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試験の意図

「ハァァァァ!」

「止めだ!」

「そ、そこまで!」


 洞窟から帰還した二人はもう一つの試験である教官とのバトルを終わらせた。勝てば確実に合格というもう一つの試験だが、ペアでの戦いが可能な反面、片方にまかせっきりの戦い方をすると、一対一での試験になってしまう。なので二人のコンビネーションを見せつつ、力も見せつけるような戦い方で試験を制した。


 「ふぅ~どうだった?」

 「まぁまぁかな。結局二対二での戦いになったけど、ちゃんと二人ノックアウト出来たし、上出来だよ。これで合格ですか?」

 「ああ、両者合格だ。しかし強いな、久しぶりに骨のある受験者だったよ」

 「だな、試験時間もまだ残ってるし、ボス階層を突破したともなれば色々と規格外だな」


 ノックアウトさせた事で教官からもその場で合格が言い渡される。 

 クリアして洞窟を出たのが夜遅かった事もあり、教官との戦闘試験は次の日の朝になった。ちなみにタイムリミットまで後六時間程ある。その時間までに洞窟で証を取って教官との戦闘試験の申請さえ出来れば、教官との戦闘試験は時間を過ぎても問題ない。


 「そんな事ありませんよ。俺達コンビネーションで乗り切ったところもありますし」

 「確かに息は合っていたが、それ以前に強かったよ。特に冒険者の方の君には勝てる気がしなかったよ」


 勇者として召喚された尾形は、成長力という面では一般人と違い優遇されており、途中までの成長力は一般人のそれとは違う。


 「だな、だがそっちの君も剣の才能も含め、素質は十分だ。君はいい騎士になれる」

 「ありがとうございます!」

 「これからも頑張ってくれ!それと合格証は先に渡しておくけど、優秀賞もあるから夕方の全体発表の場には来てくれ」



 ◇



 「光一~」


 試験が終わり、スタセリタの元に行くと、スタセリタが尾形に抱きつく。


 「終わったよ~」

 「合格おめでとう!」

 「ありがとう。アスクにも助けてもらったから、一番で合格できたよ」


 アスクは照れくさそうな表情を見せる。


 「ふーん、あんたもやるじゃん」

 「光一には及ばないけど、足を引っ張らない程度には戦えたよ」

 「それなら良かったわ。それと午後に合格発表だけど、その後は帰還の方向かしら?」

 「それなんだけどちょっと調べたい事があってね。この後行くとこができたんだ」


 尾形とアスクが目を合わせてアイコンタクトを取る。二人は洞窟を出る前にゴールだった層を調べて、とある発見をしていた。



 ◇



 「やはりね」

 「どういう事だい?」


 洞窟を出る前、尾形のこの言葉にアスクは首を傾げる。


 「この洞窟はここより下の層が存在するんだ」

 「えっ、ここが一番下じゃないのかい?」

 「ああ、あの祭壇の裏を覗くと分かるけどさらに下への入り口がある」


 アスクは祭壇の裏を覗くが首を傾げる。


 「特に入り口は見当たらないけど……」

 「隠してあるからね。裏に手を突っ込むと風の流れを感じるんだ。それと地面が不自然なのが何よりの証拠さ」

 「なるほど、確かに良く調べると、光一の言う通り不自然だね」


 尾形は洞窟の下層への存在を確信した事で、エミリアに何故この試験を受けろと言われたのかを理解していた。


 「ねぇアスクこの下に興味はないかい?」


 尾形から漏れたこの言葉は下層への興味、何より今回の指令がエミリアに下に潜れと言っているように感じ取れたのだ。


 「勿論興味はあるけど……」

 「この試験が終わった後に潜る。もしよければ君と潜りたいけどどうだい?」


 尾形のその誘いにアスクは心が揺れた。もし国がこの下に行くのを禁じていて、隠しているとしたら、それは国に対しての背徳行為となってしまう。だが明確にそれを言われたわけではないのと、相棒として試験を切り抜けた尾形の誘いに断れるわけもなく、アスクはついていく方の選択を決断する。


