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講習

 「ここが講習所よ」


 二人は講習所に着いた。建物の外観は、デカい街の冒険者ギルド並みに立派な建物で、中を覗くと、騎士っぽい恰好をした人達がたくさんいる。


 「緊張するな~」

 「大丈夫、大丈夫~カーリンだって無事貰ったんだから~」

 「カーリンさんと一緒にしないでよ~」


 カーリンはジャジル王国一の騎士で、ジャジル王国では、エミリアとギルドマスターのトリプティクに次いで強い。尾形も能力では、カーリンを超えてきたが、技能ではまだまだ及ばずといった感じだ。


 「ほら行くよ~」


 スタセリタは無理やり尾形を引っ張り、講習所の中に入る。


 「こんにちは~講習希望の方ですか?」

 「そうです、ここにいる光一がそうで、私は付き添いです」

 「リラは強引だな~」


 そんな二人のやり取りを見た受付嬢はクスッと笑う。年頃のカップルにでも見えたのだろう。


 「畏まりました!ではこのマニュアルをお渡し致しますので、それを確認の上、もう一度来てください」


 受付嬢からマニュアルを貰い、講習所内の休憩スペースでそれを読む。


 「ええっと、まずは講習を受けてから、筆記試験と実技試験って感じなのかな」


 騎士の証を得る為には、まずこの講習所で講習を受け、その後筆記試験と実技試験を受ける形となる。講習期間は二日だ。

 実技試験は筆記試験を合格しないと受けられず、講習の受講料が銀貨十枚に試験料が銀貨五枚だ。筆記試験は毎日行っており、実技試験は一週間に二回の間隔で行われている。

 実技試験は落ちると、すぐには受けられず、その二回とは別の再試験者用の実技試験を受ける形になり、それは一週間に一回だ。


 「筆記試験は一日一回だから、落ちても再試までには、時間はかからなそうだね。問題は実技試験か。どういう内容なのか聞いてたりする?」

 「フフッ、当然よ~筆記試験は受講した内容に沿って試験が出るから、そんなに難しくないと言っていたわ。実技試験の方は試験官と戦う実技と、この街にある試練の洞窟に行って、証を取ってくる感じよ。戦う方の試験は剣を使うのが必須かな」

 「なるほどね~となると、問題はやっぱり筆記の方だね」


 尾形的にも、カーリンともそれなりに戦えるようになってきたのを実感しているので、試験官と戦う事や、洞窟に入ってモノを取りに行くのはそんなに難しくないと考えていた。だが筆記試験の内容に関しては、講習を受けるにしても、基礎知識が必要な場合も想定すると難易度が高くなるからだ。


 「問題の傾向を知りたいけど、それは講習を受けてみないとって感じだね」

 「大丈夫よ、騎士って脳筋も多いから、そんな人でも受かるように、筆記の難易度はそうでもないってカーリンが言ってたし」

 「カーリンさんの余裕は俺からすると余裕じゃない気が……まぁ取り合えず、受けてみてだね」



 ◇



 あの後講習の受付をし、次の日から講習を受ける事となった。


 「それでは講習を始めます。皆さんよろしくお願いします」


 講師は、引退した老年の元騎士が務めており、今回の講師はボリアル王国の元騎士だ。


 「まさか君も受けるとは……」

 「光一のテスト勉強のお手伝いになるでしょ?」


 お金を払いさえすれば、誰でも講習を受けられたので、スタセリタも一緒に受ける事となった。


 「まぁ確かに」


 尾形もスタセリタを一人にするよりは、一緒に講習を受けてくれた方が、護衛が楽なのか、喜んで銀貨を追加で十枚支払った。


 「それではまずこの世界の中で最も優秀な騎士に与えられる称号は?」

 「十三騎士ナイツオブラウンドです!」


 講師の問いかけに対しては、後ろに座る意識の高そうな男が答えた。


 「その通りです。昔であれば、ジャジル王国初代国王である、ソラリオ・ゾーマン・ジャジルやファーガス王国元騎士団長ナシュワン・クロールに、騎士王ゼクト・グラディアトゥール等が有名ですね」


 講師の人が説明するので、皆それをメモしていく。この世界での紙はそこそこ貴重なので、紙が無駄にならないように小さくとっていく。


 「次に騎士道の基本ですが、名誉と礼節、主君や国への忠誠心、武勇等が問われますが、それを貫き通す為に、強固な精神力や優れた戦闘力も必要になります。従って真の騎士とは、強さと忠誠心に加えて、礼儀やマナーというのも問われるようになってきます」


 生まれ持っての騎士は、小さい頃からそれらを意識して、育てられる。騎士として名前をあげれば、それが出世に繋がっていくからだ。身分の低い者であれば爵位を賜る事、高ければより爵位を上げる事も出来る。


 「特に窮地な場面程、それが問われます。時には命を懸ける事が、名誉になる事もあるかと思いますが、時には生き恥を晒してでも逃げる事が大事な場面も出てきます。その時に必要なのは、自分の存在価値や意義を見つめ直し、冷静になる事です。上手く見極められるようになるのもまた強さです」


 尾形はそれを聞いて、ジャジルに来る前の白夜虎との戦闘を思い出す。エミリアが助けに来た事で、カーリン共々命を失わずに済んだが、あのままエミリアが来なければ、死んでいた事は疑いようのない事実。その時の自分の行動を思い返し、スタセリタの為に命を懸けようとした自分を、無謀と自己評価しつつも、男の子になる事ができたと評価していた。



