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大審判

 裕二を開放する手段……それは出来るだけ身体を傷つけずに乗り移ったディストの魂だけを消滅させる事。勿論それが出来るのが一番の理想ではあるがレダの戦闘能力ではそれをは難しい。だが裕二の魂を守りながらディストを倒す事は出来ると確信していた。


 「裕二、気を確かに持ちなさい」


 だが裕二は答えない。ディストが裕二の人格を押さえつけているからだ。だがその声は裕二にはしっかり届いていた。


 「少し持ち直したぐらいでいい気になられては困るな」


 レダが距離を詰める。レダの破壊ディストラクション処刑エクスキューションは攻撃の特性上距離が近いほど回避されにくいからだが、ディストもそれを読んでいるので防御態勢で構える。


 「賢明な判断ね……」


 だがレダも勿論それを理解している。だからこそこの二つとは違う技を繰り出す。


 「復讐リベンジ!」

 「なっ……」


 ディストは何かが身体を貫通するような痛みを受ける。


 「よくもやってくれわね、反撃の時間よ!」

 「グッ……防御貫通攻撃か……」

 「ご名答~復讐!」

 「グフォッ!」


 これは衝撃波を身体に貫通させるという技だが、対象の相手から攻撃を受けていた場合にのみ発動可能で相手の防御系の障壁や結界等を無視した防御貫通攻撃が可能となる。ステータス差がありすぎる相手でなければ誰にでも有効だが、この百年これを使った事はなかった。百年前の戦争以後もろにダメージを与えてくる敵と戦ってなかったからだ。


 「フフッ、もう少し待っていなさい祐二……」


 怯んだディストに対し、レダは天剣を手に斬りつけにかかる。不意にダメージを受けたディストは不味いと感じ祐二の声と表情を出して動きを止めようとするがこれは選択ミスだった。レダはその表情を見るとより無感情になって身体を本気で斬りつけた。


 「グァァァァァ!」


 ディストは痛みに悶え、再び祐二の声と表情を出すがレダは追撃を止めない。無表情なレダを見て自身の選択ミスに気付く。


 「破壊!」

 「グッ……舐めるな……連鎖呪縛!」


 広範囲の拘束攻撃によってレダの動きを止めると再び精神攻撃をしかける。


 「精神牢獄メンタルプリズン!」


 さっき同様レダを精神的に崩壊させようとしたがレダはすぐさま拘束を断ち切り攻撃を仕掛ける。


 「な、何故だ?」

 「あなた馬鹿?さっき打ち破った攻撃を二度も喰らう訳がないでしょ?」


 レダに対して一度破った精神攻撃にもう一度はない。


 「処刑!」

 「グァァァァァ!」

 「ゼロディメンシオ!」


 身体を深く斬り刻んだ後に対象空間消失魔法にて左手を空間ごと消し去る。


 「ウッ……正気か?その魔法をこの身体に使えばこの男の魂をも消し去るぞ?」

 「正気だけど何か?」


 怯んだディストに対して無表情で冷たい顔で身体を斬りつける。ディストはここで改めてレダの認識を改める。戦場で無慈悲に敵を殲滅するレダ・スパイラルが健在である事を見せつけられたからだ。


 「フッ……どうやら私が見誤ったようだな」


 ディストはここで祐二の魂を消滅させる事が頭にちらつく。だがそれをすれば自身の消滅も意味していた。レコレトスの秘術によるこの復活は依り代となる魂を消滅させると自身も消滅という制約がある。発動術者のレコレトスが死んだ事により術式が無効となっている為に自由に憑依する事が出来ないのもネックになっているのですぐに頭を切り替える。確かに祐二の魂を消滅させればこの戦いにおいてはレダを敗北させ精神的ダメージを与える事ができるが自身は勝つことはできない、ここでレダを倒す事がディストにとっての真の勝利だと結論付けた。


 「本気で行かせてもらおう!」

 