 「面白そうだね、ワクワクが止まらないよ」

 「決まりだね」

 「それでいつ潜るんだ?」

 「上で連れを待たせているからね。一度戻って相談してからかな」


 当然下に潜るという事はそれだけ強敵との戦いになる可能性がある。場合によっては命をかける必要があるからだ。


 「わかった」

 「ただ下の層でどんな敵が待ち構えているかわからないからね。当然危ないと思ったら引き返すけど覚悟はあるかい?」


 尾形は真剣な表情でアスクを見る。魔物がいる場所にいく以上命を落とす覚悟も必要だからだ。


 「ああ、得体の知れない場所に行く以上その覚悟は持ち合わせているさ」

 「了解、それじゃあ一旦戻ろうか」



 ◇



 「つまり二人でその下に潜りに行こうとしているのね」

 「そういう事」


 尾形はスタセリタに隠された層の存在と、そこに潜ろうとしている旨を話した。


 「二人で行くつもり?」

 「今のところはね、リラはどうする?」


 光一としても王女であるスタセリタを連れていく事に抵抗はあったが、冒険者仲間と説明している以上、アスクの手前連れていかないという事は言えない。そもそもスタセリタを置いてアスクと二人で行くというのを許してくれる訳がないのをわかっているからだ。


 「当然行くわ!」


 スタセリタは満面の笑みを見せて言う。そんなスタセリタを見て尾形は複雑な表情を見せる。


 「だよね~」

 「当然よ、あんたまさか私を置いて二人で行こうなんて考えていないでしょうね?」

 「ハハッ、そんな訳ないじゃん。そもそもそれだったら戻らず潜ってるよ」


 スタセリタが白い目で睨むと、尾形は冷や汗をかきながら苦笑いを見せる。スタセリタは放置されるのを嫌うのと、尾形は当然そんなスタセリタの性格を把握している。



 「フフッ、それじゃあ決まりね~」

 「一応分かってると思うけど、危ないと思ったらすぐに引き返すからね」

 「わかってるわ」

 「光一、彼女は強いのかい?」

 「魔法はかなりのものだよ、少なくとも連れていって足手まといになる事はないよ」

 「当然でしょ!中で私の力を見せてあげるわ」


 アスクが懐疑的な表情を見せたからか、ムキになって対抗するように言う。実際に光一同様エミリアに鍛えられているので、そこら辺の冒険者は目じゃないぐらいの力はある。中でも魔法は重点的に鍛えているので魔法の使い方なら光一にも比毛をとらないぐらいのスキルは持ち合わせていた。


 「ごめんごめん、むしろこっちが足手まといになるかもだね~」


 アスクは大人の対応を見せてすぐに引き下がる。


 「まぁまぁ二人とも~とりあえず三人で潜るで確定だね」

 「ああ」

 「まぁ、そうね」

 「一応試験用の洞窟だし、今回の試験の発表が終わった後の深夜に潜ろうか」



 ◇



 陣とアンはボリアル王国の王都である、ヴァルトガイストに着いた。リンドシェーバーの街で追いかけられていたベンバトルも、陣の説得に押し負けたので一緒だ。


 「これバレてないんですよね?」

 「ああ、俺達二人も含め魔法で違う顔に見えるようにしてある。だから顔を見られて、追いかけられるような事はないさ」

               

 ベンバトルの案内の元、陣は問題のヴァルトガイスト城を目指していた。顔が割れているであろうベンバトルや、ダークエルフであるアンがそのまま街を歩くと目立つので、魔法をかけて、それぞれ変装したような状態にしていた。


 「しかし言った通り、軍人をよく見かけるな」

 「物騒な街です」

 「ちょっと前まではこんな感じではなかったんですけどね」


 陣はベンバトルの話を聞いて危機感を抱いていた。ベンバトルから聞いた話は陣にとっては俄かに信じ難い事ではあったが、もしそれが本当ならば、ファーガスとボリアルの戦争が始まり、戦火に晒される可能性があるからだ。


