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レコレトス大司教

遅くなりました。

 「嫌な予感がするな……」


 最下層へと向かうシンは何かを感じたのかついそんな事を口走る。


 「そうですね……偽神との戦いとなるでしょうし一筋縄ではいかないかと」

 「うむ」


 レイチェルに一言返すがシンの言う嫌な予感とはそれだけではない。偽神との戦いが一筋縄ではいかない事はシンの中では想定内、その嫌な予感とは下にいるであろう幹部陣の企みだった。こんな場所に作った地下に潜って何もせず待っているなど考えにくいからだ。


 「罠を貼って待っていいるのはほぼ間違いないかと。どうされますか?」

 「その為のゾンビ兵でもある。この下にいる人間どもの命は保証できんが消した方が後々楽だろう」


 レイチェルはシンのこの台詞に違和感を覚えるが、これはシンが武人としての矜持より偽神を倒す事を優先する事の表れでもあった。そしてうっすら笑ったシンの表情が目に焼き付いたレイチェルは前にシンがラムタラと戦った時の事を思い出す。もしここで高位の魔法を連発すればこの場所の安全は保証できなくなる


 「あまり暴れすぎないようにお願いします」

 「フッ、それは相手次第だな。ただ戦闘が始まってからお前が上に戻るまでの時間は大人しくしているさ」


 シンは早く殺りあいたいと言わんばかりにうずうずしており、戦闘の準備は完了していた。



 ◇



 「これで終わりね」

 「ここは何としてでも……」

 「破壊ディストラクション!」

 「ぐあぁぁぁ!」


 大聖堂を進む反乱軍はレダを戦闘に頂上へと進んでおり、頂上は目前だった。流石にレダを止められる者はおらず勢いは増していた。


 「頂上は目前ですね」

 「ええ、頂上の鐘を鳴らし外の旗を落とせば上での戦いは終わりね。下は恐らくシンがなんとかしてくれるだろうし」


 シンは信用に足る働きをしてくれると理解しつつも不安要素はある。だからといって下に行っても大したサポートをする事ができないという事も理解しているレダはそれを待つしかできなかった。いくら戦姫が飛びぬけて強いと言っても二十柱が本気を出した戦いでは邪魔になってしまうからだ。


 「シンさんならきっと大丈夫ですね、僕達も早く上を制圧しましょう」

 「ええ、行きましょう」


 頂上の広いフロアに行くと小太りの老人と取り巻きが鐘の前におり、何やら怪しげな祈りをささげていた。


 「これはこれは反乱分子の皆様、ようこそいらっしゃいました!」


 老人は不気味に笑いながらレダ達を迎えた。


 「あなたは……確かレコレトス大司教ね」

 「これは驚きましたな~まさか私の名を知っておられるとは」


 レダ全ての大司教を把握しているわけではない。それでもこの男の顔を見て名前がわかったのには理由がある。


 「趣味の悪い人体実験もこれでおしまいね~」


 そう彼は信者を自身の術式の実験材料に使う事で名が知られており信者の間でも噂になるぐらいだった。中には命を落とした者もいる。


 「確かに私の偉大なる研究はこれ以上やる事は叶わないでしょう。ならば冥土の土産に見せてあげましょう!皆の者この愚か者どもに見せてあげるのです!」


 すると鐘が鳴り始め、信者達の祈りで部屋全体が光りだす。レコレトスや信者達の下に魔法陣があり、赤い光を見せる。


 「私の研究に悪い噂がたってなお何故続ける事が出来たのかお分かりでしょうか?この研究は私が引き継ぐ前から続いており教皇も推進していたのですよ!」

 「人体実験を公認とは魔族を異端扱いするのもおこがましい……皆下がりなさい!嫌な予感がするわ」


 レダの言葉に反乱軍達が下がるが祐二だけは残る。


 「祐二?」

 「僕も戦います、レダさんに相応しい男になりたいので!」


 レダは祐二を下げようとしたが祐二の真っ直ぐな目を見てそれを止めた。ならば祐二を守りながら戦い祐二の活躍する姿を見せてもらおうと。守られるだけでは本人の成長を邪魔してしまう。かつて溺愛した実の弟がいたレダは接し方で弟と距離を取られてしまった事があった。加えて祐二は弟ではないので尚更過保護のままでは駄目な事も理解していた。


 「フフッ、ならば一緒に戦いましょう!」

 「はい!」


 小さい頃から祐二を見てきたレダにとって成長した事を実感できる表情を見せられ、頼もしさを感じていた。


 「皆さんいきますよ~私達の力を見せつけるのです!」


 信者達の祈りと共に光る赤い魔法陣の輝きが頂点に達する。だがその瞬間信者達が次々に倒れていきレコレトスの元に力が集まる。


 「これが力……力がみなぎりますね~」


 レコレトスの元に集まった魔力が身体を強化させると異質な魔力が放たれる。


 「レダさん……」

 「信者の魔力を一つに集めて吸収ね……信者の命を何だと思っているのかしら?」

 「全ては教団の為に……神にささげる祈りなのです!皆さん私に力を!」


 全ての信者がその場で倒れると満足したのかレコレトスは高らかに笑う。その笑いはまさに狂ったマッドサイエンティストのようで見る者が見れば恐怖を感じるだろう。


 「狂ってる……」

 「ええ、でも今倒れて行った信者たちも同罪なのよ」

 「えっ?」

 「彼らの表情に迷いはなかった。教団が正義である事を刷り込まれた熱心な信者ってだけなのかもしれないけど、それでも私達を倒す為に本気という事。だからあそこで倒れている信者に同情はいらないわ」


