陣とアン
「戻らないわね……」
レダ、レイチェル、祐二は大聖堂ブランカの地下に行き、シンとレガリアの戦いがどうなったのかを確認に向かった。そして最下層で信者や幹部の死体を目の当たりにした。
「ここでシンさんが暗黒空間を発動したとして戻らないのが不可解ですね」
レダが考えた、シンが戻ってこない原因としては暗黒空間内でレガリアに討たれた、もしくは九兵衛のように別の空間に連れていかれた場合の二つ。そして前者の場合、他の二十柱メンバーが何かしらの反応を見せてここに駆けつける。つまりシンは生きている事になる。加えてレガリアがこっちに戻れば気配を感じるはずなのにそれもない。戦いが始まってからの時間を考え、レダは一つの結論に至る。
「恐らくシンはレガリアを倒した、そして九兵衛さんのように別の空間に連れていかれたというのが妥当な線ね」
「そんな……」
「偽神は強いといえど二十柱には勝てないわ。加えてシンがただ一方的に負ける可能性も低い。諸々考えればそうなるわ」
レダの言葉に祐二とレイチェルは微妙な気持ちになる。倒していたとしてもシンは暫くこっちに戻れない。今後の聖地ペブルスの事を考えても、決して楽観視できない状況だった。
「シンさん……」
「シンさんを封じるとは余計な事を……しかしレダさん、これでは残りの偽神と戦った場合にこちらの二十柱がまた同じような感じになる可能性が……」
「そうね、主神のヘロドはともかく、残り二体いるからそいつらとの戦いではそうなる可能性が高いわね……忌々しい!」
レダは舌打ちをする。現在動ける二十柱は周平、立花、陣、図書館、ロードリオン、アーシアと六人いるが、偽神側の親玉であるヘロドを倒すには複数のメンバーを充てる必要がある。加えて封印中のガルカドールの復活や、全てが終わった後の処理の事を考えれば決して万全の状態とは言えなかった。
「一度ギャラントプルームに帰還しますか?」
「そうね、シュウ達に報告する必要があるわ」
「ここの後始末はどうしますか?シンさんがいない以上レダさんかレイチェルさんがいないと更なる混乱が……」
今はまだ元体制を倒した余韻に浸っているが、それもいつまでも続かない。方針を決めなければ更なる混乱が起きる事は明白だった。
「一度戻った後会議を開き、方針を決めましょう。立花に頼めばこっちに戻るのもそこまで時間がかからないわ。それとその間の管理はミッディに任せましょう。彼女なら上手くまとめてくれるわ」
「「はい!」」
◇
「まさか俺が来る事になるとはな~」
「フフッ、久し振りの陣との旅です」
エミリアから依頼を受けてボリアル王国への調査を頼まれたのは陣だった。ファーガス王からボリアルの件を聞いた周平からも要請を受けていた。
「まぁそうだな~最近アンとこうして出掛けてなかったからな」
陣は要請を受けた事でダークエルフであるジャッジ・アンジェルーチを同行させていた。
「最近は放置ぎみだったのでアンはちょっぴり拗ねてしまいました」
「ハハッ、ごめんな。最近は色々有りすぎたからな」
「ええ、陣がより眩しくなりましたわ~」
アンは陣にくっつき腕を組む。
「む、胸が当たってるんだが……」
「当ててるのです」
アンが少し照れながら言うと陣は顔を赤くする。前に陣がアンと二人で行動していた頃からスキンシップはあったが、昔は照れる余裕がないぐらいに、陣は闇を抱えていたと言えるだろう。周平と再会し、ファラリスを降伏させなければ更なる悲しみを起こしていたかもしれない。
「照れるな……」
「フフッ、今の陣を見ていると周平さんと再会して良かったですわ」
アン自身も陣に好意を抱いているだけに、昔のように反応がないのは寂しく感じていた。
「ああ、周平とあったお陰で前の事は乗り越える事が出来たといっても過言じゃないからな。それにアンの為にも良かったよ」
「私の為?」
「周平はダークエルフの住みにくい環境を変えようともしてる。もしアンが迫害されるような世界で、もしアンの身に何かあれば俺も世界を破壊するだろうからな。俺にとっても大事なアンの事も考えてくれている」
陣は明確にアンに好意を伝えている訳ではないが、アンの為にそこまで出来るぐらいに好意があった。それを聞いたアンは顔を赤くし、同時に白い目で見る。
「陣は言葉が少し足りません。アンは照れながらもそっちが不服です」
「ど、どうした?」
「アンは陣と結婚したいのです」
アンは二人きりなったこのタイミングがチャンスだと考え、タイミングを狙っていた。ファラリス連邦での戦いが終わった後も、二十柱への試練等でバタバタしており、中々二人きりになれなかったからだ、
それを聞いた陣は一瞬ドキッとするが、アンが自分に好意がある事を知っているので察する。
「俺もアンの事は好きさ。そういえば今まで直接言ってなかったな」
「その言葉をアンは待ってました。陣は大事なとこが抜けてます」
「悪かったな。落ち着いたら挙式でもしようか」
「はい、絶対ですよ」
その時草むらの中から魔物の群れがが飛び出してきたのだ。
「アンこっちに」
「はい」
