潜入ヴァルトガイスト城
陣達はベンバトルにお城周辺の施設を案内され、ヴァルトガイスト城周辺のマップを叩きこんだ。そして夜になると、裏路地にあるお店に入って情報収集をしていた。
「城で怪しい人の出入り?」
「ああ、夜のヴァルトガイスト城でフードを被った連中が複数出入りしているのを見たんだ」
「それはどれぐらいの人数だったんだ?」
「十数名ぐらいだったかな。だけどそれもここ最近ずっとなんだ」
陣は店にいた客から情報収集していた。最近のこの街が異様な雰囲気を出している事から、こういったお店ではその話題で持ち切りだった。
「なるほどな~」
「城に入って確かめたいってのがここにいる奴ら誰もが思ってる。だけど城に無理に入ってそれがバレれば……」
「まず命はないだろうな~」
今の街の状況に一般市民達は不安と不満を抱いていた。もし聞こえるように国の批判をすれば、命の危機に晒される可能性がある為、大っぴらに言う事は出来ない。そういった捌け口はこういうお店で行われていた。
「城に呼ばれて入ったまま、姿を現さない騎士も何名もいるんだ。騎士の間でもそれが噂になって戦々恐々としているって話だ」
「それは恐ろしいな」
陣とアンは城で行われているであろう事を推測した上で、帰ってこない者達の事を考えていた。もしベンバトルの言った事が正しく、アンの推測も合っていれば、その騎士達は戻ってこないからだ。
「最近ではこういう店にも城から調査が入るって話だ。全く勘弁してほしいものだよ……」
「本当それな……前はこんな事もなくもっと住みやすい街だったのに何でこんな事に……」
「やっぱりあれかな?」
「それはお前の考えすぎだろ~」
「そうそう」
「ちょっと待って、あれって何の話だい?」
陣は男達の話を止めて質問をする。
「ああ、ちょっと前に国王の親衛隊の隊長にドミノっていう男が就任したんだ。そいつの就任したぐらいから国が変わってきた気がするんだ」
「どういう男なんだい?」
「一度見た事があるんだが、人間とは思えないぐらいに冷たく、異質なオーラを放っていた。従っている騎士達もどこか緊張して怯えてたし、アイツはヤバい」
陣とアンはその名を聞いてもピンとこない。エミリアからボリアルの情報はある程度聞いていたが、ドミノという男の情報はそこにはなかった。
「ドミノ……」
「どうした?」
横で聞いていたベンバトルが少し怯え始める。お城に出入りしていたベンバトルは当然ドミノという男を知っていた。
「あいつは確かにヤバい。冷徹かつ得体のしれない強さを持っているのは間違いないです」
「あんちゃんも見た事あるんだな」
「はい、逆らおうとした騎士をいとも簡単に粛清していたのを……」
「そいつは要注意ね」
「だな」
陣はベンバトルの震えを見て話しを止める。もしその男が、今回の黒幕だとすれば、そいつが何者であるかを探る必要がある。陣自身そのドミノがただの人ではない可能性が高いと考えていた。
「うん?」
「どうしたの陣?」
その時、陣は周囲の異変を察知する。
「二人とも出るぞ」
「えっ?」
アンとベンバトルは困惑するものの、陣の表情を見て察する。
「おいあんちゃん達どこに行くんだ?」
「ちょっと用事が出来てな、これはお礼だ」
陣は少しの金を渡してその場を離れる。そして二人を無理やり連れて店の裏口から店を出た。
「陣いきなりどうしたんですか?」
「たくさんの人が動く気配があった。魔法で周囲を確認してみたが、かなりの人数でここいらの店に向かっていた」
「まさか摘発……」
「その可能性は高いかもしれないな。だがチャンスかもしれない」
たくさんの兵が城を出てこっちに来るという事は、それだけ城の警備が薄くなるという事も意味する。陣はこれを機に城へ侵入しようと考えていた。
「まさか城に?」
「ああ、むしろ今がチャンスじゃないかな」
「しかし本当に兵士がこちらに来ているのですか?」
「恐らくな、確証はないが多分……」
その瞬間、陣は二人に陰に隠れるように指示する。そして陰から覗くと兵士達が複数うろついているのがわかる。
「ほらな」
「まさか本当に……」
「取り締まりを厳しくするって噂が流れるって事は、一網打尽の作戦を狙っていてもおかしくはない。たまたま今日だったって話さ」
こういう所に来て、情報を流す奴等を取り締まりに来たのだ。
あの人数全員が城に連れていかれる事はないが、それでも何人かは犠牲になるかもしれないと考えていた。
「陣、しかしこのまま城にいくにも兵士に見つかってしまいます」
「それなら大丈夫さ、大通りに出る道は把握してるし、兵士の気配を探知してあるからね」
陣は先導切って進み始める。バレそうなきわどい時は魔法で視覚を奪うなどして、上手く兵士達の目をかいくぐり、大通りに出る事に成功する。大通りに出ると兵士達がをちらほら見かけるが、他にも歩いている市民もいたので、それらに隠れて宿の前に戻った。
「何とか脱出したな」
「ええ、だけどどうして宿に?」
「ああ、ベンバトルには宿で隠れていてもらいたいからさ」
「えっ?」