 レダその言葉に裕二は一瞬戸惑いつつもそれに納得し受け入れて頷く。裕二はまだまだ甘く優しい部分を戦いでも捨てきれていない面もあったが、これが戦いなんだと自分の中で飲み込んだ。


 「はい、力のない自分が悔しいです……」

 「いいのよ、それを糧に強くなりなさい。さぁ今は戦いに集中するわよ!」


 魔法陣の輝きが終わると異質な魔力を放つレコレトスが戦闘の準備を始める。


 「フフッ、どうですか?これが私の研究の成果です!この身体にみなぎる力……今の私は誰にも負ける気がしませんね~」


 軽く手に魔力を込めて二人に向かって魔弾を放つ。


 「裕二後ろに!」


 レダはバリアを貼って軽く防ぐ。


 「なるほど……軽く放ってこの威力ね」

 「どうですか?これでも全然ですよ~そう私は無敵の力を手に入れたのですから!」


 高らかに笑うレコレトスだがレダはそれに対してクスッと笑ってしまう。


 「話にならないわね……」

 「話にならない?無敵のこの力を手に入れた私に向かって随分な物言いですね~ならば本気をお見せしましょう~これが私の……」


 レコレトスの口が止まる。そうレダはレコレトスの見えない速度で懐に近づき、お腹に一発いれたのだ。レダの本気のパンチはかなりの威力、信者の魔力を吸い出し力を手に入れたとはいえ元はただの人間。人間の限界を超えてないような者がレダを相手に戦えるわけがない。


 「グフォッ……」

 「破壊!」


 お腹に一発入れて吹き飛ぶレコレトスに向かって光の衝撃波で追撃。今まで碌に戦闘をしていないレコレトスだけにいくら魔力があっても宝の持ち腐れだ。


 「お、おのれ……メガフレア!」


 壁に打ち付けられたレコレトスだが意識は保ったようでレダに向かって第七位階魔法で最大の威力を誇るメガフレアを放つ。


 「フフッ、随分と可愛い魔法ね……ゼロイクリプス!」


 レコレトスの放つメガフレアを第九位階魔法で無の空間で包みこみ消滅させる。


 「なっ……ならば……」

 「破壊!」


 焦るレコレトスが連続して魔法を放とうとしたがレダの攻撃がそれを許さない。


 「グァァァァァ!」

 「まだ終わらないわよ?」


 今度は直接攻撃でレコレトスを痛めつける。そしてその表情には怒りが見えた。


 「命の無駄使いね……」

 「グッ……」

 「この程度の力を得る為にこの人数の命を散らすあなたは非常に罪深い……」

 「わ、私からすれば罪深いのはあなたの方だ……ヒルデ様の爪の垢をあなたに飲ませて……」


 その言葉はレダの怒りのボルテージマックスまで上げる事になるとはレコレトスを知らなかっただろう。レコレトス自身レダが戦姫である事やヒルデとの関係はわからない。だがかつてヒルデがどういう想いでダーレー教の象徴たる聖女についたかをレダは知っていた。結果的に百年前の戦争で実を殺しかけた事や敵方について戦う事になった事も姉として心を痛めていた。


 「あなたがその名を出す事は許さないわよ……」


 レダの本気の威圧はレコレトスの口を止め、恐怖のあまり身体が震えさせていた。このままただ殺される以上に手を出してはいけない何かに触れてしまい、殺される以上の事をされるという恐怖を感じさせていた。


 「ヒッ……ど、どうかご慈悲を……神の導きに……」

 「死ぬまでは地獄を味わいなさい……処刑エクスキューション!」


 これは対象の相手に対して無数の空気の刃を発生させて全身を斬り刻む技で、空気の刃の威力を自由にコントロールする事も出来る。当然レダは威力を抑えて一回の攻撃では殺さない。苦痛にまみれながら死ねという事の表れでもある。


 「グァァァッァァ!」


 斬り刻まれ出血と激痛に悶える。レダは傷のみを魔法で塞ぐと威力を抑えた処刑とそれを繰り返す。傷を回復させても流した血の量は戻ってこない。レコレトスは激痛と共にはしるうめき声を発していくうちに、生気は薄れていき最後の処刑で斬り刻まれた際には声を発する事無く絶命した。


 「ヒルデはあなたのような者を守ろうとしたつもりはない!名前を出した事を後悔しなさい!」


 絶命したレコレトスがその返答をする事はないが、その場にいた裕二はいたたまれない気持ちで立ち尽くしていた。レダはヒルデに何があったのかを裕二には話していない。一度裕二が聞いた時は悲しそうな表情でごめんねと言われてしまったからだ。だが今回レダがレコレトスに対して残虐的な殺し方をした事については何も言えない。ヒルデの名前を出した事が原因だからだ。だからせめてレダさんの元に寄り添うのが精一杯の事だった。


 「レダさん!」

 「裕二……」


 レダもやりすぎた自覚があるのか裕二に対して申し訳なさそうな表情を見せる。だが裕二は明るく笑う。


 「お疲れさまでした、僕何も出来なかったですよ~もうちょっと見せ場が欲しかったな~」

 「裕二……フフッ、ごめんなさい。つい怒って本気出しちゃった」

 「じゃあ次はお願いしますね」


 修羅の部分を見せても自分を気遣い受け入れてくれる裕二にレダは日々感謝をしており、深い愛情を見せていた。


 「ええ」


 これで鐘を鳴らして旗を出せば上は制圧した事となる。だがその時事件は起こった。


 「ウッ……」


 裕二がその場で崩れる。


 「裕二!?」

 「ウッ……グァァァァァ!」


 裕二はその場で悶え始めたのだ。


最近投稿が遅くて本当にすみません。

仕事落ち着いたら早めます。

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