 「しかしまさかボリアルでそんな実験をしているとはな」

 「真偽の程はわかりませんが、確かに見たのです……」

 「でもこの国でそっちの研究を進めていたのは意外ですね。パールダイヴァーでも噂程度でしか聞いた事のない術でしたし」


 陣は最近まで大人しかったボリアルが何故こんな風になったかを考えていた。

 勇者が遠征した隙を狙っていると言えばそれまでだが、残っている勇者もいるし、それなら勇者が召喚される前に戦いを仕掛けた方がよっぽど効率が良い。その上で今戦いを仕掛けようとする理由といえば、単純に最近その術式が完成した事、元からそれが成功次第攻めようとしていたという結論に至る。


 「だがそれでもファーガスは大国だし、国力が違う。仮にその術式が完成していたとしても、今攻めようとするのは褒められたものではないな」

 「確かにあの術式をもってしても集められる戦力には限界があります。でもその上で準備をしているという事は、それを超えられる戦力を集められる自信があるという事」

 「でも僕の見たのが本当にお二人の言う術式の産物なのでしょうか?」

 「恐らく……というかファーガスを攻めて勝ち目があると考えているなら、それを想定するべきね」


 ベンバトルの話を元にアンはその術式が使われていると予測した。まだ二十柱になり立てで知識の疎い陣にはピンとこなかったが、パールダイヴァーに長年住んで知識を得ていたアンからすれば、それ以外には考えられなかった。


 「こちらの杞憂ならそれでよし、最悪の事態を想定して動かなければすぐに足元をすくわれる。俺の友達がよく言っていた」

 「はい……」

 「そういえばあなたはこの国にどうなって欲しいのかしら?」


 アンはベンバトルに質問をする。助けて事情を聴いてここまで連れてきたものの、今のボリアルの状況を見てどうなって欲しいかについては聞いていなかった。


 「僕ですか……戦争は起きて欲しくないですね。故郷に住む家族や友達もいますし、ファーガスと戦えば国が亡ぶ可能性だってあります。そして何より悲しむ人が増えますから……」

 「そうだよな、わかるぜ。俺も友達が魔大陸に遠征しているからな~だから俺達がこうしてきたんだし」

 「陣さん……お二人を信用していいんですよね?」


 ベンバトルは陣にすがるような目を見せる。


 「陣がいれば事前に戦争を防ぐ事が出来ます。何より陣は私と違いお人好しですので、信用して大丈夫よ」

 「アンだって優しいと思うけどな」

 「あなたほどじゃありません。全くあなたは優しす……」

 「ヒッ……助けてくれ!」


 前方で大きな声が聞こえ、見ると男が捕まっているのがわかる。


 「あれは?」

 「大人しくしろ!」

 「ヒッ……ど、どうかお許しを~」


 男はそのまま複数の兵士に連行される。周りの住民も男の姿を見て、目をそらす。皆ビビッている様子を見せる事から、過去に同じような事があり、兵士に睨まれて自身も同じ目に合わない為だろう。


 「あれは日常茶飯事なのか?」

 「いえ、ここ最近です。僕が逃げたように最近のお城ではあれが日常茶飯事かもしれません。目的のお城も見えてきましたからね」


 ベンバトルが指を指した先にはヴァルトガイスト城が見える。ここからでも見えるぐらいの立派なお城に造られた街並み、だがそこに住む人々に笑いは少なく怯えていた。


 「あそこか……」

 「陣どうしますか?」

 「すぐにでも侵入して確認したい所だが、そういうわけにもいかないからな。ちょいとばかし情報収集をする必要があるな。情報収集が出来そうな場所はあるか?」


 陣自身、自分が姿を隠して直接乗り込めば、すぐにも解決できるかもという気持ちがちらつくが、力に過信してはいけないという自制心から早まる気持ちを抑える。二十柱の一角として大いなる力を手に入れた自信が少なからずあるからだ。


 「裏路地にあるお店に行けばある程度集まるかと」

 「そうか、なら案内を任せてもいいか?」

 「はい、ですがそのお店に行くなら夜になってからです。まずは近くまで行って外観や周辺のマップを覚えましょう」



尾形光一

周平のクラスメイトで召喚された勇者の一人。

スタセリタの手引きでファーガス王国を脱出して、

他の勇者とは別行動をしている。

スタセリタ

ジャジル王国の王女、尾形がファーガス王国から

出るきっかけを作った。尾形に好意を抱いている。

アスク

ボリアル王国の若手騎士。騎士の証を取る為の

試験で光一と出会う。


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