 ディストは偽神たる法の力をフル発動する。一度消滅しているので力のほとんどを失っているがそれでもレダと互角に戦えるぐらいの力は有していた。


 「大審判!」


 レダはディストの造った異空間へと誘われる。


 「ここは?」


 レダの目の前には裁判官の格好をした大きな石像が座るようにしてそびえ立つ。


 「ようこそ私の造った判決台へ。ここでは敗者にキツい罰が下る、勝った方が正義だ!」


 ディストは左手を再生させてから距離を詰めてレダへと襲いかかり、レダも剣で追撃する。


 「ウォォォォ!」

 「ハッ!」


 ディストの黒い剣とレダの天剣がぶつかり合い大きな衝撃がはしる。


 「ハハッ、これが戦い……これこそが真の戦いだ!」


 ディストはかつてこのフィールドでシンと戦った時の事を思い出していた。敗けはしたもののシンとの本気のぶつかり合いは自身の死に様には相応しかった。


 「破壊!」

 「ウッ……」


 剣と剣のぶつかり合いの隙をついた攻撃で被弾する。


 「遅いわね」

 「それは……どうかな!」


 追撃をしよう斬りつけようとすると身体の動きが止まる。


 「鬱陶しい真似を……」

 「舐めて貰っては困るな。ここは誰が造ったフィールドだと思っている?私の力が強く働くのは当然だ」

 「ウッ……」


動けないレダ斬撃で斬りつけ吹き飛ばす。


 「悪魔帝と戦った時は背信の力で無効化されたがお前にはできまい?力を失っているとはいえこの力が特殊な事はお前も理解しているはずだ」

 「随分と不公平な裁判ね?」

 「フッ、法が常に平等とは限らない。敵に対して平等である事を求めるなど馬鹿げた話だと思わないか?」

 「確かに、でも一つ勘違いしていないかしら?」


 レダはここで呼び掛ける。


 「祐二!」


 叫ぶと同時に接近し剣を向ける。


 「無駄だ、そんな風に叫んだ所で……」


 ディストの動きが止まる。レダが狙ったのは祐二を呼び覚まして力を自由に行使させない事にあった。レダの剣が身体を貫通する。


 「ウッ……」

 「処刑!」

 「グアァァァァ!」

 「破壊!」


 今がチャンスと言わんばかりに攻撃を加える。祐二に痛みは直接届いていないものの身体は傷付いているがレダに迷いはない。


 「舐めるな……裁きの判決ジャッジメント!」


 上空から光の雨が降り注ぎレダに襲いかかる。


 「マスターシールド!」


 光の雨と強固な盾がぶつかり合う。


 「チッ……シールドが……」


 マスターシールドでは防ぐのが難しく次第にヒビが入り、漏れでた光がダメージとなって入る。


 「ウォォォォォォ!」


 レダは光の雨の追撃を耐えきる。だがその瞬間黒い光がレダの腹部を貫通した。


 「グホッ……」

 「いつまでもボケっとしてると思ったのか?」


 レダは身体を修復させようとするがすかさず攻撃が飛んでくる。


 「終わりだ!」

 「キャァァァァァ!」

 「連鎖呪縛!」


 レダは拘束され、次の裁きの判決の準備に入る。


 「さらばだ!」


 圧倒的ピンチなこの状況でもレダは諦めない。その瞳に映る先は裕二だった。


 (このままではレダさんが……)


 身体を奪われた裕二は何度も抗ったが結局押さえつけられたままだった。ピンチになったレダを指をくわえて待つこの状況もただただ歯がゆかった。


 (レダさんを死なせるわけにはいかないんだ!頼む、動いてくれ……)


 必死に願う裕二に何かが囁く。


 (シンクロさせなさい……)


 (えっ?)


 聞いたことのない声が聞こえてきた事に驚くが今はそんな事はどうでもいい。レダを助けられるのならば藁にも縋る想いだからだ。


 (今こそ契約の力を発揮する時、あなたに与えられた称号に気づく時です。)


 (称号?何の話ですか?)


 (ならば自分の心に問いかけなさい。あなたはもう気付いている。)


 (気付いている?一体何を?)


