尾形の助言
犯人は誰や!ってクラスメイト全員だしてない…
周平と立花が盗賊団を殲滅した頃、ファーガス王国の勇者たちは次の段階に進んでいた。特に月島と杉原、嶋田と木幡の四人はクレセントの迷宮の攻略に精をだしていた。特に二人は周平を安否をハッキリさせる為もあり、誰よりも一生懸命だった。
「竜也焦るな、敵は弱っている。杉原と月島は援護攻撃を止めないでくれ!」
勇者達は現在、二〇〇層のボスであるダークドラゴンを相手にしていた。
「いくぞ剣技:覇斬!」
嶋田の剣技がダークドラゴンに直撃し、よろける。
「月島頼む」
雪は長い呪文も唱える。あの日から一つの目的のために努力し、身につけた魔法。
「第六位階魔法ビックバン!」
ダークドラゴンは消滅。四人は二〇〇層を攻略したのだ。
「や、やったぜ!」
「ああ、俺達は強くなってる」
「そうね、とりあえず今日は素材だけとって帰りましょう。みんなにも報告ね」
しっかり者で女子をまとめている杉原の提案に反対するものなどいなく、一度城に戻った。
「美里ちゃん、着実に進んでるね~」
「ええ、でも果たして迷宮を攻略していくことに意味はあるのかしら?自分が出した案ではあったけど、二〇〇層まで行っても周平君の痕跡は見つけられなかった……」
この先の迷宮攻略は不安だった……ただ周平君の持つ召喚者の証が三〇〇層まで行けばあるかもしれない。パーティ登録をしている雪が近づけば証同士の反応があるし、あれは魔よけの力が備わっているし、触れたり食べたりはできまい。だがもしそれだけが見つかればそれは周平君の死を意味すると言ってもいい。
だがもしなければ…
「美里ちゃん怖い顔しすぎだよ」
そんな雪の言葉で我に帰る。
今そこまで考えても始まらないし、周平君の痕跡を探すには進んでいくしかない。幸い私たちはここまで突破しているし、みんなもパワーアップしている。どうせまだこの王都からはだしてはもらえないのだし、今は焦らず進むしかない。
「少し考えすぎてたわ。無理に焦っても駄目ね」
「そうだよ。それで何かわかった?」
「ええ。周平君のあの事故が人為的なものだというのはほぼ確信したわ」
「どういうこと?」
「聞いたところによると、援護魔法の攻撃が周平君にあたって、飛んだ直後にもう一発周平君に被弾している話はしたと思うけど、その攻撃がどうやら周平君の方向に誘導されるように曲がって飛んでいくのを見ていた生徒がいたの」
「じゃあやっぱり周平君は狙われたんだね……」
「ええ、魔法は二つ続けて被弾していて、かつ違う軌道に異なる魔法。これはおそらく犯人は最低二人いると見ていいわ」
実行犯のほかに主犯もいると私は見ている。でもまだ大っぴらに動いてはいけない。周平君に対して敵意のある人間は数人だけではない……でもまずは実行犯から見つけてそこから主犯に辿り着いて見せる。
「それでその見た人は誰なの?」
「尾形光一君よ」
「尾形君が……でもなんでそんなことを美里に教えてくれたの?」
「尾形君がコンタクトをとってきたのは、昨日の迷宮攻略の時よ」
彼が何故私たちにコンタクトをとってきたのか? 昨日の迷宮攻略を終えた帰りだった。
「杉原さん聞こえる?」
「誰?」
誰もいない所から突然声がして戸惑った。
「驚かせてごめん。それは俺の異能の脳対話(B)さ。さっき杉原さんと目を合わしただろ?これは目を合わした相手に直接こうやって話すことができる。難点は他の人にこれをやると前に話してた人との通信が切れるんだ。再開するにはもう一度目を合わすことなんだけどね」
そういえば尾形君はそんな異能だったわね。親友とこっそり喋るにはとても便利な異能だわ。
「それでいったい何の用?」
「もう気付いているとは思うけど、周平君は事故じゃない。本当に狙われたんだよ」
「えっ?」
「あの時俺は見た。周平君の元に誘導されるように飛んでいく魔法弾をね。君はあの時みんなの前で言っていた。おそらく事故じゃなく狙われたのだと確信して、犯人を捜しているよね?」
この時私はこの男を信用できなかったし、今でも完全には信用していない。でも尾形君の証言が信用できなかったわけではないし、元々狙われたと確信していた私にとって彼の証言でさらに確信につなげることができた。
「そんなことあなたには関係ないわ」
「うん、それはわかっている。でも俺は彼とそれなりに親交があった。実は昔不良に絡まれているのを助けてもらったしね。二年になってからは俺の近くにいるとお前もいじめの対象になるから、クラスでは話しかけるなと言われたけど、夜はよくオンラインゲームをして話していたよ」
周平君の隠れた友達だったのね。そういえば一年生の時、周平君がたまにゲー友とガチゲーしてくるなんて言って帰っていたけど彼だったのか。いかにもクラスの影に隠れている大人しいキャラって感じなだけあって、周平君と親交があるのは意外だった。でもそれと同時にそんな立ち回りをしていた彼にも腹がたった。
「友達ならそんなこと言われても話しかけてやるぐらいしたらどうなの!?」
「そうだね……僕は弱くてそんな立ち回りでしか彼と交われなかった。情けない人間だよ……でもせめて彼を狙ったクラスメイトを探し出そうとしている君の助けをしようと思ってね。君がクラスメイトを疑っているのはこないだの周平君について言及したときにわかったからね」
私は周平君の事故についてみんなの表情を見るために言及した。今後あの件に過剰に反応したり、警戒をする生徒をあぶりだすためだ。まさかこういうコンタクトがあるとは予想外であった。
「そう、自覚しているならいいわ。それでほかに情報はあるの?」
「そうだね、魔法弾はそれぞれ違う軌道から二回周平君に向かって誘導するように飛んでいた。少なくとも実行犯は最低二人になる。そしてその魔法を当てた人間はクラス三三人のうち、何人かは絞れているよ。まず周平君を主にターゲットにしてた三人や木幡君や嶋田君、それと援護射撃をしないで早い段階で上階に逃れた先生や、護衛の兵士と生徒九人、当時援護魔法が苦手だった生徒……僕の見立てでは八人だけどそれは実行犯二人からは除外していいだろうね」
「てことは生徒先生含む二三人に、私と雪とあなたを除いた残り七人のうち二人が実行犯ってことね?」
「そういうことさ」
「ありがとう。犯人は必ず見つけ出すわ!」
「頼むね。俺も何かわかったらまた報告するよ」
そんな尾形とのやりとりだったが犯人探しに大きな手掛かりを得た。その七人の名簿は控えたし、ここからはより慎重に行くつもりだ。
「そんなことがあったんだね」
「ええ、だから今後は尾形君から情報を仕入れつつ、犯人を捜していくつもりだけど、尾形君との過剰な接触はくれぐれも避けてね」
「うん、それはわかっている!」
やはり私たちが周平君のことを気にしているのは、周りの生徒はよくは思わないだろう。尾形君がそういう気持ちなのが周囲に知れれば、いじめにもつながるし下手をすれば命も危ないかもしれない。
「さてこの話は一旦終わり。嶋田君たちのとこに行くわよ」
「うん!」
美里と雪の犯人探しは、いずれ起こりうるであろう内部分裂に繋がっていくだろう。もっとも彼女達はそれをわかっていたとしても、犯人探しを辞めることはない。二人がそれだけ周平のことを慕っていることの表れであった。
次もクラスメイトの話ですね。
2019年3月30日改定