この後の城に行けば、恐らく戦いになる。それを見越した、ベンバトルを危険な目に合わせない為の陣の配慮だった。
「俺達はこの後城に行き、原因を確かめる」
「陣さん……」
「大丈夫だ、明日またここに戻るからそれまで隠れていてくれ」
不安な表情を見せるベンバトルに対し、笑顔を見せる陣。ベンバトル自身、このまま城についていけば、足手まといになる事は分かっていたので、素直に従う。最初は半ば無理やりの道案内であったが、今では陣なら何とかしてくれるという可能性に賭けていた。
「わかりました、ここで待ってますからね」
「ああ、任せてくれ」
ベンバトルは二人を見送り、宿に残った。
◇
「アンも宿にいて欲しかったのが本音だが……」
「私と陣は一蓮托生です!」
アンは陣と腕を組んで、強調するかのように言う。
「ああ、分かったよ。だけど離れるなよ」
「はい」
二人はヴァルトガイスト城の前に着いた。兵士達の大半が城から出ているだけに、手薄な状態となっているのは、見て明らかだった。
「予想通りってとこだな」
「どうやって入りますか」
「ああ、ミスディレクションフィールド!」
姿を視認出来なくする第七位階魔法で二人を包み、城の城壁を飛び越える。
「どうやら城壁に侵入を探知するような魔法はないようだな」
「そうみたいですね」
城壁を飛び越え、城の敷地内に入ると、何人かの兵士が警備をしているのが分かる。
「流石に中は手薄な訳がないか……」
「下級兵士に私達の存在が分かる訳がないわ。陣、あそこから中へ入りましょう」
中庭から門番の立つ場所まで行き、城内に入る。門番は当然陣達の存在気付いていないので素通りだ。
「あの男は地下に繋がる部屋でそれらを見たと言っていましたよね?」
「ああ、確か城を正面から見て右側の鉄出来ている扉の部屋と言っていたな。他の部屋は扉が普通だから分かりやすいはずだ」
城内でも薄く明かりがついており、各部屋の扉の前には兵士達が立っていた。二人は音を極力たてないように進み、部屋を探す。
「夜のお城ってここまで警備を増やす必要があるのかしら?」
「さぁな、だがベンバトル見たく脱走する奴が出ないように、見張り同士でも監視させているんだろうな。この人数なら監視している兵士も逃げないだろうからな」
「そこまでして、隠そうとしているという事ですね。しかしあれをどうやってこの国で……」
「優秀な研究者がいるかもしくは入れ知恵か……どっちにしろ時機わかるさ」
探す事数十分、二人は鉄で出来た扉を発見する。鉄でできたその扉は他の部屋の扉よりも厚く、警備も特別多い。
「これじゃああそこが重要ですよって言ってるようなものだな」
「扉からして間違いありませんね」
だが流石に警備の数が多く、姿を見えなくしていたとしても、入ろうとすれば確実にバレる。誰かが出入りをする時を狙うのも手だが、夜に頻繁に出入りがあるとは考えにくい。陣はどうするか考えながら扉を眺めていた。
「陣の運命の力で何とかできないのです?」
「考えたが、あの力で扉を開けさせるには、あいつらが何かしらのアクションを起こしてくれなければ難しい。先の未来に対して運命づける事は出来ても、今すぐとなればあいつらのアクションが必須だ」
陣が二十柱となって得た運命を操る能力は、見た相手の生死に関わる事等を決定づけたりする事が出来るが、戦闘中に攻撃をそらしたり、道を歩く人を転ばせたりする場合には対象にアクションさせる必要がある。今回のように目の前の扉を開けてもらいたい場合、それは必須事項でもあった。
「ならばこれでどうでしょうか」
アンは手から風魔法を発動し、小さな空気の弾を数発扉に当てると、音がなり兵士が反応する。
「お、おい……」
「これであいつらは扉の先に誰かいるのではと確認作業をやるはずです」
「えっ……」
案の定、兵士達はアンの放った空気の弾による音が、扉の向こうに誰かいるかもと勘違いし、何人かで扉を開け始める。
「でしょ?」
「まじか、やるなアン」
「フフッ、私にもっと惚れてくださいな」
二人は扉が空いた隙に、兵士達にぶつからないよう、中に入る。
「誰もいませんね」
「でも確かに音が……」
兵士達も中に入って部屋を確認するが、当然兵士達の目には二人は映らない。
「この下で大きな音が鳴ってその音を聞いたかもしれないな」
「かもしれないな。ちょっとこの下に行くのはおっかないし、戻ろうか」
中の部屋の構造は、真ん中に地下へと続く階段以外は何もない普通の部屋だった。だが鉄の扉に地下へ続く階段とセットであれば不自然な部屋である事は間違いない。兵士達が部屋から出て扉を閉めると陣とアンの二人になる。
「嫌な気配が漂っているな……」
「はい」
小声で話しながら、二人は下に続く階段を見る。その下から漂う不吉な気配を感じ取り、アンの予測はますます現実味を増していた。
「まぁここだけ、こんなに嫌な気配が漂っているって事は、ここを片付ければ本筋は解決するはずだ」
「はい、行きましょう!」
二人は階段を下りて下へと向かった。
遅くなり申し訳ございません。




