよ」


 陣はこれ以上聞けないとわかると、魔法を発動する。


 「そうかならば話は終わりだな……ゼロディメンスィオ!」


 陣の魔法によって二人の上半身が消し飛ぶ。


 「なっ……」

 「悪いが手加減は出来んぞ」


 恨みのない人間相手だと、殺生する事に多少の抵抗がある陣だが、相手が甦ったゾンビ兵なら話は別。攻撃に躊躇はない。


 「貴様!」


 大剣を持った戦士が陣に斬りかかるが、陣に届く事はない。


 「眠れ……」

 「ぐはっ!」


 男の身体には地面から発生した大きな氷の槍が突き刺さる。


 「お前もだ……」


 突き刺さった事で、動揺したもう一人男は逃げようとしたが、陣の剣から放たれた斬撃によって上半身が見事に切断された。


 「これが陣です……フフッ、ますます惚れてしまいます」


 陣の容赦のない攻撃を目にしたアンは、顔を赤くしながら悶える。


 「こらっ!まだ終わってないぞ」

 「少しぐらいいいじゃないですか~」

 「しょうがないな~」


 目の前に一人残されたエイダンを無視して、二人の世界を作る。陣にとって呪術で復活した戦士も取るに足らない存在。倒すのは準備運動にもならないのだ。


 「どうやら私では到底話にならないようですね」


 エイダンは半場諦めたような表情を見せる。


 「当然だ、これで少しは吐くようになったか?」

 「まさか……」


 エイダンは剣を構える。騎士道を重んじる彼にとって、例え勝てないからといって、素直に降伏に応じたりしない。十三騎士の称号とプライドを、二十柱を前にして見せたのだ。


 「流石は偉大なる騎士の称号は伊達じゃないという事か」

 「当然だ、我が騎士道を貫かせてもらう!」


 剣を手に陣に飛びかかる。陣は忠義を尽くしたエイダンを満足気に見て、かつて友に売られて牢獄行きとなった記憶を思い出す。


 「黄金の騎士よ、あんたのその真の強さは認めたぜ!」


 陣は剣を手に迎え撃つ。剣の腕はエイダンの方が上だか、能力差という圧倒的な暴力によって、陣の一撃が黄金の騎士を撃ち取る。


 「ガバッ……せいぜい気を付ける事だ。あのお方は私のようにはいかない……」

 「なら楽しみだな、どっちが強いか証明してやるさ」

 「若いな……精々足元をすくわれないようにする事だ……」


 エイダンはその言葉を最後に再び息絶えた。するとエイダンやその場で倒した戦士達の心部から感じていた邪悪な気配がなくなる。


 「若いか……」

 「陣、流石です!」

 「これぐらい当然さ。それよりアイツの事知っていたんだな」

 「エイダンは元ファラリス連邦の騎士、彼が起こしたゴールドラッシュで魔大陸に住む人間の数が増えるきっかけを作りましたから」

 「ファラリス連邦か……だが何でそんな奴を蘇らせる事が出来るんだ」


 反魂憑依の術の特性上、使い手の言う事を聞くようになっているので、言う事を聞くのはわかるものの、何故ファラリス連邦の高名な騎士を蘇生する事が出来たのかが疑問だった。死体の採取は簡単ではないし、高名の者なら尚の事だ。


 「死体から身体の一部を取ってきたのでしょう。ですが、エイダンの死体を見つけて身体の一部を採取するなんてのは即席で出来る事ではありません。恐らく、術の研究そのものはもっと昔から続けていたのでしょう」

 「てことはもっと強い奴が現れる可能性があるな。エミリアさんも俺に頼んで正解だったな」


 もし元十三騎士クラスが複数いて、それ以上の相手がいればエミリアのような超人クラスであっても苦戦を強いられる。実力差がそこまでなければ、数の暴力というのが生きてくるからだ。


 「もしこの蘇生戦士達がファーガスに潜入したら……」

 「城は簡単に落ちるだろうな。前に魔族がファーガス城に潜入した話を周平から聞いたが、少人数の魔族達を前に為す術もなかったと聞く。それと同じような感じになるだろうな」


 もしファーガスに入り、時機女王となるサラフィナや騎士団長のタピットが殺されるような事があれば、今後の計画に支障をきたす事となる。そうさせない為にもここでボリアルの計画を止める必要があった。


 「余計な事は絶対させない。ここで全て食い止めてやるさ」

十三騎士ナイツオブラウンド

エクリプスにおける最も優秀な騎士に与えられる称号

大半各時代でどこかしろの空席があり、十三人同時に与えられる事が稀である。


反魂憑依リバースソウルチェンジ

一人の命を引き換えに死人を蘇らせる呪術

発動者の言う事には逆らえないようになっており、

限界突破をしていない場合、他種族に対して使う事ができず、

呪術に耐性がある魔族にも発動しにくい。

また限界突破して超人クラスになった魂を呼ぶのは不可能で、

元の魂と犠牲になる魂との相性も考える必要がある。

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