そして二十柱として新たに得た能力を発動する。運命を操る能力を発動し、魔物の群れがこっちに来る事なく通りすぎるように念じる。
「流石はじゃじゃ馬平原なんて言われている事だけあるね」
陣達が今いるのは、ファーガス王国とボリアル王国の国境であるオーリオール平原という場所で通称じゃじゃ馬平原と言われている。由来として広大な平原の中に色々な魔物が生息しており、今のように長い草の中から急に魔物が飛び出したりと、素通りするだけでもけっこう危ない。魔物のレベルもそこそこ高く、手が付けられない事からこのような名前となった。この平原を越えた先にあるのが深淵の森であり、こういった地理的状況もあり、ボリアルは攻められる事なく守られていた。
「魔物の気配も常に感じますし、一人で通るのは勘弁したいです」
「だな、これはファーガス軍も手を出せないわけだ」
「普通の兵士では命がいくつあっても足りませんわ」
暫く歩いていると何度か魔物の群れと遭遇しては、陣の能力で回避というのを繰り返し、石が積んであるようなちょっとした広場に辿り着いた。
「ここいらで少し休憩しようか」
「はい、少し疲れました」
陣はアンに飲み物を渡す。
「ありがとう」
「パールダイヴァーで色々なダンジョン潜ったけどこういう感じの場所はなかったよな」
「そうですね。あの頃の陣ならこの場所を破壊してでも進みましたね」
「ああ、だけど今回は周平の奴に止められているからな~まぁあの頃は荒れてたよ」
能力的に場所事破壊するのは容易いが、それをするのは周平から止められていた。もしこの場所を破壊し、現在のような環境が壊れた時にどのような影響が出るかわからないからだ。もし、簡単に通り抜けられるようになれば、それが戦争勃発の原因にもつながる可能性もあり得る。
「フフッ、俺に触れると火傷するぞって感じでしたわ」
「傷ついた俺があの場所に辿り着いた時、誰も俺の元には近づかなかったからな。アンもあの時良く助けてくれたよな?」
「あの時の陣の中にかつて見た事のないような負の感情が見えました。私も幼少期からかなり辛い思いをしてたので、自分の中にある負の感情が強い事を実感していましたが、あの時の陣はそれ以上でした」
陣はあの当時ファラリス連邦への復讐しか頭になかった。奴隷のように扱われ、暗い牢獄に閉じ込められた経験は陣の負の感情を増長させるのには時間がかからなかった。特に陣は自身が虐げられるような事がなかっただけに慣れていなかった。
「あの時ただひたすら復讐の事しか考えてなかったからな。周りも見えてなかった」
「はい、陣との出会いで私の中にあった負の感情をかき消してしまうほどでした。だからこそ陣を助けたのです」
「ハハッ、落ち着いた時にはこんなきれーな姉ちゃんが何で助けてくれたんだなんて疑ったもんだ。まぁそのお陰でこうして一緒にいるんだからあの出会いも運命だったのかもな」
その運命という言葉にアンは顔を赤くし、陣に近づく。
「折角二人きりですしせき、キスを……その……」
「あ、うん、しようか」
陣はアンと抱き合いキスを交わす。陣の方も躊躇なくすると、アンは少し不意をつかれたような表情を見せるが、それでも嬉しいのか満足気だ。陣もそんなアンの表情を見て同じように気持ちが昂り、再度キスを交わす。まさにその間は二人だけの空間となっていた。
「遅くなってごめん」
「フフッ、アンは今とても嬉しいので特別に許します」
「ハハッ、ありがと。俺のファーストキスだな」
「えっ?陣に今までそういう女性がいなかった事が驚きです」
「まぁ中学の時はそういうの疎かったし、高校入ってからは周平と雪ちゃんと美里ちゃんの四人でよくつるんでたから他の女も寄ってこなったからね」
当時の周りの印象では周平と雪、陣と美里という感じでカップルになっていると見られていた。それぐらい仲が良くお似合いだと思われていた。
「ファラリス連邦で会ったあの二人ですね。一緒にいてそういう関係にならなかったのです?」
「まぁ、二人とも周平の事が好きだったのがわかってたし、当時は周平にどっちかもしくは二人をくっつけたかったんだ。まぁ周平は立花さん忘れられませんってのを醸し出してたから、二人とも行かなかったけどな」
「なるほど、でもその当時どっちかが出し抜いていたら泥沼になっていたかもしれませんね」
「かもな、だけど周平も心の奥底ではそれを分かっていたかもしれないんだよな。勿論立花ちゃんの事はあったとは思うけどそれでも周平がどっちかに行かなかったのはそれが理由だと思う」
それには周平なりの配慮があったのだろう。陣に対してどっちかいかないのかという話をしていた。
「周平さんは罪な男です」
「ハハッ、かもな~だけどここに来たお陰で全部丸く収める算段もついたんだ」
「少し話を聞きましたが、確かにそれなら立花さんも納得ですね」
「ああ、本当に良かったよ」
もしそれがなければ、陣は周平と何かしらで争っていたかもしれない。陣はその事が一瞬脳裏に浮かぶがすぐにそれを跳ね除ける。今それを考えて妄想するほど余裕があるわけではないからだ。
「さて、そろそろ行こうか。気配的に森が近い」
暫く主人公出してないのでそろそろ出します。