 ◇



 数時間が経ち、午前中の講義が終了した。


 「どうだった?」

 「まぁ、ぼちぼちかな~思ったよりは大丈夫だったよ」


 尾形の手応えとしては、エミリアから教わった内容等が含まれていた事もあり、初めて聞くような事ばかりではなかったのだ。


 「それは良かったわ。とはいえあと今日の午後と明日があるから、範囲も広くなるし、油断せずにいきましょう」

 「君達は冒険者かい?」


 するとさっきよく発言をしていた男が話しかけてくる。背丈は平均ぐらいで少し華奢な印象の美男子だ。


 「失礼、僕の名はアスク。ボリアル王国の騎士だ」

 「俺の名前は光一で、こっちはリラだ。どうして冒険者だと?」

 「君達だけ騎士って感じがしないんだ。女性と一緒に講習を受ける騎士なんてまずいないからね」


 騎士の証をとる為の講習だけに、受講者は男性が多いのは事実で、女性もいなくはないが、絶対数は少ない。ましてや男女二人で仲良くワイワイと受けている者はとりわけ珍しい。


 「そうだね、冒険者ギルドには所属してるし、あながち間違いではないかな。彼女は俺の試験合格を支援する為に、受けている感じさ」

 「なるほど、君から只者じゃない感じがするし、冒険者としてもそこそこランクが高いと見た。そんな人がこんな試験を受ける理由が気になるね」

 「ああ、騎士の証が見てみたいって、頼まれて受ける感じだからね」

 「なるほど、依頼ね~」


 尾形が濁して言うと、アスクは都合のいい方に解釈をする。変に怪しまれて、スタセリタが危険な目に合うのは、避けなくてはならない。


 「そうそう、まさかこんな依頼受けるとは思わなかったけどね」

 「ハハッ、確かにそれは言えるかもな。ある意味君は実技試験より、こっちの方が鬼門に捉えていそうだね」

 「ご名答、講習が終わったら猛勉強の予定だよ」


 カーリンと張り合う実力を兼ね揃えているだけあって、尾形自身も実技試験はそこまで難易度は高くないと考えていた。ちなみにカーリンは実技試験で試験官を倒している。


 「やはりか、まぁ筆記の方は何度も受けられるし、特に気を張り詰める必要もないさ。受けている者の大半はほぼ実技を気にしている」

 「実技はそんなに難しいのかい?」

 「教官相手に実力を示すのだが、それが結構厳しいという話だ。まぁ君は油断さえしければ大丈夫だろうがな」

 「ご忠告ありがとう。でもそれはあなたにも言えると思うわ」


 尾形がアスクと話す中、スタセリタはアスクを観察し、警戒していた。というのも他の者に比べ、こっちに話しかけてくるぐらいの余裕や、気配からして只者じゃないと判断したからだ。ましてやボリアル王国の騎士となれば尚更だ。


 「ハハッ、僕なんてまだまださ。強い奴なんて世の中に沢山いるからね」



 ◇



 陣とアンはボリアル王国の首都であるヴァルトガイストに向かっていた。


 「嫌な予感がします」


 アンは不安げな表情を見せる。深淵の森でのやり取りから嫌な予感を感じていた。


 「不安か?」

 「はい、神獣が恐れるぐらいの魔力反応となれば、相当な反応なはず。陣が対処するとはいえ、油断は禁物です」

 「ああ、ただの調査ってわけにはいかない事は確かだ。あのエミリアさんが投げるぐらいだし、当然と言えば当然だがな」


 陣は二十柱になり立てという事もあり、百年前の大戦も経験していないので、知識的な所は乏しい。実用的な魔法はある程度習得しているものの、何が原因かを予測する為の要素的な部分を組み立てるには、知識が足らなかった。


 「アンがパールダイヴァーにいた頃、禁忌の魔法やとかそういう危ない話は耳にした事はあるか?」


 知識が足りないにしても、異常な魔力反応となれば、禁忌の術に手を出している可能性は否定できない。何しろボリアルには神獣を超えるような化け物はいないからだ。


 「禁忌の術……確かにいくつかありますが、神獣が恐れる程の異常な魔力を発生させるものとなると見当もつきません」


 異常な魔力の発生にはとなれば、当然何か大きな力が絡んでいる事は間違いない。その力でファーガスを攻めようと考えていたとすれば、ファーガスに打撃を与えるぐらいの力であると仮定するのは容易い。


 「そこなんだよね。ボリアルにもエミリアさんクラスが複数いるとかならわかるんだけど……」


 もし今ここでボリアルがファーガスを攻めて打撃を与えようものならば、周平がファーガスで作り上げた体制や、ジャジル、リユーンとの三国同盟も崩れかねない。偽神との戦闘が始まっている以上、こんなところで綻びを見せる訳にはいかなかった。


 「それかもしくは……いやこれは流石にないでしょう。そもそも都合よく何人もというのが現実的ではありませんね」


 アンは何かを言いかけたがすぐに訂正する。後にアンはこれを言わなかった事を、後悔する事になる。


感想お待ちしております。


次の投稿も一週間以内の予定です。

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