 (時間がありません。自分を信じ……な……)


 声が聞こえなくなる。裕二からすれば一体何の話だと言わんばかりだが、せっかく聞こえてきた救いのヒントに落ち着いて考える。


 (気付いている……称号……僕は……)


 裕二は一度頭を真っ新にする。そして昔レダと交わした契約の事を思い出す。


 (そうか……僕は……レダさん、僕はあなたを信じます。)


 その瞬間裕二は再び力を取り戻し始めたのだ。


 「なっ……」

 「裕二……」

 「もうお前の思い通りにはならない!」


 裕二は逆にディストの人格を抑え始めた。


 「な、何故だ……どうしていきなり……」

 「僕は戦姫であるレダさんと契約を結んで加護を得た……それは契約を結んだ戦姫との絆が最高になった時僕はレダさんと共有しシンクロさせる事が出来る」


 戦姫であるレダとの契約はかつてレダと裕二が交わしたものだが、それが目覚めた事でディストの憑依に対して自動的に排除しようとする力が働き始めたのだ。


 「そして僕に与えられた称号……それは……」


 裕二の中でその答えは出ていた。


 「法滅の脅威!」


 それを叫ぶとディストの魂は裕二の身体から弾きだされたのだ。裕二がこの世界に来て戦い参戦する事を予言した黒姫はその対策を講じた。勿論これはレダも知りえる事ではない。前に立花が裕二のステータスを覗いた時に称号にぼかしが入って見えなかったのは見えなかったのではなく定まっていなかったからだ。黒姫の未来予知をもってしても裕二がどの偽神と戦うかまでは複数の選択肢の観点からわからなかった。だから誰が来てもいいようにしたのだ。


 「か、身体が……弾きだされただと!」

 「拘束!」

 「なっ……私の術だと……」


 ディストに憑依されていた影響か一部の力が裕二も使えるようになった。


 「レダさん、ディストは魂だけです。今のうちに!」

 「ええ、決めるわ」


 レダは長い呪文を唱える。戦姫は神魔法も一部使う事も可能だが第十位階以上の魔法には長い詠唱がかかる事から今回のディスト戦には使えなかったのだ。


 「グッ……動け……」

 「死になさい……神宴の雷槍ランスオブゼウス!」


 雷の巨人の大いなる槍が具現化され、槍が拘束されているディストの魂を貫通する。


 「グァァァァァァァ!」


 雷の槍によってディストの魂が消し去られるその時勝敗は決した。そびえ立つ裁判官の姿をした石像が動き出し大きな槌でディストの魂を打ち付けたのだ。


 「ハァハァ……これで勝ちかしら?」

 「はい、あっ、レダさん……傷が……」

 「これぐらいの傷の修復ぐらいは大丈夫よ。流石にまた同じ相手と戦えってのは無理だけどね」


 石像が再び元居た位置に戻ると二人の前に宝玉のようなモノが現れる。


 「これは……」


 レダが触れると宝玉が光りレダの中に入っていく。これはディストの法の力が入った宝玉だ。


 「ディストの力の一部を受け継いだようね……まぁ頂いておきましょう」

 「僕も力の一部がまだあるような感じですね」

 「消滅してもなおあるというのは恐らく私と交わした契約で私がこの力を手に入れて繋がっているからだと思うわ」

 「なるほど……思わぬ形でのパワーアップですね~」


 裕二が微笑むとレダは申し訳なさそうな表情で裕二を見て抱きしめる。


 「レダさん?」

 「裕二!」

 「わっ、れ、レダさん!」

 「ご、ごめんなさい!私あなたの事たくさん傷つけて……」

 「いえ、レダさんが謝る事じゃないですよ!それにレダさんは僕を助ける為にやってくれたんですから。むしろ僕がお礼を言う方です!」

 「裕二……ありがとう。あなたがいてくれたお陰で勝つことができた。何かお礼をしないと……」


 レダは裕二とキスを交わし、そのまま押し倒す。

 

 「れ、レダさん!」

 「折角だし誰もいないここで楽しい事をしましょうか。あなたへのお礼も兼ねてね~」

 「ちょっ……流石に今は……」

 「このフィールドは私の思いのままなのよ~フフッ、ご褒美~」


 その瞬間何かの異変を感じ取る。


 「これは……」

 「レダさん、僕もわかります……」

 「楽しい事したかったけどどうやら地下の戦いが始まったようね」

 「はい、戻って鐘をならして上の戦いが勝利した事を伝えましょう」


裕二のステータスの称号については第二十一話の馬車の旅にて当時のステータス含め書いてあります。現在のステータスについてはこの章が終わるぐらいで書きたいと思います。

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